クローズアップ現代

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No.33852013年7月25日(木)放送
人を動かす“共感力”

人を動かす“共感力”

“共感力”で心をつかめ 企業の新戦略

“昨日は調子にのって飲みすぎました…。”





“お給料前でとっても厳しいです。”





どこか哀愁が漂うせりふをソーシャルメディアでつぶやくのは、食肉メーカーのゆるキャラハム係長。
今、若い女性を中心に共感を集め、人気です。
その秘密は、どこにあるのか。
ハム係長を訪ねてみると…。

「ハム係長はどちらに?」

「はい、こちらです。」

「どうもすいません、今日はよろしくお願いいたします。」

ハム係長
「どうも、よろしくお願いいたします。」

つぶやいているのは、40代の広報課の社員です。
課長や部長では近寄り難く、新入社員だと頼りない。
その間の係長を名乗って、共感してもらおうというねらいです。

ハム係長
「立場的に、ちょうど中間というところが、親近感を覚えていただいているのかなと。」




このメーカーが共感作りに取り組む背景には、商品ならではの事情があります。
ハムなどの食品は、価格競争が激しいうえ、見た目では、区別がつきにくくなっているからです。
自社の製品に手を伸ばしてもらうために、まずは商品ではなく、会社自体に親近感を持ってもらおうと考えたのです。
とはいえ、毎日、共感を生むためのネタを見つけるのは、一苦労。

社内をさまようこと、30分。
この日は、製品の安全を祈願している神社を紹介することにしました。
CMなど、大がかりな広告だけに頼っていては、業績は上がりません。
共感をてこにファンを増やす戦略を始めて、2年。
6万人近いファンを獲得しています。

ハム係長
「共感ということが一番大きいですし、最も大切なことなのかなと。
諦めずに、コツコツとやっていきたいと思います。」



こちらは、消費者の共感を数字に置き換えて把握しようという、化粧品メーカーです。
ソーシャルメディアを駆使した、双方向のやり取りで共感を獲得し、売り上げアップをねらっています。

「いきなりですけれども、エンゲージメント率の報告となります。」



エンゲージメント率とは、商品に関心を持った消費者が、ソーシャルメディアの中で共感を示す、““いいね!””などのボタンを、どれだけ押してくれたかを示す割合です。
この値が高くなるほど、商品を購入する頻度が高くなる傾向があります。



メーカーでは、エンゲージメント率を上げるため、記事の内容や順番を戦略的に決めています。
商品広告は、おおむね週に1回。
広告のあとは、季節の話題など、あえて商品とは関係ない内容を続けます。
宣伝臭さが漂い出すと、とたんに消費者はサイトから遠ざかり、共感が失われてしまうからです。

「企業側のメッセージ発信みたいな感じにはしたくなくて、そういうのが出ると、エンゲージメント(率)が伸びなくなっちゃうので。」


こうした戦略の結果、同じ規模の会社に比べ、4倍近いエンゲージメント率を記録しています。





富士フイルム ライフサイエンス事業部 遠藤一利部長
「末永く、うちのファンになっていただくための入口として、共感コミュニケーションということで、アプローチしていきたいと思っています。」



消費者の間に共感が広がるよう、巧みに情報をコントロールして、実績を上げている企業もあります。



パナソニック 広報 田中藤子さん
「こちらが、2012年2月に発売した商品になります。」





このメーカーでは、新しく開発した小型の食器洗い機の発売にあたって、従来型の広告に加え、新たな戦略を採用しました。
食器洗い機は、ぜいたく品のイメージが付きまとい、思うように販売が伸びていなかったためです。

パナソニック 広報 田中藤子さん
「やはり購入に結びつけるのは、“共感”という部分ですとか、社会のムードアップというところが必要だと考えました。」

まずメーカーは、マーケティング会社と共に、夫婦を対象に、家事に関する意識調査を行いました。
“家事代行を頼むとしたら、どの家事か?”
“苦痛を感じる家事は何か?”など、質問は多岐に渡ります。



その中で、食器洗いが1位になった質問に、目をつけます。
夫婦で押しつけ合いになっている家事、という質問でした。





マーケティング会社は、この結果を、マスコミやインターネットで発信します。
すると、食器洗いが夫婦で押しつけ合いになっているという情報は、自然に数多くの共感を獲得。
ネットを通じて広がっていきます。
いつのまにか、食器洗い機が夫婦間の問題解決に最適という考えを、若い夫婦世帯を中心に作り上げました。
販売台数は、前の年に比べ、22%の増加です。

ブルーカレント・ジャパン 本田哲也社長
「“夫婦仲が険悪になるぐらいなら食洗機を買ったほうがいいよね”と、おっしゃってますですね。
これはもう、ど真ん中で…。」



ブルーカレント・ジャパン 本田哲也社長
「重ねて言いますけれど、何もお願いしたわけではないんですよ。
SNS、ツイッターとかに(情報が)出ていくというのは、テレビとか新聞に同じぐらいですね、非常に重要なことだなと思いますね。」

“共感”狙う 企業の戦略

ゲスト箭内道彦さん(クリエイティブディレクター)

●売り上げが22%伸びれば大成功?

大成功でしょうね。
非常に、このニーズの掘り起こしが巧みな例だと思いますね。
でも、こうやって、この番組で裏側を見せてしまうっていうのはね、やっぱ、ちょっと怖いな、ってとこもありますね。
広告っていうのは、ある種のたくらみなわけじゃないですか。
だから、なんか裏側を見てしまうと、なんか自分たちが操られてんじゃないかな、なんて思いがちですけど、ただ、この商品、食洗機のこのヒットは、人を幸せにする商品だ、そこの部分に、きちんと皆さんが反応した結果じゃないかなと思います。

●見ている側も企業の狙いを分かっている?

分かってますよ、分かられないようにね。
いろんなふうに組み立ててるつもりでしょうけど、つもりでしょうけどっていうか、それが透けて見えるんだけど、なんか、その気持ちがうれしいというかね、なんか、そういうところあるんじゃないかなと思いますね。
(その気持ちがうれしい、というのは?)
なんて言うのかな、仲よくしたいっていう表明なわけじゃないですか、共感を使ってみようっていうことは。
例えば、ハム係長は、何だろうな、企業って顔が見えないもので、そこに対する、なんかこう、冷たさだったり、大きさだったり、そんなことを感じてしまいがちだけど、ああやって、顔を、企業の人格を係長に託して見せていく。
もともと、SNSがこうやって広まる前にも、いい広告っていうのは、1対1に思える広告なんですよね。
自分に語りかけてきている、自分のこと言われてる。
それがSNSによって、さらに広く太くなっていくんですけど、ハム係長はね、何がうまいって、人の弱さとか、情けなさとか、小ささとか、そこはね、共感を作るときの、いちばん大きな一歩であるんですよね。
あっ、自分だけじゃないんだ、こうやって給料日前で苦しいのは、とかね。
すごい、それは思いますね。
(けなげな感じがしますよね。)
そうですよね。
企業の顔として、普通、社長が出てきますけど、社長があんなこと言ったら、心配になるし、みんな。
係長が、なんかちょっとまずいこと言っちゃったら、人事異動させることもできるし、そういう意味では、非常に巧みな、これも戦略だなと思います。
情けなく見せておきながら、よくできてるなと思いますね。

●こうしたやり方 どれくらい有効?

僕はね、おもしろいなと思うのは、今まで、やっぱりマーケティングって、調査をとにかくするんですよね、先ほどもしてましたけど。
その調査は、例えば、ある部屋に10人集められて、帰りに日当はもらうんですけど、そこで、こんなものがあったらうれしいですか、どんなふうに使いますか、この名前は覚えやすいですか、いろんなことを聞くんだけど、聞かれて答える答えだったり、そこに呼ばれたから、やって来る人たち、それだけでは、やっぱりリアルな声にはならないんですよね。
それが、このSNSによって、人々が毎日の生活の中で不満に思ったことや、うれしかったこと、なんか、そういうところから声を拾って、マーケティングにつなげていくっていうのは、僕は非常に有効なやり方じゃないかなと思います。

対立から歩み寄りへ “共感力”で問題解決

一昨日(23日)、都内を襲った記録的な豪雨。
毎年50万人が訪れる、葛飾区の花火大会が中止になりました。




DJポリス
「ピンチの時にこそ、2人の愛をしっかり育みましょう。」

そこに現れたのは、先月(6月)ワールドカップ出場で沸く群衆を、巧みな話術で誘導した警官、あのDJポリスです。

DJポリス
「自慢の奥さん、彼女を連れている男性のみなさん。
彼女、奥さんの手をしっかりと取って、それぞれの方向にエスコートしてください。」

11年前のワールドカップのとき、警察は力による警備を行い、渋谷や六本木では、警官と若者の怒号が飛び交いました。





警察
「日本を応援するのであれば、ルールを守ってください。」





「帰れ!帰れ!帰れ!帰れ!」





この経験を生かし、今では、その場の雰囲気や、人々の気持ちに寄り添ったせりふで共感を生み出して、誘導しています。

DJポリス
「せっかくの晴れ姿がぬれてしまいましたが、家に帰ったら、温かいお風呂に入って、風邪をひかないようにしてください。」

「がんばって!」



女性
「温かいお風呂に入ってくださいと言ってくれたのが、すごいうれしかったです。」




女性
「気持ちがなごみます。」





警視庁 警備第一課 近藤智和課長代理
「注意をしても、共感していただかなければ、すぐ動いていただいたり、警備目的は思うように達成できません。
来られる方の心に響く、共感されるような気持ちをこめた広報をする。」

共感を生かして、人々の行動を変えようとする動きは、企業の組織改革にも広がっています。
関東を中心に展開する、スーパーマーケットです。
創業50年。
上司が部下に指示を徹底するトップダウンの経営で、150の店舗を持つまでに成長しました。
しかし、長年続けてきた、この経営方針も限界に来ています。

去年(2012年)行った、職場の満足度調査の結果です。
この職場を友人や知人に勧めたくないという答えが、予想外に多かったのです。




カスミ 小濵裕正会長
「やっぱり、こういう数字を見て、同じことを50年間繰り返してきていいのかと。」




上司と部下という一方的な上下関係を改め、風通しのよい組織にするために考えたのが、共感の活用です。

そこで、今年(2013年)3月から、会社をあげて始めたのが、ソーシャルメディアの活用。
パートの従業員、社長や会長、誰でも、売り場の改善策などを書き込むことができます。




そのアイデアを応援するコメントや賛同を表明する“いいね!”
によって共感している人が社内にいることを一目で分かるようにしました。




従業員
「働いている時の、ひとつの感情を受け止めてくれている感じで。」

従業員
「すごい前向きになれるね。」

自分に共感してくれる人がいると分かると、従業員のやる気が一変しました。
パートで働く主婦たちも、売り場の改善を自発的に検討。
主婦の目線を生かしたアイデアが、次々と出るようになったのです。



従業員
「これだと感じないけど、開けたときにさびしいよね。」

従業員
「ちょっとグリーンを入れてもらいたいね。」

アイデアはすぐに売り場で生かされ、ヒット商品が出るなど、売り上げアップにつながっています。


共感によって、対立しがちな地域の問題を解決しようというのが、静岡県牧之原市です。

南海トラフ地震で大きな被害が想定されているため、今年3月、5年越しで住民の合意を取り付け、防災計画をまとめました。
しかし、合意に至るまで、議論は、う余曲折。
避難する経路や場所などをめぐり、住む場所や世代が異なる住民の間で、対立が起こることもありました。



牧之原市自治会地区長会 水野隆会長
「お前だまっていろ、というような感じの発言をされたりすると、次に二の句が出なくなっちゃう。」




長年、対立が続いていた議論を、どうやって合意に導いたのか。
中心となったのは、市が住民の中から育成した、ファシリテーターと呼ばれる議論の進行役です。
本来、論点の整理などを行う、ファシリテーター。
ここでは、ひそかに共感作りを担っています。
まず、会場を飾りつけて、和やかな雰囲気を作ります。

ファシリテーター
「始まる前です。
始まってしまえば後は、ファシリテーターは決められたことをしゃべるだけ。
ですので(事前の)仕掛けが8割くらい。」

参加者が集まると、次に共感作りの鍵を握るのが、自己紹介。

牧之原市 ファシリテーター 山本修司さん
「今日はですね、『実は私は』ということで、ちょっと秘密を暴露する自己紹介をしていただきたいんですね。」

自分のちょっとした秘密や弱みを、あえてさらけ出し、お互い打ち解けた感情を生み出す仕掛けです。


参加者
「1年前まで、私は体重86キロありました。
この1年かけて、ダイエットに成功して、今は69キロ。」




参加者
「すばらしいですよね、すごいです。」




共感が生まれると、自然と相手の意見を聞くようになり、自分の考えを一方的に押しつけなくなります。
こうして、建設的な議論を積み重ね、住民の合意を作り上げてきたのです。

牧之原市 ファシリテーター 山本修司さん
「共感が生まれてこそ、初めて話し合いができて、合意ができる。
まず共感をすること。
それが大事なんじゃないかなと思うんですよね。」

人を動かす“共感力”

●共感し気持ちが向けば、場の空気は和らぐ?

そうですね。
そこでポイントになるのが、“実は私は”っていう、本当のことをまず話す、そこに生まれる、この共感の有効性というのは大きいと思うんですよね。
DJポリスって呼んでいいのかな、彼がやっぱり渋谷のね、サッカーのワールドカップのときにすごかったのは、“僕は本当は”っていうことばを彼は言ったんですよね。
本当は、この警察官たちだって、心の中で喜んでるんです。
そのことがやっぱり、共感の出発点だったんですよね。
だから、警察と群衆だったり、異なる意見を持つ人だったり、あとは上司と部下だったり、その立場が逆であればあるほど、その共感というものが力を発揮する関係になると思います。

●立場に開きがあるほど、共感は大きくなる?

そうですね、社長さんとパートさんもそうですし。
パートの方々も、君が必要なんだよって言われた気になると思うんですね。
実際、言われてると思うんですけど、本当に生き生きした表情でした。
でも、あの狭い世界で、あれをやり出すことの、何て言うのかな、息苦しさもあるんじゃないかな。
誰が“いいね!”ボタンを押してくれた、押してないとか。

●共感を作っていくうえで大事なものは?

あのね、共感っていうのは、やはり、もろ刃だと思うんですよ。
共感と反感っていうのは紙一重で、DJポリスも今、どう思われてるか分からないし、日本人っていうのは、反対意見を聞くのが、あんまり得意じゃないんですよね。
そんな中で、自分と違う意見をどういうふうに認めていくか、どういうふうに自分と違う部分を尊敬できるかって、すごい大事じゃないかなと思います。
だから、100%の共感なんてあり得なくて、今日、こうやってテーマにしていながらも、90違くて、その中の10だけ一緒だったら、その共感を大事にしていくっていうことが、やっぱり意見の多様を認めたり、僕らが前に進んでいくときに必要なことなんじゃないかなと思います。

●自分の考えをどこに置くか、むしろ問われてくる?

かなり問われていると思いますね。
だから、いろんなものをこうやって準備してくれることが、SNSのなんかこう、強さであり、難しさであり、でも可能性だと思います。
(能動的に自分が何が好きなのかを、しっかり持ちたいですね)
持ちたいです。

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