クローズアップ現代

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No.32572012年10月4日(木)放送
復活なるか液晶王国ニッポン

復活なるか液晶王国ニッポン

シャープ苦境 なぜ経営悪化

8月下旬。
台湾から来日したある人物の動向に、注目が集まりました。
ホンハイ精密工業の郭台銘会長です。
シャープとの提携に合意すると見られていました。
ところが、郭会長はトップ会談を急きょキャンセル。
そのまま、日本を離れました。

「何も話せない。」

交渉がまとまらない理由。
それは、予想を超えるシャープの業績の悪化です。

シャープの株価です。
ホンハイとの交渉の発表で一時値上がり。
しかし、その後業績の悪化とともに急落しました。
厳しい状況に追い込まれたシャープ。
大規模なリストラを迫られています。

シャープの再建計画の内部資料です。
1万966人の従業員を来年度末までに削減するとしています。
かつて世界トップシェアを誇った太陽電池事業は採算確保が困難な事業や欧米の事業から撤退。
資料には創業以来、初めてとなるリストラの全容が記されていました。

なぜ、シャープの経営は悪化したのか。
理由の一つは国内市場に頼り過ぎたことです。
亀山モデルというブランドの確立に成功し、シャープは国内の液晶テレビ市場で、一時圧倒的なシェアを占めました。
ところが、海外に目を向けると韓国メーカーが新興国で急速に市場を開拓していました。
液晶事業の責任者、今矢明彦さんです。
国内での成功体験が新興国への出遅れにつながったと見ています。

ディスプレイデバイス事業本部 今矢明彦本部長
「日本のマーケットは非常に大きくて、日本のマーケット中心の考え方をしていたのではないかと思いますね。」

さらに、シャープの経営悪化を決定づけたのは大阪・堺工場への巨額の投資でした。
4,300億円もの資金を投じ3年前に稼働した、この工場。
60型の大型パネルを世界で唯一、大量生産できます。
大型テレビの市場を切り開き、ライバルの韓国メーカーを圧倒するのがシャープのシナリオでした。
ところが、このシナリオが崩れました。

今年1月の堺工場です。
稼働率は、3割程度にまで落ち込んでいました。
世界的な景気の低迷で、価格の高い大型テレビが売れなくなりました。
巨額の投資が裏目に出たのです。

ディスプレイデバイス事業本部 今矢明彦本部長
「我々が作った価値、技術的価値がそのまま市場の価値であると思いたがっていた。
マーケットで世界を見なければならないということを痛切に感じます。」

シャープ苦境 どうなる提携交渉

経営再建のためにシャープが選択したのはホンハイとの提携でした。
ホンハイは、アップルをはじめ、世界中から電子機器の生産を請け負うメーカーです。
売り上げは9兆円を超え、シャープの3倍に上ります。
この規模にシャープは目をつけたのです。

ホンハイとの提携の内容です。
稼働率が低い堺工場はホンハイとの共同運営に切り替えました。
ここで作った液晶パネルはホンハイの工場でテレビに組み立てられ世界中のメーカーに供給されます。
一方、ホンハイはシャープの再建を後押しするため669億円を出資することになっていました。
ところがシャープの株価急落を受け、ホンハイは踏み込んだ要求をしてきました。
シャープの経営への関与を強めたいというのです。
ホンハイが求めているのはシャープの最新技術の開発拠点三重県・亀山工場の運営に関わることです。

「こちらはどんな場所なんですか?」

「この先で液晶の開発をしています。」

その開発拠点に初めてカメラが入りました。
ここでは10年かけて開発してきた最先端の液晶パネルの生産準備が進んでいました。

従来のフルハイビジョンの液晶パネルに比べて新型は、細かい文字でも細部まではっきり映し出すことができます。
消費電力は、従来の5分の1程度。
バッテリーが長もちするため、タブレット端末やスマートフォンのメーカーから注目を集めています。
液晶事業立て直しの切り札と位置づける、この技術。
簡単には渡せないとシャープは考えています。

開発担当者
「売るための武器は手に持っているので、我々はそれを生かしたモノづくり、製品開発をしていけばやっていけると考えています。」

本格的な生産に備え、新型パネルの販売先の開拓も進めています。
この日は研究開発用のモニターとして初めての商談が成立しました。
新技術で新たな市場を作れるのか。
ホンハイとの提携で合意できるのか。
経営の再建をかけたシャープの模索が続いています。

ディスプレイデバイス事業本部 今矢明彦本部長
「最先端で、技術で逃げ続けるということは絶対メーカーとして大事なことだと思っています。
それだけをやって、それでいいんだというおごりではなく、我々、マネジメントに携わる者としては、世界で何が起こっていて最先端の技術をどう生かしてやるかということを世界中でオペレーションに注意してみなければいけないと思っています。」


ゲスト教遠藤功さん(早稲田大学ビジネススクール教授)小坂記者

●提携の行方

小坂記者:提携に向けた交渉は、表向きは動きがほとんど見られません。
提携はこのまま決裂してしまうのではないかという見方まで出ています。
確かに、その後、直接のトップ会談というのは行われていません。
ただ、テレビ会議などを通じたトップレベルの交渉というのは、現在も水面下で行われています。
その交渉の期限というのは、来年(2013年)の3月となっています。
亀山工場の、その重要な技術を巡る話し合いっていうのも含まれているだけに、シャープの幹部は、交渉が長期化する可能性というのも示唆しています。

●問題はどういうところに原因があるのか

小坂記者:確かに日本メーカーの共通の問題です。
それは自前主義が限界に突き当たったということです。
その自前主義というのは、パネルの生産からテレビの製造までを一貫して自社で手がけるという戦略です。
これはシャープに限らず、日本のメーカー各社が取ってきました。
この自前主義というのは、自社が持つ技術を囲い込むことができるというメリットはあります。
ただ一方で、1000億円単位という巨額の投資を自分で負担しなければなりません。
ですので、ひとたび製品が売れなくなってしまうと、この巨額の負担が会社の経営を直撃するということになります。
いわば技術で勝っても、ビジネスで負けるという状況に陥ってしまいました。

●日本を追い抜いていった韓国や台湾のメーカーとの違い

遠藤さん:どの企業にもやっぱり強み、そして弱みがあると思うんですね。
今回のケースは、日本企業の弱みが全面的に出てしまったということだと思います。
その典型的な例が、一つが、やっぱり企業のスピード感なんだと思うんですね。
それぞれの会社は、日本企業、海外に限らず、体内時計というのが組織の中に埋め込まれているんですね。
組織の中のやっぱり時計のスピード感が違うんですね。
韓国企業とか台湾企業は、非常にトップダウンの経営をしてきます。
カリスマ経営者がいて、意思決定も速い、それから実行のスピードも速いということをやっていくのに対して、やっぱりどうしても日本の企業はサラリーマン経営者的な運営をしますし、コンセンサスを大切にするんで、どうしてもスピード感がない。
結果としてこういう変化の激しいビジネスには、弱みが出てしまうというところがあるんだと思いますね。
これは決して今回の液晶だけではなくて、以前も、例えば半導体なんかも同じようなことが起きてたんですね。
技術的には優位だったけども、やっぱりスピード感がなくて、キャッチアップされて、追い越されてしまったということだと思いますね。

“液晶ニッポン復活”鍵はスピード

今年4月に発足したジャパンディスプレイ。
日立、ソニー、東芝という日本を代表する電機メーカーが中小型の液晶事業を統合。
液晶パネルを専門に作る部品メーカーとして再出発しました。


ジャパンディスプレイ 大塚周一社長
「日本発のグローバルリーディングカンパニーになる。」

統合によって新会社のシェアはシャープや海外勢を抜いて世界トップに躍り出ました。
売り上げは、4500億円に上り初年度から黒字の実現を目指しています。
会社の強みは、大手3社が蓄積してきた高い技術力です。

これはスマートフォンのサイズの液晶画面。
これまで難しかったフルハイビジョンテレビと同じ水準の画質を実現しました。

今月(10月)から量産を始めます。
この日、海外の大手スマートフォンメーカーが商談に訪れていました。
専門の部品メーカーになったことで親会社の方針に左右されず、取引先を拡大できるようになったといいます。

「来年には力強い成長を目指しています。」

「我々も強く期待しています。」

社長の大塚周一さんです。
技術とシェアで優位に立っている今こそ、スピード感を持った経営が大切だと考えています。

ジャパンディスプレイ 大塚周一社長
「技術は常に追いかけられてきているわけですから、本当にスピード経営が必要なんですね。」

スピードが必要とされる背景にはスマートフォンの商品サイクルの速さがあります。
新しいモデルが次々と発売されそのたびに、世界の取引先から値下げや、納期の前倒しを求められるのです。

「(パネル生産を)前倒しで(納期の)圧縮の指示が入ると思います。」

取引先の要求に素早く応える生産体制を、どう作り上げるのか。
陣頭指揮に当たる福井功さんです。

「絶対おかしいよ、早く解析しないと。」

ライバルより、いかに早くコストを削減できるか。
それが勝負の分かれ目だと福井さんは考えています。

「お客さんが“100円でできる?”と言ったら、やって差し上げるのが我々の仕事。
細かい部分までこだわっていかないと製造の現場としてそういうこだわりを持って現場をよくしていかないとお客さんのおっしゃるコストで供給できない、それが勝負。」

福井さんは、連日生産現場に足を運んでいます。
いち早く改善点を見つけることがコスト削減の鍵を握るからです。

「ガタガタ鳴ってるよ。
ガタガタ鳴ってるときはこすれてゴミが降ってる。」

福井さんがこの日、指摘したのは液晶パネルを運ぶ機械の僅かな振動でした。
十分調整されていないため目に見えない、ちりが舞いパネルに付着。
不良品が増えていたのです。
機械を調整しただけで年間、数億円分のコストを減らせる見通しになりました。
今、福井さんが急いでいるのが生産規模の拡大です。
この日、訪れたのはパナソニックから買い取った工場です。
大型の液晶パネルを作っていたのを中小型の液晶の工場に作り替えています。
一から建てるよりも早く生産を始められるため300億円を投じ購入に踏み切りました。
当初の予定を半年以上、前倒しして工場の稼働を目指しています。

生産本部 福井功執行役員
「大手のお客さんも、新興のお客さんも、みんな高精細のパネルがほしいんですよ。
作らないといけないから、明日にでもやりたんですけど、そのぐらい大きな判断というか決断をして始める。」

スピードを重視する大塚社長。
欠かせないと考えているのが取引先のニーズを先取りした技術の開発です。
現在製品化を目指しているのはフルハイビジョンよりもさらにきめ細かいパネルです。
液晶王国ニッポンの復活をかけた待ったなしの戦いが続いています。

ジャパンディスプレイ 大塚周一社長
「重要なことは、日本の企業として私たちが成功しなきゃいけないんだ、成功しなかったときにはすべてがなくなる。」


●本当にスピード感のある決断ができるのか

小坂記者:そのための経営体制というのを取っています。
その一つは、社長の権限を非常に強くしたことです。
この会社の執行役員は全部で10人いるんですが、決定権を持つのは社長1人だけです。
また日本の企業連合にありがちな、いわば船頭多くして、船山に登ると、こういう事態を避けるための仕組みというのもあります。
親会社の出資比率を3社合わせて3割に抑えています。
いわば経営に対して、なかなか口を出せないと、こういう体制も作りました。

●ジャパンディスプレイの取り組み

遠藤さん:2つポイントがあると思うんですね。
1つはやっぱり先ほどスピードというキーワードがありましたけれども、意思決定のスピードは速くなったかもしれないと。
でも、本当にじゃあ実行のスピードが担保できるのかということだと思うんですね。
やっぱり物事を決めても、それが迅速に遂行できなければ、結果に結び付きません。
やっぱりどうしても3つの会社が一緒になってますんで、いろんな垣根があると。
そこを乗り越えて、いかに迅速な実行ができるかどうか、そういう組織ができるかどうかが1つ目のポイントだと思いますね。
2つ目はですね、やはり今は優位性のある技術を持ってます。
でも、この技術も必ず陳腐化していく。
そして競合メーカーが追いついてくると思うんですね。
やはり技術というのが、どんどんどんどんスピードが速く他社がキャッチアップしてきますんで、やはり次の新しい最先端技術というものを常に模索して、常に先を行くという持続的な、技術的な優位を持てるかどうかということが2つ目のポイントになると思いますね。
ですから、やっぱりスピードが勝負であって、次から次に新しい付加価値を作っていくということがポイントになっています。

●日本のメーカー、復活の鍵

遠藤さん:やっぱり今回の会社は、オールジャパンで取り組んでいるわけですね。
でも私は、場合によっては、オールジャパンではなくて、オールアジアで戦うというような発想もこれからは必要になってくると思うんですね。
例えば韓国勢、台湾勢も、当然、競争相手ではあるわけですが、一方では、一緒に協業ができるパートナーかもしれないというふうに考えたときに、自分たちの弱みをうまく保管してくれる、そして自分たちの強みは磨いていくという形での提携とか協業といったものも戦略的に考えていく必要があるんだと思いますね。
ですからもっと開かれた経営をしようと。
なんでも自前でやろうというんではなくてですね、うまく他力も使いながら、そういう、その強いところを生かす一方で弱みも補っていくというような経営が必要になってくると思いますね。

●日本の液晶業界の復活

遠藤さん:今日のレポートもそうですが、10年前にこういう状況になるとは、誰も予測していなかったわけですね。
逆に言うと、10年後、どうなってるか分かりません。
日本のメーカーがまた技術的な優位をもって世界のところで大活躍しているかもしれませんし、そういう成功を祈っていきたいというふうに思います。

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