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No.34392013年11月28日(木)放送
コメ作り大転換 ~”減反廃止”の波紋~

コメ作り大転換 ~”減反廃止”の波紋~

“減反廃止” 大規模農家の期待

コメの一大産地、北海道。
これまで多くの農家が減反に協力してきました。

駒谷信幸さん
「この見える範囲、約7町。」

その1人、駒谷信幸さんです。
減反が廃止されることを前向きに捉えています。
現在は10ヘクタールでコメを作っていますが、かつては地域有数の大規模なコメ農家でした。

駒谷信幸さん
「水田はもともとは、60ヘクタール全部作っていましたよ。
減反政策が始まらないうちはね。」

駒谷さんがコメを作り始めたのは、コメの増産が求められていた昭和30年代。
地域に先がけて大規模化に乗り出し、水田を次々拡大していきました。
しかし、29歳のとき減反政策が本格的に始まります。
生産を減らさなければ、地域に農業の補助金がつかなくなるという厳しい措置も取られました。
駒谷さんや周囲の農家は、減反に応じざるをえなくなり、自由なコメ作りができなくなりました。

駒谷信幸さん
「水田があるのに、おコメが作れなくなるということで、もう、みんな意欲を失って。」

こうして駒谷さんは、水田のほとんどで転作を進め、現在は、主にタマネギやジャガイモなどを生産しています。
今回の見直しで、コメの生産量の割り当てがなくなれば、再び、自由にコメが作れるようになると期待しています。


今、生産しているのは、全国的に人気の高いブランド米「ゆめぴりか」。
消費者やスーパーに直接販売しています。
販売価格は10キロ、4,500円です。
平均的なコメに比べ高めですが、日本各地から注文が相次いでいます。

これまでコメ作りは制限されていましたが、今後は市場のニーズや価格を見極め、コメを増やしたり、野菜を増やしたりと自由な生産ができると考えています。



駒谷信幸さん
「もしおコメのお客さんが増えれば、水田の面積を増やすことが、今度は自分の考えでできますよね。
政府や何かの考えじゃなくて。
お客さんのニーズに合わせて作りたいんです。
自由に何でも作りたいんです。」

“減反廃止” 不安高める農家

一方、今後もコメ作りを続けていけるか不安を感じている農家も少なくありません。
山あいにある1.5ヘクタールの水田で、コメを生産している兼業農家、古滝初男さんです。
古滝さんが心配しているのは、農業収入の落ち込みです。

去年(2012年)のコメの売り上げはおよそ130万円。
減反で国から得られる交付金などが、およそ60万円。
そのほかを合わせると196万円。
これに年金などを加えて暮らしています。


今回の見直しで、5年後には交付金のうち21万3,000円が減るといいます。
さらにコメの価格が下がれば、代々、守ってきた水田を維持できなくなるのではと心配しています。


古滝初男さん
「このままやっていければいいんですけど、(売り上げが)本当にきつくなったら、やめざるをえないと思いますね。」



古滝さんは仲間と共に品質の高いコメ作りに取り組んできました。
そのコメは、全国コンテストで最優秀賞に選ばれたこともあり、地元でも人気です。

男性
「おいしいよね。
数はとれないらしいけど、おいしい。」

今の収入を維持するには、水田の規模を拡大し、収益を上げる必要があります。
しかし、中山間地にあるため、大規模化は難しいと古滝さんは考えています。
この日、仲間のコメ農家とも将来の不安が話題になりました。

古滝初男さん
「先が、5年後の先が全然見えなくて。」

仲間のコメ農家
「(減反廃止決定の)スピードが早すぎるよな。
全部が平場じゃないわけだから、そういう中で中山間地域のあり方というか。
もしこのまま進んでいっちゃったら、住む人がいなくなっちゃうよね。」

古滝初男さん
「コメの栽培のことを考えながら、何とか生き残りに情熱を傾けているというのが現状なんですけどね。
結局、農業そのものが成り立たなければ、当然、あえてここに生活基盤を置くということが意味をなさなくなってくる。」

“減反廃止” 政策の狙いは

ゲスト三輪泰史さん(日本総合研究所主任研究員)

●農政の方向性 どんなイメージを?

今回、これまでの減反というのは、大きく3つの矛盾を抱えていました。
1つ、農業を伸ばしていきたいという全体の方向感がありながら、コメを減らす方向にいった。
またモチベーションが高くて、よりたくさん作りたい方々を抑えてきた。
われわれ消費者はそのあおりを受けて、通常よりも高いおコメを買わざるをえなかった。
この3つの矛盾があったんですね。
ただ今回、減反の大きな見直しが入る中で、これまでは伸びるところを抑えて、その部分を下支えに、真ん中に真ん中に寄せるところだったんですね。
上の、競争力ある方は、より自由に、経営の判断を任されるようになるんですね。
となると、これはまさに農業が産業化していく、農家がまさに中小企業のように、自分たちで経営を判断して、いろんな工夫ができるような、今回、仕組みに変わったというのが、大きなポイントだと考えます。

●“減反廃止” 不安を覚える農家もいるのでは?

例えば山あい、斜面が急な所などについては、別途、農業の果たしている役割、例えば地域の環境を守ったり、文化を守ったり、その地域経済を支えるような仕組みに対して、別の仕組み、減反とは別の仕組みできちんとサポートしていく、保護していくというのが必要になっているんですね。
(攻めたい人はどんどん攻められる方向、そして守る政策も出てくる?)
そうですね。
これまで以上に攻めはよりはっきりと攻めていく、守りについては、きちんとその範囲を定めたうえで、必要な保護を、補助をしていくというふうな、色分けがはっきりしてくるというのが、今回の特色だと考えます。

●“減反廃止” 価格や生産量はどうなる?

いろんな前提条件があるので、必ずしも決まった数字があるわけではないのですが、価格については2割から3割下がるというふうに試算している事例がありますね。
ただ一方で、コメの需要が大きく伸びるという期待は今、なかなか難しい状況ですので、生産量自体は若干増える程度にとどまってしまうというのが、今の現状かなというふうに考えます。

●“減反廃止” 国は需要のある作物に誘導したい?

そうですね、主食以外。
(簡単にできるか?)
実はそこで注目されているのが、餌、飼料米なんです。
ただ、今、飼料米に対してより厚く補助金を入れていこうという政策が打ち出されようとしているんですが、ただ1つ課題としては、飼料米を作ることがゴールになってしまいがちなんですね。
本当はその飼料米、おいしい日本のおコメを食べて、育った、例えば牛肉であったり、豚肉であったり、牛乳であったり卵。
もしくは、それを加工したハムであったり、ソーセージが一番おいしいものとして評価されるんですね。
そのような地域の連携によって、おいしいブランド品が出来ると、それを生み出した飼料米の価値がおのずと高まってくると、この逆算していくプロセスをきちんと設計することがポイントだと考えます。

●農政の変化 不安に思う農家に対してすべきことは?

今回の減反見直しと新しい補助の仕組みというのは政策のパッケージなんですね。
ただ今回、どのように今後、サポートしていくかというところは、きちんとした情報がまだ決まっていない、提供されていない中で、判断材料に困っているというのが、今の農家の方々の今、一番お困りな部分かなというふうに考えます。
(減反の部分だけ、最初に打ち出されてしまった?)
そうですね、情報がかなり偏ってるかなというふうに感じます。

生産者と企業が連携 コメの需要を掘り起こせ

今月(11月)発足したコメの生産者連合です。
秋田や宮城、岩手の大規模な生産者どうしが県をまたいで連携しました。

東日本コメ産業生産者連合会 涌井徹社長
「農業維新は東日本から始めたいと思っています。」

連合会では、1万ヘクタールの水田で5万5,000トンものコメを取り扱うことを目標に掲げています。
これまでにない規模でコメを生産することで、コストの大幅な削減や高い供給力を実現したいと考えています。


東日本コメ産業生産者連合会 涌井徹社長
「減反廃止となると、コメが余るのではないかという不安。
それともうひとつ、これから人口が減って、消費が減ってまたコメが余っていく不安がある。
農家個々ないし農業法人個々では、力が弱いので、そこはぜひ連合会としてやっていく。」

連合会の供給先の1つは、これまでコメとは無縁だった大手生活用品メーカーです。
スーパーマーケットやホームセンターなど全国に1万3,000店舗の取り引き先を持つ、このメーカー。
そのネットワークを活用してコメを販売していく計画です。

スーパー販売員
「ツヤツヤ、モチモチの冷めてもおいしい、つや姫。」

先週、そのコメが首都圏の大手スーパーで売り出されました。
商品の特徴は3合ずつ、小分けの袋詰めにされていることです。
1人暮らしの世帯などの需要の掘り起こしを目指しています。

女性
「楽ですよね、持ち歩きがね。」

アイリスオーヤマ 大山健太郎社長
「今までのおコメの流通の常識を覆すような販売になるのだろうと。」

激化するコメ競争 統一ブランドで付加価値を

一方、中小規模の農家を多く抱えるJAグループも販売の強化に乗り出しています。
今月発表されたオリジナルブランド。
いずれも国産のコメなどを使った加工食品です。
農産物の付加価値を高めて消費者にアピールする狙いです。

JA全農 生活リテール部 高崎淳次長
「コメだけの部分の提供であれば、今までの流れからいうと、さらに消費が減退する可能性がある。
その中にあって、(コメの)加工食品を作ることによって、コメとしての需要拡大、維持拡大をしっかり行っていきたい。」

激化するコメ競争 始まった海外生産

こうした中、新たな市場を海外に求める大規模農家も現れています。

「おはようございます。」

岩手県北上市にある農業生産法人です。
従業員は100人。
地域の雇用の受け皿になっています。

会長の照井耕一さんは、5ヘクタールからコメ作りを始めました。
その後、担い手不足などで生じた耕作放棄地を次々と借り受け、水田の面積は今では、205ヘクタール。
東京ドーム44個分にもなりました。

西部開発農産 照井耕一会長
「ほとんど受け入れる人もいないので、全部うちの会社が引き受けていると。
この辺一体はもうすべて、うちの会社でやっている。」

大規模化によるコスト削減で、現在、コメ60キロ当たりのコストは9,552円。
全国平均よりも40%低い水準にまで達しています。
それでも、国内需要の伸びが今後、見込めないことに照井さんは強い危機感を感じています。

西部開発農産 照井耕一会長
「これが今年、生産されたうちのコメです。」

一時は輸出を検討しましたが、現地との価格差が大きく十分な利益を上げられないことが分かりました。

西部開発農産 照井耕一会長
「うちで作っているコメがいくら低コストでやっても、今の段階では9,600円と。
そうすると日本(で生産)というのは、限界があるかもしれないと。」

そこで今年(2013年)、照井さんは海外にも生産拠点を設けることを決めました。
現地で収益を上げることで国内の経営を強固なものにしようと考えたのです。
進出先として選んだのはベトナム。
ベトナムでは、1年に2回から3回の収穫が可能で、日本よりも多くの生産量が見込めます。
照井さんは、首都ハノイ近郊の4軒の農家と契約。
日本の品種「ひとめぼれ」や「あきたこまち」を試験栽培しています。

ベトナムの農家
「日本のコメは成長が早く作りやすいです。」

西部開発農産 照井耕一会長
「作りやすい。」

西部開発農産 照井耕一会長
「どっちの品種も、それなりの特徴が出ていますから。
生産は大丈夫、できます。」

照井さんの試算では、ベトナムでの生産コストは60キロ当たり4,200円。
日本の半分以下にまで削減できると見込んでいます。
このベトナムを生産拠点に、富裕層が多いシンガポールやタイに向けて輸出する戦略です。

西部開発農産 照井耕一会長
「やっぱり今うちにいる従業員100人を、どうやって維持または守ることを考えれば、減反政策廃止論の中では、方向転換もやむをえない。
それをチャンスととらえるか、いい機会ととらえるか。
いろんなグローバルに進めていきたいなと。」

“減反廃止” 求められる競争力

●新たな商品や取り組み どれくらい需要拡大を期待?

私が非常に注目するのが、今、海外からの安いコメに押されつつある外食産業なんですね。
ここの部分、かなりコストにシビアに見られるところがありますので、少なくともこういう部分に対して、今回の減反政策、少し値段が下がったところで、きちんとその部分を取り戻していく、取り返していくというのが、まずやれることかなというふうに考えます。

●海外でコメ生産 可能性と課題

これまで私がお手伝いしていたプロジェクトは、例えばイチゴであったりレタスとか、日もちがしないものだったんです。
これは日本に運んでくるのが難しいので、いわゆるブーメランはないというふうに考えていたんですけど、コメの場合は、やはり運びやすい、品質を保持しやすいので、このようなリスクはあると思います。
ただ例えば、日本の、日本で人気の品種ではなく、現地に合わせた品種を、例えば新しく開発して、それを栽培するとかいうふうな工夫があれば、こういうふうなブーメランによる影響というのは、かなり絞り込むことができるというふうに考えます。
(合弁などを作る場合、輸入を巡る契約はできる?)
例えば日本に対しては輸出してはいけないとかいう、縛りをきちんとつければ、相手もきちんとそれを守れてくれるかなと思いますので、それによってブーメランをいかに避けていくかという工夫が必要だということを考えます。

●“減反廃止” 今後の課題は?

まずは、この厳しい状況の中で農業を続けたいかどうかという意思を確認すると。
その中で、1つ1つ小さな農家も、意思ある方々が集まってグループ化すれば、お互い役割を補完し合って、力強い農業ができると。
そういうふうな集まってきたグループであったり農業法人が、新しいことにチャレンジする。
例えば新しい品種を作ってみよう、新しい栽培方法を確立してみよう。
そういう、まさに攻めの姿勢に対して、より厚くお金を投入していく、政策的に支援していく、このような3段階によって日本の農業、非常に力強い姿が描けるんじゃないかなというふうに考えます。
(これを機に農業を続けたいという高齢の方々も?)
そうですね、そういう方々に一日、朝から晩まで働いていただくのではなくて、一番忙しい時期に助けてもらうとか、そういうふうなお互いの役割分担が重要になってくるというふうに考えます。
(担い手は増えるか?)
そうですね。
新しい若い方が入ってきてくれるような受け皿が増えてくるんではないかというふうに期待しています。

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