クローズアップ現代

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No.32272012年7月10日(火)放送
年齢の壁を越えろ ~室伏広治 金メダルへの秘策~

年齢の壁を越えろ ~室伏広治 金メダルへの秘策~

室伏広治 37歳 年齢との戦い

今年(2012年)4月。
室伏選手は拠点にしているアメリカ・カリフォルニア州で練習を公開しました。
報道陣からは、37歳という年齢に関する質問が相次ぎました。

「年齢との戦いで充実しているところは?」

「年齢との戦いで、一番ケアしているところは?」

「アラフォー世代の星、頑張っている人たちにメッセージを」

室伏選手
「年なりに頑張ります」



 

年齢とどう向き合ってきたのか。
体育学の博士号を持つ室伏選手は、20年近くにわたり、ハンマーを投げるときの体の動きを研究してきました。
この日の講演で説明したのはフォームの変化でした。

 

室伏選手
「昔のこれ、もう2000年のときですね。
スーパー陸上のときの振り切りですね。
こっちは今、現在ですけど。
反ってるの見たら分かりますけど、すごく背筋の力に頼るような動きですね。
ただ、同じことを年齢がいってやると大変なことになります。
骨の状態や腱の状態も、明らかに年齢がいっているので。
今は効率と安定性で投げると。
年齢にあった動きを見つけていく作業というのは、今日やってすぐできることじゃないです」

力に頼る投てきから、効率と安定性を重視した投てき。
それが年齢と向き合う中で導き出した答えでした。
欧米の選手に比べ、体が細かった室伏選手。
ハンマー投げの飛距離は、投げだすときの鉄球のスピードで決まります。
激しいウエイトトレーニングでパワーをつけ、スピードを生み出そうとしてきました。
そして、アテネオリンピック。
室伏選手は、この種目アジア初となる金メダルを獲得します。
しかし、33歳で出場した北京オリンピック。

実況
「最後の投てき!室伏!」

結果は5位。
この年の春に腰を痛め、万全な状態ではありませんでした。
筋肉に頼った動きを長年続けてきた体が悲鳴を上げたのです。

室伏選手
「簡単な言い方をすると金属疲労ですね。
金属って何回も折ったり曲げたり伸ばしたりということを繰り返すと、ポキッと折れる。
簡単に折れますよね。
あれだけ硬い金属が。
ですから、そういう現象が体に起こっていると思っていただいたほうがいいと思います」

筋肉に頼らず、体に負担の少ない投げ方はないのか。
室伏選手は試行錯誤を繰り返します。

うちわを手に、空気の抵抗を確かめながら回転してみたり。




 

体のバランスを確かめるために、腰にハンマーをぶら下げてみたり。



 

そして、1つの答えにたどりつきます。
それは、赤ちゃんの動きでした。
筋肉が発達していない赤ちゃんが、体を回転させて寝返りを打てるのは、人間が本来、生まれながらに持っている機能を使っているからだといいます。

室伏選手は、この動きをヒントに新たなトレーニングを始めました。
右手と左足を地面につけて体をねじります。


 

主に使うのは筋肉ではなく胸椎や股関節。
赤ちゃんが寝返りを打つときに使っている部分です。



 

これらの部分を回転運動の軸としてハンマーを投げる。
筋肉に頼った動きから人間本来の動きに戻せば、年齢を重ねた体でも、無理なく投げられると考えたのです。
室伏選手のフォームは背筋に頼り、背中を反って投げていたものから、回転の軸を意識した安定したフォームに変わりました。
 

室伏選手
「じゃあ、今より力をつけることができるかっていうとそれは無理な話。
今、自分が持っている体で、いかにして最大の力を発揮できるか、最高の成績を残せるか、パフォーマンスを上げられるかってことを常に考えてやってます」

新しいフォームで臨んだ、去年(2011年)の世界選手権。
室伏選手の記録は81メートル24センチ。
北京オリンピックの記録を50センチ上回りました。
36歳10か月。
世界選手権史上最年長の優勝でした。

室伏選手
「やはり日々ね、向上心を持っていくことだと思いますよね。
それは肉体的にも、精神的にも、昨日よりも、また今日、今日よりも明日というふうに、やはり、いかに自分を向上させていくかというところが大事だと思いますけどね」

室伏広治 37歳 飽くなき探究心と向上心

ゲスト朝原宣治さん(北京五輪 銅メダリスト)

普通ならそこ(赤ちゃん)に行き着かないところにね、彼のすばらしさがあるんじゃないかなと思います。
普通なら、強い選手は特に、こういうやり方がよくて、こういうやり方で結果が出たということで、それに頼っていく、いきがちなんですけど、それを彼は全く新しい方法でアプローチして、さらに自分を高めようというのが、やはりすばらしいところかなと思います。

同じことを繰り返さないというのがね、また彼の、人とはちょっと違うところかなと思いますけどね。

ある程度、自分のやってきたことに自信を持ちながらやらないと、選手っていうのは自信が揺らぎますので、全く違うことにチャレンジするというのは、やはり勇気がいることですね。

●トップアスリート 年齢との戦い

(年齢を重ねても)同じことはできるんです、それは量ではなくて、同じパフォーマンスをしようと思ったらできるんですけど、それにはかなりの準備が必要だったりするんですよね。
なので、疲労ですよね。
疲労回復っていうのが、かなり遅くなりますので、そことの勝負になります。

(疲労の実感は)練習のときとかももちろんね、いつもならこの練習してて、これぐらいの日にちたてば体が回復して、またハードな練習ができるってなるんですけど、それがちょっとずつできなくなったり、あとはまあ、ふとした瞬間ですよね、朝起きた瞬間に、なんかこう力がみなぎらないとか、そういうのが大体27、8ぐらいから感じてきますよね。

私の場合は27、8でけがをしましたので、向き合う機会がありました。
ただ、30歳を超えるってときには、ものすごい不安になりましたね。

●限界を受け入れることができるか

そこが一番難しいところで、やはり自分の持っている、今の力っていうのを素直に認めるってことと、あとはそれを客観視してくれる人たちの話を、素直に聞き入れるっていうのは、非常に大事なとこかなと思いますね。
ベースのところ、今の状態が分からないと、次、どうやって進もうかっていうのは、見えてこないですよね。

私はもう、そっち(精神面での疲れ)のほうが、肉体疲労よりも精神疲労のほうが問題というかね、大きな問題なんじゃないかなと思います。
というのは、やはりモチベーションというのが選手を支えてますので、じゃあ次行くのに、どういう気持ちで、どういう目標を持っていこうっていうのは、ものすごい大きなところで、そこに体を動かそうと思ったら、心が動かないと、向かっていけないですよね。
なので、室伏君というのは、もう金メダリストですしね、そこに向かう方法というのを、精神的にも充実するような方法っていうのが、多分分かってるんじゃないかなと思います。

若いころはね、何してても興奮することもありますし、大きな大会が近づいてくると、自然とね、ワクワクするもんなんですけど、それが繰り返し繰り返し、世界選手権何回も出たり、オリンピック何回も出ると、ちょっとやそっとじゃ興奮しなくなったり、トレーニングに対しても、もうマンネリ化してしまうと、あまり力が出せないという状況になりますね。
でも、室伏君はやはり、新しいものをどんどん取り入れて、自分を高める方法をね、模索しているというところに、モチベーションの秘けつといいますかね、あるんじゃないかなと思います。

“ピークを合わせる” 金メダリストへの秘策

どうすればピークを合わせることができるのか。
去年11月、室伏選手は、コーチや体のケアを行う理学療法士とオリンピックに向けた最初のミーティングを開きました。
ここで、室伏選手はある戦略を打ち出します。

室伏選手
「僕の年齢だと、体の回復には時間がかかる。
だからオリンピックまで、3つのピークを作ろうと思う。
ピークを3回に分ければ、体に大きな負担はかからないと思う」
 

若いころは、シーズン序盤に一気にピークを上げ、大会まで維持することができました。
しかし、年齢を重ねた今の体では同じことはできません。


 

そこで考えたのが、ピークの山を3つに分けるスケジュールです。
一度ピークを上げたあとに休みの期間を設けることで体に負担をかけず、段階的にピークを上げることができます。

 

しかし、この方法は少しでもスケジュールがずれると、ピークを大会に合わせることができません。
予定どおり、スケジュールを進められるかどうかが、金メダル獲得の鍵となるのです。


 

室伏選手
「ものすごく重要ですよね。
だから、これを間違えてプランを立てたらもう、結果は出ませんから。
コンディショニングのピークもあって、テクニックのピークもあって、体力のピークもあって、すべてのピークをどうやって一致させるかということを、やっぱり一緒に考えないと実現はできないと思ってるんですね。
特に年齢的なことを考えるとやっぱり、どれがもうミスをしても無理でしょうね、メダルを取ることは」

4月、トレーニングは2度目のピークを上げる時期に入っていました。
年齢を重ねた今、力を入れているのはウオーミングアップ。
けがをすれば治るまでに時間がかかり、計画が崩れてしまいます。
およそ30種類のメニューをたっぷり1時間。
若いときの3倍の時間をかけます。

練習が終わると、疲れはその日のうちに取り除きます。
これはカッピングと呼ばれる疲労回復方法です。
体内に、たまった老廃物を吸い上げることで、皮膚の下にあるリンパ管に流し込み、尿として排出します。
年齢とともに疲れが翌日まで残るようになり、3年前から始めました。

さらに、今年から新たな装置も取り入れました。
白く漂うのは、気化させた液体窒素です。
容器の中はマイナス180度に冷却されています。
体が急激に冷やされると、体温を上げようと活動が活発になります。
新陳代謝が進み、疲労が回復するといいます。
 

室伏選手
「回復できるときに、きちっと回復する。
特に年齢的なことを考えるとそこは、やはり鍵になってくるところですので、いかにして、そこができるかで次の日のパフォーマンスが変わるわけですから」
 

徹底した体調管理で、スケジュールの変更は雨による2日だけ。
オリンピックまで3か月。
順調にピークを上げることができていました。


 

そして迎えた6月の日本選手権。
オリンピック前の最後となるこの大会に、室伏選手はある考えを持って臨みました。
ロンドンオリンピックの決勝は8月5日。
競技開始は午後8時20分です。
同じく、日本選手権も夜に始まります。
1日のスケジュールをどう組めば、競技の時間にピークを合わせられるのか。
この大会で確かめたいと考えていたのです。

グスタフソンコーチ
「ウォーミングアップや準備に、どれくらい時間をかければいいか確かめるんだ」


 

当日、競技開始6時間前に昼食をとった室伏選手。
練習グラウンドに入ったのは午後5時。
その20分後、体を温め始めます。
これまでの経験から逆算した時間です。
オリンピックに帯同するコーチや理学療法士も、この日のためにアメリカから呼び寄せました。

投てき練習は4本。
体に刺激を与えつつも疲れが残らない本数です。



 

迎えた決勝。
激しい雨の中、前人未到の18連覇を達成。
オリンピック当日のピークの合わせ方を確かめる絶好の機会となりました。

 

室伏選手
「これは、いちかばちか賭けてやってるものじゃなくて、確実にメダルを取るにはどうしたらいいかを考えて練習をしている。
ですから、力を発揮できるようにそこに合わせていきたいという気持ちですね」

“ピークを合わせる” メダルへの条件

(年齢を重ねてのピークの維持は)難しいですね。
若いころは、やはり回復が早いので、回復、トレーニング、調整、試合、また休養という1つのサークルですね、それがちっちゃいサークルでいけるんですよね。
それが年を重ねると、おっきなサイクルで回らないといけないんで、やはりそのピークを合わせるにも、そこにピタッと合わすのは、非常に難しくなりますね。

彼の場合は、金メダリストでね、これ以上、もう望むものはないというところで、やはり自分の限界ですよね。
どこまで自分がいけるのか、どれぐらいの可能性があるのかっていうのを追い求めてるところっていうのが彼のモチベーションで、それが彼にとってハンマー投げであってね、それを超えたところで戦っているというかね、求めてるところがあるんじゃないかなと思います。

室伏君そのものをなんか高みに向かって、追求しているという感じを受けますよね。

頑張ってほしいです。

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