クローズアップ現代

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No.33102013年2月14日(木)放送
ハンターが絶滅する!? ~見直される“狩猟文化”~

ハンターが絶滅する!? ~見直される“狩猟文化”~

ハンターが消える!? 危機に立つ獣害対策

自然の生態系を脅かし始めた野生動物の増加。

「おはようございます。」

神奈川県西部の山岳地帯丹沢に集まったのは狩猟免許を持つ人々の集まり、猟友会。
多くが自営業者や会社を定年退職した人たちです。
神奈川県から、およそ2,000万円で年間400頭のシカを捕獲する管理捕獲を委託されています。
丹沢ではシカの増加で植物が食べ尽くされ、表土が流出。
貴重な植物まで失われています。
一方でシカの好まない植物だけが生い茂るなど、自然のバランスが崩れ始めています。
この日動員された猟友会のハンターは、およそ20人。
自然との対話を通じてその恵みを体感したいと入会したにもかかわらず、動物の駆除を担わされることに複雑な思いを抱く人も少なくありません。

「猟だったら『あ、いいか』って思うでしょ。
小さかったりすると。
これは違うからね。
数減らすために撃たなきゃならない。」

この日倒したシカは全部で13頭。
肉は自然の恵みとして利用されることなく、その場に埋められました。
増え続ける野生動物に対処するために始まった、管理捕獲。
しかし今、メンバーたちはシカより手ごわい課題に直面しています。
高齢化です。
メンバーのほとんどが60歳以上のため、野山を駆け巡る体力が年々衰えてきているというのです。
今年度は、目標の半分余りしか駆除できずに終わる見込みです。

神奈川県猟友会 熊澤収会長
「こんなことやってたらば、つらいことが。
若い者が入ってこないかぎりは、もうこの猟友会は当然見通しは暗い。
絶滅危惧団体ですから、絶滅危惧種ですよ。
もう本当にあたかも。」

全国的に見てもハンターの数は減少しています。
都道府県から免許を与えられた人は、70年代の半分以下に落ち込んでいます。
中でも深刻なのは若い世代の激減。
野生動物が増える中、将来狩猟の担い手がいなくなるおそれがあるのです。

「全校生徒は校舎内を通って避難してください。
ただいま学校内にイノシシが入っております。」

狩猟者の減少は、人間が暮らす地域と野生動物の住みかとの境界線を大きくゆがめています。
増え続ける野生動物が町にも出現。
農作物への被害は年間200億円を超えました。
さらに、野生動物が暮らしてきた国立公園でも、20か所以上で植物が食い荒らされるなど深刻な被害が出ています。

増え続ける野生動物の勢いにどう対処していけばよいのか。
環境省が打ち出したのは、若者を狩猟の世界にいざなうためのイベントの開催です。
取れた獲物の解体方法。
シカやイノシシを使ったジビエ料理の試食まで。
若者に狩りの魅力を感じてもらおうと、さまざまなプログラムが用意されました。
しかし、みずから生き物を殺すことをためらう若者を勧誘するのは容易ではありません。

「周りの目とかも気になる。
ハンターなのっていう。」

「実際に動物を殺すっていうことにはすごく抵抗がある。」

増え続ける野生動物に対し減り続けるハンターの数。
事態を打開するにはそれでも若い猟師の存在が不可欠だというのが、環境省の考えです。

環境省 鳥獣保護業務室 松尾浩司狩猟係長
「本当に社会的な役割を持ってますので。
やっぱりそういうことも今、大事で求められている。
これを踏まえた形でやっぱり若い方々にはやっていってほしいなと。」

人間と野生動物 崩れたバランス

ゲスト千松信也さん(猟師)

●動物の増加をどのように実感しているか

僕自身、狩猟を始めて今年(2013年)で12年になるんですけれども、僕が猟を始めた頃よりもやっぱり圧倒的に、特に京都の場合はシカが増えていて、もう露骨にそれは実感として感じますね。
僕が暮らしてる辺りの農地っていうのは、全部がシカが飛び越えられないような2メートルの柵や電気柵とかに囲まれて、サルが来る地域だったら屋根まで塞ぐほど、本当におりの中で農業をしないといけないようなぐらい、里山の風景というのは一変してしまっているというのが現状だと思います。

特に山間部の農家の方っていうのは高齢化してきて、農業を続けていくのが大変なところに、追い打ちをかける形で野生動物の被害というのがあって、野生動物は害獣といわれています。
動物に害獣なんて名付けるのは好きじゃないんですけど、実際に被害を受けている人たちは、本当に深刻な状況になっている。
ただ、野生動物は害を与えるつもりはないんです。
そもそも日本の自然を人間が植林とかいろんな形で変えてきた中で、人里近くの里山というのも放置して、そこに餌が豊富にあるので動物たちが寄ってくる。
切り開いた道路沿いに生える雑草を食べにシカが出てきて、車にひかれたりとか。
その人里のすぐそばに来たら、そこにおいしそうな野菜、農作物がある。
人間が森を変えたことによって、増えたシカが普通に食べに来ている。
それだけなんですけど、それが人間にとったら深刻な問題で、憎しみの連鎖・悪循環が起きてると思います。

●生態系はどうなっていくのか

僕も山に入ってる実感としては、登山ブームとかいいますけど、人間が自然への関わりっていうのをどんどん放棄しているんですね。
林業にしても、山間部の農地にしても、狩猟にしても、そんな中で自然との関わりというのを放棄すると。
さんざんこれまで人間が自然に手を加えて、手付かずの自然なんてもう日本にはほとんど存在しないです。
昔から人間というのは自然の一部として、関わりを続けてきた。
さんざん手を入れて、ある一方でひどいことをして、それをそのまま放置するっていうのは、それ自体がさらなる自然破壊。
決して自然は、そのまま放置しておいていい状態ではないというのが現状だと思います。

見直される“狩猟文化” 野生動物との共存

高い狩猟の技術を持ち、野生動物を絶やさず増やさず利用し続けてきた人々がいます。
マタギと呼ばれる猟師集団です。
このマタギに、去年(2012年)久しぶりに新人が加わりました。
町にIターンでやって来た大石紘子さんです。
美大生だった大石さんは、民俗学の実習でマタギの猟に参加。
そこで、山と野生動物を知り尽くし、必要な分だけ命を頂くというマタギの姿に魅せられたといいます。

大石紘子さん
「森との付き合い方、向き合い方がすばらしいというか。
それでここに通いたいって思った。」

この日の狙いはノウサギです。

「ほら、行った、行った行った!」

大石紘子さん
「取れました。
おいしく頂きます。」

恵みを授けてくれた山への感謝。
そして、命を奪った獲物への供養の気持ちを込め、肉を頂きます。

大石紘子さん
「本来生き物を食べるって、こういうことなんだなって思いますね。」

ふだん大石さんは、町役場で鳥獣対策の仕事をしています。
この資料は獲物を取り過ぎないように、マタギが30年以上前から記録してきたクマの生態調査です。
森の宝であるクマと共存しながら狩猟が続けられるように、子連れや冬眠中には狩りは行いません。

大石紘子さん
「先祖の代からそうやって守ってきて、自分たちもそうやって守って、それを後々に残していきたいという思いがあって、継続してそこの森の恵みを得ると。
そういう思いで森と向き合ってるんですよね。」

見直される“狩猟文化” 始まった後継者の育成

野生動物の生態を知り尽くして狩りをする。
狩猟文化の専門教育が始まっています。
酪農学園大学に、日本で初めて作られた狩猟管理学研究室。
狩猟の知識や技術を身につけた野生動物を管理するプロを育成します。
動物が生態系のバランスを崩さないように管理するには、行動範囲を正確に知る必要があります。
そこで大学では最新の発信器を使い、季節ごとに移動するシカの動きを把握。
こうして初めて、正確な個体数を知ることができます。
把握した数に基づいて、動物の数を調整するための追跡方法も学びます。

酪農学園大学 伊吾田宏正准教授
「ここで休息してる(シカの)寝跡。
ちょうどシカの大きさくらいにポコッと沈んでるでしょ。」

射撃のテクニックも、教官の伊吾田准教授みずから手ほどきします。

酪農学園大学 伊吾田宏正准教授
「左手はストックを握って、この上に銃を載せる。」

大学ではすでに120名が狩猟免許を取得。
多くが、野生動物と向き合う第一線で働いています。

酪農学園大学 伊吾田宏正准教授
「野生動物管理の重要なパートとして、狩猟の持つ価値をしっかり見直して、後世に伝えていくべきだと思います。」

復活なるか“狩猟文化” 産業化を目指して

狩猟文化を地域に復活させるためには、産業として成り立たせる必要があります。
4年前(2009年)、岐阜県で狩猟を中心とした町おこしを行う団体「猪鹿庁」を立ち上げた、興膳健太さんです。
興膳さんたちは野生動物の捕獲、食肉への加工、そして製品の販売まで、すべてを地域で担う狩猟の6次産業化を目指しています。

猪鹿庁 興膳健太さん
「新しい猟師の、狩猟者の世界が増えるということにもつながるし、獣害も減るということにつながるというふうに思ってるんですね。」

郡上市では、多い年には年間1億円を超える野生動物による被害が出ていました。
興膳さんはここで、住民による捕獲の仕組み作りを進めています。
猟師が考えたわなを興膳さんたちが作り、それを住民に貸し出します。

この家では去年12月、シカ1頭の捕獲に成功。
それ以降畑の被害が減りました。
捕獲した野生動物を食肉として流通させるには、保健所の許可を受けた解体所が必要です。
しかし地域にはこうした解体所が少ないため、ほとんど食材として流通してきませんでした。
そこで興膳さんは今、県と共に流通の仕組み作りを始めています。
地元の猟師に衛生知識を持ってもらい、許可を受けた解体所や食肉工場を増やすねらいです。

岐阜県 鳥獣害対策官 酒井義広さん
「自家消費の獣肉の世界を、できるだけ消費拡大に向けて進めていくという取り組みでございますので、期待をしているところです。」

そして商品開発。


食肉加工会社 三島英巳代表
「私、シカ肉っていうのは焼いて食べるのが一番おいしいと思うんですね。」




地元の食肉加工会社と共同で、シカ肉を使った加工食品の研究開発をしています。
シカ肉は高温ではパサつくため、石窯を使ってじっくり焼き上げるなど、試行錯誤を繰り返しています。

「どうぞ、いかがですか?
ぜひ一度食べてみてください。」

この日、興膳さんたちは地元の朝市でシカ肉を使った新商品の試食会を開きました。

「おいしいわ。」

「ありがとうございます。」

反応は上々。
興膳さんの、狩猟文化を地域に広げようという模索が続いています。

猪鹿庁 興膳健太さん
「野生動物とどうつきあっていくかっていうのをちゃんと考えていけば、きっと資源に変わっていくと思うので。
それは必ず中山間地域のチャンスにつながると思います。」

見直される“狩猟文化” 野生動物との共存

●今の取り組みをどう見たか

やはり山間部では今、野生動物というのは自分たちの敵だと、憎しみの対象としか見られてないと思うんですけど。
それがやっぱり自分たちにも恵みを与えてくれるんだっていう形での取り組みというのは大変意義があるし、重要だと思います。

●産業化が行き過ぎると乱獲のおそれも出るが

実際、これでどんどん取って、どんどん売ればもうかるということになったら、またそれは大変。
一気に地域の個体群が絶滅するという問題も出てくるんで、それこそああいうマネジメントというのを、多い時期からしっかり同時並行でやっていく。
それは大変大事なんじゃないかなと思います。

●個体数の把握と産業化の並行が大事なのか

無制限にいろんな形で、それぞれの人が取って、取って、どんどん売れみたいな形になるのはよくないですから。
同時並行でやっていかないといけないと思います。

●人と動物のバランスを取り戻すために何が必要か

日本の人たちって、魚とか野菜って、すごく旬を大切にするいい文化を持っていると思うんですけど。
肉に関して言うと、ほとんど家畜の肉が日本人の食卓には上りますので、四季ずっと同じ肉が上ってくると思うんですね。
それに対して野生動物の肉っていうのは、秋にドングリを一番食べたときのイノシシはすごく脂が乗っておいしいし、でも年が明けて発情期に入ったオスはちょっと臭かったりとか。
で、若い個体の肉は柔らかい。
それぞれの特性を理解したうえで、おいしいタイミングで食べる。
自分たちの食文化っていうのを含める意味で、自然との関わりというのが出来ていったらいいんじゃないかなと思います。

●動物の急増に対して自然に向き合える形とは

僕自身は、いろんな関わり方があると思うんですけど、やっぱりそこの地域で暮らしながら、そこからの恵みを頂いていく生活者としての猟師っていうのが、もっと各山間部、地域で増えていく中で、自然との自分たちとの関わりっていうのがよりよいものになっていくんじゃないかなと思ってます。 動物と人間のすばらしい関係っていうのを再構築したい、そう思ってます。

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