クローズアップ現代

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No.33572013年6月3日(月)放送
“最弱”チームは変われるか ~桑田と東大野球部~

“最弱”チームは変われるか ~桑田と東大野球部~

“最弱チーム”は勝てるか 密着 桑田と東大野球部

連敗中の東大野球部をどう立て直すのか。
特別コーチに就任した桑田さんがまず注目したのは、練習時間の長さでした。
ある選手の1日のメニューです。
朝6時半から全体練習、午後はポジションごとのトレーニング。
さらに自主練習が続き、1日12時間以上も肉体を酷使していました。

4年生 井坂肇投手
「前までの時間では勝てないんだから、もっとやるしかない。
練習量イコール上達。」

“常識を疑え” 桑田流 勝利への秘策

部員たちが強くなろうと増やしてきた練習。
そこに桑田さんは真逆の提案を打ち出しました。

東大野球部 特別コーチ 桑田真澄さん
「みんな見ていると(練習を)やりすぎ。
やり過ぎると内容が薄くなっていく。
短時間集中型、超効率的な練習をしないと。
東大なんだから。」

次に桑田さんが注目したのはピッチングの練習法でした。

「スライダーいきます。」

東大の投手陣は、打者を抑えるためにはさまざまな球種が必要だと考え、カーブやスライダーなど変化球を覚える努力をしてきました。
しかし桑田さんは、外角低めのストレートだけ練習しろと伝えたのです。

東大野球部 特別コーチ 桑田真澄さん
「アウトローを投げられるか見せてよ。
10球を2セット、アウトロー。」

練習量を減らし、球種を絞る。
東大の常識とは逆の指導法には、桑田さんが野球人生で培ってきた経験がありました。

高校時代、小柄というハンデを克服しようと猛練習を重ねた桑田さん。
しかし疲労がたまって、かえって練習に集中できなくなりました。
そこで桑田さんは監督に進言し、あえてボールを投げない日を独自に設けたのです。
当時の常識とはかけ離れた発想でした。

東大野球部 特別コーチ 桑田真澄さん
「ノースロー、ボールも握らない。
練習やり過ぎて疲れて、普段から(体格で)劣るのにもっと劣る。
疲労が抜けないで次の練習をしても上達しない。」

プロに入ってからはコントロールを磨きました。
決め球はアウトロー。
外角低めのストレートでした。

実況
「いいボールです。」

バッターから遠く、最も打ちにくいとされるコース。
アウトローという武器を徹底して強化することで、球界を代表するピッチャーに上り詰めました。

“自信の持てる武器を” 桑田流 勝利への秘策

体力で劣る東大の選手たちにかつての自分を重ね合わせた桑田さん。
自信を持てる武器をまず1つ持つことを提案したのです。

東大野球部 特別コーチ 桑田真澄さん
「俺は中学校から今でも、アウトローをひたすら投げるんだよ。
エースと呼ばれる人で、アウトロー投げられない人いる?」

「いないです。」

東大野球部 特別コーチ 桑田真澄さん
「裏返したら、アウトロー投げられるから?」

「エース。」

アウトロー1本に絞った練習。
試合で通用するコントロールを身につけるため、10球のうち8球決めることを目標にしました。

東大野球部 特別コーチ 桑田真澄さん
「何%ですか?
(10球中)4球か、残念だな。」

この練習に苦労している選手がいました。
2年生の白砂謙介投手です。
ストレートは130キロ台。
スピード不足を補おうとさまざまな変化球に挑戦してきましたが、どのボールもコントロールが定まりません。

2年生 白砂謙介投手
「わらにもすがる思いで、何かしらやれば良くなるだろうという気持ちでずっとやっていた。」

桑田さんは、アウトローを磨くことで実戦に生かせるボールを作ってほしいと指導を続けました。

“最弱チーム”は勝てるか 密着 桑田と東大野球部

悲願の連敗脱出はなるのか。
リーグ戦が始まりました。
先発を託されたのは白砂投手。
しかし、力が入りストライクが入りません。
キャッチャーはアウトローに構えますが、決められません。
5回途中で5点を失い、負け投手。
開幕戦は大敗でした。
技術の急激な進歩は望めない。
それは桑田さんも予想していました。

しかし、50連敗となった試合で桑田さんは危機感を募らせました。
失点を重ねても一向に闘志を見せないピッチャーたち。
凡退しても悔しがらない打撃陣。
この日、1人のランナーも出せない完全試合で敗北を喫しました。
この試合のあとグラウンドにやって来た桑田さん。
これまでにない厳しい言葉を投げかけました。

東大野球部 特別コーチ 桑田真澄さん
「みんな一人一人が変わらないと、100連敗すると思うよ。
勝負の世界って厳しいよ。
(他大学は)今年も東大には楽勝、負けないって思っているよ。
アウトになって悔しがる人がいない。
“よし打ち取ったぜ”、自信満々に降りてくる人がいない。
そんなチームに誰が負ける?
結果を変えるには誰が変わらないといけないんですか?」

「自分です。」

東大野球部 特別コーチ 桑田真澄さん
「変わりましょう。」

「ありがとうございました。」

“自分で考え変わる” 選手たちの模索

連打を浴びて完敗した白砂投手。
桑田さんの問いかけに、みずからを見つめ直していました。
技術だけでなく、自分に足りないものを見つけ出そうと、試合の映像を見返していました。

2年生 白砂謙介投手
「気持ちの問題。
マウンドに上がって、ここに投げようという、投げられる自信がない。
そこはいろいろ考えてやっていきたい。」

連敗から抜けられず迷い続ける選手たち。
この日、桑田さんはみずからマウンドに立ちました。
引退から6年たってなお、体にしみ込んでいるアウトローを、50球以上投げ続けた桑田さん。
この日、多くを語りませんでした。


東大野球部 特別コーチ 桑田真澄さん
「全部言わないです、ここまで出ますけど。
マウンドに行ったら一人、誰も助けてくれないんです。
試合のマウンドで力を発揮するには、自分で考えて修正できるようにならないといけない。」

桑田さんの投球をひときわ熱心に見つめている選手がいました。
4年生の浅井俊一郎投手。
勝ち投手の経験は一度もありません。

4年生 浅井俊一郎投手
「桑田さん。」

これまでは桑田さんに声をかけるのを遠慮していましたが、この日を境にアドバイスを求めるようになりました。
どうすればコントロールを磨くことができるのか悩んでいた浅井投手。
桑田さんは力み過ぎていると指摘し、上半身の力を抜いて投げるよう伝えました。
指導から1週間。
この日、アウトローに10球中7球決めることができました。

東大野球部 特別コーチ 桑田真澄さん
「オッケー、いいボール。
変わったね、変わったね。」

東大野球部 特別コーチ 桑田真澄さん
「やっぱり意識がある選手は伸びるな。」

4年生 浅井俊一郎投手
「今までの自分の“当たり前”というのは、甘くて低いレベルだったと気づいた。
だいぶ普段の取り組み方が変わったと思う。」

決意の一戦 東大野球部は変わるか

開幕から勝ちがないまま迎えた8戦目。
東大は負けると最下位が決まります。
相手は優勝候補の明治。
去年(2012年)は10点以上の大差で完敗しています。


0対0の4回からマウンドを託されたのは、白砂投手。
桑田さんに指摘された気持ちの弱さをこの日は見せません。
アウトローを軸に強打者を抑えていきます。

2年生 白砂謙介投手
「“打たせてたまるか”、そういう闘志をむき出しにした。」

6回、ノーアウト三塁のピンチを迎えます。
勝負の1球。
選んだのはアウトローでした。
犠牲フライになりこれが決勝点となりました。


この1球、狙ったのはこの高さでした。
しかし、ボール2個分高く浮いたため外野まで運ばれてしまったのです。
勝負を分けた僅かな技術の差。
それでも最後まで戦う姿勢は崩さず、2対0で惜しくも敗れました。
東大野球部はこの春も勝てませんでした。
白砂投手は、秋のリーグ戦の1勝に向けて走り始めています。

2年生 白砂謙介投手
「自分を信じることができないと、相手との勝負にはならないと感じた。
1勝を死にものぐるいで取りにいくつもりで、秋まで必死に練習していきたい。」

勝利への条件 “自分で考える力”

ゲスト桑田真澄さん(東大野球部特別コーチ)

●東大野球部の一番の弱点は何か?

とにかく真面目すぎてですね、練習のやり過ぎっていう印象がありますね。
本当に野球が好きで真面目なんだなって思いますよね。

●どんな間違った練習をしていたのか

間違いじゃないんですけど、常識を疑うということも…先ほども言いましたけど、野球界ではやっぱり長時間練習したらうまくなるという常識があるんですね。
僕も2歳からずっと野球やってまして、長年やってますけど、じゃあ量と時間でうまくなるかっていうとうまくならないんですよね。
どれだけ質の高い内容のある練習をするか、これがポイントだと思いますので、彼らは量と時間をすごく真面目でやってるんですけど、上達しないというのは何かが違うんじゃないかという話を彼らにもしましたし、僕ももう確信してるんですよね。

●体力的・技術的にも低いレベルだと人一倍練習するのは自然では?

そうですね。
でもですね、野球っていうスポーツは、体力と技術だけの勝負じゃないんですね。
頭も必要なんですね。
頭を一番使える集団でありますから、この3つのバランスを取って戦っていこうということなんですね。

●体力を消耗しているときに練習を重ねたりするとどうなるのか

集中力がまずないんですよね。
体が疲れてますので、全力でプレーするということができなくなるんですよね。
そうすると、7分とか8分の力でプレー・練習しますから、それを脳と体が覚えてしまうんですね。
ですから、いつまでたってもいい動きができない。
全力で筋肉を使っていくってことを忘れてしまう。
全力、そして集中してっていうことも大事なんですね。
よく体で覚えろって言いますけど、僕は故障にもつながったり、70、80%の力で動いたのを覚えてしまうんじゃないかなと思ってます。

●投げる球数も制限するように言っているのはなぜか

100球投げたからピッチングしたようにみんな錯覚するんですけど、何球集中して、そこへ投げ切ったかっていうのが大事なんですね。
なぜそこに行かなかったのか、どこが悪かったのか、どうしたらそこに行くのかっていうことを一球一球考えて、集中して投げるということが、僕はコントロールをよくする第一の方法だと思ってますので、数じゃないんですよね。
それをやってるピッチャーがまずいなかったということですね。
間違った投げ方でたくさん投げてしまうと、かえって間違った動きを体にしみこませますので、いつまでたってもうまくならない、上達しないという、そういうサイクルですね。

●桑田さんが考える野球が浸透しない背景とは

野球界も脈々と受け継がれた伝統といいますか、常識がありまして、それがなかなか変えきれないんですよね。
超管理野球といいますか、日本の野球って管理野球なんですね。
指導者、監督、コーチが言ったこと以外をすると殴られたり、どなられたりするわけですよね。
そうしますと、言われたこと以外やらないほうがいいわけですよ。
ですから、考えなくてもこれやれって言ったら、はいこれやれ、はいってやるのが日本の野球界の弱点でもあったんですね。
でも実際僕、長年プレーしてきて、野球選手はどういう要素が必要かといいますと、自分で考えて行動できる選手じゃないといい選手にはなれないですね。
なぜか日本の野球は指示待ちのスポーツだと皆さん思われてるんですけど、監督ができるのってメンバー決めてサイン出すだけなんですね。
あと、グラウンドで考えて行動、動く、プレーするのは選手ですから、ふだんから自分で考えて行動できるという習慣をつけとかなきゃいけないんですね。
これが日本の野球界の一番の弱点だと僕は思ってます。

●一人一人が自信を持てるようになるための指導とは

まず、彼らは自信を持ってないですよね。
なんで自信持てないのって言うと、やっぱり自信ないですって皆さん言うんですね。
僕自身も自分の経験から僕も運よく、5万人の中で投げさせてもらいました。
みんなに応援してもらっても、自分自身が自分のことを信じてなければ、いいプレーなんてできないんですね。
自分の一番の応援者は自分自身なんですね。
ですから自分が信じれるような練習をしていないと、あの試合のマウンドで自分なんて信じられないんですね。
じゃあ、どうしたら自信を持てるようになるか。
あの練習のブルペンで、少しの、小さな成功体験ですけど、これを積み重ねていって自分に自信を持っていく、これが僕は非常に大事だと思ってます。
そういう練習を、今、彼らにはしてもらってるんですよね。

●浅井さんがアウトローを7球投げられるようになったが?

そうですね。
彼は最初、0球でした。
1球も行かないんですね。
10球しかない中でどうやって1球でも多くそこへ投げきるか。
考えて、そして体を使っていくと。
その成功体験を、0球が5球、7球、8球となってマウンドで生かすという、そうやって自信をつけていってもらいたいなと思ってます。

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