クローズアップ現代

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No.32682012年11月1日(木)放送
追跡" なりすまし"社会

追跡" なりすまし"社会

多発する国家資格の偽装

神奈川県にある金属加工会社です。
去年(2011年)、1級建築士を名乗るある人物にこの工場の設計を依頼しました。

しかし、その人物は偽者でした。
先月、逮捕された石岡秀逸(いしおか・しゅういつ)被告。
2級建築士の資格しかありませんが、長年にわたって、1級建築士になりすましていました。


この工場は規模が大きいため法律上、1級建築士しか作ることができません。
建物の構造や耐震性に問題はないのか。
確認の手続きを行うためには少なくとも200万円がかかるといいます。

会社の担当者
「ひと言でいうと怒りですね。
建物に対して不安がありますし、建築確認を取り直すことにまた時間とお金がかかりますので、そういう点ではもう憤りです。」

命を預かる医療の現場でもなりすまし事件が起きました。
9月に逮捕された黒木雅(くろき・みやび)被告。
医師資格がないにもかかわらず1万8000人に健康診断を行い、およそ3000万円の報酬を不正に得ていたと見られています。

なりすましの動機はなんだったのか。
黒木被告のもう1つの顔を映した映像が残っていました。

黒木被告
「はい、問題5です。
メタボリックシンドロームの診断基準値ですね…。」

黒木被告は独学で医療の知識を身につけ、医療系の予備校で講師を務めていました。
医師と偽ることで通常の2倍の講義料を得ていた黒木被告。
子どもの養育費や生活費を稼ぐために医師になりすましたと供述しています。

黒木被告
「確実に頭に入れといていただきたい。」

黒木被告の正体をなぜ見抜けなかったのか。
雇っていた医療機関の1つが取材に応じました。

黒木被告を雇った医療関係者
「医療機関としてですね、あり得ないことをやられたと。
非常に憤りは当然に感じております。
もう本当、恨みにも近い感情ですね。」


医療機関は黒木被告から医師の証明として、医師免許証のコピーを受け取っていました。
インターネットを使って画像を手に入れ、偽造されたものでしたが、気付きませんでした。


医療機関は、国から医師免許証の確認を原本で行うよう指導を受けています。
偽物を見分けるために透かしが入っているからです。
しかし、原本は持ち運びにくく破損のおそれもあるため、提出を嫌がる医師も少なくありません。
医療機関では健康診断が集中する時期は医師の確保が難しく、黒木被告に原本の提出を強くは求めなかったといいます。

黒木被告を雇った医療関係者
「我々も現場(健康診断)を飛ばすわけにはいきませんので、そこは正直ちょっとドクターに気兼ねしながらというか、遠慮しながら、それでもやってもらわなきゃいけない。
いうところで、やはり原本確認がそこまで徹底できない。」

もう1つ、黒木被告の正体を見破る壁になっていたのが個人情報の問題でした。
履歴書には東京の有名な病院で働いているという嘘の経歴が書かれていました。
しかし、医療機関は黒木被告がその病院に本当に在籍しているかどうかを確認するのは難しかったといいます。
個人情報保護法が壁になり、病院から情報を提供してもらうことができないからです。

黒木被告を雇った医療関係者
「『こういう方が過去勤めておられましたか?』という問いに対しては、『お答えいたしかねます』という回答が返ってくるのが現状ですね。
実態を完全に確認するのは難しいですね。」

3年間にわたり、なりすましを続けてきた黒木被告。
しかし、予備校の関係者が黒木被告の経歴に不審な点を見つけます。
履歴書に記されていた大学の医学部。
実は看護学科が存在しませんでした。
ここから予備校が嘘の経歴に気付いたのです。
これをきっかけに警察による捜査が始まり、黒木被告はようやく逮捕されることになりました。

黒木被告を雇った医療関係者
「恐らく学校(予備校)が気づかなければ、今現在、まだ気づいていない可能性は非常に高いです。
恐ろしいことです。」

身近に広がる“なりすまし”

都内で暮らすシングルマザーの女性です。
水商売の仕事をしています。
しかし、女性の名刺には…。

「インターネット関係の仕事をしてます。」

「営業企画」の文字。
IT企業の社員になりすましています。
女性は名刺だけでなく、偽物の源泉徴収票も持っています。
一体なんのためか。
水商売の世界では源泉徴収票が発行されないケースが少なくありません。
女性は子どもを保育所に預けるときやアパートを借りるとき、源泉徴収票の提出を求められましたがなかったため偽物を用意したのです。

「保育園に入るための書類のひとつとして必要だったので、源泉徴収を書類として提出したときに使いましたね。
やっぱり、なりすまし、こういう形でしてこなかったら、私は生きてこれなかったと思います。」

“なりすまし”支えるアリバイ会社

なりすましに使われる偽物の証明書。
それを作っている専門の業者があります。
通称、アリバイ会社です。
源泉徴収票だけでなく、さまざまな偽物の証明書を作成しています。
企業に勤めていることを証明する雇用証明書や内定通知書を1枚5000円で売っています。
なりすましを支える業者。
偽の証明書を作ることは違法ではないのか。

「この仕事そのものが法に触れることはないですね。」

業者の言い分です。
アリバイ会社は複数の会社を法務局に登記し、利用者に偽の証明書を発行しています。
現在の法律では存在しない会社の名義で証明書を作ると私文書偽造になりますが、会社が登記さえされていれば偽の証明書を作っても違法にならないのです。
また、利用者が証明書を詐欺に使ったとしてもアリバイ会社が事前にその目的を知らなければ違法性は問えないといいます。

アリバイ会社の社長
「理由を聞いちゃうわけにいきませんから、そこはあえて聞きません。
規約はネット上に事細かに書いてますので、『こういうことには使わないでください』とか。」

取材中、偽物の証明書を作ってほしいという電話が次々とかかってきました。

アリバイ会社の社長
「はい、自由に『何年働いて年収こんだけです』と決めちゃって結構ですから。」

アリバイ会社の社長
「今のは女性の方でしたね。
『給料明細書がとりあえずいるんだけど』、そういうことですね。」

利用者は増え続け、年間2000人を超えています。

アリバイ会社の社長
「利用客がうちに来るということはね、世の中にそういう方がたくさんいるんじゃないかなと。
これはビジネスと同時に人助けだと思ってますから。」

なぜ広がる“なりすまし”

まん延する、なりすまし。
背景にあるのは厳しい雇用情勢だと指摘する人がいます。
39年にわたって探偵をしてきた小舩井芳夫(おぶない・よしお)さんです。
最近、企業から採用試験を受けに来る人の経歴を調査してほしいと頼まれることが多いといいます。

大手調査会社 小舩井芳夫さん
「企業からの依頼は増えています。
中にはまったく履歴書を詐称している人も結構多い。」



ある中堅の広告代理店でのケースです。
中途採用の面接にやって来た1人の男。
大手広告代理店の正社員だといいます。
マーケティング調査の第一線で活躍していたと自己アピールしました。
なぜ、大手の優秀な人材が中堅の企業に転職しようとするのか。
不審に思った会社は小舩井さんに調査を依頼。
すると、意外な事実が明らかになりました。
男が、大手広告代理店で働いていたことは事実でした。
しかし、正社員ではなくパソコンのデータ入力の仕事などを任されていた派遣社員だったのです。
正社員になることが難しい今の社会。
小舩井さんはそうした厳しい環境がなりすましを生んでいると考えています。

大手調査会社 小舩井芳夫さん
「100回も会社を受けても受からない人もいる。
自分を良く見せたい、その会社に入りたいということを考えてみれば、それは自然の成り行きになるのかなと考えます。」

“なりすまし”から抜け出せない

水商売の仕事をしながらIT企業の社員になりすましているシングルマザーです。
この女性も、正社員になりたいといくつもの企業で面接を受けてきましたが、採用されることはありませんでした。
なりすましをやめて普通の暮らしがしたい。
その思いはかなわないまま今年、なりすましを始めて7年になりました。

「悪いという意識は?」

「多少はやっぱりありますよね。
なるべく自分も普通に戻れるようには努力しないと、とは思っていますけど。
なかなか簡単には戻れない現状ですね。」

まん延する“なりすまし”

ゲスト夏原武さん(ライター)

ここ10年、20年ぐらいで、かなり広い範囲にそれが増えたっていうのは間違いないと思いますよね。
ですから、特殊な職業であるとか、特殊な資格というものがだんだん垣根が低くなってしまって、簡単になりすますことができるという状況と、そういうものにタッチしやすくなったっていうツールの進化だと思うんですよね。
だから、そういうものを提供する業者がいること、それからインターネットを使うことで画像であるとか、そういう形で簡単に本物に触れてしまうことができると、それがかなり大きな影響を与えていると思います。

保育所の問題は非常に大きくてですね、つまりパートタイムだとなかなか預かってもらえない。
フルタイムで働きたい、しかし働くのに子どもがいたら働けない、だから預けたい、でも預けてもらえない。
その繰り返しになってるんですよね。
そういう行政の不備といいますか、社会のひずみのような所に落ち込んでしまった人、そういう人がじゃあ、どうしたらいいんだろうというときに、ああいうアリバイ会社を利用するっていうケースが、かなりあるわけです。

●行政が問題に向き合ってこなかった

それが一番大きくて、本質的に解決しなければいけない問題、きちっとした制度を作らなければいけない。
なのに、そういう業者がその隙間に入り込んで、それをおいしい商売にしてしまうと。
とりあえず、それを利用すれば、一時的な、緊急避難的なことはできると。
しかし、本質は何も変わらず、ずーっと続いてしまうと、そこに大きな問題があると思います。

●身分を偽ることへの葛藤は

やっぱりなりすますっていうのは、自分じゃない人間になるわけですから、本質的には嘘をつき続けなければいけないと。
それは非常にハードルが高いはずなんですけど、やはりネット社会の影響もあるんだと思うんですが、自分を見せずに意見を言うとか、自分が誰だか分からない状態で別の誰かになるといったようなことがゲーム感覚で若干できてしまうと。
それも影響はあると思います。

もちろん国家資格を偽造するといった場合には、専門的な知識がもともとあるっていうベースはあると思うんです。
ただですね、それを雇う側の問題というのがかなり大きくてですね。
例えば病院であれば、病院の経営陣が雇うわけですが、それが医者ではなくて、理事であったりっていう、いわゆる事務方の人が雇いますよね。
そうなると、専門的な視点で見るのではなくて、今とりあえず医師が何人足りない、この時期にはあと10人必要だと。
だから、どっかから10人引っ張ってこなきゃいけない。
そういう効率的な発想がすべてに優先していると、その背景もあると思います。

●一般の人でも“なりすまし”

だからチャンスさえあれば自分だってできるんだっていうような意識もあるでしょうし、だったらいいなっていう一種の思い込みですよね。
それを結局、嘘であったりとか、偽物の証明書であったり、そういうものでとりあえず、ことできればいいんじゃないかと、通用するんじゃないかっていう思い込みだと思うんですよ。
でも実際にはそういうことをすれば、あとに必ずばれるわけですし、ばれれば大きなペナルティーも来るし、そもそもそんなことを繰り返していても、正社員になれるわけじゃないと。
その辺を考えないと、どんどんどんどん深みにはまっていってしまう、そういうことじゃないかと思いますね。

●社会がまん延する土壌を作っているとしたら?

1つにはやはり効率優先である、それが行き過ぎているということですね。
つまり必要な所に必要な人材があれば、すべてがうまくいくといったような発想がありますから、どこの誰とかではなくて、どんな資格を持っている、あるいはどんな能力を持っているっていう、そこだけで判断しますね。
加えて、人を見るというよりは、その人が持ってきた書類であるとか、経歴であるとか、つまり表面上の形式的に整ったところだけを見て、そこさえクリアしていれば、別に誰でもいいじゃないかと、人間関係が非常に希薄かつ冷たい社会がそれを後ろから支えているようなところがあると思うんですよね。

●書類の体裁や肩書きが優先されてる?

もうそれが最優先ですね。
人を見てなくて、もっぱら書類ばっかり見ている。
あっ、この人はこんな資格があるのか、こんな経歴があるのか、なら今度の仕事にぴったりだ、あるいはそれがちょうどいい、あるいはこういう人を求めていた。
そういう発想になっちゃうんですよね。
だからその人の、その人がどんなことを考えているかとか、どんな仕事に燃えているのかとか、そういうことはどうでもいいんですね。
あくまでも資格、経歴、職歴。
それも書類上のものだけ、そこに集中してるっていうことがいえると思うんです。

●真面目にやっている人がばかを見てしまう?

当然ですね。
だから、嘘をついたり、そういう偽物の書類を使って、一瞬はいいかもしれませんけど、その人がずるをした分、誰かが損をしていると。
しかもその損をするっていうシステム自体は、時にはもっと大きくなる可能性もあると。
自分1人が嘘をつくことで、多くの人を不幸にしているということも考えないといけないですね。
(嘘が繰り返されれば)いずれ犯罪に巻き込まれる可能性も高いと思いますね。

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