クローズアップ現代

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No.33652013年6月17日(月)放送
二酸化炭素が資源に! 夢の人工光合成

二酸化炭素が資源に! 夢の人工光合成

日本がリード! 人工光合成の研究

2011年、ある大発見が世界を驚かせました。
植物の光合成の全貌が、ついに明らかにされたのです。




200年以上も世界の化学者が挑み続けた、その謎を解いたのが、神谷信夫さんたちです。
神谷さんは、植物が光合成を行っている具体的な仕組みを解き明かそうと、長年、取り組んできました。
身近な植物が当たり前のように行っている、光合成。
しかし、その仕組みが分かってきたのは、ごく最近のことです。
植物の光合成。
実は、2つのステップで行われていました。
最初のステップでは、太陽光のエネルギーを使って、水を分解します。
続いてのステップで、これと二酸化炭素を使って、有機物を作り出します。
しかし、水を分解させるものが何か、詳しく分かっていなかったのです。

神谷さんは、岡山大学の沈建仁さんと共に、この鍵となる物質を探し続けてきました。
しかし、10年以上成果をあげることができず、肩身の狭い思いをしてきました。
それでも、神谷さんたちは諦めませんでした。

大阪市立大学 複合先端研究機構 教授 神谷信夫さん
「天然でできていることが、人工でできないはずはないという。
私は化学者ですから、そう思ってます。
私も沈さんも、しつこいんですね。」

そんな神谷さんにチャンスが訪れました。
世界最高レベルの分析装置が、日本で完成したのです。
この装置で、それまで誰も見たことのない、植物内部の謎の仕組みが明らかになりました。



植物には、水を分解する重要な物質が潜んでいたのです。
マンガンやカルシウムが、独特の形でつながった物質でした。
これこそが、植物の光合成を支えていたのです。
この研究成果を生かせば、人工的に光合成を起こすことができるのではないかと、大阪市立大学では、新たな研究拠点を立ち上げました。
人工光合成研究センター。
明日、18日から、人工光合成の実現に向けた研究が動き出します。
人工光合成で有機物を作り出す実証でも、日本は世界をリードしています。
大手自動車メーカーの研究所では、将来的に、自動車の液体燃料などを二酸化炭素から作れる技術の開発を目指して、2006年、人工光合成の研究を始めました。

豊田中央研究所 先端研究センター 主席研究員 森川健志さん
「植物と同じように、原料はCO2と水のみ、そしてエネルギー源は太陽光。
実現させるためには、どうあるべきか。
やはり技術的には、そうとう難しいので、実験を進めても、最終的には、すべて失敗に終わるリスクもあったと思います。」

研究を始めて、2、3年は、目に見える成果が出ませんでした。

森川さんたちは、植物の光合成をそのまま、まねするのではなく、触媒というものを使う方法に注目しました。
触媒とは、化学反応を起きやすくする物質です。
そして、試行錯誤の末、2種類の触媒にたどりつきました。
1つ目の触媒は、水を分解する働きをします。
そして2つ目の触媒は、二酸化炭素を使って、有機物を作り出す役目を担います。

この2つの触媒を組み込んだ装置です。
装置に二酸化炭素と水を入れて、太陽の光を当ててみます。
5時間後、装置の中の物質を分析。
すると、有機物ができていたのです。
人工光合成によってついに有機物が作り出されました。
2011年9月、この企業は、二酸化炭素と水と太陽光だけで有機物を合成する人工光合成の実証に、世界で初めて成功したと発表しました。

豊田中央研究所 先端研究センター 主席研究員 森川健志さん
「我々、メンバー興奮して、これはすごいぞという感じになった。
システムの効率を上げるという試みを、今、進めている段階です。」

大手電機メーカーも、人工光合成の研究に乗り出しました。
目標は、暮らしに役立つ、さまざまな有機物を作ることです。
そのために彼らが目をつけたのは、それまで人工光合成の触媒としては注目されなかった物質です。
LED照明に使われている材料で、電機メーカーにとっては身近な物質でした。

「はい、つけます。」





太陽に見立てた光を当てたところ、盛んに泡が出始めました。
装置の中には、少なくとも5種類の有機物ができていたのです。
その中には、ごく微量ですが、メタンも含まれていました。
メタンは、天然ガスの主成分。
そのまま燃料として使えます。
しかも、二酸化炭素から作ったメタンは燃やしても、元に戻るだけ。
循環型のエネルギーなのです。

パナソニック 先端技術研究所 主幹研究員 四橋聡史さん
「エネルギーは使って、最後に二酸化炭素にして終わり。
この一方通行なんですけれども、世の中のどこかでは、これが再び、もう1回エネルギーに戻っているという姿。
夢に近いんですけれども、そこに向かってがんばって行きたいなと思います。」

日本がリード! 人工光合成

ゲスト井上晴夫さん(首都大学東京 特任教授)

●人工光合成の実証実験の現状をどう捉えている?

人工光合成研究は、学術レベルでは、日本は世界のトップを走っているんですけど、今回は実用を目指して、実証研究的な視点も含めて、企業が取り組んで成功した、すばらしい結果を出されてますけれども、これは本当にすばらしいことですね。
本当に、これは日本が誇ることだと思います。

●目指す頂からすると、今、何合目ぐらいに来た?

なかなか難しいですけれども、完成、実現までを未到の山頂の頂に例えればですね、ようやく5合目ぐらいまで来たと。
ようやく、この辺がどうも頂上らしいというのが見えつつあると、雲が晴れてですね、そういう現状かと思います。

●この研究分野で、日本が先頭を走っている強みは何か?

1つはですね、約40年前に、日本人、本多・藤嶋効果っていいますけれども、二酸化チタンという物質に光を当てると、水が分解されて、水素と酸素が出ると、すばらしい発見をされたんですね。
それで、世界中の人工光合成研究がスタートしました。
それは日本の、ですから、日本から出発してるんですね。
(それはできるかもしれないと?)
そうですね、実際に水が分解できたんですけれども、最初は太陽光というのは、紫外線と可視光がありますけど、可視光線がありますけれども、紫外線が有効だったんですけど、そういうきっかけを与えてくれました。
それから2つ目は、光合成っていうのは光、合成っていうのはケミストリーなんですね。
化学です。
ですから、光化学というのは、実は日本がお家芸といいますか、非常に研究者の数も多いですし、質もトップレベルです。
そういう非常に幅広い基盤があったうえで、長年ずーっとみんなが研究してきて、こういう結果になってる。
さらに、先ほどVTRにも出ましたけれども、非常に大型のすばらしい世界レベルの分析装置があります。
ああいうものがあって、国のサポートがあったので、今回、現状、こういう形になってきてるというふうになっていると考えられますね。

●2011年に水を分解する鍵となる構造を日本で発見

酸素発生する場所なんですけれども、それまで2004年ぐらいまでですね、例えばカルシウムがある、マンガンがあるというようなことは、写真に例えれば、ピンぼけ写真的に漠然と分かってたんですけれども、今回の沈先生、神谷先生の研究で、そこのマンガンとマンガンの距離はどのぐらいなのか、マンガンとマンガンの間に想像していた酸素がちゃんと見えると。
非常に鮮明な写真が撮れたということで、これからどのマンガンとか、どの水が関係するんだとかという、具体的な謎が解き明かされるきっかけになりました。
すばらしい発見です。
(メカニズムがだんだん分かってくるだろう、ということですね。)
そうです。

人工光合成 日本のリード守れるか

世界的な人工光合成の研究競争を激化させるきっかけとなったのが、オバマ大統領の演説でした。

オバマ大統領
「我々は、さまざまな分野の中で、特にクリーンエネルギーに投資します。
その中で、太陽光と水で自動車燃料を作る技術を開発しているのです。」

アメリカ政府は、人工光合成研究に、5年間で100億円以上を投じるというのです。
国家プロジェクトとして、人工光合成研究の一大拠点がカリフォルニア州に作られました。

それが、人工光合成ジョイントセンターです。
センターで研究を行っているのは、130人を超す研究者たち。
触媒を専門とする化学者や、物理学者、さらに装置を作る機械工学者など、第一線のスタッフを集めています。
大きな目標を掲げ、集中的に多くの資金と人材を投入し、短期間で成果を出す。
アメリカ得意の方法です。

人工光合成ジョイントセンター サイエンス ディレクター
ネイサン・ルイスさん
「基礎研究から技術の開発まで、研究開発のすべてを一つ屋根の下で行っているのが、我々のセンターの最大の強みです。」


異なる分野の専門家が一体となった体制は、触媒の開発でも成果をあげています。

研究員
「これは、インクジェットプリンターをヒントにして開発した装置です。」



インクジェットプリンターが、インクを混ぜ合わせて色を作る仕組みを応用。
さまざまな物質の配分を少しずつ変えて、1日に10万種類以上の触媒を作り出しています。
出来上がった触媒は、分析の専門家が性能を直ちに調べます。
さらに、耐久性のチェックや試作装置のテストを並行して、一気に進めていきます。

人工光合成ジョイントセンター サイエンス ディレクター ネイサン・ルイスさん
「我々は、今後3年で、植物の10倍以上の効率にすることを目指しています。
ハードルが高すぎるとは思っていません。
人工光合成は魔法みたいなものだという、これまでの考えを、現実的な技術だという考えに変えていきます。」

アメリカのほかにも、EUや中国、韓国でも国を挙げた研究が進められています。
人工光合成に関する国別の特許出願数です。
日本がリードしてきた分野ですが、今や、ほかの国々に急激に追い上げられています。
こうした状況に危機感を持ち、日本でも、人工光合成の研究を国を挙げて推し進めるべきだと強く訴えた人がいます。

「失礼します。」

アメリカ・パデュー大学特別教授の根岸英一さんです。
2010年、触媒を使った有機化合物の反応でノーベル化学賞を受賞しました。
受賞の翌年(2011年)、根岸さんは、人工光合成こそ、日本が世界に先駆けて実用化すべきだと、国家プロジェクトの立ち上げを強く訴えたのです。

パデュー大学 特別教授 根岸英一さん
「これは何としてでもですね、私も根っからの日本人ですから、日本でやりたいなというね、日本が始発でやりたいことだなと思いますね。」

根岸さんの提言を受けて、いくつかのプロジェクトが立ち上がりました。
その1つが去年(2012年)10月に発足した人工光合成プロジェクトです。
このプロジェクトは、10年という異例の長期にわたり、150億円もの巨額の予算が投入されます。

経済産業省 製造産業局 化学課長 宮本昭彦さん
「最近、国の研究開発が予算規模もかなり小粒化して、日本の真のイノベーションの創出につながっていないのではないかという反省がありましたので、未来開拓研究として、経済産業省と文部科学省が一体となって、研究開発を行っていくものであります。」

日本の、このプロジェクト。
アメリカとは大きな違いがあります。

東京大学 大学院工学系研究科 教授 堂免一成さん
「外国のプロジェクトは全部、大学関係、国の研究所関係がやっているプロジェクト。
日本のプロジェクトだけが、企業が一緒になって進めるプロジェクトなんです。」

国が、企業の積極的な参加を呼びかけました。
一気に実用化を推し進めるねらいです。
企業にとって、すぐに利益が出にくい人工光合成の研究。
しかし、国が10年という長期的な支援を約束することで、企業が参加しやすい環境を作りました。

三菱化学 執行役員フェロー 瀬戸山亨さん
「オールジャパンという話であって、一つの企業の利益を追求していない。
大学の利益を求めていない。
日本の特許だと、メイド・イン・ジャパンの特許。」

脱石油革命と銘打った、このプロジェクト。
2030年には、二酸化炭素から作る有機物で、プラスチックの量産を始めることが目標です。

人工光合成 日本のリード守れるか

●他国の急速な追い上げ 産官学のオールジャパン体制は?

基本的には大丈夫だというふうに思ってますけれども、今回のは、文科省と経産省、初めて本格的に、会社と大学と政府が一体になってやってますね。
それは本当に実用化を視野に入れた研究なんですけど、同時に実は学術レベルで、大学ですけれども、若手研究者を中心にしたものとか、シニアの研究者もオールジャパンにした、そういうプロジェクトも始まっています。
比較的バランスはうまく、現時点では取れていると思います。
ただ、若手も育っていますけれども、実はバトンを渡していかないといけません。
数十年計画ですから、次の世代はいいんですけれども、その次の世代を早く補充したいと。
例えば今、高校生は17、8歳だとすると、もう2、30年すると、社会のリーダーですからね。
その時に彼らが中心になって頑張ってくれる、そういうことを期待しています。
私、よく未到の山に登ると、この人工光合成実現をですね、駅伝競走のようなものだと言ってるんですけれども、各区間区間で、みんなしれつに競争して、一生懸命競争して、それがノーベル賞の対象になるようなものだと、ワンジェネレーションやって、次もまたそうだということで、どんどんどんどん若手が参加して、いくらでもノーベル賞の可能性もありますし、社会がそういう評価をしますし、そういう意味では、日本は意外と今、現在、バランスがうまく取れてますけど、次の次の世代もぜひとも加わってほしい、優秀な若手に加わってほしい、そういう思いですね。
(国際的な視野も、忘れてはいけないでしょうね。)
そうですね。
世界中の人と一緒にやらないといけないということですね。
日本じゃ、どちらかというと、日本人だけでやってきたところがありますので、これからさらに視野を外に向けて、世界中の人と一緒にやる、それが大事だと思いますね。

●実用化のメドはいつごろに? 何をもって実用化と言えるのか?

1つは、参考になるのは植物ですね。
植物はエネルギーの変換効率、例えば太陽光から100だけエネルギーが下りてくると、そのうち何%ためられたかというのが、エネルギー変換効率といいますけれども、大体1%弱です。
やはり、それは超えたいと。
現時点で人工光合成は、やっとエネルギー変換効率は評価できるようになってきたんですけど、まだ少ないですね。
実用化のことを考えると、やっぱり10%のエネルギー変換効率は欲しいと。
それを2030年ぐらいまでには達成したいと、そういうふうにみんな頑張ってるわけですね。

●植物がやっていることのすごさ 本当に実現できる?

だから植物は本当にすばらしいんですけれどもね、光合成は30億年近い歴史があるわけなんですけれども、それを背中からずーっとこう、追いかけていくやり方もありますね。
自然の不思議にインスパイアされて、追いかけるのと同時にですね、実は、斜めからアタックする。
例えば飛行機を例に挙げますと、飛行機は鳥と同じように流体力学を使ってますけれども、飛行機はこうやって羽ばたいているわけじゃないです、別のメカニズムですね。
それから、チーターはいちばん速い動物と言われてますけれども、自動車は全然別のメカニズムで、軽自動車でも、バーッとアクセルが走るということですね。
ですから、そういうことは可能だと信じてます。

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