クローズアップ現代

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No.34482014年1月7日(火)放送
シリーズ未来をひらく2 “物語”の力が社会を変える

シリーズ未来をひらく2 “物語”の力が社会を変える

「活動が広がらない」 悩める現場

先月半ば、都内の会場に日本各地で活動する市民運動やNPOの代表たちが集まりました。

社会活動家 湯浅誠さん
「社会活動家です。」

年越し派遣村の村長を務め、社会的に孤立する人々を支援している湯浅誠さん。


難民支援NPO代表 大西健丞さん
「大西健丞といいます。」

紛争地域で難民の支援活動などに取り組んできた大西健丞さん。
どうすれば人々に行動を起こしてもらえるのか。
多くの参加者が共通の悩みを抱えていました。

病児保育NPO代表
「子育てしている人たちや若者が、声を上げていかなくてはいけない。
大きなムーブメントをどう作るか、課題を感じています。」


不登校児童支援NPO代表
「自分だけじゃなく本当に共感して、動いてくれる人たちを作っていかないと、絶対、間に合わないと思う。
そこを学びたいと思って来た。」


講師を務めるハーバード大学のマーシャル・ガンツ博士です。
まず語り始めたのは、リーダーの役割についてでした。

ハーバード大学 マーシャル・ガンツ博士
「1人だけが光り輝くのは、良いリーダーとは言えません。
自分で全てをやるのがリーダーだと、多くの人が考えがちです。
それは誤解なのです。」

ガンツ博士の言葉に熱心に耳を傾ける人がいました。
東日本大震災の被災地で支援活動を続けている佐野哲史さんです。




佐野さんが活動の拠点にしている宮城県南三陸町。
津波で地域の漁業は壊滅的な被害を受けました。
佐野さんは地元の漁師の生計を助けたいと、観光客を呼び込み、漁業体験ツアーを主催しています。


ツアー参加者
「めっちゃ動いてますね、これ。」

復興支援を行う 佐野哲史さん
「そうですね。」

復興支援を行う 佐野哲史さん
「天井の高さまで波が来ていたと。」

ツアーの企画から案内役まで、佐野さんはすべてを1人で切り盛りしています。
その一方で、活動に協力してくれる人がなかなか現れないことに焦りを感じていました。

復興支援を行う 佐野哲史さん
「どうアプローチとったらいいのか、僕の中でいま方法論がなくて。
コミュニティ全体や人々をどう盛り上げていくか。
本当に僕の中で喫緊の課題です。」

ガンツ博士は、リーダーの多くはその責任感からすべてを抱え過ぎていると指摘します。
求められるのは周りの人を巻き込み、それぞれが自発的に行動できるよう促すことだといいます。
そうすれば活動は雪の結晶のようにつながり広がっていくというのです。

ハーバード大学 マーシャル・ガンツ博士
「リーダーとは肩書きや地位のことではありません。
目的を達成するため仲間を募り、力を発揮してもらえる環境を整える。
それができる人こそが、真のリーダーなのです。」

自分の熱意は空回りしていただけなのではないか。
佐野さんはこれまでの自分のやり方を変える必要があることに気付きました。

復興支援を行う 佐野哲史さん
「僕に問題があるのかなと。
押し出しが強すぎて、あの人のもとに行かなくてもいいみたいな、そういうトーンになっているのかも。」


周りの人を巻き込むことの大切さをガンツ博士は長い現場での活動を通じて体得してきました。
1960年代から人種差別の撤廃運動や移民の労働条件の改善に取り組んできたガンツ博士。
自分が前面に出るのではなく、当事者である市民一人一人の共感を得てきたことが、より大きな活動へと広がったのです。

ハーバード大学 マーシャル・ガンツ博士
「人はきっかけさえあれば、誰かと思いを共有し、行動したいと願っているものです。
そこで信頼を結び、関心を持ってもらえれば、また別の人へと自然と活動は広がっていきます。
一人一人の力は弱くても、それらがつながれば、大きな力となっていくのです。」

人を動かす “物語”の力

何をどう訴えていけば、人々は自発的に行動を起こしてくれるのか。
多くの参加者が、その手がかりを求めていました。
社会福祉法人に勤める平田智子さんです。

就労支援を行う 平田智子さん
「こんにちは。
お邪魔します。」

平田さんは障害や引きこもりなどで社会から孤立している人に雇用を作る就労支援を行っています。
介護施設などで、これまでおよそ70人の仕事を確保してきました。
平田さんのもとには連日のように自治体や企業が視察に訪れます。
しかし、理念には賛同してくれるものの、実際に職場を提供してくれる所はなかなか現れません。

就労支援を行う 平田智子さん
「職場がやさしくなるとか、笑顔が増えるとかいうことでは、説得力が薄くて、なかなか受けてもらえないんですね。
受け入れ先をなんとか広げていかなくてはいけない。
そこが一番課題ですね。」

ガンツ博士は、人々に行動を促すには心に訴えかける物語が必要だといいます。

ハーバード大学 マーシャル・ガンツ博士
「相手に行動するきっかけや勇気を与えるのが『物語』です。
いくら立派な活動でもそれがなければ、誰もついてきてくれません。」


ガンツ博士によれば、物語には3つの要素があります。
自分は、なぜこの活動をしているのか背景を語る「セルフ・私の物語」。
その価値観を相手と共有する「アス・私たちの物語」。
そして、なぜ今、行動に移さなければならないのかを伝える「ナウ・今の物語」です。
その実例として、いじめによる子どもの自殺をなくそうと活動する、ある男性のスピーチを取り上げました。
男性は最近まで自分が同性愛者であることを隠して生きてきたと告白します。

セルフ(私)
「私は子どもの頃、バレエを習っていました。
しかし学校の同級生や先生は、私ほどバレエを好きではなく、体育の先生からは女みたいだとからかわれました。
彼は私のことを『オカマ』と呼んだ、最初の人でした。
ずっと私はひとりぼっちだ、悪いのは自分だと思っていました。」

子どものころ、孤独にさいなまれていた体験から語り始めた男性。
これが「セルフ・私の物語」です。
スピーチは「アス・私たちの物語」へと続きます。

アス(私たち)
「私たちは誰でもからかわれたり、いじめられたりした経験があります。
それは背の高さや出身地、人種のことかもしれません。
たとえ一瞬だったとしても、自分には誰も味方がいない。
誰も助けてくれないという気持ちがわかるはずです。」

そして「ナウ・今の物語」。

ナウ(今)
「もっと早くカミングアウトしていれば、もっと子どもの相談にのれたはずです。
これ以上時間をむだにしたくありません。
行動を起こすのは今です。
子どもたちが自ら死を選ぶ前に、一緒に手をさしのべましょう。」

こうした訴えを通じて、3年前に始まったこの活動には、全米各地から多くの賛同や寄付が寄せられるようになりました。

ハーバード大学 マーシャル・ガンツ博士
「人々が行動を起こしてくれるのは、理念ではなく感情に響いたときです。
大事なのは、自分を突き動かす動機。
その根底にある価値観を言葉で表し、相手と共有することなのです。」

しかし、参加者の多くは相手に共感してもらうことの難しさを感じていました。

参加者
「グループ内ではすごく共感するけど、グループ外との温度差を感じ続けている。」

参加者
「全然違うところで共感を得る。
アスをどのように考えて、アスになるかっていうのは、とても難しいんだろうなと思いました。」

ガンツ博士はまず「セルフ・自分の物語」を語ることから共感は生まれてくるといいます。
難民を支援している大西さんが語った父親の介護体験にそのヒントがありました。

難民支援NPO代表 大西健丞さん
「(父は)奇声を発したり、奇行をするようになりました。
車いすに乗せて散歩すると、にらまれたり、どなり返されたり、唾を吐きかけられたこともあった。
疎外される側に立つという、初めての経験でした。」

ハーバード大学 マーシャル・ガンツ博士
「その状況であなたを支えたのは何ですか?」

難民支援NPO代表 大西健丞さん
「父を担当していた看護師がとても親切でした。
休日にもかかわらず、お見舞いに来てくれたのです。」

ハーバード大学 マーシャル・ガンツ博士
「特別な関係ができたのですね。」

疎外感の中にいた大西さんを一筋の希望が救いました。

ハーバード大学 マーシャル・ガンツ博士
「皆さんわかりますか?
この『ああ』という感覚です。
今この部屋で大西さんの物語が、私たちと共有されたのです。
『私はわかった』ではなく『私たちはわかった』、これが『アス=私たちの物語』です。
体験を共有する瞬間を作る、これが重要なのです。」

就労支援を行う 平田智子さん
「セルフは意識して人に伝えるときには言うつもりなんだけど、一番根本って言えてないのではというメッセージなのかなと。」



難民支援NPO代表 大西健丞さん
「日本だと自分のことを先に言うなと教えられるじゃないですか。
『ストーリー・オブ・セルフ(私の物語)』、自分のことを言うというのは非常に新鮮で、非常に今回深い結びつきを短時間でできたと思います。」

私たち一人一人が物語でつながれば、いずれ社会はよりよく変わっていく。
ガンツ博士の言葉を胸に参加者たちはそれぞれの現場へと戻っていきました。

未来をひらく“物語”の力

ゲスト糸井重里さん(コピーライター)
ゲスト室田信一さん(首都大学東京准教授)

●人々が感情移入できるストーリーの必要性ついて

糸井さん:まずは、僕は企業だとか、宗教だとかは、全部このやり方を実はしてきたんじゃないかな。
歴史的に見て。
単純にまず、セルフって言ってる部分は、まず自分から裸になって見せるっていうことを言ってるんだと思うんで、信用されるのに、よろい着てたら、信用されないじゃないですか。
まず私は、裸ですよっていうのを出すのが、セルフっていう意味だと思ったんで、ああ、なるほどな、ある種の古典なんだなというふうに見てました。
(そこからアス、ナウ、これはどういうふうに感じた?)
アスっていうのは、私とあなたの利害が一致しますよってことで、手を伸ばすってことじゃないかと思うんですよ。
握手するなり、だから、私はこういう人間です、握手する、で、あ、そうか、で、そのあとナウっていう部分が、「いつやるんですか?」「今です」っていうふうに訳すと一番簡単ですけど、なんにもしないでしゃべってるだけじゃなくて、何しましょうかっていうことに当たるんじゃないかなと。
だから裸になる、手を触る、何しましょうかっていうことなんじゃないかな。
非常にオーソドックスなお話にちゃんと50年やった人はこのオーソドックスに戻るのかって思って、ああ、ちょっと感心します。

●気仙沼で被災者を応援する活動 自分でも語っているか?

糸井さん:僕はね、自分の動機について、たくさん語るってことは、無理だと思ってるんです。
大したことないと思ってるの。
大したことないってことを語ってます。
なんていうんだろう、できないよっていうことを、とにかく小さくしか語れないということを、ひっきりなしに語ってる気がします。

●参加者の1人として講座を受けてみて

室田さん:僕は実は、かつてアメリカに留学していまして、そこで社会活動を行っていたんですけれども、8年前、日本に帰国しました。
それから、この勉強会を行うまでに8年間たってしまったんですよね。
それっていうのは、いろいろ日本でも社会活動をしてきたり、ないしは大学院に進んで、こういったことを深めて研究してきたり、発信はしてきたんですけれども、それがなかなか人のところに、人の心に届かなかったのかなと思って、今回、ガンツ先生と出会うことができて、自分ということを語るってことを改めて学んで、なんで私がこの社会活動をこういうふうに進めていくことにこだわっているのか、それが重要と思っているのかということを、自分ということを中心に、しっかりと人に伝えるってことを、改めて学び、それが今回、結実して、このような形で1つの勉強会として花ひらいて、今後の展開を期待していると、そういった状況です。

●参加者たちはなぜ自分のことを語れないできたのか?

室田さん:難しいことだと思うんですけれども、私自身も悩んでいました。
多くの場合、活動家の人であったり、支援者と呼ばれる人たちというのは、人に対して平等に働きかけなくてはいけないという思いがあるがあまりに、自分のことを語ることが難しくなってしまう。
なぜなら、自分のことを語ると、ある限定的な状況を作ってしまうかもしれません。
例えば私は、東北で被災しましたと言うと、どうしても被災者のことしか代弁できないかのように思ってしまう。
その限定性を作ることを恐れてしまうのか、心配、危惧してしまうがゆえに、なかなか自分というものを語らなくなってしまうかもしれません。
しかし、むしろこのストーリー・オブ・セルフ、それをアスに転換していくっていうところが重要で、セルフだと限定されてしまうんですけれども、それをアスとして広げることによって、自分という力を他者と共有して、他者の力も共有して、それを広げていく、活動に広げていく、こういったところがガンツ先生の提唱されるやり方の非常に有効なところであるし、今後、日本でも多く活用できることなのではないかと思います。

●自分のことを語ること ちゅうちょする理由について

糸井さん:やっぱり私利私欲でやってるっていう言葉にまとめられるのが嫌なんじゃないですか。
みんなのためにって言いたいんじゃないの。
だけど、僕が知ってるかぎりでは、いい活動をしている人たちは、なんでやってんのって言ったときに、割と平気で楽しいからかなって言いますよね。
あの楽しいからかなっていう、そのバーンと飛び抜けた感じというのは、かえって信用できますよね。
俺は苦しいんだけど、みんなのためにやってるんですって言ったら、手伝えなくなりますよね。
俺も手伝う、俺もそういう気持ちになるよっていうのは、本人が、俺は楽しいからだって言ってくれたほうがいいし、そりゃ私利私欲じゃなくて、私のない活動なんてないと思う。
そこをもっと企業でいえば、利益をとるじゃないですか、ちゃんと。
お代は頂きますっていう、それと同じような何かっていうのはないと、かえって信用されないですよね。

●みんな物語を持っているか バリアをなくすために必要な環境は?

室田さん:実はストーリー・物語というのは、誰でも持ってるものだと思うんですね。
ただそれの語り方をまず知らないということが1つですし、さらに、語って…。
(人の心に火をつけるような物語を持っているか?)
実は気付かないんですけれども、持っているものだと思います。
それはなぜなら、人の人生というのは、次の段階で何が起こるか分からないですよね。
その中で人は、不確実な先の見えない状況の中で、さまざまな困難にぶち当たりながら、その中で自分の選択をして、自分の人生を歩んでるわけですよね。
それっていうのは、もうストーリーだと思うんですよね。
そのストーリーというのは、おそらく誰でも持ってるものですけど、語ることに慣れていないので、語りきれてない部分があると思います。
誰でも語れるのかっていうところですけれども、大事なことは、それを語る環境をどういうふうに整えるのかってことだと思います。
いきなり「クローズアップ現代」に出て、語ってくださいと言っても、なかなか語れないかもしれませんけれども、そこはプライバシーの守られてる環境で、ここで語られることは、ここの中でとどまることですと言われた、そういった環境があれば、多くの人は自分のことを少しずつ語り出すのかなと思います。

●善意や意欲を持っている人が花ひらいていくには?

糸井さん:僕は単純に、具体的にアイデアが非常に重要だと思う。
つまり、さっきから企業にたとえてますけど、企業でも商品とかサービスがありますよね。
そのサービスが魅力的であれば、人はやっぱり受け止めてくれる。
だから、市場とか企業とかって言うと、すごくこういう話をしているときには、変に聞こえるかもしれませんけど、そこから学ぶべきことはたくさんあるんじゃないかなと思う。
(本当にこれは必要な運動なのかどうかとか?)
そうそうそう、うちの会社は社会にあったほうがいいんじゃないかということは、企業は考えてるはずですよね。
同じようなことを善意の人たちも、やっぱり自分に対する自己批評っていうのが必要なんじゃないかな。

●今の言葉をどう聞いたか?

室田さん:やっぱり大事なことは、規範として何かいいことをしようではなくて、自分が問題意識を持って、それに対して行動を取っている、そのストーリーを共有して、一緒に歩んでいこう、そういうストーリーをより日本の中で広く広めていくことかなと、そのように感じています。

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