クローズアップ現代

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No.33842013年7月24日(水)放送
深刻化する保育士不足 ~“待機児童ゼロ”への壁~

深刻化する保育士不足 ~“待機児童ゼロ”への壁~

保育士が足りない 過熱する争奪戦

都内で保育士を派遣している、人材サービスの会社です。

スタッフ
「お電話ありがとうございます。
現在、保育士さんが、かなり厳しい状況でして。」




今、この会社には、首都圏の保育所から、保育士を派遣してほしいという依頼が相次いでいます。
その数は、多い月で200件以上。
依頼は、この3年で1.7倍に増えています。

人材サービス会社 西内隆昭さん
「保育園からは、悲鳴に近いような声があがってきてます。
これだけ保育士が不足しているのは、初めての経験です。」




首都圏で9つの保育所を運営している、社会福祉法人です。
この5年で、6つの保育所を新設。
来年(2014年)も1か所をオープンする予定で、保育士が新たに30人必要になります。
理事長の迫田さんにとって、保育士をどう集めるかが、いちばんの悩みです。

あすみ福祉会 理事長 迫田健太郎さん
「ハコは出来るけど、中身が整わない状況をひしひしと感じる中で、非常に人材獲得、厳しいという実感があります。」




迫田さんは、競争が激しい首都圏を避けて、東北に採用の場を求めました。
今月(7月)7日、仙台市で開かれた保育士専門の就職セミナー。
参加していたのは、迫田さんと同様、首都圏で保育所を運営する人たちがほとんどでした。
それぞれが、自分たちの保育所の魅力をアピールします。


「ぜひ、お話だけでも。
プレゼントもあるので、よかったら。」




中には、海外での研修を売りにする保育所もあります。

「3年間働いてくれた皆さんに、ご褒美として、海外研修に行ってもらってます。」

迫田さんも、子どもに寄り添う保育理念を訴えました。

あすみ福祉会 理事長 迫田健太郎さん
「どういう方向に向かって、保育をしようとしているのかというので、おばあちゃんのまなざしを持つことを理念にして、大事にしてます。」


こうした保育士専門の就職セミナーは、全国で毎月のように開かれています。
しかし、必要な数は確保できないといいます。
迫田さんは、新たな対策に乗り出しました。
この日、向かったのは新潟。
就職セミナーだけでは難しいと、直接、保育士養成学校を回ることにしたのです。

あすみ福祉会 理事長 迫田健太郎さん
「半日でもお時間いただけたら、(保育所の)中を見ていただけたらいいかなと。
何とぞ、覚えておいていただけたらと思います。」

目標の30人の保育士を確保するためには、全国100か所の養成学校を回らなければ、と考えています。

あすみ福祉会 理事長 迫田健太郎さん
「新潟にも行ってますし、北海道、札幌、旭川にも行きたい。」

あすみ福祉会 理事長 迫田健太郎さん
「非常に厳しくなるだろうと。
全国に目を向けて、人を採用していこうと。」

保育士が足りない “引き抜き”の実態

過熱する保育士の争奪戦。
現役の保育士の引き抜きも激しくなっています。
保育士になって、7年目の女性です。
横浜市に新しくできる保育所から、繰り返し誘いを受けたといいます。

引き抜きの誘い受けた保育士
「新任の方ではなくて、経験のある人がいいと誘いを受けました。
表みたいなものを見せてもらって、(給料は)2万円くらいよかった。」

保育士が足りない 悲鳴を上げる現場

深刻化する保育士不足。
その影響を最も受けているのは、規模の小さな保育所です。

園長の山崎厚子さんです。
この保育所では、2年前まで、5人の保育士が働いていましたが、1人が退職。
代わりの保育士が見つからず、資格を持つ山崎さんが、勤務のシフトを埋めています。
山崎さんは毎日のように、人材派遣会社に問い合わせています。

そらまめ幼保園 園長 山崎厚子さん
「正社員でいないですかね、うちで働ける保育士。
若い人でもいいです。
経験があれば、一番いいんですけれども。」

保育士が見つからないことで、深刻な影響が出ているのが、夜間の延長保育です。

そらまめ幼保園 園長 山崎厚子さん
「いただきます。
はい、みんなで食べようね。」

夜8時まで預かってほしいという保護者が増え、時には、10人を超える子どもを受け入れることもあります。
しかし、この時間に対応できる保育士は、山崎さん1人しかいません。

そらまめ幼保園 園長 山崎厚子さん
「はい、おかえりなさい。」

保護者
「帰ろうね。
ありがとうございました。」

そらまめ幼保園 園長 山崎厚子さん
「今日はお外遊びはしないので、ゲームで遊びました。」

保護者
「ここじゃないと無理ですね。
ほかの保育園だと、仕事を辞めなきゃいけなくなっちゃう。」



保護者
「8時ちょっと過ぎて、ご迷惑をかけることもあります。
すごくありがたいです。」

このまま保育士が見つからなければ、これ以上の受け入れは断らざるをえないと考えています。

そらまめ幼保園 園長 山崎厚子さん
「受け入れを制限しなければいけないところまできているので。
本当にね、いい保育士さんが来ていただけるといいんですけど。」

保育士が辞めていく 増え続ける負担

子どものころから保育士に憧れていた、32歳の女性です。
横浜市の保育所に就職しましたが、6年で辞めました。
その理由は、年々、仕事の負担が大きくなっていったことでした。

保育士を辞めた女性
「漠然とした『保育園の先生』へのあこがれがずっとあって、就職したんですけど、責任が重い仕事なんだなと、精神的な重圧は感じるようになってきましたね。」


延長保育や、保護者からのクレーム。
対応しなければいけない仕事は増えましたが、保育士の人数はそのままだったといいます。

保育士を辞めた女性
「人が少ないなかで、ぎりぎりの保育態勢のなかで(勤務を)組んでいるので、具合が悪くても、もし自分が休んだら、その日の保育態勢が誰もいないことも分かってた。
大変でした。」

保育士が直面する 新たな負担

保育の現場では今、専門的な対応も求められています。

大津市の保育所です。
ここでは、5年ほど前から、食物アレルギーのある子どもが増加。
現在では、2歳以下の70人のうち、9人に上っています。
ほかの子どもがこぼした牛乳が、肌にはねただけで、腫れ上がってしまった子どももいます。

そのため、アレルギーのある子どもは、机を離して食事をさせています。
献立は、保護者からアレルギーの内容を詳しく聞き取って、決めます。




栄養士
「小麦粉と卵抜きなので、米粉で作ってください。」




出来上がった料理を載せるお盆には、アレルギーの内容を書き、間違えないようにしています。

保育士
「3つとも卵抜きの給食。」

保育士は、もう一度確認したうえで、食べさせます。

保育士
「ちょっとしたことで命にかかわるので、常にチェックしている状態です。」




さらに、万が一の病気や事故に備え、的確な対応も求められています。

寝ているうちに突然死亡する、乳幼児突然死症候群。
特に、0歳児に多いため、昼寝の間は、5分置きに呼吸の状態を確認し、記録をとらなければなりません。
こうした問題に対処し、保育士をサポートするため、この保育所では、栄養士や看護師といった専門職も配置しています。

保育士
「専門で、いろいろ勉強されている方ばかりなので、分からないことも教えてもらえます。
保育士も保護者も安心できます。」

栄養士や看護師の給与は、保育士の1.5倍ほどで、保育所の経済的な負担は増えました。
しかし園長は、保育士に働き続けてもらうためには、必要なコストだと考えています。

せんだん保育園 園長 中西健さん
「子どもの健康面、衛生面、成長面、今、そういうことを気にしなきゃいけないということは、(保育士の)プレッシャーになる。
職員が安心できることも、大きなポイントだと思っています。」

保育士が辞めていく 悩みをどう解決

負担が増す、保育の現場。
保育士たちの悩みを、どう解決していくかも課題になっています。
この保育所では、2年間で、9人の保育士が相次いで離職。
これ以上の離職を防ぐため、外部のコンサルタントを雇い、調査を始めました。
まず行ったのは、23人の保育士全員との面談でした。

そのときの記録です。
“保護者への対応がうまくできない。”
“心身ともに精いっぱいな日々。”
“全員がオーバーワーク。”
多くの保育士が、こうした悩みを誰にも相談できず、抱え込んでいたのです。

善隣園保育センター 神作正一郎さん
「驚いた。
職員が精神的に孤立しないように、一人にならないようにする必要があると思いました。」


注目したのは、保育士の勤務のシフトでした。
これまでは、保育士どうしが話し合う時間は、ほとんどありませんでした。
そこで、デスクワークの時間をそろえ、毎日15分は、みんなで話せる環境を整えました。
保育士たちは、保護者に言われたことや、気になったことを、その日のうちに相談できるようになりました。

保育士
「こちらとしてはよかったなという意味で、(親に)お昼寝できましたって伝えると、『困るよ、寝かせないで』という反応で。」




保育士
「私たちの目線だけで一方的に伝えないというのが、すごく大事かな。」




保育士
「気持ち的にも楽になったりとか、精神的に、そういう部分はあるかなと思います。」

保育士に、どうやって安心して働き続けてもらうのか。
現場では、模索が続いています。

保育士が辞めていく 厳しい職場環境

ゲスト岩田喜美枝さん(21世紀職業財団会長)
ゲスト牛田正史記者(社会部)

●深刻な保育士不足 どうご覧になりましたか?

岩田さん:そうですね、私も2001年から2003年まで、担当の局長をしていたんですが、当時、小泉総理が待機児童ゼロ作戦というのを打ち出されて、そのあと、国も自治体もそれなりに頑張ったと思うんですね。
受け入れる子どもの数は、毎年、順調に増えてきましたが、一方で、待機児童の数にカウントされない、潜在的なニーズが非常に大きかったということだと思います。
ですから、横浜市のような好事例も出てきましたけれども、全国的に見ると、待機児童の問題、まだ解決のめどが立っていないということ。
そして、これまで待機児童の問題というと、設備をいかに増やすかというところに注目されがちで、本当は、その設備というハードを整備するということと、そこで働いていただく保育士さんを確保するというソフトの面と一体でなければ、待機児童の解決はできないということなのですが、ややもすると、前者のほうに関心がいってしまって、保育士不足の問題というのは、本当に新しい課題として認識されたということだと思います。

●保育士不足の最大の理由は?

牛田記者:そうですね、離職の理由や復職をしない理由っていうのは、共通点が多いんですけれども、こちらをご覧ください。





これは国が保育士の離職の理由について、調査した結果なんですけれども、このうち職場環境の問題点では、VTRでご覧いただいたような、保護者との人間関係、また責任の重さや、事故への不安といったことも離職の理由として、あがっているんです。
このほか、この雇用条件、こちらも大きな理由になっています。
保育士の月給の平均というのは、およそ21万円で、すべての職種の平均よりも、実は11万円低いんです。
(給料は、上げられないんですか?)
実は、保育士の給料というのは、簡単には引き上げられない仕組みになっているんです。

こちらです。
行政から認可された保育所の場合はですね、収入のほとんどというのは、行政からの支給される運営費、これが充てられるんですけれども、この運営費というのは、預かる子どもの人数や、年齢などによって決められていまして、この単価が変わらないかぎりですね、増えない仕組みになっているんです。
このため、保育所の自助努力だけでは、なかなか給料を上げるにも限界があるんです。

●なぜ保育士不足への対応が遅れているのか?

岩田さん:そうですね、先ほど離職理由、たくさん拝見しましたけども、なぜ保育士が定着しないかとか、あるいは、新たに保育士として就職する方の人数が思うように増えないかということのベースにあるのは、本当に難しい問題で、保育士っていう職業が働く人、特に女性が多いと思いますが、働く女性にとって、自分が生涯かける魅力的な職業として映ってるかどうかというところだと思うんですね。
だから、片方に仕事の厳しさ、きつさ、責任の重さがあり、もう片方は、処遇の悪さというのがあって、こういう状況が改善されないかぎりは、やっぱり新規に保育士として参入してくださる方や、退職を防止するという、こういう課題というのは本当に難しいというふうに思いますね。
(かつてのイメージとしては、女性の憧れの職業の1つでしたよね?)
そうですね、かつては女性の職域も限られてましたけど、そのころは女性が憧れて就く仕事の1つで、ですけど、その当時は、結婚するまでっていうのが当たり前でしたので、本当に数年間、子どもと、子どもの好きな若い女性が、子どもと一緒に仕事をするということだったと思うんですが、そのあと、今のVTRにもありましたように、非常に職場環境が厳しくなってきてるということと、それから、女性もできれば生涯働き続けられる、生涯生きがいのある自分の職業、そういうものを自分の職業にしたいというふうに思ってますが、なかなか保育士では、それがかなえてくれないという、こういう問題だと思います。

●国としては どう対応しようとしている?

牛田記者:そうですね。
国は保育士不足を受けまして、今年度、緊急の対策を打ち出しているんです。

それがこちらです。
この中では、給与の上乗せのための補助金として、340億円を出しているんですけれども、国が、その給与の上乗せをするというのは、初めてのことなんですけれども、上乗せされるのは、1人あたり、月額で1万円程度ということで、先ほど、ほかの業種と10万円以上の開きがあるとお伝えしましたけれども、これを解消するには至っていないんです。
また、潜在保育士の方が復職する際の支援というのも始めています。
長く現場を離れている人にとっては、食物アレルギーの子どもが増えるなど、保育の現場の変化というのは、復職にとってみれば、大きな壁となっているんです。
このため、潜在保育士を対象にした現場実習の研修費用、これを補助するなどしています。
しかし、行政が潜在保育士の方に働きかけようとしても、どこにいるのかさえ把握していないというのが現状でありまして、対策というのは、まだ始まったばかりと言えそうです。

●どうしたら人を急速に増やせる?

岩田さん:いろんな1つのことでは、とてもだめだと思うんですね。
1つは、保育士を養成する学校がありますけれども、そこを卒業した方で、保育士として実際に就職される方、半分ぐらいですから、そこをもっとどうやって増やすかとか、今、話題になっておりますように、いったん保育士で働き始めた方が、どうやって退職をせずに、長い間、生涯の仕事として、それに向かい合ってくれるかということ、そして、いったん辞めてしまった潜在保育士を、いかにまた元に戻すかということ、そして、これまで出てなかったお話で、もう1つ申し上げたいというふうに思いますのは、保育経験を、育児経験を持っている女性たち、いわゆる専業主婦ですけれども、これから再就職を考えたいという、その方たちに保育士の資格を取ってもらって、戻ってもらうというのも大事かと思います。

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