クローズアップ現代

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No.32582012年10月10日(水)放送
ノーベル賞受賞 山中教授が語る iPS細胞の未来

ノーベル賞受賞 山中教授が語る
iPS細胞の未来

ノーベル賞 山中教授 iPS細胞の医療革命

「おはようございます。」

「朝から、ご苦労さまです。」

朝9時。
出勤とともに山中教授は、いつもスタッフに声をかけて回ります。

「彼は今年卒業予定の学生ですけど、論文を書かないと卒業できないので、すみません、邪魔して…。
彼女は韓国からの留学生で、論文が一個かけたので、若干余裕があるんですけど。」


いつも研究所には笑顔が絶えません。
ひとたび研究に入ると真剣な表情の山中教授。
ノーベル賞受賞を決めたiPS細胞。
それは世紀の発見でした。

iPS細胞が生まれる瞬間を捉えた映像です。
細長い形をした皮膚の細胞が丸い細胞に変わっています。
このとき、何が起きているのか。
細胞の中心部には人体の設計図DNAがあります。
皮膚の細胞では皮膚になるために必要な情報だけが現れています。

山中教授が発見した4つの遺伝子を細胞に入れると、皮膚以外の細胞になるために必要な情報が現れ始めました。
これは受精直後と同じように、どんな細胞にでもなれる状態です。
細胞が初期化されたのです。


「こんにちは。よろしくお願いします。」

iPS細胞が大きく期待されている一つは再生医療です。
富永昇さん。
根本的な治療法のない、目の病気にかかっています。
山中教授の発見を受けて、この研究所では目の網膜の再生を始めました。

これは皮膚のiPS細胞から作られた網膜の組織の一部です。
研究所では国の了承を得られれば、来年(2013年)にも移植手術を行う予定です。



「目は、こっちやろ。
こっちは口か。」

ひ孫が生まれたばかりの富永さん。
その顔をはっきり見ることが願いです。

「笑ってるんか?分からへんな。」

iPS細胞に期待されるもう一つは病気の原因の解明です。
20年前にALS=筋萎縮性側索硬化症という難病を発症した長尾義昭さん。
まばたきでやり取りする長尾さんは全身の運動神経がまひし筋肉が動かなくなっているのです。

「奇跡が起こる。
奇跡が起こるかもしれないから希望を持って。」

アメリカの大学では、iPS細胞からALS患者の運動神経を作ったところ驚くべき現象が起きました。
運動神経の細胞が周囲の細胞に攻撃されて消えていきます。
世界で初めて捉えたALS発症の様子でした。
iPS細胞の登場によって難病だけでなく、糖尿病など多くの病気の解明や治療薬の開発が進められています。

ノーベル賞 山中教授に聞く

ゲスト山中伸弥さん(京都大学教授 iPS細胞研究所所長)

●研究の広がりをどのように受け止めているのか

本当に予想を上回る速さです。
iPS細胞というのは、作製方法が非常に簡単でありまして、高校生、中学生でもできるような方法ですので、それが利点でもあり、またこのように非常に多くの方が研究に参加して、競争が激しくなるという点にもつながっています。
しかし、そのおかげでですね、競争というのは私たち研究者にとっては非常に大変なんですが、研究のスピードを上げるという点では、ものすごい効果がありますので、いいことではないかと思っています。

●創薬産業が画期的に強化される期待

特に創薬の中でも、難病、患者さんが少ない希少疾患、そういった病気に対する創薬の研究というのは、どうしても遅れがちになります。
製薬会社さんから見ても、あまり患者さんが少ないので、利潤という点では期待できませんので、これまでそんなに発展してこなかった分野が多いんですけれども、なんとかこのiPS細胞というのを切り口に、難病や希少疾患の薬、どんどん出来ていってほしいというふうに考えています。
日本は優れた製薬会社がたくさんあります。
また、薬の候補といいますか、多くの国は化合物、人工的に作ったものを候補として探しているんですけれども、日本は化合物に加えて天然物、カビですとか、そういう自然に存在するものから抽出したもの、このすばらしい宝のような薬の候補がたくさんございますので、そういったものをぜひ利用させていただいて、また製薬会社と協力して進めていきたいと思います。

●この6年でスピード受賞がされたのは、なぜだと思うか

これはひとえにジョン・ガードン先生のおかげです。
ジョン・ガードン先生から見ると、6年ではなくて、50年なんですね。
50年前に示された細胞の初期化という現象を、iPS細胞の技術で、より簡単に再現できるようになったと、そのことによって、ジョン・ガードン先生の50年前の仕事が正当に評価されて、今回、受賞になりましたので、私たちは、私はそこに、いってみたら、便乗させていただいて、受賞させていただいたようなものですが、これから、次のステップですね、これを臨床応用に持っていくと、そこはやはり私や、今、研究を行っている若い人たちの義務でありますので、そこをしっかり、けん引役として引っ張っていきたいというふうに思っています。

●海外に負けないよう特許を取っていく

特許というのは一般的には、技術を独占する民間企業であったりが技術を独占して、自分たちだけで研究を進め、開発を進めるためのものなんですが、私たち京都大学は、逆に、独占させないために、京都大学が特許を取ることが重要であると考えています。
公的機関である京大が特許を取ることによって、いろんな企業であったり、研究者が自由にリーズナブルな条件でこの技術を使える、そのために頑張って特許の取得に力を入れています。

●多角的な競争に打ち勝つ財力、資金面は整うのか

非常にありがたいと思っています。
今、言われた研究費というのは、ノーベル賞のアナウンスメントがある前から、ずいぶん前から文部科学省が計画を進めていただいていたことですので、今後、ノーベル賞の受賞によって、その要求が財務省にもできるだけ認めていただきたいなと思っています。
ただ10年ということで、特許の専門家等を10年雇用するお金のメドはだいぶついてきたんですが、しかし、じゃあ10年後はどうなるんだ、今、30歳の特許の専門家の人は、10年たつと40歳になってしまいます。
そこで終わりだったとしたら、彼らはもう、本当に次、行く場所がなくなってしまいますので、なんとかそういう、日本の国のために、特許を一生懸命やっている人々、またそれ以外の研究支援者の方を、どうしたらいわゆる正社員のような形で雇用できるようにできるか、それが私が今後、国にお願いしていきたいことの最大の一つです。

●iPS細胞研究所の9割の方が、任期付きの職員

そうですね。
やはりできるだけ、いわゆる企業からいうと、正社員を増やしたいと。
今、iPS細胞研究所は正社員、1割しかいません。
9割は有期雇用の方ですので、非常に不安定。
そういう方たちのおかげで今回、ノーベル賞につながったわけですから、なんとか彼らに適正な雇用、正社員としての雇用を、全員というわけではないと思うんですけれども、しかしできるだけ多くの方に、そういう条件を提供したいというふうに頑張っていきたいと思います。

●臨床応用を目指すとしているが、今のペースで実現できそうか

それは病気にもよると思います。
ビデオにありました網膜疾患は、相当早いペースで進んでいます。
来年(2013年)ぐらいには臨床研究が始まって、そこからだんだんと本格的な治療になっていくと期待しています。
脊髄損傷とか、ほかの疾患については、もう数年かかると思いますが、しかし10年後には、かなりの疾患で、臨床研究が始まっているというふうに期待しています。

●自信が見えてきたのか

こういう科学技術ですから、リスクとベネフィットのバランスで物事を決定する必要があります。
5年前はまだそのリスクの大きさも完全に見えてなかったし、かなり大きいんじゃないかという懸念があったんですが、それがこの5年間の研究で、リスクがどんどんどんどん下がってきた。
ただ、ゼロにはなっていません。
あとはこのベネフィット、そのiPS細胞を使うことによって、患者さんが得られるベネフィットとバランスを見て、疾患によってはベネフィットが大きいと判断するものについては、臨床研究を始めると、そういう段階に来ていると思います。

●プレッシャーをどう乗り越えているのか

やっぱり運動ですね。
ジョギング、体を動かす。
そのときに音楽を聴くんですけれども、聴く曲はビリー・ジョエルの“プレッシャー”という歌がありますが、それを聴きながらユーキャンノットハンドルプレッシャーと自分に言い聞かせて、頑張っています。

●先生にとって癒やしとは

これは今まで、やはり子どもが小さくて、その子どもたちの成長、笑顔、それにずいぶん癒やされました。
今はもう23歳と21歳になってしまったんですが、これからもできたら、お父さんに優しくしてほしいなと思っています。

●これから目指すもの

このままでは終われないと。
必ずiPS細胞を役に立つ技術にして、それから死にたいと。
それから25年前に死んだ父親に会いたいというふうに思っています。

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