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No.33702013年6月25日(火)放送
追跡 再生医療トラブル ~体性幹細胞治療の闇~

追跡 再生医療トラブル ~体性幹細胞治療の闇~

体性幹細胞治療 高まる期待

体性幹細胞治療を行っている埼玉県のクリニックです。

患者
「お世話になります。」

院長の横山医師です。
これまでぜんそくや血管障害などで、幹細胞による治療を400人に行ってきました。

幹細胞治療を行う医師 横山博美さん
「これから脂肪を取るので、痛かったら言ってください。」

幹細胞治療では、まずお腹から脂肪を取り出します。
次に、脂肪の中から幹細胞を抽出。
培養して数を増やします。

幹細胞治療を行う医師 横山博美さん
「きれいに幹細胞が溶け込んでいきますね。」

培養された幹細胞は、点滴や注射器を使って患者の体に戻されます。
横山医師が考えるメカニズムです。
投与された幹細胞は患部に到達すると傷ついた組織を再生し、血管障害や腎臓病などに効果を発揮。
また、炎症やアレルギーを抑える物質を出すことで、ぜんそくやアトピーなどの病気を改善すると見ています。
幹細胞治療はまだ研究段階で、効果や副作用がはっきりと分かっていません。
それでも患者が求めるなら期待に応えたいと、治療を続けています。

幹細胞治療を行う医師 横山博美さん
「もう治らないと断定的に言われる患者さんは、最先端の医療で何かあるんじゃないかと。
その答えの一つとして幹細胞医療という立場があろうと思います。」

体性幹細胞治療 相次ぐトラブル

今、体性幹細胞治療を行っているクリニックは、全国で少なくとも100を超えます。
病気への効果を感じる患者がいる一方で、まだ研究段階のため、思わぬ副作用に見舞われた人もいます。
この30代の女性は以前、幹細胞を投与して胸を大きくする豊胸手術を受けました。
注射で入れた幹細胞が脂肪や血管に変化し、胸が大きくなる最新の方法です。
ところが実際は、胸がほとんど大きくならなかった上に、一部に、しこりまで出来てしまいました。

幹細胞を投与された女性
「本当に不満しか残っていない。
これだったらしない方が良かった。
何のために痛い思いをしたのか。」

今、女性はほかのクリニックで胸の形を治す治療を受けています。
しこりが出来た原因は、胸に入れた幹細胞の量が少なかったことだと見られています。
幹細胞を使った豊胸手術はまだ研究段階のため、どの程度細胞を入れればいいのか詳しいことが分かっていないのです。
今回、私たちは9つのクリニックを取材。
しわを取るため幹細胞を投与したら顔が腫れるなど、100件近い副作用が起きていたことが分かりました。
美容整形を専門に行う医師の学会でも、こうしたトラブルの報告が年々増えています。

日本美容外科学会 会長 大竹尚之医師
「まだまだ不安定な内容を含んでいる治療法である。
結果的にすべてうまくいったら、夢のような治療効果を期待できる方法。
まだまだ研究が必要。
途中段階の療法だと思う。」

なぜ研究段階の治療を行うことができるのか。
一般的な医療では、何度も臨床試験を繰り返し、効果や安全性が審査された治療しか実施できません。
しかし患者が費用の全額を負担する自由診療なら、医師の裁量が幅広く認められ、研究途上の治療でも行うことができるのです。
医師が自由に幹細胞治療を行える現状。
その中で安易に治療を始める医師が増え、思わぬトラブルが起きています。
幹細胞治療を行ったことがある医師です。
小さなクリニックを経営し、再生医療の専門知識はほとんど持っていませんでした。

幹細胞治療を行った医師
「(幹細胞治療は)医学の常識を覆す画期的な治療法の一つになるであろう。
自らちょっと体験をしてみたい。
後先のことはそんなに考えてなかった。」

この医師は患者を失明させる医療事故を起こしました。
失明したのは、60代の女性。
視力を回復したいと訪ねてきました。
医師は、幹細胞を投与すれば視力が回復すると単純に考え、目の周辺に10回程度幹細胞を注射しました。
その直後、網膜が剥離。
患者は失明したのです。

幹細胞治療を行った医師
「糖尿病にも効くし、リウマチにも薄毛にも効くし、近視にも効くんじゃないかと投与した。
慎重論からすると、暴走的な医療をしたのかもしれない。」

相次ぐトラブル 体性幹細胞治療

ゲスト大和雅之さん(日本再生医療学会理事)

●治療を受けた人が1万人を超えていた現状をどう捉えるか?

われわれが予想していたよりもはるかに規模が大きくて、大変驚いたんですけれども、現在、われわれは大学や研究所で、培養皿、もしくは移植するのも、小さいネズミから始めて、ヒトに行くまでに豚で試すとか、非常にさまざまなステップを踏んで、安全性と有効性を確認した上でヒトに向かっているところなんです。
その途中にわれわれはあるわけですけれども、すでにこれだけ行われていたことに関しましては、非常に驚きました。

●どれだけ効果や安全性があったか分かっているのか?

われわれの研究から考えますと、細胞そのものは、かなり安全だというふうに考えています。
しかし投与方法、どれぐらいの細胞量をどういう方法、例えば注射であるとか、点滴であるとか、または点滴だったらどういうスピードで体の中に戻すのかに関して、やはり最適な回答というのがありまして、われわれはそういう条件を探りながら、実験を進めているわけです。
ですので、1万例に関しまして、そういった情報を提供していただけると、大変学問も進むし、研究者にとっても患者様にとっても、非常に大きな恩恵だと考えてます。

●現実には、効果やトラブルの実態は把握できていない?

少なくとも日本ではできていないと言わざるを得ないと思います。
(治療を受けたあとに死亡したケースも出ているが?)われわれの動物を使った実験でも、最適な投与方法、あるいは細胞数でなかった場合には、確かに肺の中にある細い血管、毛細血管と言いますけれども、これに移植した細胞が詰まって、実験動物が亡くなってしまうというようなことを経験しておりますので、やはり人間においても、入れる細胞の数であるとか、どうやって入れるのかに関して最適化して治療するべきだと考えます。

●患者が全額負担する自由診療 海外では厳しい規制があると聞くが?

欧米でも実際には2000年頃から、こういうのはあったんですね。
しかし2000年代中頃から、日本の厚労省に当たる規制当局が、各国でかなり強力に介入して、裁判まで起こすようなことをやって、事実上、収束させたと。
現在では中国や韓国も、同様に規制当局が介入しておりまして、先進国の中でこういったものが野放しになっているのは、ほぼ日本だけという状況です。

●体性幹細胞治療 なぜ慎重に進めなくてはいけないか?

日本の、あるいは世界の医療の歴史の中で、1つ大きな事故が起きると、その医療の進歩が10年、20年単位で遅れてしまうということが経験しておりまして、再生医療は期待が大きいだけに、そういった事故が進歩を止めるという事態は絶対に防がなければいけないというふうに考えておりまして、われわれ厚労省等々にもちゃんと取り締まってくれというふうに、お願いしていたところです。

●人体にとって新しい再生医療とは新しい医療?

まだまだ薬物であるとか、医療機器であるとかに比べますと、たかだか30年の歴史しかございませんで、まだまだ分からないことがいっぱいあります。
ですので、一歩一歩、慎重に進めていくべきだと思います。

“再生医療天国” 押し寄せる患者たち

今、体性幹細胞治療を求めて海外から日本にやって来る人が急増しています。
福岡空港、国際線ターミナル。
私たちの前に現れたのは、韓国人の集団でした。
その数、20人以上。
バスに乗り込みました。
向かった先は、博多駅の近くにある雑居ビル。
その3階に幹細胞治療を行うクリニックがありました。
患者に話を聞くことができました。

韓国人患者
「韓国では(幹細胞治療の)許可がおりないのです。」

韓国人患者
「糖尿、高血圧など、たくさんの持病があります。」

韓国人患者
「下半身がしびれて痛いんです。
通常の医療では治療できません。」

取材を進めたところ、このクリニックに患者を送り込んでいるのは韓国の、あるバイオ企業だということが分かりました。
その企業が制作したPRビデオです。

韓国企業のPRビデオ
「糖尿病や認知症、さらにはパーキンソン病にバージャー病…。」

さまざまな病気への効果を紹介し、韓国で患者を募集。
延べ8,000人程度日本に送り込んできました。
なぜ、日本に患者を送り込むのか。
欧米や韓国では、幹細胞治療は一部の症例を除いて法律によって規制されています。
そこで、医師の裁量で治療が行える日本に目をつけたのです。
この状況を狙って、新たなビジネスを始めようとする海外の企業もあります。
ロシアのバイオ企業の経営者です。
今、日本全国の病院やクリニックを回り、幹細胞治療に協力してくれる医師を探しています。
ビジネスの仕組みです。
インターネットなどを通じて世界から患者を募り、日本に集めます。
そして、ロシアで培養した幹細胞を輸入し、契約を結んだ日本の医師によって投与するのです。

ロシア バイオ企業 経営者
「日本語のやつも作りました。」

医師の獲得に向けて日本語のパンフレットも作りました。
すでに複数の医師が関心を示し、年内には治療を始める予定です。

ロシア バイオ企業 経営者
「法律的に大丈夫だし、日本の方がいい。
(客は)高くても品質のいいやつ(治療)がほしい。
気持ち、イメージ的に。
全世界から患者が幹細胞(治療を)受けに、日本に来るような形にしたい。」

再生医療 規制の難しさ

幹細胞治療に規制がない日本の現状には、国際的な批判も高まっています。
こうした事態を問題視した厚生労働省は去年(2012年)、法律による規制を検討し始めました。

厚生労働省 千正康裕課長補佐
「事前の安全性の確認のルールもない、行政としても実態を把握するシステムがないのが現状。
ひとたび事故が起きれば、再生医療全体の推進が止まってしまう。」

しかし、この動きに対して患者から不安の声が上がりました。
川﨑久信さん、58歳。
3年前、筋肉がやせ衰える難病、ALSを発症。
今は話すこともできません。

川﨑さんの妻
「痛くない?
(娘が)旅行に行ってるんだって。
今度、帰ってきてから写真見ようね。」

なんとかして病気を治したいという思いから、5回にわたって受けた幹細胞治療。
効果を感じたこともあったと言います。
法律で規制されれば、治療を受けられなくなる。
その不安な思いを伝えてくれました。

川﨑久信さん
“安全性や有効性がわからない幹細胞治療でも、リスクを含めての充分な説明を受け納得することが出来れば。
そして可能性が少しでもあるならば、僕は、治療を受けたいと思います。”

幹細胞治療をどう規制するか。
厚生労働省の審議会では、当初、医療機関が適切な設備や人員を確保しているか、そして治療に効果があるかなどを審査しようとしていました。
しかし、患者から治療を受ける権利を奪ってはならないという意見もあり、法案では、設備などについては審査するものの、治療の効果は問わないことにしました。

厚生労働省 千正康裕課長補佐
「治るかわからないけれども、どっちみちいい治療法がないのならば、それに賭けたいという気持ちはよくわかる。
そういう方(患者)の気持ちを考えたら、なかなか強制的に一刀両断するのは難しい面があると思う。」

再生医療 規制なき日本

●法案に向けた審議 設備や人員の確保という内容で十分か?

確かに十分であるとは言いにくいと思います。
効果の点に関しても本当は、十分検討すべきなんですけれども、とりあえず、まず把握するところから始めましょうということでは、非常に大きな一歩だというふうに考えています。

●再生医療をきちっとやることで、どういう期待が?

日本は海外から見ると非常に安心、安全な国で、かつ、きっちりとしていると。
もしも今回の法律で、法律的にもきちっと認められれば、海外からかなりの数の患者さんが日本に入ってくる、一方で、日本の中で、さまざまな新しい治療が開発されていくということで、確かに、非常に有望だと考えてます。
(海外からの製薬会社や企業からの投資の期待も?)実際もうすでに、そういう声は聞いております。

●1つでも大きな悲劇が起きることで停滞するおそれも?

そうですね、日本は山中先生のiPS細胞でノーベル賞受賞というようなこともありますし、この分野の研究は非常にレベルが高くて、海外からも非常に注目されてます。
その非常にレベルが高い国で事故を起こすということは、とにかく絶対に避けなければいけないということで、われわれ厚労省にお願いしてきたところです。

●難病患者の思いに対して、どういう取り組みが必要か?

今、お話いただいた新しい法案に関しましては、やはり規制当局側の把握する、規制当局目線の法案なんですね。
欧米には、そういった難病で苦しんでいる患者さんたちの、患者さん目線の法律、ルールというものがあるんですね。
人道的使用という言い方をします。
日本にはこれがまだありませんので、今回の法案が成立した次のステップとして、患者さんの目線でそういった難病に苦しむ患者さんから見た新しい法律、補完的な法律を作る必要があるというふうに考えています。

●再生医療を大事に育てていかなければいけない時期?

そうですね、いろいろ植物から抽出したエキスであるとかから始まって、治療の歴史というのは、さまざまな進歩があるわけですけれども、この再生医療というのは、さらに大きな進歩だというふうに、われわれ認識しておりまして、であるからこそ、大事に、事故を未然に防いで、一歩一歩、確実に進めていくべきであるというふうに信じております。
(野放しの状況への早急な対応が必要?)ぜひ、一日も早い法案の成立を期待しております。

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