クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
No.33492013年5月20日(月)放送
農業革命“スマートアグリ”

農業革命“スマートアグリ”

“スマートアグリ” オランダの農業革命

オランダ・北ホラント州。
昔ながらの田園風景が広がります。
しかし近年、巨大な農業用ハウスがあちらこちらに姿を現すようになりました。
その1つ、アグリポートA7。
縦7キロメートル、横2キロメートルの広大な敷地に、巨大なハウスが広がっています。
トマトやパプリカを栽培する企業10社が集まった巨大農業地帯。
オランダには、ほかにもこうした場所が5か所あります。

アグリポートA7 施設管理担当
「もぎたてのパプリカです。
おいしい。」

スマートアグリとは一体どんな農業なのか。
アグリポートA7の農業経営者の1人、フランク・ファン・クレーフェさんです。
朝7時。
フランクさんが向かったのは畑ではありません。
仕事の大半は、オフィスのパソコンの前で行います。

農業経営者 フランク・ファン・クレーフェさん
「今の気温は11.7度、湿度は66パーセントです。」

ハウスの温度や湿度など、500項目以上のデータを管理。
ここで栽培に必要な全ての情報を把握することができます。

農業経営者 フランク・ファン・クレーフェさん
「これで仕事は終わり。
帰りましょうか?」

ふだんはハウスに入ることがないというフランクさんに、中を案内してもらいました。
ハウスでまず目を引くのが、高い天井です。
日本の平均的なハウスのおよそ2倍、6メートル以上の高さがあります。
トマトを縦に高く伸ばすことができるため、面積当たりの収穫量は日本の3倍になります。

土の代わりに使われているのは人工繊維。
そこに養分を加えた水を1日60回、自動で与えます。
苗の下のビニールの管からは二酸化炭素も自動で散布。
光合成が最も活発化する外気の2倍以上の濃度にコントロールされています。


さらに栽培に使用する水はすべてこの機械で殺菌し、徹底した品質管理が行われています。
スマートアグリはこうした設備を集中管理することで、ハウスの中を常に理想の環境に制御します。



農業経営者 フランク・ファン・クレーフェさん
「赤のラインが理想の温度、ほかのラインは実際に測定された温度です。」

まずトマトにとって理想的な一日の温度変化を設定します。
すると、ハウス内で計測されたすべての温度が赤い線に近づくよう24時間自動で調整されるのです。

農業経営者 フランク・ファン・クレーフェさん
「ITを使って環境を自動でコントロールできるようになり、自分の理想どおりの栽培ができるようになりました。
この技術を使うことで、大きなハウスの運営もできるのです。」

危機から生まれたオランダの最強農業

なぜここまで、オランダのスマートアグリが進んだのか。
そこには農家がかつて経験した大きな危機がありました。
フランクさんが31年前、本格的に農業を始めたころに使っていたハウスです。
当時は、昔ながらの天井の低いハウスで土を使い、花などを栽培していました。

農業経営者 フランク・ファン・クレーフェさん
「私は4歳のときからここに来ていました。
学校が終わった後は、ほとんどここで過ごしました。」

しかしフランクさんが農業を始めて3年後、EUの前身・ECに農業大国スペインとポルトガルの加盟が決まります。
安い農作物が大量に押し寄せる中、海外に負けない競争力をつけることが生き残るための条件になりました。
ハウスの大規模化。
土に代わる人工繊維の畑。
フランクさんたち農家が試行錯誤の末たどりついたのが、当時注目されていたIT技術の農業への応用だったのです。

農業経営者 フランク・ファン・クレーフェさん
「まさしく農業の革命です。
IT技術で栽培の環境を制御するのです。
もう農業はITなしでは考えられません。」

最初は1ヘクタールから始まったフランクさんの農業。
スマートアグリで高い収益を上げるようになり、ハウスは今や52.5ヘクタールに拡大。
去年(2012年)の売り上げは46億円に達しました。
農家が独自に進めてきたスマートアグリを、国も後押しするようになりました。
3年前、オランダでは農業を産業として捉え、当時の農業省を経済省に統合。
農業技術の研究を支援しています。

経済省 農業政策・食糧安保 ロナルド・ラペレ部長
「オランダ農業の発展に重要だったことは、技術の革新が政府から農家に押し付けられたものではないということです。
技術革新で大切なのは継続です。
革命は一夜にしてできることではありません。」

これまでハウスの整備に100億円以上かけてきたというフランクさん。
さらに資金を投入して規模の拡大を計画しています。

農業経営者 フランク・ファン・クレーフェさん
「現在の状況は、このハウスで15ヘクタール。
そしてこちらは半分の7.5ヘクタール。
残りは来年(2014年)建てる予定です。
うちのトマトの需要はまだまだ伸びます。
ハウスをもっと建設します。」

オランダ農業 “攻め”と“守り”

ゲスト伊藤保さん(三菱総合研究所主任研究員)

●農家主導の大規模化とIT化、何が鍵だったのか

もともとオランダという国自体が、小さい国土で、少ない人口でやってきたと。
歴史的に見ても、商売を海外に輸出していくというのを特徴にしてきました。
そういったいわゆるオランダ人気質といいますか、そういったところが1つポイントとしてあったんだろうと思っています。
ただそういった中で、必ずしも順風満帆だったわけじゃなくて、最近10年間でも、いわゆるスマートアグリを展開している農家の方々は半減してきてるというようなところもあります。
もともとオランダの農業自体というのは、いわゆる国土を守っていく「守りの農業」、守んなきゃいけない農業というものと、「攻めの農業」、輸出していく農業というものに大きく分かれて、それぞれに展開してきたという歴史もあります。

●「攻めの農業」では融資も自分で賄ってきたのか?

そうです。
実際には、オランダの場合には金融機関というものが入ってきて、農業コンサルタントの指導を入れていただきながら、そういったオランダのスマートアグリの農家の方々は、民間の金融機関のところから資金を調達してきたという背景があります。
日本の場合には、日本の国土を守っていく、農業を守っていくという前提の中で、農林水産省を中心にして、行政が補助金という形で施設を補助してきたという歴史があります。

●今のオランダの競争力をどう捉えているか

オランダに関しては、世界でいくと世界第2位の輸出国となっていますけれども、オランダのいわゆる、トマトやパプリカ、キュウリという戦略作物に絞っていくという中で、そういったものを海外に輸出していくというところが大きな特徴になっているんじゃないかなと思っています。
実際にオランダの場合、農産物を輸出するだけではなくて、生産システム、いわゆるスマートアグリのシステムも海外に輸出していく。
韓国のように、そういったものをオランダ人の方を入れて、学校を作って勉強していくというところまで導入してきています。
そういったノウハウを単に売っていくだけではなくて、世界中で売ったスマートアグリのシステムからデータが、日々オランダ国内に返ってくるということによって、そういったものを研究開発に使いながら、また新しいシステムを開発していくことで、オランダのスマートアグリのビジネスは今現在も大きく展開してきています。

日本でも始まった“スマートアグリ”

日本でのスマートアグリ。
担い手の1つとして期待されているのが、IT企業です。
東京でITコンサルティング会社を経営している岩佐大輝さん、35歳です。
銀行などから5億円の融資を受けて2年前に農業法人を設立。
農業の経験はありませんが、IT技術に精通している強みを生かしてイチゴの栽培に挑戦しています。

IT企業代表 岩佐大輝さん
「ここに水と溶液が流れています。
養分の濃度も自動的にコントロールされる。」

IT技術を持つ企業の参入が増えれば、スマートアグリは一気に普及すると岩佐さんは考えています。

IT企業代表 岩佐大輝さん
「あらゆる業界でITは、普通に一般の事務でもコンピューターを使ったり、ネットを使ったり当たり前にやっていますが、なぜか農業は入っていない。
結びついたときに何か新しいものが生まれる可能性が高まるという仮説は持っている。」

“スマートアグリ” 模索する日本農業

農家みずからがスマートアグリを模索する動きも始まっています。

「自慢の真っ赤なほっぺがトマトになっております。
今日だけは『トマモン』です。
よろしくお願いします。」

熊本県のゆるキャラ、「くまモン」がPRするトマト。
熊本は19年連続日本一のトマト生産量を誇ります。
県内有数の生産地、玉名市です。
この地域で農家への農業指導を行うJA職員の森川由浩さんです。

JAたまな 森川由浩さん
「これがオランダのハウス内の写真になります。」

森川さんは去年9月、オランダのスマートアグリを視察しました。

JAたまな 森川由浩さん
「すごいっすよ。
だって、こんなの初めて見ました。
コンピューター管理されていることもあり、その項目が500から1000なんですって。
ただただ、圧巻ですね。」

オランダのスマートアグリを導入したいと考えた森川さん。
しかし、すぐに大きな課題にぶつかります。
台風の強風にも耐えられるよう低く作られたハウスの形状です。
オランダのように天井を高くするには、強度を高めたハウスを新たに作るしかなく、資金の負担が大きすぎるのです。

JAたまな 森川由浩さん
「こちらでは台風の襲来も度々ありますので、そういう場合の危険もありますし、コスト的な問題、初期投資がばく大にかかる。」



そこで今、森川さんは、現状のハウスで使えるコストを抑えたスマートアグリを模索しています。
一緒に取り組むトマト農家の梅野治行さんです。
去年10月に導入した計測器です。

トマト農家 梅野治行さん
「二酸化炭素濃度ですね、それと気温、湿度、照度まではかります。」

計測できる項目は4つ。
オランダのように自動制御はできませんが、これまで感覚で判断していた環境を一目で確認できます。
さらに、二酸化炭素を発生させる装置も導入。
ハウスの中に散布させる配管は、水道用のパイプをつなぎ合わせた梅野さんの手作りです。

トマト農家 梅野治行さん
「自分なりに考えてやりました。
コスト的にはだいぶ抑えました。」

収穫量が導入前より10%増加するなど、2人は手応えを感じています。

JAたまな 森川由浩さん
「まずはできることから徐々に始めていければなと思っています。」

日本の農地特有の課題解消に向けた試みもあります。
去年2月、東北大学の呼びかけで地元IT企業などが集まった研究会です。
日本の農地には、小規模の畑が複数点在する「飛び地」が多くあります。
収穫のタイミングなど、見て回るだけでも大きな労力がかかります。

そこで研究会では、複数の畑を同時にカメラで確認するシステムを開発しています。
映像はスマートフォンや携帯電話自宅のテレビに送られ、いつでもどこでも農作物の状態が確認でき、作業の効率化が図れます。
手軽に利用できるスマートアグリを目指し、今後は価格を抑える工夫を進める予定です。

東北大学大学院工学研究科 菊池務特任教授
「生産される作物や売れる値段によって、導入できるITのレベルはそれぞれあるし、身の丈にあったITを選べる、そういう環境作りが大事だと思います。」

“スマートアグリ” 日本の課題

●農業分野でのIT化はなぜ遅れてしまったのか

実際には、日本のスマートアグリの歴史というのは、オランダと同じぐらい、あるいはオランダよりも歴史が古いというのが事実です。
ただ日本の農業の場合は、多様な国土の中で、豊かな土壌の中で生産をしてきている。
そして優秀な農家の方が非常に多かった。
しかも日本の厳しい消費者の方々に、おいしい農産物を輸出していく、別に輸出しなくても国内の市場だけで十分足りていたというところがあって、せっかくスマートアグリのシステムを作っても、それに頼らなくても十分やっていけるというだけの事情があったというのが背景にあると思います。

●スマートアグリ導入の必要性はないのではと思ってしまうが?

今の状況はこれから続いていく、もしくは展開していくということがあれば、もしかしたらスマートアグリは必要ないかもしれません。
ただ現実には、生産者の方々は高齢化して、優れた技術を持ってる方々がこれから減っていってしまうだろう。
しかも市場に関しても、国内の市場はこれから縮小していくという中で、これから拡大していく市場は海外にあるとなってくると、恐らく変わってくるんじゃないかなと思っています。
実際、日本のスマートアグリが展開していくという部分でいくと、大きく2つの展開・可能性があるんじゃないかなと。
1つは、こういった優秀な生産者の方々のノウハウを生かして、国内の厳しい消費者向けに作っていく、そういった国内市場向けのスマートアグリというものと、海外の新しいマーケットに向けて、日本の農産物を大量に安定価格で輸出していくというスマートアグリの2つの展開方法があるんじゃないかなと思います。

●各地の産地のノウハウを生かしたスマートアグリとは

実際には、日本の農家というのは、北は北海道から南は沖縄まで、それぞれの地域に合わせておいしい農産物を作ってきました。
そういったもののノウハウというのをデータベース化して、それぞれの地域に合ったおいしい農産物を作っていくという、中小の規模でもやっていけるようなスマートアグリというものがあるんだろうと思います。

●輸出の場合はどうなるのか

実際には、オランダにしても、韓国にしても、それぞれの産地ごとのブランドで輸出をしているのではなくて、オランダ産のトマト、韓国産のパプリカという形で輸出しています。
ですから日本の場合も農産物を輸出していく場合には、それぞれの県とか産地ごとのブランドではなくて、日本、いわゆるチームジャパンといいますか、日本のブランドの中で輸出していく。
そのためには、沖縄・九州から北海道までが、同じような作り方で、同じような品質のものを作っていく。
そのために、スマートアグリのシステムをなるべく同じものにして、同じ品質のものを大量に作っていくというようなものを作っていく必要があるんじゃないかなと思います。

●日本の輸出競争力・農業競争力は高まっていくと思うか?

もともと日本自体のスマートアグリの研究は、オランダよりも歴史が古いという話をしました。
さらに、オランダに比べて実は日本は、九州とか沖縄とか、暖かい地域を日本の中に持っています。
これから人口が伸びていくのは、東南アジア、南アジアという緯度の低い、暖かい地域が中心です。
そうなってくると、もし日本の中で、そういった暖かい地域の中でも、安定的に野菜を作っていくスマートアグリのシステムが開発できれば、それを輸出産業に展開していくということができるんじゃないかなと思います。
オランダのようにシステムとして輸出して、ビッグデータを集めてまた強くなっていく。
日本にはそういった可能性が大きいと思います。

あわせて読みたい

PVランキング

注目のトピックス