クローズアップ現代

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No.33062013年2月6日(水)放送
ヒッグス粒子を超えろ ~日本の巨大加速器計画~

ヒッグス粒子を超えろ ~日本の巨大加速器計画~

夢の巨大加速器で宇宙の謎に迫れ

宇宙はいったい何で出来ているのか。
銀河や星、そしてわれわれ人間はなぜ存在しているのか。
この人類にとっての究極の謎を解き明かす大きな手がかりが、すべての物質の大本となる小さな小さな粒素粒子を見つけること。

東京大学にある宇宙研究の拠点でリーダーを務める村山斉さん。
村山さんをはじめとする物理学者たちはヒッグス粒子に続く未知の素粒子いわばポスト・ヒッグスについて考え始めています。

東京大学数物連携宇宙研究機構 村山斉機構長
「そのヒッグス粒子の本当に家族、親戚がたくさんいるはずなんですね。
ですから、その新しいファミリーの最初の一人を見つけたんだ。
ここから、いわば芋づる式に次のものが出てくるんじゃないかと。」

素粒子について、さまざまな仮説がある中で有力とされている理論があります。
これまでに見つかっている素粒子は、ヒッグス粒子を含めれば17個。
これらの素粒子には、まるで鏡に映したかのようにそれぞれパートナーとなる素粒子が存在すると考えられているのです。

東京大学数物連携宇宙研究機構 村山斉機構長
「いろんな素粒子が見つかってきたわけですけれども、そうやって見つかってきた素粒子のある意味で影の粒子もう一つ影武者のようなものが一個一個あるんだ。」

それらを見つけるために欠かせない実験装置。
それが巨大加速器です。

ヒッグス粒子を見つけた加速器はスイスのジュネーブ郊外にある研究所、ヨーロッパ合同原子核研究機構・CERN(セルン)にあります。
CERNの地下にある加速器の大きさは世界最大。


山手線1周に近い27キロの円形です。
この中で粒子どうしを加速しぶつけることで、未知の素粒子を見つけ出します。
ぶつける粒子は原子の中にある陽子。
これを光に近い速さまで加速しぶつけることで高エネルギー状態を作り出します。
この瞬間、未知の素粒子が生み出されるのです。
しかし、このCERNの加速器には実は限界があるといいます。
まず、ぶつける陽子がより小さな素粒子の集まりであることです。

東京大学数物連携宇宙研究機構 村山斉機構長
「この陽子という粒は言ってみれば大福餅をぶつけるみたいな感じなんですね。
大福餅って、中に小豆が入ってあんこが満ちている。
これをバンとぶつけますとビシャビシャっとあんこが出てくるわけです。
本当に見たいのは、この大福餅の小豆どうしがコツンとぶつかって出てくるものを見たいわけなんですけれども、周りにあんこがビシャビシャっとある。
しかも大福ぶつけても小豆どうしがぶつかることはめったにないので、なかなか本当に見たいものを、きりっと見るのは難しいわけなんです。」

そして、もう一つの課題がその丸い形です。
粒子には曲がるとき、光を放ちエネルギーを失うという性質があります。
CERNでは、いわば粒子にブレーキをかけながら加速させているようなものなのです。
こうした課題を克服するために考えられたのがILC・国際リニアコライダー計画です。
ILCは深さおよそ100メートルの地中に造られ、その名のとおりリニア、まっすぐな形をしています。
そして装置の中央でぶつけるのは陽子ではなく、素粒子である電子と陽電子です。
全長およそ30キロ。
東京・横浜間とほぼ同じ距離です。
その距離を利用して電子と陽電子を限りなく光に近いスピードまで加速。
これらを中央で衝突させれば、新たな未知の素粒子を発見できる可能性が高いのです。

CERN ロルフ・ホイヤー所長
「例えるなら、ILCではこれまで正面だけしか見えなかった山の裏側も見られる。
分かることが一挙に増えるのです。」


次世代加速器、ILCは最先端の技術を結集した装置です。
日本では、すでにこのILCに必要な技術開発が進められています。

これは加速空洞と呼ばれる部品です。
電子を効率よく加速させるいわばILCの心臓部。
強いエネルギーを使ってこの中のくびれた部分に強力なプラスとマイナスを交互に作り出します。
加速させる電子はマイナスの電気を帯びているためプラスに引き寄せられます。
電子が進むとプラスとマイナスが入れ代わり、また次のくびれに引き寄せられます。
これを高速で繰り返すことで電子はどんどん加速するのです。
電子に、より高いエネルギーを与えるためには、片側だけでおよそ10キロメートル近くもの距離が必要です。
次世代加速器に向けた技術開発はほぼ完成しておりあとは誘致を待つばかりとなっています。

技術開発責任者 山本明教授
「世界に一つしかできないであろうこれからの計画に対して日本が科学・技術で世界をリードしていけるとても重要なテーマである。」



ゲスト山下了さん(東京大学准教授)

●科学者たちは何を見ようとしているのか

宇宙の一番初めに何が起こったか。
実はその一番ドラマチックなところは、ヒッグス粒子で世の中に秩序が生まれた、それより前のところにあるんですね。
宇宙っていうのはどんどん進化してきたと、その一番初めのところに何があったのかということを知りたい。
そのために造る装置です。

●ヒッグス粒子はビッグバンをまとめた粒子

宇宙の初めに、生物の進化みたいにですね、宇宙っていうのは何回も、ドンドンドンとこう変化した大きく変化した瞬間があって、そこに秘密があるわけですね。
それを知るためには、今までにあった素粒子じゃない影の世界のそこの真実を知らないといけない。
そのためにわれわれっていうのは、もう10年も20年もかけて世界中で何千人の研究者がずっとこれを追い求めてるわけですよね。

●素粒子17個のパートナーとなる影

今までの素粒子では説明つかないということは分かってるわけです。
その影の中に、一つがダークマターっていう暗黒物質、これがきっとあるに違いないと。
それが一つの大きな目標ですね。
一つはヒッグスというものからそれを突き詰めると、それからあとダークマターを直接造る、そうすると宇宙の一番初めのところの進化の枝分かれのところがですね、また一つ明らかになると、そう考えられています。
何兆分の1秒どころか最後は1兆分の1秒の1兆分の1秒の1兆分の1秒の世界までいこうと、そういう話です。

●技術開発が進められ7年前に日本の技術も選ばれた

実は選ばれたのは、超電導加速器技術という。
日本の加速器は実は、超電導加速器のパイオニアなんです。
それがヨーロッパと日本の技術を合わせて今、新しい加速器として国際チームで2004年にそれが選ばれて、7年、8年かけて昨年(2012年)の12月に、ついに技術設計書が完成したということです。
だから20年かけて研究してきて、さらに設計をかけて、世界中で何千人の研究者が集まって、これをできるようにしたという、すごい、本当に長い歴史がある。
やっぱり宇宙の大本のところを知るというのは、たぶん人類が生まれて初めてずっと持ってきた欲求の一つなんですね。
やっぱり、歴史に残る人類のフロンティアを広げるっていう、そういう価値がやっぱり、みんなを引きつけるんだと思います。

巨大加速器がひらく新たな地域創成

世界の素粒子研究をリードするCERN。
その本部があるメイラン市です。
1954年にCERNが出来て以来、町は劇的に変わってきました。
当時3,000人だった人口が、現在ではおよそ7倍の2万2,000人に増加。
130か国から人が集まり、外国人の割合は人口の44%を占めています。
かつては、のどかな田園風景が広がっていましたが、1989年に円形加速器が出来たころから町にはさまざまな企業が集まるようになりました。
50年前まで農業などが主流だった町の産業構造は大きく変わり、現在は精密加工業やハイテク情報通信業など第2、第3次産業が90%です。
中でも一番増えたのがIT関連企業です。

14年前にこの地で起業したインターネットのセキュリティーソフト開発会社。
指紋認証によってコンピューターの情報を守るソフトウエアなどを開発。
世界中の国や企業と取り引きしています。

ソフト開発会社 カルロス・モレイラ社長
「CERNの人材を中心にしてメイランにはビジネスを広げる潜在力があります。
ここはシリコンバレーのようになるでしょう。」

巨大加速器を中心に人と企業が交流することで、さまざまなビジネスチャンスが生まれているのです。
人々の暮らしを大きく変えると期待されるILC・国際リニアコライダー計画。
日本では2か所が建設候補地に選ばれ、すでに誘致活動が繰り広げられています。

岩手県北上山地。
この日は東北の関連企業が建設予定地の視察をしました。
案内したのは岩手県の職員、大平さんです。
岩手県では加速器の計画が始まった当初から大平さんを中心としたILC計画の専門部署を設置。
誘致に取り組んできました。

大平さん
「何もない所から新たな視点での街づくりができる。
未来都市みたいな。
風力・地熱とかエネルギーも十分ポテンシャルがあるので、東北の良さを売りに出していく。
そういうアピールできるものを集めて。」

大平さんたちは候補地で住民に向けた説明会を催しています。
すでに20か所以上で開催。
地元では、日に日にILCへの期待が高まっています。

「ILCを東北で実現する。
東北の復興と再生の原動力ということで、復興のシンボルとしてILCを誘致したい。」

「若者の雇用がなくてこの辺はね、だからね雇用の面からもぜひ来てほしいですね。」

「正直、何も知らないで参加したんですけど、わくわくしましたね。
一大産業になるなと。」

大平さんは、ILC計画にはこれまでの地域振興とは違った魅力があるといいます。

大平さん
「電機や自動車とちがって、大量生産ではないので、アジアに逃げるとは考えにくい。
日本の技術じゃなきゃできないっていう象徴的なものになってますから、時間はかかるかもしれないけれども、できた暁には非常に息の長い産業になる。」

もう一つの候補地福岡と佐賀にまたがる脊振山地です。
近くには人口およそ150万の大都市、福岡が広がります。
空港や新幹線など交通インフラが整備されています。
この候補地の大きな利点は、外国人を受け入れるための国際的な環境が整っていること。

「福岡在住の外国人を対象に、無料の法律相談を行っています。」

こちらは10か国語で放送する民間のFMラジオ局です。
15年前に災害時の情報を伝えるために設立され、ふだんは生活情報や各国の音楽を紹介しています。

福岡在住10年 イギリス人
「英語を話す人がここ10年でかなり増え、ことばの壁がなくなりました。
外国人にとって非常に住みやすい町です。」

実は脊振山地の周辺では加速器を使った地域振興がすでに始まっています。
こちらは7年前に佐賀県が造った円周70メートルの加速器です。
この加速器を利用して新しいものづくりに取り組んでいる企業があります。

「こちらが研究開発の部署です。」

この中小企業は、100分の1ミリという世界最小レベルの超微細金属加工技術を開発しました。
加速器の光が、まっすぐに進む性質が強いことを利用して小さな歯車の型を精密に削り出します。
その型を使えば、微小な歯車も正確に作れます。
この歯車は医療機器メーカーなどから注目されています。
ILCの誘致が実現すれば、こうした地域振興がさらに活発化すると考えられています。

九州経済連合会 松尾新吾会長
「先端的ないわゆる企業ですね、それの進出する地域として最適だと。
数多くの先端産業がやってくるという動きに大いに期待しています。」

●夢の巨大加速器 その波及効果は

今、実は、世界が2年前まで競ってたんですけど、今、日本に対して、ぜひやってほしいという期待が高まってるんですね。

●日本は優先的に何をやっていかなければいけないのか

まず一つが、これは技術的にきっちりと、場所を決めて、オールジャパンの態勢をまず作るということが必要です。
やはり設計がもう、始めないといけませんので、そのためには、場所を決めないといけません。
ただ、ほかのいろんな施設がありますので、施設を全体に、日本全体をどう最適化していくかということです。
もう一つが、やはりこれ、海外との外交になりますので、いわゆる科学外交ですね。
ここでリードできるかということが、一番大きなところだと思います。

●候補地の一本化をいつまで目指すのか

一番重要なのが技術的にですね、やっぱり工期、それからリスク、そのコストの面で絶対大丈夫だという所を選ぶと。
一番ベストの所を選ぶというのを7月までにやりたいと思っています。

●科学外交とは

これはですね、科学的な、技術的な、そういう科学技術プロジェクトをやるにあたって仕組みがないわけですから、いろんな国と話し合って、それをリードしていくと。
このプロジェクト自身を実現するためにリードするという、そういうプロセスです。

●いろんな交渉事をリードしないといけない

資金もそうですし、技術も。
この技術っていうのが、地域でやはり一番よく使われる。
それからあと例えばこの技術っていうのはがん治療、粒子線がん治療とかですね、それから薬、インフルエンザの特効薬とか、ああいうものを作るのに非常に使われてます、今でも。
それの最先端ですので、それをどうやって作っていくかと、地域活性の面でもこれからの課題だと思います。

●日本が出来ることの意義

いろんなこと聞かれるんですけど、もちろん科学外交であったり、技術の面でのイノベーション効果、一番大きなものっていうのは、やはりこういうものがあることによって、日本に対する世界の目が変わる。
それから、日本人が、特に子どもですね、自分たちの国に対して誇りを持てる。
で、挑戦したいという気持ちが起こるって、これが一番大きいことだと思います。

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