クローズアップ現代 メニューへ移動 メインコンテンツへ移動
2012年11月19日(月)

身近な薬の落とし穴 警告!「市販薬」の意外な副作用

身近な薬の落とし穴    警告!「市販薬」の意外な副作用

薬局で手軽に買えて、便利に使える“市販薬”。その薬の副作用に国が警告を発している。厚生労働省から、気になるデータが発表されたのは今年8月。製薬会社からの報告によると、入院が必要なほど重篤な症状に陥ったケースがこの5年間で1220件。そのうち24件が死亡に至ったことが明らかになった。特に深刻な副作用がスティーブンス・ジョンソン症候群。致死率は3%におよび、回復しても失明や肺機能の低下など重い後遺症が残ることがある。原因となる薬物は100種類以上。誰でもかかる可能性がある。最近では、発症しても後遺症を残さずに治療する方法が確立されつつある。しかし、症例が少ないため、誤診による治療の遅れが課題となっている。番組では、身近な薬によって引き起こされる副作用の実態を伝え、重篤化を防ぐ手だてを考える。

出演者

  • 望月 眞弓さん (慶應義塾大学薬学部教授)

かぜ薬などの市販薬 意外な副作用

薬の副作用による後遺症の治療を行っている京都府立医科大学附属病院です。
月に1度開かれるSJS外来。
スティーブンス・ジョンソン症候群を発症した患者が受診します。
この日、外来を訪れた岡村かおりさん。
6年前に市販薬を飲んで副作用を発症しました。

医師
「かぜ薬をもらって飲んだ。
ちょっとかぜっぽいし、薬持ってたらちょうだいみたいな。」

岡村さんは副作用で左目の視力をほとんど失いました。

岡村さん
「右目ももうちょっとクリアに見えていたのが、年々かすみが多くなって。
本当にこのまま失明するんじゃないかという恐怖はいつでもあります。」

岡村さんが副作用を発症したのは20歳のとき。
美容の専門学校を卒業し、希望に胸を膨らませていました。
念願だった美容関係の仕事に就いた2日後のことでした。
岡村さんは軽いかぜをひきました。
発熱と頭痛を感じた岡村さんはこじらせてはいけないと、以前にも飲んだ経験がある市販の解熱鎮痛剤を用法用量を守って飲みました。
その3時間後。
岡村さんは違和感を感じました。
唇が腫れ、熱く感じたといいます。
さらに翌朝。
目が覚めると、目にも気になる症状が現れていました。

岡村さん
「目がちょっと我慢できないぐらい痛がゆくて充血していました。」

目の症状が気になった岡村さんは、眼科を受診しました。
眼科での診察記録です。
細菌性の急性結膜炎の疑いという診断でした。
かぜと見られる症状はその後も、よくなりません。
顔に、にきびのような発疹が現れ、体温を測ると39度近くにまで上がっていました。

岡村さん
「あっ熱出てきた、のど痛い、頭痛い。
本当にただのかぜとしか思わないですね。」



そこで、再び同じ市販の解熱鎮痛剤を飲み、様子を見ました。
最初に薬を飲んでから3日目。
かぜを早く治したいと思った岡村さんは、仕事を休んで内科を受診。
そこでは、かぜとよく似た症状の手足口病(てあしくちびょう)と診断されました。
さらに排尿痛があったため婦人科も受診しました。
しかし結果は原因不明。
時間が経過する中、岡村さんの体内では深刻な事態が進行していました。
明らかな異常が現れたのは4日目の夕方でした。
鏡に映った姿を見て岡村さんは、がく然としました。

岡村さん
「“えっ、なんだこれ”みたいな。
口の中をのぞいてみたら、びっしり口の中が水疱(すいほう)だらけになっていたので、これは何なんだろうと思って、だんだん息苦しくもなってきて。」

命の危険さえ感じたという岡村さんは総合病院の夜間急病センターに駆け込みました。
そこで岡村さんは意外な質問を受けます。

「何か薬を飲みましたか?」

このとき岡村さんを診察した東克己医師です。
薬の副作用によるスティーブンス・ジョンソン症候群だと直感しました。

東克己医師
「各部位の粘膜の症状が目、口、のど、そういう粘膜がやけどのような水疱ができているということで、すぐそちらの病気(副作用)を疑ったんです。」

岡村さんは、すぐに大学病院の専門医を紹介され、治療が始められました。
皮膚のただれが、やがて全身に広がりました。
さらに肺にまで炎症が拡大。
呼吸困難に陥り、生死の境をさまよいました。
しかし懸命な治療によって、かろうじて一命を取り留めたのです。

こうした市販薬の副作用はアレルギー反応の一種だと考えられています。
薬を飲んだとき、その成分に体の免疫機能が過剰に反応することがあります。
健康な皮膚や粘膜の細胞が異物と見なされ、攻撃された場合にはSJSを発症します。

一方、この反応が肺に現れると空せきや呼吸困難を伴う間質性肺炎に陥ります。




肝臓に現れた場合にはおうだんなどの症状が出る薬物性肝障害を引き起こします。
こうした症状が悪化するといずれも死に至る危険があります。
過去5年間で製薬会社から市販薬の副作用で死亡した可能性があると報告されたのは24件。
その年齢は幼児から高齢者にまで及んでいます。
6年前に副作用を発症し、一命を取り留めた岡村さん。
しかし目の後遺症などに悩まされ、仕事は辞めざるをえませんでした。
収入が断たれた一方で後遺症の治療に、今も月2万円がかかるといいます。
岡村さんのケースは薬による副作用だと国から認められました。
しかし救済制度によって支給されたのは発症当時の医療費など66万円に限られました。

岡村かおりさん
「目もこういう状態ですし、なかなか働けないのできついですね。
親にも払ってもらっているので、申し訳ないと思っています。」


岡村さんは1人でも多くの人に市販薬には副作用があることを知ってほしいとインターネット上に自分の体験をつづっています。

“ただ普通に飲んだかぜ薬が、こんなにも恐ろしい病気に発展するなんて知らなかった。
この病気を知ってもらいたい。”

 

ゲスト望月眞弓さん(慶應義塾大学教授)

●スティーブンス・ジョンソン症候群について

あそこまで重篤化する前に早期に発見できていたらよかったかなというふうに、何かご支援できることはなかったのかなというふうに感じました。
SJSは発生のメカニズムは、よくまだ分かっていないんですが、アレルギー反応の1つではないかというふうにいわれていて、反応が、スイッチが入りますと日々、症状が次から次に追加されていって、最終的に全身にやけどを負ったような状態で皮膚が、全部がむけてしまうようなTEN(中毒性表皮壊死症)っていわれる症状なんですけれども、そこまで行くケースもあるんですね。
そうしますと、SJSも亡くなられる方もいらっしゃいますが、TENになりますと、もっと死亡率が高くなるというふうになります。

●アレルギーを持った人になりやすいか

アレルギーっていいますと、皆さん花粉症を思い浮かべる方が多いと思うんですが、花粉症の起こるアレルギー反応のメカニズムとSJSで起こるアレルギー反応のメカニズムは少し異なるんですね。
ですから、花粉症だからSJSになりやすいとか、何もアレルギー体質がないからSJSにはなりにくいとかっていうことにはならないんですね。
アレルギーっていう場合にいろいろなタイプがあるんですけれども、例えば私の友人で、抗生物質を飲んでなんでもなかったので、次にまた飲まなければならないときに抗生物質を飲んだら少し背中にぶつぶつが出来ました。
それは、ほっておいたら薬を飲むのを、症状がよくなったんでやめたらなくなった。
今度またもう1回飲んでみたっていうときに今度はアナフィラキシーショックという症状を起こした人もいるんですね。
これはSJSとは違うんですが、ふだん飲んでいてなんでもなかったお薬があるときそういうことを発生する可能性があるっていうことを私たちは知っておかなければいけないことかなと思います。

●肺炎や肝臓の障害になることも

間質性肺炎とかがアレルギー反応のメカニズムとして考えられていますが、例えば、健康食品とかそういったものでも間質性肺炎や、SJSが起こっている例っていうのは報告がありますし。
それで症状も間質性肺炎の症状とSJSは全く違いますし、いろいろ、それぞれに各お薬ですとかサプリメントとかをお使いになるときにどういうところに注意しなきゃいけないのかっていうことは医療者も知っておく必要がありますし、生活者の皆さんも知っておいていただきたいことではあります。

●市販薬の副作用 注意喚起は

どうしても医療者は病気を治して差し上げなければいけないっていう使命感がありますから、薬の効果のほうは注目するんですけれども、なかなか副作用っていうところまで気持ちが及ばないところもあり、また患者さんにそうしたまれですけれども、とてもまれなんだけれども、重篤な副作用についてご説明をしてしまった場合にお薬を本当は治療のために飲まなければいけないのを飲まなくなってしまうというところを心配するあまりにどうしても副作用の情報提供というのは消極的になりがちなんですね。

市販薬の副作用 どう防ぐのか

重篤な薬の副作用の1つSJSの治療に、20年近く携わってきた外園千恵医師です。
外園さんは発症の初期に的確な治療を行えば、多くの副作用の重篤化は防げると考えています。
例えば目に症状が出た場合、効力を発揮するのはアレルギー反応を抑える薬、ステロイドの点眼です。

外園さんの調査によれば発症から1週間以内にステロイドを使った場合、7割以上の人が視力0.1以上を保つことができました。
しかし、そうでない場合、8割の人が0.1未満に悪化したのです。
治療の開始は早ければ早いほどその効果が期待される傾向が示されました。

外園医師
「早い時期にできるだけ早く診断する。
そして目薬で目の炎症を抑える。
それでも効かない方があります。
効かない方は他の治療法、まだ選択できるものがありますので、やはり早く治療を開始することは大事だと思っています。」

しかし、そうしたいち早い治療が難しいという実態が明らかになっています。
外園さんはSJSの患者が最初に何の病気と診断されたかを調べました。

外園医師
「40歳発症、おたふくかぜ。
20歳で発症されて水ぼうそう。
次の方は水ぼうそう。
多いですね、水ぼうそうって言われた。」

調査の結果、4割の人が誤診されていたのです。
発症の初期に薬の副作用だと見極めることの難しさが重篤化の原因になっていると外園さんは考えています。


外園医師
「他の病気でも出る症状、熱、発疹も他の病気でも出るし、のどが痛い、他の病気でも出るし。
そういう非特異的な症状が集まっているということで、決定打になるものがないんですね。
そこがなかなか難しいところだと思います。」

厚生労働省は医療関係者に薬の副作用の知識を広めようと対策に乗り出しました。
昨年度までに75種類の副作用について個別に詳しいマニュアルを作りました。
そこには誤診しやすいケースと正しく判別する方法が記されています。
マニュアルの作成に携わった飯島正文医師はこうした知識を広めることが不足していると感じています。

飯島医師
「マニュアルは作ったけど、その活用がまだまだ十分ではないなというのが実感です。
医療関係者ならびに一般国民に広く知ってもらって、なるべく早く専門家に相談をかけていただく。
それがやはり副作用対策の極みだと思います。」

さらに薬の副作用そのものを未然に防ごうという研究も始まっています。
副作用を発症した人たちから血液の提供を受け、遺伝子を解析したところ副作用を発症しやすい体質があることが分かってきました。
SJSの場合、発症との関連が明らかになったのが免疫に関係する2つの遺伝子HLAーAとTLR3です。
この2つの遺伝子が特定の型になっているとそうでない人に比べ、48倍もSJSを発症しやすくなることが最近分かってきました。
研究チームは今後さらに解析を進め、将来的には副作用発症の予防につなげたいと考えています。

京都府立医科大学 上田真由美医師
「こういう病気が発症しやすい体質であることを前もってお知らせすることによって、この病気の発症を予防したり、
万が一発症してもすぐ病院に行って、『自分はこういう病気の可能性が高いです』ということをお医者さんに伝えることで、早期診断、早期治療に結びつけばいいと思っています。」

 

●市販薬の副作用 医療側の取り組みは

まずは副作用に対する認識を高めるということで、病気かな、ヘルペスかな、水ぼうそうかなというのと同時に副作用の可能性っていうのの発想にきちんと結びついていけるような教育をしていくということは、とても大切なことかなと思うんですね。
私たち、患者から学ぶという授業をしているんですけれども、今日の岡村さんのお話、体験談をお聞きしていて、たぶん多くの医療者の人たちはSJSのことというのが非常によく分かったし、自分たちがどういうところに注意をしていかなければいけないかってことも分かったと思うんですね。
こういうことを、もっともっと医学や薬学の教育の中に生かしていくっていうことが重要なのかなというふうに思いました。
イギリスとかでは患者さんたちがインターネットのサイトで自分の経験談を広めていくという活動をされて、それをまた患者さんも見て学んでいくっていうこともできている。
それの日本版もあるんですけれども、もっともっとそういうことを広めていくっていうことが岡村さんの経験を次の方の発現を食い止めるために生かすということができるのかなというふうに思いました。

●市販薬の副作用 飲む側の社会的認知度を高めるには

実は今年の4月から中学校で医薬品に関する教育というのが始まったんですね。
保健体育の中で教えていくんですけれども、お薬の中の説明文書についてそういう教育の場でどういうふうに読んでいくのか、効き目や飲み方だけではなくて注意すべき事項をきちんと読み取っていくっていうことを教えていただく。
それを家庭に帰ってお子さんたちがお父さんやお母さんにこんなことを勉強したということを伝えることで、こういう重篤な副作用について予防していくことができるのかなと思います。

関連キーワード