クローズアップ現代

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No.34372013年11月26日(火)放送
ウェアラブル革命 ~“着るコンピューター”が働き方を変える~

ウェアラブル革命 ~“着るコンピューター”が働き方を変える~

暮らしを変える メガネ型端末

来年、グーグル社が発売する予定のウェアラブル端末です。






「さあメガネ、写真を撮って。」

メガネに話しかければ、目の前の景色を写真やビデオに撮って、電子メールで送ることができます。
スマートフォンに代わる技術と言われ、巨大市場に成長すると期待されています。



日本のメーカーも大きなビジネスチャンスと捉え、世界的な開発競争に次々と参入しています。
こうしたウェアラブル端末の普及は、単に暮らしを便利にするだけではありません。
すでに、私たちの働き方を劇的に変えようとしています。

メガネ型端末で 働き方も激変

京都市内にある総合病院です。
今年(2013年)5月、手術の準備作業にウェアラブル端末を導入しました。
1回の手術には、針や糸、ガーゼなど、50種類、100点もの医療器具が必要で、その準備は看護師の大きな負担でした。
そこで、医療器具を集める際、種類や保管場所を、メガネ型のウェアラブル端末でガイドするようにしたのです。


女性のメガネには、その日、集めるべき医療器具の情報が1つずつ表示されます。





まず、保管場所と棚番号を確認。
その指示に従って移動し、棚を見つけると…。





次に、写真と製品番号を頼りに、同じ品物を探します。

女性
「ここに住所と物の写真が入っているので、迷わずに行ける。」



手に取った品物が、本当に正しいかをチェックするのも、コンピューター。
右手につけたバーコードリーダーで、読み取ります。




データが一致すると、メガネの写真が次の品物に変わります。






膨大な医療器具の情報が記憶された小型コンピューターを身につけ、手にはバーコードリーダー、そして、メガネ型の端末を装着。
これによって両手が塞がることがなくなり、効率よく、正確な作業ができるようになりました。




看護師長
「一瞬で準備ができるというのは、圧倒的に機械が速い、確実。」




今、作業の大半を担っているのは看護師ではなく、医療知識を持たない派遣労働の女性です。
ウェアラブル端末の助けを借りることで、全くの素人にも、手術の準備を任せられるようになったのです。


女性
「私一人じゃ、絶対に心もとなくて、本当に先生という感じです。」




「これが?」

女性
「こいつです。」

「どんな先生ですか?」

女性
「私がうっかりしてると、『違うやないか』とことばでは言わないが、表示で教えてくれる。」

ウェアラブル端末を導入した、この病院。
派遣労働者に業務を任せることで、看護師の負担を一日あたり、3時間以上減らすことに成功しました。

京都第二赤十字病院 田中聖人さん
「どんどん経験の無い方でも、やっていただけるようなシステムを作ることで、プロフェッショナルの方の仕事が少し楽になる。
スキルのある方、資格のある方には、それを生かすほうにシフトしていただきたい。」




こうしたメガネ型端末の研究が始まったのは、今から40年以上前。
世界初の試作品は、天井からつるさなければならないほど、重いものでした。
開発の目的は、人の視覚にコンピューターの情報を重ねることで、人間の能力を拡張すること。
しかし、実用化には、長い年月が必要でした。

そして、2013年の日本。
ウェアラブル端末は驚くべき進化を遂げ、もはや、単に情報を表示するだけにとどまりません。
大阪のベンチャー企業が開発しているのは、ものづくりの現場を大きく変える可能性を秘めた端末です。

例えば、自動車の製造現場で使った場合。






まず、目の前の状況をカメラが読み取り、どの部品を、どんなふうに取り付けるか、コンピューターが位置情報を判断して、作業を指示することが可能です。





人間は、コンピューターの誘導に従うだけで、正確に作業することができるのです。
これを使えば、熟練工にしかできなかった仕事が、メガネによって、誰でもできるようになります。




さらに、この端末には、作業している人が、見ている映像を遠隔地から確認できる機能もあります。





海外の工場で働く外国人労働者の作業を、日本にいながらにして管理したり、日本語の分からない人を教育したりすることも可能になるのです。





ベンチャー企業 社長 福田登仁さん
「それほど熟練されてなくても、熟練者に近いことが実現できる。
技術の伝承というのか、継承の仕方のツールの1つだと思う。」

“着るコンピューター” 登場のインパクト

ゲスト黒崎政男さん(東京女子大学教授)

●コンピューターを身につける時代が到来

コンピューターって最初、見たように、こんな、ものすごい大きかった。
それが人間とコンピューターの関係って、だんだん身近になってきていて、今、いちばんなのはモバイルというか、手で持って、でも、このぐらいの距離。
それが結局、最終的には埋め込み型っていうか、サイボーグ型みたいにまでいくと思うんですけど、それのちょうど中間段階、自分の体の環境と、自分の身体とに接しているところのウェアラブルという、そういう段階にコンピューターの段階が来ているということが分かりますですね。
(今が完全な埋め込み型と持ち運びの間ということになると、これから、どんな変化が?)
そうですね、ちょうど臨界面なので、私にとって、世界を強力に見る道具でもあると同時に、私というものをデータ化したり、あるいは、私というものをロボット化するような、ちょうど私を主体化すると同時に、客体化するような、そういう側面がある。
だから、例えば、グーグルグラスなんかをつけると、物を見た時に、いろんな補助があって、私が物を見るということを非常に強力にサポートしてくれると同時に、私に命令もしてくる。
私がある種、ロボット化するというか、そういう側面の両方が、今ので出ていたと思いますね。
(素人でも、今までできなかった仕事が、どんどんできるようになる?)
そうですね。
便利になるという視点から見れば、どんどん便利になっていると。
だけども、コンピューターと人間との関係ということで言えば、人間を補助する道具から、だんだん人間を使うコンピューターという側面にもなってくるし、それから、人間が自分の中に知識や、いろんな技というものを蓄えて世界を生きているのに、それをどんどん、さらにアウトソーシングして、ここに指令が出て、それに従うだけっていうふうな、非常にロボット化っていう感じもしますですね。

●人間自身が記憶をする必要もなくなっていく?

そうですね、人間とその記憶の歴史っていうのは、実は非常に長くて、例えば、古代ギリシャのプラトンっていう人は、文字なんて、人間が発明するから、自分の頭に置いておくべきことを全部、文字化して、外に出してしまう。
こんなの、人間として、もう終わってるぞ、というふうに非難しているわけですね。
というふうに、文字というテクノロジーも、実は、人間の知識や思いというのを外に出すテクノロジーだったわけです。
それが、だんだん書物になり、コンピューターになり、どんどん外に出していくという過程の中での、一コマ。
だから、どのぐらい人間が自分で知識を持っておくべきか、ためておくべきかというのは、時代によって変わってきている。
だから、今の私たちから見ると、うわあ、あそこまで自分がなくなっていいのか、という感じもしますけども、それはまあ、時代時代によって違うとも言えますしね。

働き方をデータ化 “着る端末”で業績改善

ウェアラブル端末を導入し、業績アップにつなげた企業があります。

「おそれいりますが、人材採用のご担当者様はいらっしゃいますでしょうか?」

飲食店などに人材募集の広告掲載を売り込む、営業センターです。



160人の電話オペレーターは朝、出勤すると、全員、名札型のウェアラブル端末を身につける決まりになっています。
端末には、従業員が座ったり、立ったりする動作や、歩く速さを計測できる加速度計、従業員どうしの位置関係や会話を把握できる、赤外線センサーなどが組み込まれています。



この端末を身につけることで、従業員が社内のどこで、どんな仕事を、どれくらい集中して行っていたのか。
誰が誰に話しかけ、会話がどれくらい盛り上がり、何分間、話をしていたのかまでもが計測できるのです。




従業員
「ちょっと恥ずかしいっていう部分が、正直あるんですけれども、そのあたりは、ちゃんと情報の管理とか、ちゃんとしていただいていると思いますし…。」



従業員
「会話を聞かれるわけじゃないんで、監視っていう感じはしないです。」




こうした従業員の行動データすべてを、出勤から退勤まで、丸ごと記録。
ビッグデータ化しています。


ある従業員の一日の記録です。






赤色は、同僚との対話が活発に行われたことを示しています。
この日は、就業時間の多くを同僚との打ち合わせなど、コミュニケーションに割いていたことが分かります。




さらに、集中して作業していた時間まで丸見えです。
この従業員の場合、最大9分間。
その長さは、ほかの多くの人の集中時間と同じでした。
こうした従業員の行動を記録したビッグデータは、会社の業績と、どうつながっているのか。
分析してみると、意外な点が重要であることが見えてきました。

従業員の休憩時間です。






会社の業績の推移と、従業員が休憩時間をどれだけ活発に過ごしたかには、密接な関連性があることが分かったのです。





休憩時間をばらばらに過ごすよりも、同僚と一緒におしゃべりをして、楽しく過ごしたほうが、業績が10%以上、伸びていました。
今では、従業員のどんな行動が業績に結び付くのかを、コンピューターが自動的に見つけ出せるまでになっています。
端末を開発したメーカーでは、ビッグデータの解析しだいで、まだまだ業績アップの要素が見つかるとみています。



日立製作所 中央研究所 矢野和男さん
「一見、業績と関係ないことの中に経済価値があったというようなことは、コンピューターが初めてですね、見つけて。
ある意味、人間以上に人間的なものを、データ化の客観的な抽出によって、コンピューターのほうが見つける力を、今や持っている。
コンピューターは、渡せるものは渡したほうがよい答えが出ると思う。
偏らないですしね。」

この企業がコンピューターの解析から導き出した業務改善策の1つが、同僚どうしの会話を業績アップに結び付けることでした。

誰と誰が、どれだけ会話をしたのかを線でつないだ、コミュニケーションマップです。
つなぐ線が太くなればなるほど、距離が近ければ近いほど、活発に会話が行われたことを示します。




反対に、会話をする相手が少ない人は、端のほうに表示されます。





従業員
「これが私で、これが佐藤さんですけど、これをつなぐ線が、まだ出来てない状態。」

業績アップのために、会話量が少ないオペレーターに話しかけることが、管理者の重要な業務になりました。
これまで経験と勘で行われてきた、業務の改善。
今後は、ウェアラブル端末が集めたデータを、コンピューターで解析するのが主流になると、開発メーカーでは考えています。

日立製作所 中央研究所 矢野和男さん
「こういうデータを使ったITと人間が一体になってですね、一種のチームとなって、コンピューターと人間が働くことによって、より柔軟に、いろんな変化に対応できて、結果として、業績も上がるというようなことになるんじゃないかと思っています。」

社会をどう変える? “着るコンピューター”

●“着る端末”で業績改善につなげた会社の例を見て

ここまで来てしまってるのか、って感じですよね。
ITと人間が一体になって、業務の業績が上がるということですね。
肯定的には、ビッグデータという新しい視点、そういう別のスケールの視点を導入することによって、これまで見えなかったことが見える、それはもう新しい視点だと思いますけど。
同時に、やっぱり使い方によってはウェアラブルとか、こういうコンピューターっていうのは、ウルトラ監視社会っていいますか、プライバシーというものの消滅といいますか、そういうことまで考えさせられる、そういう感じがしますね。

●“着る端末”がプライバシーを侵食する恐れも

先ほど、ウェアラブルが自分を拡張する機械でもあるけど、自分をデータ化する機械にもなるっていう側面がよく出ていて、完全に自分をデータ化する。
個人の完全なるデジタルデータ化っていうことが進行しているという感じで、それはまあ、一個人を豊かな1個というよりも、むしろ組織が1つとして、それを一コマとして、人間をデータ化してるということですよね。
(例えば、なぜ、あの人はこの人とばかり話してるんだろうって、疑問に思われたりすることもありますよね。)
ありますよね。
このケースで、このデータを誰が見るかというところが、データ自体はニュートラルなので、それを管理者だけが使うのか、あるいは、端末の人たちも一緒に見ることによって、上の動きも見えるとかということであれば、また、監視ということも、また、いろんな側面が出てくるとしても、それでもやっぱり、確実にわれわれとコンピューターの関係が、われわれをデジタルデータ化して、すべてを書き出している。
私の行動の在り方や、それから、いろんな来歴や、いろんなものを買ったりしても、もう完全にネットの中には、サイバー空間の中に、私っていうものが溶け込んでいるというか、そういうことが、もう完全に進行しているっていう感じですね。
(個人のコミュニケーションに支障が出ることもあるのでは?)
あんまり、会話しようと思っても、あれ?
ここはずいぶん、接触が強いぞとか言われて、そういうことは、つまり、もしかしたら、いろんな、われわれの社会やコミュニティーっていうのは、表には出ない、こういう数値化できないような、例えば情熱だとか、あるいは恋愛感情だとか、いろんなもので成立して、そこはみんな捨てて、効率で見てみるっていうことだと思いますけどもね。

●効率性を追求していくことで失われるものもあるのでは?

つまり、われわれのモチベーションや、何か物事を成立させてるかもしれない、そういう側面は失われるかもしれないですね。
そこは、なかなか難しいと思いますけど、それにしても、ここまでデータ化が拡張して、これは今、会社っていう、その業績を上げるっていう目的がはっきりしている場合はいいですけども、これが恐らくは拡張していくんだと思います。
そうすると、われわれが、これまで考えてきたプライバシーとか、パブリックとプライベートとかっていう区別が、恐らくは、どんどん変容していくんだろうなっていう感じはしますね。
(監視カメラも、あっという間に広がっていきましたからね)
最初は、あんなに嫌だった監視カメラが、今では、あって当然みたいに思ったり、こんな電話があっていいのかっていうものが、今は自然なツールになっているというように、もしかしたら、われわれのプライベート観とか、私とは何か観も、どんどん変化していくかもしれない。
その当然と思うことが、どんどん変わっていくかもしれない。
それにしても、そういう変化がどんどん来ているかもしれないにしても、しかし、今みたいに従来的なプライバシーという、保護ということでは対応しきれないようなレベルにまで事態は来ていて、それは、その個人とは何かとか、私とは何かといった側面まで根本的に切り崩してくるというか、見直しを迫っているというか、そういう事態にまで来てますね。
(自分をどうやって維持するんだろうか、ということ?)
コンピューターが、ぐーっと私の領域まで、どんどん切り崩していって持っていった時に、私って何かとか、私が生きるって何か、ということまで迫ってきます。

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