クローズアップ現代

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No.34042013年9月19日(木)放送
がん“根治”の時代は来るか ~“がん幹細胞”研究最前線~

がん“根治”の時代は来るか ~“がん幹細胞”研究最前線~

再発・転移はなぜ がんとの闘い

年間7,000人のがん患者が入院する、がん拠点病院。
大阪府立成人病センターです。

医師
「ふらつく?」

造田勝枝さん(69歳)
「ふらつくんです。」

造田勝枝さん、69歳です。
脳や肺など、全身の5か所にできた、がんと闘っています。





脳にできたがんは、直径およそ5センチ。
めまいや記憶力の低下などの症状が治まりません。
造田さんが最初にがんになったのは、4年前。
大腸がんでした。
3回の手術と抗がん剤による治療を受け、がんを克服できたと思っていました。

ところが2か月前、脳、肺、肝臓、骨と全身に、がんが転移しているのが見つかったのです。





造田勝枝さん(69歳)
「(再発・転移を知ったときは)ただただ、涙だけが出たんですよ。
どうしようもない涙が。
少しずつ気持ちの整理がついて、やるっきゃないんだ、みたいになったので…。」

脳のがんは、手術で切除する決断をしました。
しかし、ほかのがんをどうするのか、治療方針は、まだ決められないでいます。

造田さんの主治医 大植雅之さん
「敵はがんなので、勝ちたいと常に思っているが、今ある武器で何とか、ちょっとでも成績を上げるよう頑張るしかない。」

がんに潜む 謎の細胞

なぜ、がんの治療は、これほどまでに難しいのか。
その謎を解き明かそうと、長年、研究を続けてきた人がいます。

大阪大学の森正樹教授です。
森さんは、これまでに手術をした大腸がんや肝臓がんの患者1,000人余りから、がんの組織の提供を受け、詳しく調べました。
森さんが使ったのは、10年ほど前から急速に進歩している、細胞の検査技術。
細胞1つ1つを分離して、性質を見分けることができます。
その結果、これまでのがんの常識を覆す未知の細胞が見つかったのです。

これまでの、がんの考え方です。
正常な細胞の遺伝子が傷つくと、がん細胞に変化します。
それが無限に分裂を繰り返して、がんを作ると考えられていました。



ところが、がんの中に未知の細胞が潜んでいたのです。






森さんは、がん細胞と未知の細胞を、それぞれマウスに注射しました。
すると、これまで無限に増えるとされていた、がん細胞は、ほとんど増えませんでした。
その一方、未知の細胞を注射したマウスには、巨大ながんができたのです。



がんの大本となる、がん幹細胞の発見でした。





大阪大学 大学院 消化器外科学 森正樹教授
「非常に大きい驚きだと思います。
今までの考えを一変させている。」

がんを生む“親玉” がん幹細胞

がん幹細胞が分離する様子を捉えた映像です。






赤色のがん幹細胞が、緑色のがん細胞を生み出しています。
その後、がん細胞だけが分裂を繰り返し、数を増やします。





森さんたちが考える、がん増殖のメカニズムです。
がん幹細胞から生まれた、がん細胞は一定期間、急速に増えますが、やがて止まります。




しかし、がん幹細胞が、若いがん細胞を次々と生み出すために、がんが巨大化していくのです。
増殖を止めるには、がん幹細胞を死滅させる必要があるというのです。

大阪大学 大学院 消化器外科学 森正樹教授
「本質が見えていないために、むやみに攻撃していた。
ようやく何をターゲットにすべきか、というところが見えてきたという点で、非常に興奮している。」

再発・転移 がん幹細胞の脅威

再発や転移のメカニズムも、がん幹細胞の発見によって解き明かされようとしています。

肝臓がんの再発を繰り返している男性です。






肝臓の中央に見える白い影が、がんです。






抗がん剤治療のあと、なくなったように見えます。






ところが1年半後、再び、がんが現れました。
こうした再発を、がん幹細胞が引き起こしているというのです。





赤色が、がん幹細胞。
緑色が、がん細胞です。





抗がん剤を投与すると、緑色のがん細胞は次々と死んでいきます。
しかし、赤い色のがん幹細胞は生き残ります。
抗がん剤が効きにくいのです。
抗がん剤を投与すると、がんの大半を占めるがん細胞が死ぬため、がんは消えたかのように見えます。
しかし、がん幹細胞は生き残り、再び、がん細胞を生み出します。
そのがん細胞が増殖し、再発すると考えられています。
さらに、がん幹細胞は環境の変化に強く、体内を移動しても生き残るため、さまざまな場所で転移を引き起こすと見られているのです。

大阪大学 大学院 消化器外科学 森正樹教授
「これ(がん幹細胞)をターゲットにした方法を開発しないと、今以上に(がん治療が)ぐんと良くなることは期待できない。
がん幹細胞を標的とした治療がきちんとできるようになれば、その階段が、今までは一段ずつ上がっていたのが、五段くらい一挙に上がる可能性がある。」

がんを生む“親玉” がん幹細胞の脅威

ゲスト中釜斉さん(国立がん研究センター研究所所長)

●再発・転移の原因? がん幹細胞の脅威

確かに、これまでになかった新しい考えであり、その性質がまだ十分に分かっていないという意味で、不気味ではあるんですけど、今の説明にありましたように、がん細胞を作る、その本丸の細胞が見つかったと、今度はそれに対して、それを標的とするような新しい治療戦略、そういうものを立てやすくなったという意味では、これからに期待できる、そういう発見だと思います。

(がん幹細胞の特徴ですけれども、今、お伝えしたように、がん細胞を作る、あるいは抗がん剤が効きにくいということのほかに、分裂が遅い、そして、いつ活動を始めるか分からない、こういった特徴もあるんですね?)
そうですね。
抗がん剤が効きにくい、これは確かに非常に重要な性質なんですけど、その原因の1つとして、ここにありますように、がんの幹細胞の分裂が遅いという、これまでの抗がん剤は分裂が活発な細胞に対して効く、そういうことを目標に作られてきましたので、そういう意味からは、分裂が遅い、このがんの幹細胞には、従来の薬は効きにくいと思うんですね。
(どれくらい遅いんですか?)
それは、なかなか数字としては表しにくいんですけど、イメージとしては、ふだんはじっとしていると。
それがあるときに、がん細胞、分裂をして、がん細胞を作っていく、そのタイミング、その時期、なかなか予測、難しいと思うんですけれども、基本的には、非常にじっとしているというイメージだと思います。

●がんの固まりがあった場合、がん幹細胞が含まれている比率は?

がん種によって、それぞれ違うと思うんですけど、大体1%、あるいはそれ以下というふうに言われていますね。
(どういったところに、じっとしていたときから活動期に入るのか、どこにいるのか、そのへんは分かっている?)
がんの組織の中には、今言ったように、1%、0.1%以下、存在するわけですけれども、それがどういう状態でじっとしているのか、このメカニズムは、まだまだこれからまさに研究が始まっているところで、少しずつ、その仕組みも分かり始めてはいますけれども、そういうことが分かってくると、より今まで不気味であったものが、少し明るくなって、攻撃として、そんなに怖がることなく、それに対して積極的に治療戦略を立てられる、そういうふうになっていくんだろうと思います。

●がん幹細胞の発見 今後のがん治療に及ぼす変化とは?

従来の抗がん剤というのが、がん全体に増殖の高いものを標的とした治療薬だったわけですけれども、その本丸ではなかったと。
その本丸の性質、まだまだ分からないところ、たくさんありますけど、その性質が分かってくれば、積極的に、そのがん幹細胞に特徴的な性質を攻撃する、そういう治療薬が開発できれば、非常に、これまで克服できなかったような抗がん剤に抵抗性を示すような患者さん、がん幹細胞、そういうものに対しても光明が見えてきていると、そういう印象だと思います。
(全く違う角度から、治療の開発ができることになる?)
従来は、このがんの幹細胞、それが見つかってから、まだまだ時間は浅いですので、これから、まだまだいろんな性質が分かってくると思うんですけど、その性質がどんどん明らかになってくれば、本当に、これまでにない新しい切り口で、新しい治療薬の開発、それが福音をもたらすことが期待できるというふうに思います。

がん幹細胞に“弱点”を作れ

九州大学の中山敬一教授です。

九州大学 生体防御医学研究所 中山敬一教授
「このがん幹細胞を…。」

がん幹細胞の分裂のスピードを変えることで、抗がん剤が効くようにできないか研究を進めています。



がん細胞は、分裂するときに、DNAの二重らせんがほどけ、不安定になります。
抗がん剤は、その瞬間を狙い撃ちします。
がん細胞は頻繁に分裂するため、抗がん剤がよく効きます。



一方で、がん幹細胞は、分裂の頻度が非常に低いため、抗がん剤が効きにくいのです。
ここに、ヒントがありました。

九州大学 生体防御医学研究所 中山敬一教授
「分裂さえ始めれば、抗がん剤が効いてくれるので、それによって、がん幹細胞も全部死ぬというふうに考えたんです。」


中山さんは、もともとがんの研究者ではなく、細胞分裂の仕組みを研究していました。
そのとき発見したのが、細胞の分裂を抑制する、Fbxw7という遺伝子です。




がん幹細胞を調べると、この遺伝子が活発に働き、分裂を抑えていることが分かりました。
この遺伝子の働きを弱めることができれば、分裂しやすくなり、抗がん剤がよく効くようになるのではないか。
中山さんは、白血病のマウスで実験しました。
抗がん剤を投与しただけのマウスは、ほぼ100%、白血病を再発しました。
一方、遺伝子の働きを弱めて、がん幹細胞を分裂しやすくしたマウスは、再発率が20%と、5分の1にまで減らすことができたのです。

九州大学 生体防御医学研究所 中山敬一教授
「私たちのこの方法は、がん幹細胞を殺す方法なので、転移も再発も防げると考えられますし、希望を与えるような方法になると思います。」

意外な薬で がん幹細胞が減少

ある薬が、がん幹細胞に効くかもしれない。
実際の患者で、その安全性と、効果を確かめる臨床研究がスタートしています。
参加したのは、現在の治療法では効果が期待できなくなった、胃がんの患者です。



のんでいるのは、リウマチの治療で、すでに使われている薬です。
この臨床研究を行っている、慶應大学の佐谷秀行教授です。




佐谷さんが注目したのは、がん幹細胞の表面にある、特殊なポンプです。
がん幹細胞は、このポンプで栄養を吸い込んで、外部からのストレスに対抗する力を身につけています。




佐谷さんは、このポンプの入り口にふたをしてしまえば、がん幹細胞を弱体化できるのではないかと考えました。
そして、海外の論文を調べ、ポンプのふたになる物質を探したところ、リウマチの薬に、その効果があることが分かったのです。
佐谷さんは、マウスに、この薬を投与しました。



赤色に染まっているのが、がん幹細胞が集まっている場所です。






投与から4週間後、ほとんどが消えていました。





慶應義塾大学 医学部 佐谷秀行教授
「このマウスの実験では、私たちが想像した以上に、がん幹細胞を抑制する作用があったようです。」



臨床研究が始まって、5か月。
これまでに出た結果を検討する会議が開かれました。

ある患者の結果です。
緑色の部分が、がん幹細胞です。





薬の投与から2週間後、胃がんの組織を採取し、調べると、投与前に比べ、減っていることが分かりました。
この薬が、がん幹細胞に本当に効くのか。
佐谷さんたちは今後、さらに患者の数を増やして、慎重に確認していくことにしています。



慶應義塾大学 医学部 佐谷秀行教授
「がん幹細胞の数が減少傾向にあるというのも見えてましてね、次のステップに進むことができる1つの所見は得られてきていると思っています。」

がん幹細胞 治療薬の開発は?

●がん幹細胞 治療薬開発に向けて進む研究

まさに、そのがんの幹細胞の性質を明らかにする研究は、もう世界中で展開されているわけですけれども、そういうことが分かってきて、やはり効果的に、がんの幹細胞を攻撃するには、その性質をよく知る必要があると。
そういった意味では、少しずつ、まだ難敵ではありますけれども、答えが見いだせつつあると。
そういう1つの例として、今の事例が示されていましたけど、これからも、やはり、その性質を明らかにすることによって、より効果的に、効率よく、がん幹細胞を攻撃する、それが世界中で展開されていると、そういうふうに思いますね。
(がん幹細胞特有の遺伝子などが見つかった場合、その遺伝子を攻撃するような化合物か何かをまた見つけていくということになる?)
そうですね。
がんの幹細胞の性質を、やはり解明するには、それを手に取って、増やして調べる必要があります。
例えば、シャーレの中で増やしていく方法も1つですし、今、説明があったように、動物のモデルを使って、そこでは、がんの幹細胞の性質を決めているような遺伝子を操作することによって、それを検証するわけですね。
そういうモデルができれば、そういうモデルを使うことによって、非常に、より効果的な治療薬の開発、そういうものができる、そういう材料、ツールはできたというふうに思います。
(具体的に臨床応用の段階に入るのは、いつごろになる?)
すでに今、世界中で治験、臨床試験が展開されているわけですけれども、なかなか、薬がいつごろできるかっていう、そこは難しいですが、本当に、世界中で精力的に研究が展開されていますので、5年、あるいは10年のうちには、非常に効果的な、こういうがん幹細胞を標的とした治療薬、これが一般に利用できる、そういう時代が来るだろうというふうに思いますね。

●5年生存率上昇へ がん幹細胞を標的にした治療で広がる可能性

5年生存率を上げるには、やはり、いちばん重要なのは、早期発見することですね。
今でも、早期に発見できたがんというのは、8割、9割、治るケースが多いわけです。
そういうことですから、早期発見は重要です。
ただ、早期発見が難しいがん、あるいは見つかっても、なかなか治療薬が効きにくいがん、そういうものがあります。
その1つが、肺がんとか、すい臓がん、そうですね。
そういうがんに対して、がんの幹細胞を標的とした治療薬が、その治療効果を劇的に改善し、そのために、5年生存率の改善、そういうことに寄与することも十分に期待できるんじゃないかと思います。
(現在の5年生存率は、およそ6割程度ですよね?)
そうですね。
(先生の見通しでは、8割?)
私の希望的なものですけれども、10年、20年後に80%、そういったところまで上げられる、それは決して夢ではないんじゃないかと考えています。

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