クローズアップ現代

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No.33612013年6月10日(月)放送
老いてこそ挑め ~三浦雄一郎 80歳のメッセージ~

老いてこそ挑め ~三浦雄一郎 80歳のメッセージ~

三浦雄一郎 80歳 驚異の肉体の秘密

鹿児島県にある、国立鹿屋体育大学です。
今年(2013年)3月、エベレストに出発する直前の三浦さんの姿がありました。
挑戦に必要な体力があるのか、検証するためです。


登山と体の機能の関係を研究する、山本正嘉さんです。
三浦さんの体の機能を、12年にわたって調べてきました。





「30秒前です。」

測定するのは、心肺持久力など、およそ30項目に及びます。




冒険家 三浦雄一郎さん
「ヒラリーステップ越えるぞ!」

「おお~!」


多くの難所が控えるエベレスト。
標高8,700メートル付近です。
気温は、マイナス20度。
空気は、地上の3分の1しかありません。



断崖絶壁を、重い荷物を背負い、ロープを伝って登ります。
脚力や背筋力、握力など高い身体能力が求められます。




荷物を背負うときに必要な背筋力のテスト。

「いきます。
よーい、スタート!」

驚きの結果が出ました。

「(背筋力)148.0です。」

「今までで一番いいです。」

5年前より、30キロアップ。
測定を始めて以来、最高の値になりました。

さらに、ロープを握るときに必要な握力。

「左40.5です。」

「前回より、右も左も良くなっています。」

ここ5年で、最高の値でした。

続いて、登山で最も大切な脚力。
年齢を重ねると、衰えやすい部分です。

「はい、蹴ってください。」

「1,149(ワット)です。」

「前回が1,192(ワット)、ずいぶん上がってますね。
蹴る力がアップしてます。」

75歳以降の男性の脚力を示したグラフです。
脚力は年を取ると、徐々に衰えます。
こちらは、三浦さんの数値。
75歳から急激に伸びています。

鹿屋体育大学 山本正嘉教授
「『人間の可能性はこんなもんじゃない』と、三浦さんが改めて示してくれた。」

冒険家 三浦雄一郎さん
「アンクルウェイト。
これ、やっぱり足首に巻いて。」


老いてなお、成長を続ける三浦さんの肉体。
それを支えたのが、ヘビーウォーキングという独自のトレーニングです。
足首に5キロの重りをつけ、30キロのザックを背負って歩きます。

冒険家 三浦雄一郎さん
「街で山歩きの気分。
結構、楽しんで歩けます。」

週に4日、多いときは1日8時間以上歩くこともあります。
電車に乗るときは、1つ先の駅まで歩いてから。

冒険家 三浦雄一郎さん
「若いころから、全身で、全力で走るということ。」




全国各地で行われる講演会でも、三浦さんは、重りをつけたまま話します。
山本教授は、この日常的なトレーニングが、ふだん鍛えにくい脚力を高めたと見ています。



鹿屋体育大学 山本正嘉教授
「アンクルウェイト(重り)をつけると、足首が使えなくなる。
ももをしっかりあげて歩かなきゃいけない。」



登山では斜面を登るため、太ももを大きく持ち上げて前に進みます。
そのため重要となるのは、太ももの筋肉、大たい四頭筋です。
ふだん私たちが歩くときは、ふくらはぎの筋肉を中心に使い、大たい四頭筋はあまり使いません。
しかし、重りをつけると、足首が固定されます。
足を持ち上げるため、大たい四頭筋が鍛えられるのです。
街なかでも、太ももの筋肉が鍛えられるヘビーウォーキング。
三浦さんは、脚力を5年前の1.5倍まで高めました。

「80代では最高記録だ。」

老いの常識を覆した三浦さん。
しかし、60歳のころは、一般の高齢者と同じような悩みを抱えていました。

肥満・糖尿病・高血圧 “目標”を見失った60代

プロスキーヤーだった三浦さんは、50代で世界七大陸最高峰からの滑降を達成。




その後、次の目標を見いだせず、トレーニングは休みがち。
肥満気味となり、糖尿病も患っていました。




しかし65歳のとき、父の敬三さんの影響で、エベレストへの挑戦を決意します。
90歳を超えてもなお、スキーでモンブランを滑りたいという父に刺激を受けたのです。

冒険家 三浦雄一郎さん
「親父がモンブランなら『よし、エベレストをやってみよう』と。」

冒険家 三浦雄一郎さん
「はじめ500メートルの山に登ってみたら、3、4年さぼってメタボで、500メートルの山が登れなかった。
メタボのじいさんが、これから一大変身してエベレストに登ったら、こんなおもしろいことはないんじゃないか。」

最新研究が解き明かす 三浦雄一郎 80代の“心”

なぜ三浦さんは、年を重ねてから健康を回復することができたのか。
老化の予防策を研究する下方浩史さんは、三浦さんの心理的な面に注目しています。
脳科学や心理学などの観点から、中高年の人たち1万6,000人余りを調査してきた下方さん。
心の在り方が老化を食い止める要因になると考えています。

冒険家 三浦雄一郎さん
「お邪魔します。」

国立長寿医療研究センター 下方浩史さん
「どうぞ、お入りください。
今日はよろしくお願いします。」

エベレストに出発する直前。
三浦さんの心の状態を解き明かす、初めての調査が行われました。

まずはMRI。
三浦さんの脳に迫ります。




国立長寿医療研究センター 下方浩史さん
「萎縮はほとんど目立たないです。
80歳とは思えない。」

国立長寿医療研究センター 下方浩史さん
「脳の老化をはねのけている。」

三浦さんの脳のMRI画像です。
これを一般の80歳男性と比較します。
黄色い部分が脳です。
三浦さんの脳は萎縮が少なく、実年齢より15歳近く若い状態でした。



特に老化していなかったのは、前頭前野。
意欲や好奇心をつかさどる部分です。

国立長寿医療研究センター 下方浩史さん
「お疲れさまでした。」

冒険家 三浦雄一郎さん
「脳はしっかりありましたか?」

国立長寿医療研究センター 下方浩史さん
「すごくいい脳です。」

冒険家 三浦雄一郎さん
「お願いします。」

「お願いいたします。」

さらに家族との関係や人生観を探るため、200問を超える心理調査を行います。

「文句や小言をいう人はいますか?」

冒険家 三浦雄一郎さん
「かみさんがガミガミ言います。」

結果を分析すると、突出した項目が見つかりました。

国立長寿医療研究センター 下方浩史さん
「人生の目標もすごく高い数値なんです。」

人生の目標の明確さを年代別に示したグラフです。
生きる意味を見いだせているかなど、8つの調査項目を点数化しました。
三浦さんの目標の明確さは、ずば抜けていました。
これまで調査した1万6,000人の中で、最高点だったのです。

国立長寿医療研究センター 下方浩史さん
「目標をもって、その目標を達成しようと生きること、その意欲が、心にも体にも良い影響を与えている。」

骨折で再起不能の危機 どう乗り越えたか

老いと闘いながら、エベレストを目指した三浦さん。
目標を強く持つことで、絶望的な状況を乗り越えてきました。
4年前、三浦さんはスキーでのトレーニング中に誤って転倒。
6メートルの高さから雪面にたたきつけられ、大けがを負いました。

そのとき三浦さんを診断した、医師の井上雅之さんです。
三浦さんの体の状態を記録したCT画像を見せてくれました。




NTT東日本 札幌病院 井上雅之さん
「これが当時のCT画像です。」




上体を支える骨盤が、3か所も骨折。
脚の付け根の部分には、大きな亀裂が入っていました。

NTT東日本 札幌病院 井上雅之さん
「歩いたり、スポーツするときに非常に大事な場所ですから、日常生活はもちろんのこと、致命的な大けがをしてしまった。」

NTT東日本 札幌病院 井上雅之さん
「最悪のシナリオは、寝たきりになる。」

骨盤の骨折は、登山で重要な腹筋に深刻なダメージを与えました。

骨盤と上体をつなぐ腸腰筋と呼ばれる筋肉。
骨盤が折れると、ここが働かなくなります。




これによって、腹筋力が急激に低下。
三浦さんは、自力で上体を起こすことができなくなりました。
ところが、入院から1週間後。
三浦さんの病室は一変していました。

NTT東日本 札幌病院 井上雅之さん
「気がつけば、病室がジムのように、ゴムチューブとかダンベルとか、たくさん並んでいた。
トレーニングルームのようになってました。」

三浦さんは上体が起こせないにもかかわらず、トレーニングを再開したのです。

冒険家 三浦雄一郎さん
「生きている限りは、夢に対してチャレンジする。
目標があって、どうしても骨折から回復したい。
めげてられるかと、治れば登るんだ、登れるんだと。」

不整脈の再発 家族の決断は

エベレストへの挑戦を目前にした三浦さんに、さらなる試練が襲います。
持病の不整脈が再発。
今年1月に、緊急手術を受けました。
8,000メートルで不整脈が再び出れば、命を失う危険がある。
エベレストに行かせるべきか、家族は悩みました。
しかし最後は、三浦さんの目標を大切にすることに決めました。

長女 恵美里さん
「心配するよりは、信頼する気持ちに切り替えたほうがいい。
家族であれば、それをしっかり支えられる。」

三浦雄一郎 80歳 老いてこそ挑め

「よーい、スタート!」

エベレスト出発直前に行われた体力測定です。
4年前の骨折以来、できなくなった腹筋運動に挑みました。



「腕は頭に。」

「いきます、よーい、スタート。」

「頑張れ!」

次男 豪太さん
「頑張れ!
笑っちゃいけない。」

次男の豪太さんが励まします。

次男 豪太さん
「1回。」

冒険家 三浦雄一郎さん
「1回はやろう。」

次男 豪太さん
「こっち来るんだ、お父さん!」

「できた!」

次男 豪太さん
「初めてだよ、快挙!」

次男 豪太さん
「はい、もう1回。」

次男 豪太さん
「2…、もう1回30秒です。
3…、4…。」

諦めない気持ちが、土壇場で実を結びました。

次男 豪太さん
「もうちょっと下げて。」

冒険家 三浦雄一郎さん
「9…。」

「OK、はい、OKです。」




5月23日。
三浦さんは、エベレストの山頂を目指しました。




「着いた、やったー!」






冒険家 三浦雄一郎さん
「おかげで頂上に着きました。
ありがとう、ありがとう!
世界最高の気持ちです。」


冒険家 三浦雄一郎さん
「80でもまだまだいける、できる、そんな感じです。」

三浦雄一郎 80歳 驚異の肉体の秘密

ゲスト下方浩史さん(国立長寿医療研究センター)

●三浦さんのエベレスト登頂 改めてすごいことですね。

すばらしいことだと思います。
これだけの快挙を成し遂げるためには、さまざまな人のサポートがあった、それが1つの要因だったと思いますし、本人が目標を持って生きてきたということも、非常に大きな要因だと思います。
(一番の鍵は?)
生きる希望、生きがい、そして目標を持つ、そのことだと思います。

●いくつになっても筋肉は、つけられるもの?

そうですね、若いころから運動をして筋肉をつけるということも大事ですけれども、年を取ってからでも決して遅くはないです。
60、70、80になっても、三浦さんのようにトレーニングさえすれば、筋力を鍛えることができます。
それが非常に重要なことだと思います。

●あえて引き止めなかった 周囲のサポート

無理だからとか、もっと体を大事にしてだとか、家族は思いますよね。
われわれは、それをネガティブサポートと呼んでいるんですけども、そういう家族のネガティブなサポートによって、目標から遠ざかってしまう、生きがいを失ってしまう、結果的に世界がどんどん小さくなって、生きる希望を失っていくということになってしまうんですね。
それは、ぜひ避けていただきたいと思います。

●驚異的 三浦さんの脳の前頭前野の若さ

前頭葉の萎縮が比較的少なかった。
これは私たちの研究でも、ほかの研究ですけれども、例えば1日6,000歩以上歩くと、前頭葉の萎縮は防ぐことができるというような結果が出てます。
前頭葉というのは、気力だとか、やる気をつかさどる部分ですので、そういった部分を年を取っても維持できているということは、かなり重要なことだと思います。
(歩くと、前頭前野の部分が活性化する?)
そうですね、萎縮を防ぐことができるということです。
三浦さんのように激しいトレーニングではなくても、普通に歩く、あるいは家事でも、例えば買い物に行ったり、掃除、洗濯、そういったことで体を動かすことでも、十分役立つと思います。
(三浦さんはかなりの読書家でもあるそうですが?) 
そうですね。
本をたくさん読むということも、前頭葉の維持、それから知能の維持にかなり重要だというふうに思っていますし、そういうデータも出してます。

●自分の世界を狭くしないようにすることが鍵?

そうですね。
どうしても夢がだんだん破れていって、家族からネガティブなサポートがあると、家族だけの世界になってしまう。
それではやりたいことが、かえってどんどんやれなくなってしまうんですね。
だから、いつまでも自分の周りを大きくするというふうに努力することも大事だと思います。

●高齢者に生きる意味を医学は十分に提供できているか?

どうしても医学、医療の現場というと、体や病気のことだけ目にいってしまうんですね。
心の問題というのが、やはり、ないがしろにされてしまう。
特に生きがいだとか、生きる目標について、医療の場というのは、今までノータッチだったんですね。
このことが、やはり大きな問題だと思います。

●どんな質問を自分に問いかけたらいいか?

生きがいを持つということですか?
やはり、自分の夢っていうのは何だろうと、いつも問いかける、自分自身に問いかけて、そして、それに向かって進んでいくことが大事だと思いますし、何をやりたいかということを常に考えることが重要だと思います。
(いくつか質問が用意されていますね。)
これは私たちが使っている調査票の質問の内容の一部ですけれども、どんな人生を送りたいかとか、自分の将来に夢を持っているかとか、生きてる意味を見いだせているかとか、そういうようなことをお聞きして、人生の目標というのをどの程度捉えているかなというのを評価してます。

●70、80、90になっても問いかけてみると?

そういうことです。
(そういう夢を持って、伝えてほしいですよね。)
そうですね。
夢を語ってほしいです。
そこからスタートで、夢を語って、その夢をかなうように努力すると、それが健康長寿につながっていく道だと思います。

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