クローズアップ現代

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No.32842012年12月6日(木)放送
忍び寄る“スーパーナンキンムシ”

忍び寄る“スーパーナンキンムシ”

忍び寄る“スーパーナンキンムシ”

都内に住む女性。
去年(2011年)の夏、ナンキンムシの被害に遭いました。
露出していた腕や足を集中的に刺されて、腫れ上がり、耐え難いかゆみに襲われたといいます。

「ここの間にたくさん虫が挟まっていましたね。」

ナンキンムシは昼間、畳の隙間など狭い所に潜んでいました。
夜中、人が寝静まると体温や吐く息を頼りに近づいてきます。
そして、唯一の栄養源である血液を吸うために襲いかかってきたのです。
女性は駆除しようと、さまざまな種類の殺虫剤を試しました。
しかし、全く効果はありませんでした。

「(殺虫剤を)何本も使い切りました。
全く苦しむ様子もなく、吹きかけたら下に落ちるけど、またそのまま動き出すというか。」

女性を襲っていたのは、スーパーナンキンムシだったのです。
殺虫剤が効かない相手になすすべがなく、あっという間に繁殖していったといいます。


「(粘着)テープ片手に見つけたらすぐに取るような生活してました。
ずっとムシのことばかり考えていて、寝るときも寝た感じがしない。」

今、同じような被害を訴え、専門の業者に駆除を依頼する人が増えています。

「市販されている殺虫剤では駆除ができないんです。
トコジラミ(ナンキンムシ)の場合ですと。」

この業者が去年1年間に駆除をしたリストです。
宿泊施設を中心に、その数は130件にもなります。



スーパーナンキンムシが発生すると、大がかりな駆除が必要になります。
家財道具を運び出し、特殊なトラックに積み込みます。
ガスヒーターで、90度の熱風を吹き込み、虫を殺します。
熱に弱い材質で出来ている家具は、一つ一つ、手作業で駆除するしかありません。
費用は数十万円に上ることもあります。

害虫駆除会社 小松謙之室長
「潜んでいる場所、全てに当てていかないといけないので、そういった意味で時間がかかる、手間のかかる仕事ですね。」

殺虫剤が効かない“スーパーナンキンムシ”の謎

効かなくなっているという市販の殺虫剤。
その9割がピレスロイドと呼ばれる化学物質を使っています。
神経に作用します。
スーパーナンキンムシは、このピレスロイドに対する抵抗性を身につけているといいます。

実験してみました。
右側は現在増えているスーパーナンキンムシ。
左側は昭和初期に捕らえたナンキンムシだけを代々、掛け合わせてきたものです。
それぞれに同じ量のピレスロイド系の殺虫剤をかけます。
30分後、違いが現れてきました。
昭和初期のナンキンムシは動きが止まりました。
スーパーナンキンムシは活発に動き続けていました。
国立感染症研究所の専門家は、DNAに違いがあるからだといいます。

上が昭和初期のもの、下がスーパーナンキンムシです。
神経細胞の一部を形づくる部分。
ここに1か所、違いがありました。
この違いが殺虫剤への抵抗性を生んでいたのです。

国立感染症研究所 冨田隆史室長
「日本でどうなっているのかと調べてみましたら、9割方のコロニー(集団)が変異の遺伝子を持っていました。」


アメリカではスーパーナンキンムシが深刻な社会問題になっています。
ニューヨークでは2010年、大手衣料品店やスポーツ店がスーパーナンキンムシの発生で次々と臨時休業に追い込まれました。

「売り上げの損失、商品へのダメージ、駆除費などで企業は数十万ドルの出費が迫られます。」

なぜ殺虫剤が効かなくなったのか?
ナンキンムシ研究の第一人者、ケンタッキー大学のマイケル・ポッター教授。
繁殖力の強さと世代交代の速さが並外れているためと分析しています。
ナンキンムシは2か月で成虫になり、毎日5個ずつ卵を産んでいきます。
もともとは、ごく僅かしかいなかったスーパーナンキンムシ。
殺虫剤を使うと多くは死にますが、スーパーナンキンムシは生き残ります。
そして繁殖。
殺虫剤を使うたびにスーパーナンキンムシの割合が増えていきました。
やがて、ほとんどを占めるようになっていったのです。

ケンタッキー大学 昆虫学 マイケル・ポッター教授
「ナンキンムシは昆虫の中でも特に殺虫剤への適応力が優れています。」

ポッター教授はスーパーナンキンムシが2000年ごろ、海外から持ち込まれたと考えています。
一体どこで殺虫剤への抵抗性を高めたのか?
ポッター教授は、一昨年(2010年)世界の駆除業者7000社にアンケート調査を行いました。
するとアフリカ、中東で80%を超える業者がナンキンムシの駆除をしていたことが分かりました。
この地域では、1970年代から80年代にかけてピレスロイド系の殺虫剤が長期にわたって大量に使用されました。
ポッター教授はナンキンムシはここで殺虫剤に対する抵抗性を身につけたといいます。
そして旅行者の衣服や荷物にしがみついて、アメリカに持ち込まれたのだと考えています。

ケンタッキー大学 昆虫学 マイケル・ポッター教授
「ナンキンムシは戦闘準備万端で殺虫剤に対する防衛方法を身につけていたのです。
私たちが警戒を怠ったことで、こうした事態を招いたのです。」

“スーパーナンキンムシ”日本の現状は

ゲスト平尾素一さん(日本ペストコントロール協会副会長)

●相談件数が急増している日本の今の現状

都市によりまして若干の差はございますけれども、大都市を中心にして現在、非常に増加しております。
それと、もう一つは有名な観光地ですね。
特に有名な温泉地帯とかそういう所でも増加しつつあります。
その状態がちょうどアメリカの4年から5年前の状態ですね。
そのころの、ナンキンムシが発生しだして、人々が真剣に対応しなくてはならないというそういう時代に日本もちょうど遭遇してるんじゃないかと考えておりますが。

●ナンキンムシの侵入を食い止めることはできないのか

これはやっぱり人間の血を吸いますから、人間の衣類それから人間の荷物そういうものにくっつきましてあっちこっち移動いたしますので、その荷物で来たものを完全に止めるということは実際上は不可能に近いんじゃないかと思いますが。
ある程度持ち込まれてしまうのはやむをえないと思いますけれども。
外部から帰ってきた人がなるべく、それを持ち帰らないような日頃からそういう生活の習慣をつけるということもあろうかと思いますけれども、ある程度、室内に持ち込むのは、これはもう止めることはできないと思います。
室内に持ち込みましたら徐々に増えていきますので、それをいかにして早く見つけるかということが非常に重要になってまいります。
そのためには、まず一般のそういう人々がこれがナンキンムシであるという虫をですねまず理解して、見てですね「これ、ナンキンムシです」という理解をすることがまず第一だと思いますが、よく似ているのにゴキブリの小さい子どもとか果物の種とかですね間違うことがあるんですけれども、このナンキンムシの姿はこんなもんだということをまず覚えてもらって、そして早急に家の中で大きく非常に汚染が広がるまでに早く見つけて対策をすることだと思いますが。

●成虫になると大きさはどれぐらいなのか

長さが5ミリ、大きいのになりますと8ミリぐらいございますけれども、大体5ミリちょっと大きいぐらいですね。

●ベッドの周辺、寝る周辺に生息しがちなのか

やっぱり、人が寝静まった夜中に吸血をいたしますので、ベッドの周りに大体、住み着いて隠れておりまして、そして潜伏している場所には人間の血を吸いますから自分の出したふんが真っ黒なんですね。
血の混じった真っ黒なふんでありますので、それが隙間だとかシーツの縫い目だとかマットレスの縫い目とかそういう所に黒いのがついておりましたらもうそれはトコジラミがそこに潜伏をしている場所になりますのでそれを見つけ出して、とにかくそれを駆除してしまうということが大事だと思います。
衣類でしたら、もし衣類に見つかりましたらそれは洗濯をするということですね。

●ベッドの周りで何メートルぐらい見ればいいのか

大体2、3メートルぐらいの所をよく調べてもらえばいいですけれども、もし大発生、室内でしますと隣の部屋の居間なんかにも広がってることはありますが、ほとんどの場合は毎日寝る寝室ですね、そこのベッドの周りが一番多いです。
そういう所の例えばシーツとかそれからマットレスの隙間とかそれから壁に掛けております絵の裏側とかそれからカーテンドレープ、特にカーテンの上のほうですね。
そういう所をよく調べまして、こうして調べますとナンキンムシの姿が見える。
それから黒いふんがある。
それからソファーの隙間とかですね、そういう所を丁寧に調べますと見つけることはそんなに難しくはないです。

●日本で使える薬はないのか

薬はピレスロイドという一般に使っております薬が非常に抵抗性を持ちまして効かなくなっておりますが、有機リン剤で使える薬が2、3ございます。
ですけど、この薬は海外では多くの国では使用中止になっております。
ですから、日本で使う場合も非常に慎重に用法容量を守り、それから人間に接触しないように非常に慎重に使わなくてはならないと思います。
一般に売っておりますものが非常に抵抗性があるというのがこの虫が一つ、大発生して広がった大きな理由になってると思うんですけれども。
それを続けて2年、3年と使っておりますと現在有効な有機リン剤もいずれ、だめになってしまうと思います。

“スーパーナンキンムシ”殺虫剤に頼らず駆除

ボストンで開かれた害虫の研究会。
世界中の専門家の注目が殺虫剤だけに頼らない駆除の方法です。

バージニア工科大学 昆虫学 ディーニ・ミラー准教授
「『これは完璧な殺虫剤だ』と持ってくる人がいます。
でもそんなのありえませんよね。」

バージニア工科大学のディーニ・ミラー准教授。
IPM・総合的病害虫管理という考え方を推し進めています。
害虫の生態や習性を調べて駆除に利用しようというものです。
この考えはもともと農業で始まりました。

例えばウンカ。
稲を枯らしてしまう害虫です。
そのウンカの天敵がカマバチです。
そこで、水田の隣にヒナギクを植えることでカマバチを集め、およそ半分にまで被害を減らすことができました。
ほかにも熱に弱いという生態や特定の物質を好んで集まる習性などを利用したさまざまな駆除方法が考え出されてきました。
この手法をナンキンムシにも応用しようというのです。

このスーツケース、電気式のヒーターを内蔵していて60度まで加熱できます。
熱に弱いという生態を利用して駆除するのです。
この黒いケースは衣服や靴などを入れてドライヤーで内部を加熱。
自宅で簡単に駆除ができます。

バージニア工科大学 昆虫学 ディーニ・ミラー准教授
「様々な殺虫剤を使ったため、今ではほとんど効くものがなくなりました。
“スーパーナンキンムシ”が現れたのは我々の責任です。
どう対処していくか学んでいかなければなりません。」

今、全米各地で駆除に応用できる習性について研究が繰り広げられています。
ラトガース大学のチャンルー・ワン助教。
4年前からナンキンムシの習性について調べています。

その一つが色。
4色の紙をトレイに入れ、どの色に集まるか実験を繰り返しました。
30分後、緑や白にはほとんどいません。
ところが。

「黒には25匹くらい集まっています。」

ナンキンムシの体の色に近く、隠れやすいからだとワンさんは考えています。
材質の好き嫌いも調べました。
プラスチックのトレイに布や紙を置いたところ滑るプラスチックを避け、表面がざらざらした布や紙の上に集まることも分かりました。
今、こうした研究結果を応用して新しい製品が次々と開発されています。

「たくさんナンキンムシ、捕れますよ。」

こちらは、ナンキンムシの習性を徹底的に利用した捕獲装置です。
色はナンキンムシが好む黒。
粘着シートには人の汗の成分が含まれています。
人の体温と同じ温度にするためのライト。
表面はナンキンムシが歩きやすいようざらざらに加工してあります。

ラトガース大学 昆虫学 チャンルー・ワン助教
「私の研究は全て実用的な駆除につなげるためです。
生物の習性をしっかり研究することで、殺虫剤を使わなくても駆除することができるのです。」

“スーパーナンキンムシ”殺虫剤を使わない駆除は

●このIPМの有効性をどう見てるのか

これは大変有効なものだというふうに考えております。
その一番の基本は、やっぱりそういう害虫に餌を与えないということが一番の基本になるわけですが不幸にして、このトコジラミの場合は、ナンキンムシの場合は人間の血を吸いますのでその人間をなくすわけにいかないという、それが一番の問題だと思いますけれども、やっぱり当面は熱を加えるということそれと吸い取るというこの2つの行為ですね。
これが一番のメインになると思いますけれども。
熱を加えて殺す。
それから吸い取ってしまうというこの2つになると思いますけれども。

●とにかく掃除機で徹底的に吸い取る

徹底的に吸い取る。
先ほど言いました黒いスポットのある所を調べて徹底的に吸い取るという。
そして、例えば衣類とかそういうものでしたら洗濯をして、そして熱風乾燥機にかけて熱で殺してしまうというそれが家庭ではできる対策であろうかと思いますけれども。

●何度以上なのか

大体45度にいたしますと昆虫のたんぱく質が変性して死んでしまいますので、45度以上を数分間当ててもらうということです。

●アメリカでは相当、熱心に研究しているが

特にアメリカでは環境省のEPAがこれを担当してるんですけれども、人間はトコジラミの餌であるというこいつをなんとかしなきゃいかんということで非常に国が一生懸命に対策を考えておりまして、そして現在アメリカの10の大学が一斉に研究を始めまして2009年あたりからたくさんの助成金が出まして、非常に研究が進んでおります。
こういうものから非常に新しい次々といろいろな方法が出てくるのを私ども、大変期待をして待っている状態なんであります。

●殺虫剤に抵抗性を持つものは海外で見つかっているが

やはり、今までは新しい抵抗性が出ますと、次の薬が出て次々とうまくいったんですけれども、これからは、そう次々と出ないと思いますので、やはり習性を十分に研究する研究者をどんどんこれから育てていかなくてはならないと考えております。

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