クローズアップ現代

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No.32062012年5月30日(水)放送
フィルム映画の灯を守りたい

フィルム映画の灯を守りたい

フィルム映画の 灯を守りたい

三重県伊勢。
60年もの間、営業を続けてきた老舗の映画館、進富座(しんとみざ)です。
館主の水野昌光さん。
家族経営で人手が足りず、1人で何役もこなします。

朝10時から夜の9時まで、2つのスクリーンでの上映をみずから行います。
都会のシネコンでかかるような、ハリウッドのヒット作ばかりでなく、例え地味でも良質な映画を掘り起こし街の人たちに届けてきました。

進富座館主 水野昌光さん
「ここでしかないものがあるわけですよね。
それが、映画館の値打ちだと思ったので。
自分が良いと思ったものを見てもらって、それでお客さんが喜ぶ、そこに初めてお金をもらった価値がある」


24歳で家業の映画館を手伝い始めた水野さん。
この仕事の持つ奥深さに目覚めたきっかけは、1本の作品との出会いでした。
映画「ニュー・シネマ・パラダイス」。
街の映画館で世界の名作を人々に届ける映写技師アルフレードと映画の世界に魅せられてゆく少年トトの交流を描いた作品。

自分の役割は良質な映画との出会いを人々に提供すること。
映画を見た水野さんは確信したといいます。

「あの映画がこだわりを教えてくれたじゃないですか。映画館と映画のすばらしさを。
そのバトンを引き継いでいるんだなって、あのときは見て思いましたから」

しかし、水野さんは今、映画館の存続に関わる大きな岐路に立たされています。

水野さん
「もうフィルムっていうのは、そういうのはない?」

配給会社
「どうなんでしょうかね」


去年(2011年)から多くの配給会社がフィルムでの配給をやめ、デジタルデータで配給する動きが加速しているのです。

配給会社
「(デジタル化で)決着がついちゃうんだろうな」

水野さん
「だいたい年内ぐらいって感じですかね」

もし、デジタルに切り替えれば、これまでのようにみずから掘り起こした、多様なフィルム映画を上映することは難しくなるおそれがあります。

●100年に1度の大変革 映画 デジタル化の波

今、映画界は100年に1度といわれる大きな変革期を迎えています。
DCP、デジタル・シネマ・パッケージと呼ばれる、新たな方式が主流となり、フィルムに取って代わろうとしているのです。
その最大のメリットはコストです。
 

これまで配給会社は、映画館の数だけフィルムをプリントする必要がありました。
費用は1本およそ20万円。
500館に配給するには1億円ものプリント代がかかります。

 

しかし、デジタルの場合、配給されるのはデータです。

「これが予告編が入っているものです。
こちらが本編です」



データであれば、簡単にコピーができ、プリント代にかかるコストを削減できます。
さらにDCPの場合、データを映写機にダウンロードするだけで上映が可能。
フィルムと違って、映写技師も不要となり、人件費が削減できます。

東映株式会社 映画営業部長 村松秀信さん
「将来的にはフィルムをなくして、デジタル1本と。
フィルムに対する愛着もありますけど、それにとらわれてると、今後、我々業界が進む道というのが、当然そちら(デジタル)に向かって進まないといけないので」


映画界を席けんするデジタル化の波。
その陰で、地方の映画館の廃業も相次いでいます。
デジタル機器の導入には1000万円もの投資が必要で、資金力のない劇場は存続を諦めざるをえないといいます。

デジタル化の波は関連産業にも深刻な影響を及ぼしています。
ことし(2012年)3月、国内最大手のフィルム映写機メーカーが破産。
業界に衝撃を与えました。



創業は昭和41年。
長年、国内ナンバー1のシェアを誇ってきましたが、この数年、売り上げが激減し、倒産を余儀なくされたのです。

「産廃にするのはあまりに忍びないんだよね」

創業時からの社員だった、加藤元治さんです。
最盛期には年間100台を超える映写機を取り付けて回ったといいます。


現在は、全国の映画館に残っている映写機のメンテナンスを手弁当で引き受けています。

「現実にこれ(映写機)使ってる所いっぱいあるじゃん。
お客さんに残しておきたいっていうのが、絶対にあるんだよね」

加藤さんは映写機が廃棄されると聞くたびに劇場に駆けつけます。
新たな部品が生産されなくなった今、使える部品を少しでも多く残しておきたいと考えているからです。
すでに大手シネコンの8割以上がデジタル配給を導入。
来年には100%完了する予定です。

「タマ(光源)も入ってますから、そのまま運んで下さい」

1世紀以上もの時間をかけて培われてきた、フィルム映画という名の文化遺産。

「さよなら」


加藤さんは1台でも多くフィルムの映写機を残すことで、その文化を守りたいと考えています。

「フィルムからデジタルに移行するのは、どうしても逆らえないのかな。
フィルムそのもの(の価値)は、全く変わってないからね。
変わってないから、(フィルムが)ある間は、映写できるような機械は少しでも見守ってあげたいと…それだけですよね」

●フィルム映画の 灯を守りたい

街の人々に多様な映画を提供し続けてきた進富座の水野さん。
今回は、昭和30年代の大衆映画に光を当て、その魅力を伝える特別上映会を開こうと考えました。

「この匂い、なんとも言えない」

水野さんは配給会社に頼み込み、倉庫の片隅に眠っていたこのフィルムを探し出してもらいました。




「フィルムでしか見れないですから、これはDVDにもないですからね」

しかし、古いフィルムを扱うのは容易ではありません。

「切れた?」

この日も試写の途中、突然フィルムが切れてしまいました。

「つなごう」

直ちに切れた箇所をつなぎ、修復します。
30年近く、映写技師の腕を磨いてきた水野さん。
どんなフィルムでも扱える技術があってこそ、こうした映画を上映できるといいます。

「生き物だよね。
大変だよね。
そういうのって勉強になるじゃん、フィルムの。
それ生かす場所がなくなるかもしれない」



デジタル配給の場合、こうしたアクシデントはほとんどないといいます。
しかし、そうなればフィルムを扱う技術を伝承する機会が失われてしまいます。

「このフィルムのやり方というのは、長い時間、変わらずにやってきた。
やっぱりそういう歴史の上にいるんだなと思いますね、僕たちは。
それをこうも簡単に捨てちゃってることが、今、本当に“えーっ”と思いますよね」

映画の多様性を守ってきたフィルムの世界。
その良さを改めて見直そうという動きも始まっています。

きっかけとなったのは、アメリカの映画芸術科学アカデミーが発表した論文「デジタル・ジレンマ」。
デジタルでの長期保存の場合、数年置きに規格が変わり、そのたびにコピーを繰り返す必要がある。
その結果、フィルムの11倍ものコストがかかるだけでなく、保存の安全性も保証されないというのです。

100年にもわたる映画の豊かな記録を残そうと設立されたフィルムセンター。
ここではデジタル化全盛の今も、4万本に上る映画をすべてフィルムで保管しています。
室温、湿度に気をつければ、数100年は映像を保存できるといいます。

主任研究員 栩木章さん
「現時点では、アーカイブの世界の中での認識としては、長期的に保管できる媒体として、フィルム以上のものはないというのが、現在のとりあえずの結論」

 

特別上映会の当日、進富座には、いつになく大勢の観客が詰めかけていました。
これまで、さまざまな映画を掘り起こしてきた水野さん。
今度は、どんな映画を見せてくれるのか。


「お集まりいただきまして、ありがとうございます。
きょうは『羽織の大将』という映画を」

映画の出演者の1人である、桂小金治さんも駆けつけました。






「お聞きしましたら、1本しか35ミリが残っていないということです。
きょうはお越しいただいて、ほんとにありがとうございます。どうぞ、ごゆっくり」

映画「羽織の大将」は、下町を舞台に人々の心のふれあいを描いた人情喜劇。

“こんちは。
文楽師匠います?”

“なんだよ、学生アルバイトの分際で”

映画の世界に浸りきる人々。
しかし、水野さんには心配事がありました。

「すごいドキドキする」

上映中にフィルムが切れれば、観客と、この映画との出会いが不完全なものになる。
もしもに備え、見守り続けます。


「古いやつ(フィルム)やと、すごい神経も使うし。
でも、大切にせなあかんって思いますよね。
お客さんが見ることによって、命を与えて欲しいと。映画にね」

2時間後、上映は無事終了。
今の映画にはない、独特の味わいを持つ作品との出会いに、大きな拍手が起こりました。

「桂小金治でございます」

「映画見て、ポロポロ泣いちゃいけないよな」




埋もれていた映画を掘り起こし、人々に豊かな映画体験を提供してきた水野さん。
この日も手応えを感じていました。


「きょうは、ほんとに知らなかったものに出会えて、感動して泣きました」


「良い映画が、こんなこと言ったらいけんけど、最近少ないように思うて。
昔の映画見ると、ようけよろしいね」

水野昌光さん
「フィルムに対するノスタルジックなことではなくて、フィルムで100年の映画館というものが培ってきたものを、どうデジタルの時代に引き継いでいくかっていう。
僕らは変わるときの証人として、悩まなきゃいけないと思うんですよ。この時代に劇場をあずかってるから。
その苦しみだと思ってるんで」

 

ゲスト瀬々敬久(ぜぜ・たかひさ)さん(映画監督)

自分自身もデジタルということでやってきた人間なんですね、言ってしまうと。
安い、廉価であるし、ハンディーで小型であって、使いやすいって。
そういう作品の中で、予算は低コストですけど、野心的な作品とか、冒険できる作品とか、そういう中でもできるという可能性もありますし、実際に、現に今、若手の監督たちが、そういうデジタルビデオで撮影し、パソコンで編集するということで、すごくこう、新しい作品も生まれてくるという、すごくいい面もあるわけであって、今、こういう状況になっているということは、自分もそういうところに加担して作ってきたわけじゃないですか。
そういう意味では、すごくある種、責任ということも自分でも考えるし、こういうふうにしてしまったのは自分たちでもあるというような、すごく、そういう複雑な心境にあるというところが大きいですね。
こういうことが、デジタル問題ということも、去年(2011年)の今頃というのは、ほとんど自分自身も意識していなかったし、夏ぐらいですか、あ、やばいことになったんだなと、すごく大変な時代になってきたんだなと、やっと気付いたというか、そういう状況であるというのが、自分の現時点の立場というか、考え方っていうか、なんか本当、どうしたらいいのかなという感じではあるんですけども。

●進むデジタル化 表現者としての不利益は

僕自身、表現者である前に映画の大好きな観客でもあるわけであって、当然、シネコンの映画も好きなわけです。
シネコンというのは、すごくなんていうか、エンターテインメントパーク的な、こう感情的な盛り上がりもあるし。
小さな映画とかをかけるような、地方の単館系というか、単館系、東京でも単館系ありますけど、そういう小さな映画館ですね、そういうのはすごい好きというか、すごくアート的な映画も上映してくれるし、野心的な映画も上映してくれるし。
いろんな作品があっていいと思うわけですよ。
すごく大メジャーなエンターテインメントもあっていいし、すごくある種、偏っているというのは語弊がありますけど、すごく芸術的な作品もあっていいわけですし、個性的な。
映画っていうのは両方があって、その中で僕たちが、やっぱり見てる人はいろんな多様性の中で選択して見ていくという自由があるべきだと思うんですね。
それが、特に地方が問題なのは、地方というのは、エッジの効いた、そういう芸術作品のみではなかなか、映画館が賄えないので、やっぱり見やすいメジャーな作品も入れつつ、両方をやっているところが多いんですけれども、そういうところが非常にこれから難しくなっていくなというか、大阪、名古屋ぐらいだと、非常にエッジの効いた作品のみで勝負できるんですけど、それが地方に行くと、両方やらないといけないんで、その中で消えていかざるをえなくなるというのは、すごく悲しいし、自分たちの小さい映画というのは、そういう所で上映されてきたわけだし、そういうところで、僕たちも行って、お客さんとふれあってやって、自分たちも新しい映画を作るエネルギーというのを当然もらっていますし、やっぱりそういう僕たちが大好きな応援すべき映画館が、今後消えていくという可能性に関しては、すごくなんとかしなきゃいけないなっていう思いが自分の中ではあるんですけどね。

●進むデジタル化 狭まる選択肢

このビデオもいってましたけど、フィルムっていうのは保存ですね、保存という問題では、当然、データよりも優れているわけであって、その保存の問題とは、また一方で、例えば、去年の秋に「アントキノイノチ」って、わりとメジャーな作品で、全国200館だったんですけれども、そのときはDCP・デジタル上映とフィルム上映が半分半分だと、フィルム上映のフィルムの完パケというか、納品をしたとき、試写終わって、DCP・デジタル上映用の色味とか、いろいろ調整してたんですけど、やっぱりフィルムっていうのはすごく包容力があるというか、カットバックしてても、色味が多少違っても、なじませてくれるというか、すごくあいまいないいところがあるんです。
でも、デジタルっていうのは、すごくゼロ・イチなんで、差が差として、そのまま出てしまっている、そういうところがあって、やっぱりフィルムのすばらしさというのがあるので、それがフィルムがなくなるということは、僕ら表現者たちとしても選択が狭まってくるというか、一元化されていくというか、やっぱり選択肢ってのは多様化するべきだと思うんで、そこの問題もあると思うんです。

●映画館単独で乗り切れるか

そこが非常に難しいんで、やっぱりこう、サポートって言ったらおかしいですけれども、やっぱりつながり、僕たちの映画を応援してくれた映画館だし、これからは、じゃあ僕たちも、映画館を応援しなきゃいけないかもしれないし、じゃあお客さんも映画館を応援しなければいけない、そういうふうなお互いのつながりがあって、サポートし合うような関係性っていうのはこれから築き上げないといけないと思うし、こういうふうに、テレビで皆さんに紹介することもすごく大事だと思います。

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