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No.33202013年3月5日(火)放送
沖縄 長寿崩壊の危機 ~日本に迫る“短命化社会”~

沖縄 長寿崩壊の危機 ~日本に迫る“短命化社会”~

沖縄 長寿崩壊の危機 日本短命化の兆し?

10年前に出版された沖縄の長寿の秘密に迫ったこの本。
11か国語に翻訳され、世界的なベストセラーとなっています。
沖縄の健康的な食生活や、ストレスの少ないライフスタイルなどを見習えば、長生きが実現できると記されています。
この本をまとめた、琉球大学名誉教授の鈴木信さん。
沖縄の長寿研究の第一人者です。
今回の結果に衝撃を隠せません。

琉球大学 名誉教授 鈴木信さん
「かつては世界に冠たる長寿の島だった。
それが今、没落したというのは非常に残念。」




鈴木さんは、まさかこれほど急速に若い世代の短命化が進むとは思ってもいませんでした。
65歳以下の世代の早すぎる死は、男性だけでなく女性にも当てはまります。
このままいけば近い将来沖縄の長寿が完全に崩壊するのではないかと危惧しています。

琉球大学 名誉教授 鈴木信さん
「同じことが男性、女性でも言えますね。
65歳以下の人は年齢が下がるほど、死亡率が高くなることが問題。」

沖縄市で薬局を経営する58歳の男性。
ちょうど全国平均よりも短命になり始めている世代です。
5年前、死のふちをさまよいました。
仕事の最中に突然心筋梗塞に襲われ、緊急手術で一命を取り留めたのです。
そのときCTで男性の心臓を撮影したところ、思いもよらないものが写っていました。
 

黄色で示した部分、脂肪です。
心臓の周囲を1センチもの厚みで取り囲んでいました。
体内の過剰な脂肪が、心筋梗塞を引き起こしたのです。



「あんなにべっとり脂がのっていると。
外科的に開けて取れるものなら、とってもらいたいと思いました。」

脂肪のとりすぎと関連する病気の増加。
それが沖縄の若い世代に短命化をもたらしていると指摘する研究者がいます。
公衆衛生学が専門の渡邉智之さん。
この30年で、沖縄では全国と比べて相対的にどんな死因が増えているのか分析しました。
若い世代では自殺も考えられましたが、全国と比べて自殺の目立った増加はありませんでした。
沖縄で最も増え方が顕著だったのは、循環器系疾患。
心筋梗塞や脳梗塞などの、いわゆる生活習慣病です。

愛知学院大学 准教授 渡邉智之さん
「食生活と関係があるような循環器系疾患というものが、寿命の延びを引き下げるようなかなり大きな要因となっていると考えられる。」


なぜ全国に比べ、沖縄の特に若い世代で循環器系疾患が増加しているのか。
琉球大学准教授の等々力英美さんは50年以上前に起きた食生活の大きな変化が影響していると考えています。
等々力さんは、古い資料の中から、それまで沖縄にはなかったある食べ物が急速に食卓に普及していたことを突き止めました。
アメリカ軍占領下の1960年ごろ、肉の加工品などが海外から大量にもたらされたのです。

野菜や芋類中心だった食生活は、肉類の多い食事へと大きく様変わりしました。
全国に先駆けた食の欧米化です。
その結果、県民の摂取カロリーに占める脂肪の割合は急激に上昇。
70年以降は、国が定める適正値の上限を上回る高い水準のまま推移しています。
全国平均よりも短命な65歳の人は、脂肪摂取が急増したこの10年間に成長期を過ごした世代です。
それよりも若い世代は、子どものころから高脂肪の食生活にさらされ続けてきたのです。

琉球大学 准教授 等々力英美さん
「小さい頃に食べた食事のパターンが、今になっても影響を及ぼしていると考えていい。
沖縄県民の食事や運動の改善に手を打たないと、今後大変なことになる。」

沖縄 長寿崩壊の危機 日本に迫る“短命化社会”

ゲスト大屋祐輔さん(琉球大学教授)

●食事が変わったことの影響が出てきているのか

そういうふうに考えております。
先ほどの図にありましたように、食生活が激変して、その結果、脂肪の摂取が非常に増えております。
そのせいで肥満も増えている。
さらに、そのせいで循環器疾患が増えているんじゃないかと考えております。
沖縄県では成人男性の2人に1人の方が、肥満であるということも報告されています。
これは全国平均で3人に1人であることと比べると明らかに多いというふうに考えます。

●脂肪がつくことで循環器の病気が増えるのか

もともと脂肪というのは、皮下脂肪っていう形でついてくるわけですけれども、それが心臓の周りまでついてくる。
これ自身が、すでに異常な状態になっていると考えていいと思うんですが。
そのためにその脂肪が、心臓の血管に働きかけて動脈硬化を起こしたりですね、炎症を起こしたりして、心筋梗塞を起こしてくるということもありますし、脂肪自身がいろんな所にくっつくということで、例えば血管の中に入ってしまう、それ自身が動脈硬化を進めるということになります。
結果として心筋梗塞、そのほかの脳梗塞、循環器疾患も増えていくというわけです。

●糖尿病も増えてくるのか

そのような報告もあります。
例えば、心臓の周りだけじゃなくて、骨格筋に脂肪がついてくる。
いわゆる「霜降り」といわれているものですけれども、そのような状態になりますと、もともと筋肉は、糖分の代謝を行ったり、コレステロールの代謝を行ったりしている場所でもありますので、そのような働きが落ちてくる。
つまり脂肪が筋肉にたまることで、コレステロール血症や、それから糖尿病なんかも起きやすくなるということが分かってきています。

●平均寿命低下の男女差について

そもそも、動脈硬化性の疾患、心筋梗塞や脳梗塞に関しては、女性のほうが男性よりも10年ぐらい遅く発症するといわれてます。
これは女性ホルモンが、女性をそのような病気から守っているということになっております。

一方、脂肪の観点からいきますと、ここに示しますように、女性が女性ホルモンで守られている間というのは、脂肪は主に皮下脂肪としてついてきます。
ところが閉経になって、女性ホルモンが減ってきますと、このように内臓脂肪に変わってくるわけです。
皮下脂肪のほうは体にとって悪いことはせず、むしろいいことをしてるという説もありますが、内臓脂肪はさまざまな毒素を出してきて、動脈硬化を起こしたりというようなことを起こす。
つまりメタボリックシンドロームになりやすいと言われています。
男性は最初から、このような状態、内臓脂肪がつきやすい状態にありますので、その差10年というのがここに出ているのではないかと考えられます。

●全国的に若い世代の短命化の可能性もあるのか

私はそういうふうに考えてます。
特にこの30代のほうが、一番高くて、27%超えてます。
徐々にこれが右側にシフトしていきますと、まさに沖縄と、この30代、40代は同じ脂肪摂取量になっておりますので、これが全国に広がっていく。
つまり、全国では沖縄に10年から20年遅れて、この脂肪の問題、肥満、そして動脈硬化っていうのが出てくるんじゃないかなと考えています。

なぜやめられない? 高脂肪食

アメリカで報告されたある研究成果に今、注目が集まっています。
脂肪のとり過ぎが体に悪いと分かっていてもついつい食べてしまうのはなぜなのか。
その驚くべきメカニズムが分かってきたのです。
研究リーダーのジーン・ジャック・ワンさんです。
脂肪分など高カロリーな食事をとり続けて肥満した人の脳を詳しく調べました。
通常、人が物を食べると、脳内ではドーパミンという物質が放出されます。
これがD2受容体と呼ばれる受け皿でキャッチされると、やがて満足感を感じて食欲が収まります。
ワンさんは、高カロリーな食事をとり続けた人たちの脳にあるD2受容体の量を調べました。
これは健康な人の脳の断面を上から見たものです。
D2受容体の多い場所が赤く示されています。
一方、こちらは高カロリーな食事を食べ続けている人の脳。
赤い部分が大幅に小さくなっています。
D2受容体が、およそ20%も少なくなっていたのです。
高カロリーな食事は、脳内に大量のドーパミンを放出させます。
過剰な興奮を抑えるためにD2受容体が減ったと考えられます。
D2受容体が減った脳は少量のドーパミンでは満足感を得られません。
そこで、ますます高カロリーの食事をとり続けてしまうのです。
実はこのD2受容体の減少は、麻薬中毒やアルコール依存症の人の脳にも共通して表れることが分かっています。
とり過ぎは体によくないと分かっていてもその欲求を抑えることができない。
脂肪分など、高カロリーな食事にはそうした深刻な危険性があるとワンさんは考えています。


ブルックヘイブン国立研究所 ジーン・ジャック・ワン博士
「これは薬物中毒にとてもよく似た状態です。
コカインや覚醒剤の使用は法律で禁じることができますが、高脂肪・高カロリーの食事はそういう訳にはいきません。
まさに人類にとって、今後100年の大問題なのです。」

アメリカではテレビCMなどで脂肪分のとり過ぎに繰り返し注意を呼びかけています。
一方、デンマークでは、脂肪分の多い肉やチーズなどの食品に税金をかけ、摂取を抑制する政策を打ち出しました。
しかし、いずれも目立った成果を上げられていません。
高脂肪食からの脱却は、世界中で大きな課題となっています。

どうすれば長寿は守れるか

そんな中、長寿崩壊の危機にひんする沖縄で、意外な取り組みが成果を見せ始めています。
高脂肪の食生活から抜け出せない人たちに、地域ぐるみで丹念な個別指導を行う取り組みです。
まずはボランティアが一軒一軒回って、健康診断に誘い出します。
検診では、高脂肪食による病気の危険性が高い人を洗い出します。
重要なのは検診を受けたあとです。
会場の出口で、保健師がすかさず声をかけます。

「(今日受けた)検診の結果説明会をやる予定なんですよ。」

検診の結果は必ず個別面談で説明しているのです。

「ちょっと40分ぐらいお時間頂きたいんですけど。」

この日、個別面談を受けた屋嘉部菊枝さんです。

「体重増えたかな。」

屋嘉部菊枝さん
「体重増えてるね。
あー怖い。」

「菊枝さんにとっては、(この体重は)多いのかもしれない。」

最近、体重が目立って増えていることが指摘されました。
無意識のうちに脂肪分をとり過ぎている可能性があります。
そこで栄養士から、さまざまな食材にどれだけ多く脂肪が含まれているかが説明されました。

「だいたい全部合わせて、30グラムぐらい(油が)入っています。」

屋嘉部菊枝さん
「油はオリーブオイルしか使ってないけど。」

「実は、例えばごま油、サラダ油、オリーブオイル。
どの油でもカロリーは同じなんです。」

屋嘉部菊枝さん
「へ!?」

脂肪についての正しい理解を促し、みずからの食生活に潜む問題点に気付いてもらうことがこの個別指導のねらいです。
指導によって食生活を改善することはできたのか。
2か月後。
保健師が屋嘉部さんの家を訪ねました。
屋嘉部さんは早速、毎日の料理に使う油の量を大幅に減らしていました。

屋嘉部菊枝さん
「量も少なくしてる。
(今までの)半分。」

「変わったから、いいと思うよ。」

一人一人に寄り添ったサポートを受けることで食生活への意識が変わり始めています。

南城市役所 保健師 井上優子さん
「やっと高齢者のひとり当たりの医療費が下がってきました。
今まではありえないことだと思っていたけど、これが下がってきたということ、糖尿病の重症の人たちが減ってきたと。
これがデータとして出始めているところにすごく手ごたえを持っています。」

どうすれば長寿は守れるか

●検診の重要性

検診というのは、非常に重要だというふうに考えております。
なかなかですね、自分の体のことというのは分からないので、検診に行って初めて採血して分かったりとか、体重にしても、検診に行って測ったら増えてるねって、そこで気が付いて、健康への第一歩が始まるんじゃないかなと考えています。
さらに地域ぐるみでやっているということが、この地域、非常に評価されることだと思うんですね。
先ほども出てましたように、運動、健康増進の委員の方たちがボランティアで各家を回って、検診に行くように進めたりとか、それから保健師さんたちが、少し数値の悪い人たちに集中的に詳しくご説明したりと、そのような取り組みがコンビネーションでうまく行われてるってところが、いい結果につながってるんじゃないかなと考えます。
この中の一つの地域では、20%だった検診率が60%まで上がっております。
ですから非常にいい結果が出ている地区だと思っています。

●働き盛りの世代や子どもへのアプローチ

現在、沖縄県と琉球大学で、健康増進事業というのを始めています。
これはその中の一つなんですけれども、子どもたちの食育のアプローチというのをきっかけにして、家族、そして地域の健康増進を図っていこうというものです。
子どもたちに給食で、野菜を食べましょうとか、昔の沖縄の伝統的な健康的な食事を食べてみましょうということで、それを出していくと。
子どもたちはそれを食べて、このようなものが健康食だということを、家に帰ってお父さん、お母さんたちに説明すると。
そうすると忙しくて、なかなか健康に関心を持たない世代にも子どもたちから聞くことで、それを自覚して、自分たちの生活を変えていってくれるんじゃないかという取り組みです。

●食事・生活習慣について

現代の食事は、欧米化してしまってます。
脂肪も多いので、普通どおりに食べて生活していると、もう肥満になってしまう可能性が非常に高いと思っております。
むしろ、欧米では昔ながらの和食が評価されて、健康食だと言われています。
脂肪も少ないです。
ですから、私たちはその昔なりの食事というものを思い出しながら、一つ一つの食生活を変えていく、そして沖縄の長寿食というのもありますので、沖縄のほうでは、長寿食をもう1回復活させようということで、現代の食生活にとり入れていっています。
運動も大事です。
ですが運動だけじゃなくて、食生活と組み合わせて改善して、トータルとして生活習慣をよくしていただきたいなと思います。

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