クローズアップ現代

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No.33212013年3月6日(水)放送
丘陵住宅地に潜む危機 被災地からの警告

丘陵住宅地に潜む危機
被災地からの警告

丘陵地の地すべり被害“境界線”をめぐる苦悩

仙台市郊外の丘陵地にある折立地区です。
市の中心部から車で10分。
かつては閑静な住宅街でした。
2年前の震災で震度6弱の揺れが襲い、盛土の部分に地すべりが多発。
51軒に深刻な被害が出ました。
折立地区に暮らす庄子敏子さん、68歳です。
庄子さんの家の周りは、土地ごと地すべりで動きました。
隣の家との壁がせり出し、自宅に迫っています。

庄子敏子さん
「その上も取り外してほしいと言ったんですよ、危ないから。
余震のたびに不安なんですけれど、気をつけてくださいと言われてもどうしようもないので。」


被害は家の中にも及んでいます。
ガラス戸がきちんと閉まらないため、隙間に断熱材を詰めて寒さをしのいでいます。
家の片側が14センチ沈んだままです。

庄子さんの家の最も深刻な被害は、家が土地ごと2メートル動いてしまったことです。
境界線を越え、隣の家の敷地に入り込んでしまいました。

庄子敏子さん
「この辺(の境界)がこちらですよね。
そっくり全部、家も滑って2m下がっているわけですから。」

なぜ、復旧が進まないのか。
それは動いた土地の境界を巡って住民の意見がまとまらないからです。
折立地区では、地すべりで敷地がずれたり、変形したりして境界が動きました。
庄子さんは地すべり後の今、家のある場所を新たな境界にしてほしいと考えています。
その理由は、以前の場所に家を戻すためには、曳き家(ひきや)という方法で家を移動させなければならないからです。
さらにその後、土地を工事して元の位置に戻さなければなりません。
費用は1,000万円以上。
住宅ローンも残る中、支払える金額ではないといいます。

庄子敏子さん
「これを2m引っ張るということ自体がどう考えても無理だと思いません?
相当な費用もかかりますし、その間、私たちはどこかに自分で(家を)探して家賃を払って住まなくちゃいけないわけですよ。
とても、それはできないということで、今、何とかならないかな。」

一方で、住民の中には境界を元の位置に戻してほしいという人もいます。
斜面の下にある家では地すべりで、以前より土地が狭くなっていることがあるのです。
土地の値段が下がってしまうとして、以前の境界に戻すことを強く望んでいます。
動いた所を新たな境界線に決めようという人、動く前のもとの境界線に戻そうという人。
両者の間で意見がまとまらないのです。
このことは、今後に影響を与えかねません。
仙台市では今月(3月)から宅地の復旧工事に取り組んでいきます。
工事費用の9割以上が国の負担です。
来年度中に工事を終わらせるとしています。
しかし、工事の着工は境界線の合意が前提のため、折立地区の一部では工事を始められないおそれがあるのです。

今年(2013年)1月境界線の問題について仙台市が折立地区の住民に対し説明会を開きました。
もし、住民の意見がまとまらず、来年度中に工事が終わらないと判断した地区については着工できないと伝えられました。


仙台市 宅地復興部長
「境界がある程度、今回決まらないと工事はできません。
後で違ってましたとなったら、とんでもないことになりますので。」


住民
「ということは、これが個人で解決できなかった場合、この工事工程表の工事が終わるまでに解決できなかった場合は、当然、工事は行われないということになりますよね。」

仙台市 宅地復興部長
「その通りです。」

期間を過ぎると、工事は自己負担になるというのです。

仙台市 宅地復興局 北部宅地工事課 髙橋真一課長
「個人個人の間に行政は入れませんので、どちらかに味方することはできないということになりますので、申し訳ないですか、個人個人で判断をしていただく。
早めに(合意を)お願いしたい。」

境界線の問題が長引く中、やむなく自宅の解体をする人もいます。
折立地区では被害のあった51軒のうち、すでに7割以上が自宅を解体しました。
この土地に住むのを諦めるという人も出始めています。

ゲスト安田進さん(東京電機大学教授)

●境界線を個人どうしで解決

これは難しいですね。
ですから、今回の場合、コーディネーター制度というのを設けられまして、そういう住民の方が相談できる窓口ですね、これが設けられたんですね。
ですから、そういうことで住民の方は相談されたらいいと思いますね。

●境界線を巡る話し合いで難しい点

いろいろあると思うんですけどね、例えばひな壇状になっている所がありまして、で、滑っていくといったときに、ここらが場所によって土地が広がったり狭まったりしている所があるんですね。
例えばここが止まってましたら、滑ってきたら上の段は広がりますね。
引っ張られるんですね。
下の段は縮んでいきます。
下の段のほうは、土地が狭くなると上の段は広くなる。
そうすると、じゃあ境界、戻そうかということで、そのひな壇のところの擁壁を動かそうとすると工事が大変ですよね。
そうでなくて、上のほうが土地が広がったんで、じゃあ下の段の方に費用を補償しようかという話になると。
そうすると、またその費用をいくらにするかとか、そういう問題も起きてくるわけですね。
ここらが被災されたうえに、そういうふうな費用負担とか非常に大変だと思います。

●地すべりの問題の厳しい点

宅地の被害として、もう一つ、液状化がありますけれども、これと比較すると分かりやすいんですが、液状化の場合には家がめり込みながら傾いていくと。
これは家自身はあまり壊れませんので、もう一回持ち上げて下をまた補強するとかして、またその家に住めるんですね。
ところが、こういった地すべりの場合は、滑っていくとき土地が広がったりしますね。
そうするとそこに地割れが起きると。
そこに家があったとしますと、その家の基礎も一緒に引っ張られたりするんですね。
そうすると、家自身がもう壊れてしまうわけです。
そうすると、もうそれは住めないので、解体して造り直さないといけないといった違いがありますね。

●なぜ弱い地盤の上に住宅地が造られてきたのか

2つ理由があると思うんですけれども、1つは盛土というのも締め固めていけば強くなるわけです。
ところが、かつて古いころは、そういったどれぐらい締め固めればいいかという基準があまりはっきりしていなかったわけですね。
最近ははっきりして来ています。
したがって緩い状態が多い。
もう1つは、谷ですから、やはり水が集まってくるわけですね、盛土に。
ですから盛土の中に水が集まって、水位が上がってくるわけです。
水位が上がってくると、非常に滑りやすくなるんですが、それは例えば土が重なっていると、これがぐっと押さえつけてると滑りにくいわけですね。
その地下水が低いときは、ぐっと押さえつけてるんですが、これ、水位が上がってきますと、この土に浮力が働いてきますよね。
その浮力のために、これがちょっとグーっと押さえているのが緩む形になるんです。
そうするとどんと滑りやすくなる。
したがって、地下水を上げないことが大切なんですね。
ですからそのためには、盛土する前に一番底に穴が開いたパイプとか、そういった工夫をしておかないといけないわけなんです。

●他にも多くの地すべりが起きているが

これは私、本当、今回びっくりしましたですね。
大体東京だとか、仙台とか、大都市の近郊だけこういったもので出来てると思ったんですが、もう本当、全国の中小の都市までこういった造成宅地がたくさん出来てきているといったことですね。
これはどんどん今、増えていると思います。
そういったリスクがですね。

地域で進めた宅地の耐震対策

2007年の新潟県中越沖地震で地すべり被害があった柏崎市の山本団地です。
およそ130世帯のうち49戸が大きな被害を受けました。
しかし、地震から僅か2年でほとんどの世帯が復旧することができました。
山本団地が早く復旧できたのは、地すべりで動いた境界線の問題をスムーズに解決できたからです。

震度6強の地震で地すべりが発生。
柏崎市は道路と家が接する境界線について、道路の復旧を優先させ、地すべりでずれた境界線を新たな境界線と決定しました。
一方、家と家の間の境界線は住民どうしの話し合いで決めました。
境界線のずれが比較的小さかったこともあり、多少の面積の変化には目をつぶることにしたのです。
それぞれの事情に応じて迅速に復旧を進めました。
その結果、地震からおよそ2年で工事は完了し、多くの住民が元の住まいに戻ることができました。
さらに山本団地では、今後の地震に備えるため、住宅地の地盤改良工事も行いました。
全国でも例のない事業です。
当時の住民グループの代表、上野浩明さんです。
上野さんは工事の費用を捻出するため、ほかの住民を説得しました。

地震当時の住民グループ代表 上野浩明さん
「この道路の中心をあんきょ管の排水が走っている。」

沢を埋めて造成した盛土は、地下水を多く含むため、1キロ以上にわたって地下水を排水するあんきょ管を設置。
地盤が滑るのを防ぐ設備です。

地震当時の住民グループ代表 上野浩明さん
「全体の宅地から流れてくる水が集結してここに流れてくるので、それだけ絶えず宅地のなかに水が滞留していたことがよく分かる。」

さらに家を囲む壁は、石積みのブロックからコンクリート製のものに強化されました。
事業費は1億6,000万円。
4分の1の4,000万円を52戸の住民で負担し残りは国、県、市が負担しました。

上野さんはさらに自分の家の土地にも耐震化工事を行っています。
建物の地下に深さ4メートルの鉄のくい50本を打ち込んだことで、地震で家が傾くのを軽減することができます。
費用は1,500万円でした。

地震当時の住民グループ代表 上野浩明さん
「家は頑丈だったけれども、地盤がやられてしまって住めなくなった。
この土地のなかでも典型だと思う。
長くここに住むためにもう一度、地盤改良、地盤を強くすることを改めて感じましたので、その地盤を補強する工事をしました。」

なぜ進まない 丘陵住宅地の対策

しかし、全国の自治体での取り組みはあまり進んでいません。
国は2006年から盛土の分布図の作成や地盤改良工事を進めるよう求めてきましたが、事業に取り組み始めた自治体は、まだ3分の1以下です。


国土交通省 都市防災対策推進室 加藤永室長
「まだまだ調査ができていない所が多いと認識しています。
各公共団体で進めている大規模盛土造成地の把握のための調査。
これをしっかりと進めて、全国的にどこにそういった危険性のある場所があるのか、こういったことをまず把握して、それを広くお知らせをしていくことをとにかく早く進めていきたい。」

なぜ取り組みがなかなか進まないのか。
人口370万の横浜市です。
7年前から行ってきたのが盛土の住宅地の洗い出しです。

盛土の住宅地の分布です。
横浜駅周辺から住宅地の造成が始まったのは昭和30年ごろから。
次第に市内全域に広がっていきました。
現在では、およそ3,500か所に盛土の住宅地があることが分かりました。
しかし、盛土のすべてに地すべりの危険性があるわけではありません。
危険性を判断するにはボーリング調査などが必要で、すべてを調査する場合、35億円の予算が必要です。

横浜市 宅地企画課 久松義明課長
「3,500か所の盛土があるから、どうしようか考えることが大変で、非常に時間もかかるし大変ですね。」

さらに全国の自治体は難しい問題に直面しています。
住宅地の危険性について調査し、公表することは土地の価格に影響を及ぼしかねないからです。
160か所の地すべり被害を教訓に仙台市では今、市民への情報公開を進めようとしています。

今年度中の完成を目指しているのが盛土の詳しい分布図です。
赤が盛土、青が切土のエリアです。
被害を最小限に食い止めるためにあえて公表することにしたのです。


仙台市 開発調整課 早坂宏之課長
「何人かの方から、そういう情報(の公開)は止めたらという声があったのは事実。
我々が期待しているのは、これを使って次の発想に変わってほしい。
自分の宅地をどうやって今後、減災・防災に取り組むか、そういう基礎資料になる。」


●有効な手だては確立しているのか

これはもう、以前からありまして、例えば1つは、地下水を全体に下げるということですね。
それからもう1つは、硬い地盤の所までくいを打って全体を留めると、それからアンカーを硬い所など打ち込んで、滑るのを防ぐと。
斜めにですね。
こういった工法がずっと確立されてきています。

●対策を打つのにどのあたりで止まっているのか

結構、全国の自治体、そういう調査をやっておられて、ハザードマップですね、そういうものも作ってきているわけですが、それも公表するかしないかっていうところで、公表すると地価が下がるとか、そういう問題も起きているんで、そこで止まっている自治体もありますし、もう少し進んでいよいよ地盤調査やろうかといったところまで大体きている自治体もあります。
ですから、それから先の対策まで考えるところまではいってないということですね。

●地盤対策をしようとすると負担もかかるのではないか

そうですね、これは一応、今のやり方ですと住民の方も一部負担していただくということと、それからその地区の住民の方の対策取りますよという合意形成が必要なんですね。
ですから、ここら辺りが、実際の対策となると、大きな問題としてあがってきます。

●宅地の耐震化は置き去りにされてきた感があるが

これはやはり、まず住民の方がそういった危険性を認識していただくことが大切だと思うんですね。
よそで起きていることをちゃんと見ていただいて、やはりここは危ないんだと。
じゃあ、その住民の方とそれから国と自治体と一体になって対策取っていくといったことを今後、やっていかないといけないんじゃないかと思いますね。

●事前にやることで自分の家を守れるのか

守れるし、さらにそれだけではありません。
いろんな被害も与えますんでね、ほかの方にも。
それを防げるということです。

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