クローズアップ現代

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No.32932013年1月15日(火)放送
生徒がつける“先生の通信簿”

生徒がつける“先生の通信簿”

生徒がつける“先生の通信簿”

「ハロー、エブリバディー!」

生徒の学力をいかに上げるか。
先生たちは、あの手この手の試行錯誤をしています。
そんな先生の授業力を生徒が採点。
人事評価に結び付ける試みが大阪府で始まっています。
授業力を測るのは、アンケート。
その結果を、ボーナスに反映させようというのです。
背景にあるのは生徒の学力の低下。
その改善のために教師に対する評価を厳密にして危機感を抱かせようというねらいです。

橋下大阪府知事(当時)
「普通の保護者からすると、みんな会社勤務してみんな人事評価で苦しんでいる中で仕事している。」

生徒からの評価にどう向き合えばよいのか。
これまで評価する側にいた先生たちは、揺れています。

「労働者としては給料を考えて迎合せなあかんけど、教育者としては迎合できない。」

生徒による評価で先生の授業力はアップするのか。
それは学力の向上につながるのか。
新たな取り組みを始めた教育現場からの報告です。

“先生の通信簿”ゆれる教育現場

来年度から始まるアンケート調査のモデル校となった大阪府立久米田高校です。
普通科高校を代表して事前の調査に参加します。

久米田高校校長 岡村多加志さん
「生徒による授業評価が行われますので、生徒のほうに真剣に答えるようによろしくご指導ください。」



今回の評価は試験的に行うためボーナスの査定には使われません。
しかし、実際に先生に点数をつけ、今後人事評価にどのように反映させていくのか検討します。

大阪府が来年度から導入するアンケートの見本です。
公立のすべての小中学校・高校で実施される予定です。
「授業内容に興味・関心をもつことができた」、「知識や技能が身に付いたと感じている」、この2つの質問で授業力が測られます。

久米田高校校長 岡村多加志さん
「なかなか授業力向上というのができてこなかったので、生徒による授業評価等も利用しながら、良い形で先生方が自主的に授業を向上させるようにするのが、校長の務め。」


先生になって6年目、物理と化学を教える細川太郎先生です。
おもちゃを教材に使うなど独自の工夫を凝らした授業に取り組んできました。
今回のアンケートの導入にあたり細川先生は、ある悩みに突き当たりました。
期末テストの問題作りです。
これまでは生徒の実力を把握するため入試レベルの難問を出題していましたが、評価のことを考え二の足を踏んでいました。

教師 細川太郎さん
「これもしめっちゃ簡単やったら、自分のアンケートも点数高くなるかなとか。」

迷った末、例年通り難しい問題を2問出題することにしました。
しかし、評価制度が始まると、その姿勢をいつまで貫けるのか不安を感じています。

教師 細川太郎さん
「そういう現実が実際に始まってしまえば、気持ちが揺らいでしまう。
(最低評価が)あと1回でアウトですってなったら、気持ちはぶれてしまいますよね。」

先生が好きか嫌いか。
生徒の個人的感情が影響してしまうおそれを指摘する声もあります。
生活指導を担当する体育の濱田哲也先生です。


教師 濱田哲也さん
「そこまで寒くないやろ、マフラーとっとけ。」

これまで社会の常識を厳しく教えてきましたが、生徒にとってはちょっと煙たい存在です。

教師 濱田哲也さん
「それ(評価)があるからと言って二の足を踏んでいても、ちゃんと正しいこと、間違ってることを子どもたちに伝えないといけませんから。
適正な評価がなかなか難しいことは確かなので。」

一方、大阪府の別の高校では生徒と先生の関係が崩れてしまうのではないかと懸念する声が上がっています。
この高校ではアンケートの当日、校長みずから生徒に呼びかけました。

府立高校校長 大澤宣彦さん
「学校として、より良い授業づくりを行うために行うものです。
授業を受けての気持ちを、一人一人責任を持って回答してください。」

校長の大澤先生の懸念は、生徒が先生を評価するようになると先生を見下し、授業が成り立たなくなるのではないかということです。
大澤校長は、生徒会のメンバーに意見を聞くことにしました。
しかし、そこで出た意見は意外なものでした。

府立高校校長 大澤宣彦さん
「もしそれ(評価)が先生の給与を決めたり…給与を決めるというのは先生をランク付けしてしまうということになるんやけど、そういうことに使われるとしたらどう思う。」

「先生にも家庭とかありますし、そういうのに影響するのはちょっとよろしくないんじゃないかなと。」

「先生自身にしても、給与のためならという感じになってしまいがちだと思うんで。」

生徒たちから上がったのは先生の心情や生活を心配する声ばかり。
先生への遠慮が強くても、逆に正当な評価はできないと大澤校長は不安を感じました。

府立高校校長 大澤宣彦さん
「積極的にそういうこと(評価)に関わることを嫌がっているというか。
学校として押し付けることになれば、それはそれで教育的に効果があるのか。
子どもたちの成長において役に立つのか、非常に疑問に思いました。」

先生たちが揺れていた久米田高校では、アンケート調査の結果がまとまりました。
授業の満足度は、100点満点で最高が95点、最低は36点でした。
先生たちが受け取るのはアンケートの集計結果と生徒からの無記名のコメントです。

細川先生の満足度は100点満点に換算して88点。
校内でトップクラスの成績です。

教師 細川太郎さん
「結構、生徒たちが良いようにつけてくれているようで。」

しかし満足していなかった生徒が4分の1に上るクラスもあり、この数字をどう受け止めるべきか戸惑っていました。

教師 細川太郎さん
「この数字だけ見て、あそこが足らなかったなって一発で判断はしきれないところがあると思う。
もっとおもしろかったりもっと分かるようになるためには、僕どうやったらいいのっていうの聞きたいです。」

生活指導に力を入れる濱田先生です。
どのクラスも8割を超える生徒が満足と答えていました。
しかし同封されていたコメントは納得し難いものもあり、生徒が教師を評価することへの違和感はさらに募りました。

教師 濱田哲也さん
「いちいちそれにずっと考え込んでたら、寿命縮まりますよ。
キリスト様じゃないので、万人の人に好かれるわけじゃないので。
嫌いなやつもいるでしょ。」

生徒は正しく評価できるのか。
先生はその評価を生かせるのか。
現場が揺れ続ける中、来年度から本格的な人事評価がスタートします。

“先生の通信簿”どう変わる教育現場

ゲスト山下晃一さん(神戸大学大学院准教授)

●このアンケートを行う動きをどう見ているか

今まで教育では、評価というものは教師が生徒の学力を評価するという形で行っていたんですね。
評価が権力の源泉になっていると。
こういった中で、生徒の皆さんには非常に窮屈な思いをさせてきたところもありました。
ところが今学力を高めようとすると、学ぶ側ももちろん学び方を変えていく、よりよくしていく。
しかしながら、もっと教える側も教え方をよくしていくということが必要になって、教える側もどう評価していくかというような大きな転換が生まれてきておりまして、こういった点では、非常に注目に値すると思います。
またこのように生徒たちの声を吸い上げていくことによって、先生たちが今までも雰囲気とかなんとなくでは分かっていたとは思うんですが、自分の授業は一体どうだったんだろう、子どもたちにどう受け止められたんだろう。
じゃあ今度はもっとそこをよくしたら高めていけるんじゃないか、ここはよかったんだなということをしっかりと受け止めながら、授業をうまく作っていく。
そういう手助けにしていけるという意味で、非常に大きな転換であり、また先生方にとっても授業をよりよいものにしていく大きなチャンスになっているように思います。

●授業内容に興味を持ったなどの質問で判断がされていくのか

これは正直、自分がもし教える立場だったら、これだけで自分の授業をすべて評価されていいのかな、できるのかなという疑問はやはり正直持ってしまいます。
今、大学でも授業アンケートということをやっているわけですが、例えば同僚の中に、哲学を専門にされている方がおいでになられて、僕の授業は分かりやすかったと評価されて本当にいいんだろうかと、つくづく悩んでらっしゃる先生がおいでになられたんですね。
それは実は同じことが学校教育にも言えるわけであって、例えば難しい科目になれば、難しい教科になれば、もしかしたら評価が下がっていってしまうかもしれないというおそれもあります。
私たちはそういったときに、ただおもしろかったとか、分かりやすかったというような数字だけではなくて、例えばそこで学生さんたち、あるいは生徒さんたちがどういう言葉で自由記述で書いてくれてるか、そんなことにも注目しております。
そうすると、難しいけどおもしろい、難しいけどためになるというようなことだってありうるわけで。
それが教える側の願いとどういうふうにマッチしているのか、していないのか、そういった突き合わせをしていくことが非常に大事だと思います。

●先生の能力が、ある程度ガラス張りになる部分があるのか

難しいんですけれども、もし、今までのように一律の評価じゃだめなんだ、ばらけさせることが大事なんだということであれば、目的には沿ったかもしれませんが、例えばこれはよく言われることですが、職員室では非常に先生方に受けがいいのに、子どもさんの授業アンケートとかを見るとなぜか低い。
逆に職員室では、あの先生どうなのかなと心配していると、授業アンケートのふたを開けたら非常に高い結果が出ているというような矛盾もあります。
あるいは、非常に高い点数で評価された授業が、実は先生が1人でブツブツしゃべっているだけだったというようなこともあって、それは生徒たちの課題なり、負荷が非常に負担が少ないから単に高く評価されているんだということもありました。

生徒からの評価で“学校力”アップ

鳥取県にある町立岩美中学校。
校長の戸田倫弘先生です。
学力テストの成績が県内最下位だった岩美中学校を、4年間でトップクラスに押し上げました。
学力向上の鍵を握ったのは、戸田校長が導入した学期ごとに行う生徒へのアンケートでした。

この中学校のアンケートは授業だけではありません。
学校行事の満足度クラスの人間関係など、学校生活全般について50項目を超えます。
教科については、質問は2つ。
「授業は楽しいか」、「先生は、よく分かるように教えてくれるか」。
生徒は、4段階で評価します。

岩美中学校校長 戸田倫弘さん
「生徒たちが私たちを評価している。
その評価をもとに、私たちがしっかりと話し合いをして改善策を考えて、また新たな実践に結び付けていく。」

アンケートの結果は教師全員で受け止め改善に結び付けます。
データの中から生徒が抱える不満や困っていることを見つけ出し、その原因と対策について考えるのです。

「安心して学べる、は80。
90いかないってなんでだろう。」

1年生のデータに気になる項目が見つかりました。
安心して授業が受けられないという生徒が通常より多かったのです。

「1年生、冷やかされるだ。
これはその中の人間関係だ。」

授業中に間違えると冷やかされるという回答が多く、これを原因と見て対策を考えることになりました。

教師 森田篤是さん
「数字が語ってくるものってあるじゃないですか。
そこには僕たちが普段、子どもたちの笑顔の下で見えない部分が現れていたりするので。」


教師一人一人に対する評価は校長から直接告げられます。

「失礼します。」

教師1年目の英語科神波真梨子先生。
今回初めて、生徒による授業の評価を受けました。

岩美中学校校長 戸田倫弘さん
「2年生は『英語の学習は楽しい』96%、『よく分かるように教えてくれる』92%。」

予想を上回る高得点。
しかし、戸田校長は「良く分かる」が92%では低いと感じていました。
若い先生の場合、生徒から甘い評価を受ける傾向があるからです。
そこで校長が示したのは、ベテラン教師への評価です。

岩美中学校校長 戸田倫弘さん
「『楽しい』というのは82%。
でもこの先生は『良く分かる」が100%。
そういう先生が多い。」

教師 神波真梨子さん
「教員は1年目だろうがベテランの先生だろうが同じ土俵に立って、教室に立って教えるのは自分一人ですし。
そういう面では生徒は待ってくれないので、私の成長を。」

アンケートの結果を受けて、神波先生の授業力を上げるための取り組みが始まりました。
まず、英語科の同僚3人が神波先生の授業を見学。
問題点を探し出します。
その後の検討会議では、生徒にもっと考えさせるべきではないかという意見が出ました。

「ずっと繰り返すという練習だったので、今度は何も言わないで自分たちで言わせるとか。
生徒だけで。」

しかし神波先生は、授業の流れを止めずに生徒に考えさせる自信がありません。

教師 神波真梨子さん
「うまい具合に個人を当てて授業の中でするのが、まだその技術がなく。
コツとかあったら教えて頂きたいんですけど。」

「ペアで30秒とか考えさせて。」

「『いきなり当てるぞ』というのを普段から言っておいて、そしたらだいぶ子どもたちが話を聞くようになった。」

次に、神波先生はほかの先生の授業を見学します。
教科は数学です。
楽しいよりも、よく分かるという評価が常に高い先生です。
見学のあと、生徒に考えさせるコツを教えてくれました。

「秘けつが分かった?」

教師 神波真梨子さん
「秘けつ?」

「考えさせる時間が長いから。
俺、答え言ってないんだよね。
英語でもそういうのができたらおもしろいかもしれない。」

教師 神波真梨子さん
「自分一人では限界があるので、別の教科であったり他の先生の授業を見ることで、また新しい視点ができる。
今回はいいきっかけになりました。」

“先生の通信簿”学校は変わるか

●ベテラン先生の協力を得ながら行う点をどう見たか

非常に見ていて好感の持てるVTR。
ふだん先生方は子どもさんたちの反応を見ながらいろいろと工夫はされていますけれども、基本的にあまりやりがいを感じるという瞬間が少ないんですね。
とりわけ普通の職場でしたら、大人同士が働きながら、そして褒めたたえるというようなこともあるわけですが、特に大人側から、あるいは周りの大人に認めてもらうという機会は非常に少ないように思います。
そういった中で、今のアンケートではまず、「楽しい」というのは低くても、「よく分かる」っていうのが常に非常に高い先生であるとか。
ああいうことが結果として出てくると、ああ、自分のやってきたことは間違いじゃなかったんだっていうやりがい、承認というものに非常に強くつながっていくと思います。
その一方で若い先生も、これが若いからこっちは高くて当然で、こっちをどうするかだということを、ちゃんと学校が全体として受け止めて、そしてその先生をどうやって引き上げていくかということをきちんと組織として受け止めることができていた。
そういう点で非常に印象深いVTRでした。

●個人の責任にしないことがポイントか

例えばこれがもしいい授業を作ったとしても、それは全部個人、先生一人一人が給料が高くなる低くなるというだけだと、例えばこれ、実際にあった発言なんですけれども、「そんなんだったらもう自分はいい教材を見つけても、いい教え方を生み出したとしても、絶対自分のものにしかしないよ」というようなことをおっしゃられたんですね。
ところが先ほどの中学校の例では、それをちゃんと共有するということができていて、新しい可能性を感じさせるものだったと思います。

●今後のアンケートの使い方のポイントは

最大のポイントは、この結果が出てきたときに、ちゃんと教育の状況、学校の実情、子どもたちの様子が分かっているということ。
それこそ教育の専門家、校長先生を中心とする先生方がこれをきっちりと受け止めて、どう解釈するか、この解釈する権利というものを手離さないということです。
さまざまな状況がある中で、この数字がこういう意味を持つ、だからこうしようということができるのは、まさに先生たちを置いてほかにないと思います。
これを手放さないことだと思います。

●設問によっては、学校で見えにくいところも出てくるが

安心して授業を受けられるかどうかなど、今まで先生たちが気付かなかったようなこと、これが見えてくるというのもまたこのアンケートの長所であり、生かしていただきたいところです。

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