クローズアップ現代

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No.34532014年1月16日(木)放送
進むか大型建築物の耐震化 ~“耐震改修促進法”改正の波紋~

進むか大型建築物の耐震化 ~“耐震改修促進法”改正の波紋~

耐震化 待ったなし? 法改正の波紋

愛媛県にある、築40年の宿泊施設です。
600万円かけて、耐震診断を行いました。
診断の結果は、強度不足。



早速、補強工事を行ったところ、窓際に補強のための筋交いを、取り付けることになりました。
改修費用は、締めて3億円。
震度6強の地震にも耐えられるようになりましたが、外の眺めは、ご覧のとおり。



事務局長 山内定樹さん
「正面ですね、あれが松山城の天守閣になります。
ちょうど邪魔になりますよね。
せっかくいい景色を邪魔してしまうのは、大きなデメリットじゃないかと思います。」

眺望が悪くなった分、宿泊料を1割ほど値下げしました。
客室のスペースも、狭くなってしまいました。

事務局長 山内定樹さん
「以前だったら、3人4人が和室で宿泊できるところが、2人ぐらいしかできないということになりますので。」



ツインからシングルに、変更しなければならない客室も続出。
宿泊できる定員は、2割減りました。

事務局長 山内定樹さん
「利用された方からのコメントなどで、『安心できて良かった』とか、そういう言葉をいただくと良かったなという思いがしますけれども。
億の単位の費用を投資しても、収益に結びつかない。
利用される方の満足度を満たすものではない。
そういうところが、1つのネックではないか。」

各地の工事の背景にあるのは、去年(2013年)11月の、国による耐震改修促進法の改正です。
多くの人が利用する公共性が高い建物について、耐震診断を義務化し、その内容を公表します。
建物の安全性を明らかにして、改修を行っていない所有者には、工事をするよう促すねらいです。


国土交通省建築指導課 企画専門官 前田亮さん
「利用者がたくさんいて、大きな影響がある建築物の、より一層の耐震化を促進する。
助成制度も、今までにない十分な措置を行いながら、耐震改修をもっと促進していこうと。」


改修を進めるため、国は法改正とともに、民間の建物に対しても、工事費用の11.5%を補助するという制度を作りました。
地方自治体も同様の補助制度を作れば、国は最大40%まで支援を引き上げるとしています。



いくつかの自治体では、独自の補助を導入し始めています。
しかし、多くの自治体は、制度を作っていません。
私有財産である民間の建物に、税金で補助することはなじまない。
すでに自費で改修をした事業者があるため、不公平になるというのです。
こうした理由で、改修の補助制度を設けていない自治体の1つが青森県です。

温泉地にある、創業100年の老舗旅館です。
年間3万人が宿泊し、地元でも有数の規模を誇りましたが、去年11月、閉館しました。
築45年の建物の耐震性を調査したところ、震度6の地震で倒壊の危険があるとの指摘。
しかし経営難の中、億単位の改修費用を賄うのは至難の業。
閉館を決断しました。

話:閉館を決めた旅館の役員
「お客さまへご提供する1番は、『安全』だと思う。
サービスや心地よさより、まず先に『安全』。
この建物では、この先、そのままでは難しい。」


営業を断念したことで、長年旅館を支えてきた、従業員20人の職場がなくなりました。
県内には、古い耐震基準の大型の宿泊施設が、16軒あります。
ホテルや旅館の組合では、このままでは県全体で1,000人規模の雇用に、影響が及ぶのではないかと危機感を募らせています。

青森県 旅館ホテル生活衛生同業組合 中村嘉宏さん
「行政機関の助成ありきと聞こえるかもしれないが、それ(助成)がないとすれば、我々みな廃業、野たれ死にしていくのか。
そういう社会問題化というようなことに、なってほしくない。」


一方、補助制度があるからといって、所有者の負担が、劇的に軽くなるわけではありません。
南海トラフ巨大地震で、震度7が想定されている和歌山県です。
白浜などの観光地にあるホテルや旅館は、被災者の受け入れなど避難拠点になります。

この日、県の担当者が訪れたのは、築53年、宿泊定員230人のホテルです。





県の担当者
「一定期間『避難所』として、受け入れてくれることができる施設。
そういうところに実は1番手厚い補助になっていまして、『国と県費を入れて支援します』というものです。」


避難所になる場合、補助は国と県を合わせて、工事費の7割を超えます。
ホテルの負担はいくらになるのか、試算しました。

県の担当者
「8,829万3千円。」




ホテルの支配人
「すごいですね。」

副支配人
「3年ぐらいにどうこうしようというレベルじゃないですね。」

ホテルでは10年前、客を呼び込むため融資を受け、およそ1億円かけて内装を一新しました。
それにもかかわらず、その後、激しい価格競争にさらされ、宿泊料を2割値下げしています。
巨額の費用をさらに負担しても、経営が成り立つか、不安はありますが、ホテルでは耐震改修を行う方針です。

副支配人
「日頃の営業がぎりぎりで回っている中、別に8,000万という資金、融資してもらっても、やっぱり返済もあるし、利息もかかっていく中で、簡単な数字じゃないとは思います。
やっぱり工事はなるべくしたほうがいい、最終的には…。」

どうする建物の耐震化 法改正の波紋

ゲスト浅見泰司さん(東京大学大学院教授)

●ビルの所有者にとって、法改正はプレッシャーに?

なかなか、待ったなしの大きなプレッシャーですよね。
大変だと思います。
(しかし、安全性を高めることが非常に重要?)
そうですね。
やっぱりその耐震性があるかどうかという情報、これが結構重要なのが、まずは情報があることで、それぞれの方々が、適切な判断ができるということだと思うんですね。
例えば利用者の場合は、それを利用するかしないかということを、今までは分からなかったんですが、それを知って、利用するかどうかを決めることができる。
(このホテル、デパートを利用するか否か)
オーナーの方も、耐震性があるんであれば、それをむしろアピールする材料になりますし、だめだったらば、今後の経営判断の中で、どうするかを決めるということができるわけですね。
今までは分からなかったですから、そういうことができませんでした。
例えば行政なんかも、どういったものを防災拠点にするか、そういった判断にも使えるわけですね。
ですから適切な判断を促すという意味では、非常に重要であるというふうに思います。

●耐震化への助成、一律ではなく不公平を感じるが?

それは確かに否めないと思います。
ただ、耐震性というのは、1981年に新しい耐震基準になってから、もうすでに30年以上たっているわけですね。
その間、何度も何度も耐震性を高めるようにというようなことを、いろいろ言ってきたわけですけれども、なかなか進まなかったというのもありまして、今回、大震災が非常に喫緊に迫っているかもしれないということも言われてますので、そういった意味で、こういったことに踏み切ったと、私は思います。

●自治体によって、補助のつけ方に差があるが?

これはなかなか、自治体の財政的な厳しさがあって、なかなか大変だと思うんですよね。
例えば財政的に厳しいんであれば、例えば、自治体の中で絞って、例えば非常にこの重要な拠点になったり、あるいは歴史的に非常に重要な建物とか、そういったものに絞って、補助をすると、こういったやり方もありうるんだと思います。
(防災拠点になるところだけは、補助を出してもいい?)
そうですね。
自治体というのは耐震性だけではなくて、いろんな問題を抱えているわけですね。
その中で、やっぱり自治体として適切な判断をせざるをえなくて、ですからやはり地震が喫緊に迫っているようなところであれば、やっぱり自治体として、重視して、助成をすると、こういったことになるんではないかと思います。

耐震化進める 発想の転換

東京都には、現在の耐震基準を満たしていない民間の大型建築物が、3,000以上あると見られています。
都では、こうした建物の所有者に対し、耐震補強工事を行うよう促しています。

この日、訪ねたのは、築42年の事務所ビルです。
ビルの所有者は、テナントが入居しているため、すぐには工事できないと難色を示しました。




事務所ビルオーナー
「入居者の方の安全性にも関わってくるので、重要だとは考えているのですが、いざやろうとなると、入居者に退去してもらわなければいけない。」



東京都 耐震化促進担当課長 小林秀行さん
「“段階的”という助成制度も、東京都は用意しているので、テナントさんが空いている1階、2階、そのあとの年に3階、4階というやり方がある。」



従来の制度では、補助を受けるためには、一度の工事で耐震基準をクリアしなければなりません。
負担が大きい上、工事中は賃料収入がなくなるため、改修に踏み切れないケースが数多くありました。



そこで東京都が新たに導入したのが、段階的改修と呼ばれる方法。
1階ごとの改修でも、そのつど補助金を出して補強を進めます。
賃料収入の減少を抑え、改修を促すねらいです。



東京都 耐震化促進担当課長 小林秀行さん
「最終的には、全体の耐震化なんですが、まずはできるところからやっていく。
所有者の気持ちをそぐことのないように、こちらも支援をやっていきたい。」



この方法で耐震補強を行っている、5階建てのビルです。





男性
「こちらのプレスなんですけど。」




まず駐車場や事務所がある、1階部分の補強工事を行いました。

その3年後、テナントが引っ越したタイミングで、2階の工事に着手。
コンクリートの壁を設置するという、大がかりなものでした。
3階以上は、今後工事する予定です。
一度に巨額の費用を負担することなく、しかも賃料収入を維持しながら、耐震化を進めています。


ビル所有者 原田充彦さん
「一気に現行(耐震)水準までいかなくても、何回かに分ければ必ず到達できますし、ここまできたので、最後までやり抜いていきたい。」



自治体の補助に頼らず、発想の転換で耐震化を実現した例もあります。
静岡県浜松市にある築42年のホテルです。
耐震工事で思い切った方法を採用しました。



経営企画部長 宮田洋さん
「こちらに13階の建物が建っていまして、これを全て削ったというところでございます。」



以前は13階建ての大型ホテルでしたが、4階から上をすべて取り壊したのです。
建物の重量を減らすことで、耐震性を向上させる減築という手法です。




建物を丸ごと建て替える場合は、39億円。
建物を残し、補強を施す場合は、16億円。
それに対し、減築では、3億円に抑えることができました。



経営企画部長 宮田洋さん
「こちらはナイトクラブでした。」




古い建物にあったナイトクラブは取り壊し、露天風呂を備えた温泉施設に改装。
日帰り入浴という、新たな客層をつかむことに、成功しました。
耐震改修をきっかけに、時代に合わせた施設への転換を図ったのです。



経営企画部長 宮田洋さん
「単純に耐震化するだけでは、お客さまへのサービス向上はないので、減築しながら、コンセプトを変えながら、お客さまの支持を得る施設にしていく。」

建物の耐震化 いっそう進めるには

●減築や、コンセプトを変える方法もある

これなかなかうまい方法だと思うんですね。
やっぱり減築をすると、荷重が減るわけですね。
ですから耐震性が上がる。
しかも今回の場合は、減築に合わせて、ビジネスモデルを変えているわけですね。
それによって新しい魅力を作る。
ですから、そういった意味では、非常におもしろいやり方だと思います。

●東京都は、段階的に改修ができる仕組みを導入

これは恐らく、ビジネスをやっておられる方のニーズに、非常に合った形だと思うんですね。
やはりなかなか、一度にやってしまおうとすると、クライアントが全部いなくなっちゃうということになるわけですね。
これは非常に大きなリスクにさらされるわけですけれども、それをあんまりそういうことなくやるということで、非常にうまい方法だと思います。
できればいろんな自治体で、そういった工夫をしていただけるといいんじゃないかなと思います。

●工夫や事例の情報は、共有されているか?

今はまだあまりされてないと思うんですね。
ですから、こういった動きが広がっていくと、だんだんそういった情報が蓄積されると思うんです。
それをうまい形で集約して、いろんなところに発信していただけると、いろんな自治体にも参考になりますし、あるいはオーナーにも参考になると思います。
(ベストな値段や、やり方、デザイン性など、いろんなニーズがあると思うが?)
今はなかなかオーナーの方に、情報がない、そういう状態だと思うんですね。
だからおっしゃったように、例えば見積もりが適正かどうかとか、そういったことは全く分からない。
ですので、そういった、例えば相場はこのぐらいなんだとか、こういったやり方があるんだとか、それから先ほどの例もありましたけれども、デザイン性もある程度追求した形での、耐震補強のしかたというのは、こういうのがあるんだとか、そういったいろんな情報をやはり流布させていく、これがやっぱり重要だと思います。

●投資に加え、税などのコストもかかるのは報われない?

保有税の場合は、やはり財産税なので、価値が上がると上がってしまうんですけれども、ただ、やっぱりそういったことをやるんであれば、耐震改修を進めるんであれば、そういったよけいな部分、上がった分については、なんらかの形で減税措置をするとか、あるいは補助をするとか、そういった形でできれば、促進できるようにすればいいんじゃないかなと思います。

●やってよかったと思えるようになるか?

例えばなんですけれども、この動きが進みますと、市場の中で、耐震性がある建物とない建物の価格差というのが、大きくなるんじゃないかと思うんですね。
(価格差が出てくる?)
はい。
そうしますと、やはりオーナーとしては、それだけ違いがあるんだったらば、やはり改修に踏み切ろうとか、そういった動きになると思うんです。
そういった形で、その市場を作るというのは、非常に今回の制度の重要な要点かなと思います。

●耐震基準満たしているか否か、価格に反映は?

実は今もされてるんですが。
(されている?)
1981年に新しい耐震基準になったんですね。
実はその1981年以前の建物と、そのあとの建物という形で、価格差が生まれてます。
だけど今回、こういう診断ができますと、診断されてOKということになりますと、その分、価格は上がるはずなんですね。
そういった形で、耐震性というのが価格に転嫁される、こういうふうになってくるんではないかと思います。

●こうした見える化の動き、広がっていくか?

今後広がると思うんですね。
例えばなんですけれども、賃貸住宅などでは、オーナーではないので、自分で建物を決めることができないわけですね。
そういった方々においても、例えば借家になる人に情報を提供するということが、今後促進されるのではないかと思います。
(賃貸住宅の価格にも、耐震性のあるなしで差が?)
そうですね。
(そういう意味で市場が広がっていくと?)
というふうに思います。

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