クローズアップ現代

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No.31912012年4月26日(木)放送
やめさせてくれない ~急増する退職トラブル~

やめさせてくれない ~急増する退職トラブル~

やめさせてくれない 急増 退職トラブル

福岡市に住む佐藤博さんです。
1か月前、正社員として勤めていたIT企業に退職届を出しましたが認めてもらえずにいます。
辞めたいと思うようになったきっかけは、3年前。
仕事のミスで会社に損失を与えたとして給料を天引きされるようになったといいます。
手取りで30万円だった給料は翌月、11万円台に。
3年間で計600万円が天引きされ、親に借金をしながら耐え続けたといいます。
このままでは生活が成り立たない。
佐藤さんは、ことし社長に退職を申し出ましたが許されませんでした。

「『まだ(会社の経営が)全然持ち直していない、それなのにやめるのは無責任だ、お前は周りのみんなを見捨てるのか』と。
『(退職を)認めない』と言われた時には、本当に目の前が真っ暗になりました。」

佐藤さんは、辞める権利が民法で認められていることを確かめ、退職届を提出。
2週間後、退職が成立したと思い会社に行くのをやめました。
ところが、その後取締役の女性から電話がかかってきました。
佐藤さんが録音していたそのときの会話です。

「もしもし、○○さんですか?
今日は…、出社は?」

佐藤博さん
「え?」

「今日はお休みですか?」

佐藤博さん
「もう退職が成立しているはずですが?」

会社は退職を認めていませんでした。
法律上は、退職が成立したはずだった佐藤さん。
このあと、思わぬ問題に直面することになりました。

退職した人は失業保険を受け取るために、会社から離職票をもらう必要があります。
会社は社員が退職した翌日から10日以内に手続きをする義務があります。
しかし、佐藤さんは20日以上たっても会社から離職票を受け取ることができず失業保険の手続きを行えないことが分かったのです。

「全く手続きができないです。失業保険をもらう手続きができない。
失業でもない、会社にも勤めてない。いわいる、存在を消されている状態になっています。」

労働者支援の窓口には最近、辞めたくても辞めさせてもらえないという正社員からの相談が相次いでいます。

「民法的にはね、2週間でいいんですよ。14日前に言えば。」

この日は、過労で体を壊した栄養士からの相談でした。

相談員
「『辞めたい』って言っても『代わりが見つかるまで辞めさせない』と言われ、やっぱり給食を作らなければという義務感が先にたって辞められないっていうことになっているんですね。」

●なぜやめられない 苦悩する正社員たち

相談員の須田光照さんです。
今、あらゆる業種に退職を巡るトラブルが広がっていると感じています。

NPO法人労働相談センター 須田光照さん
「IT関係とか、不動産関係とか、建設関係とか。
一般的な考えから言ってもおかしな行為が、実は多くの職場で行われていて、そういう(退職の)自由を奪われている人たち、労働者が相当増えていってるというのも間違いないことなんですよね。」

相談は年間500件以上。
この2年で3倍に急増しています。

20代女性社員
「上司に辞表を出したが目の前でビリビリに破られあなたばかなの?と言われました。離職票をもらわないと辞められません。」

男性社員
「自己退職は認めず懲戒解雇にして業界で活動ができないようにしてやると言われました。」

女性看護師
「今、辞められたら私の管理責任も問われると上司に引き止められました。」

辞めさせないための企業のさまざまな手法。
目立つのは、退職するなら未払いの給料は支払わないと脅すケースです。
番組制作会社の正社員として働いていた20代の女性です。
どうしても辞めるなら給料のカットを認める誓約書を書くよう会社側に迫られたといいます。

番組制作会社(20代 女性)
「(給料)カットについても『あなたはこれ承諾しますね』と言われて。
『認めなければ辞めさせてくれないのですか?』と聞いたら『そうですね』と言われたので、何言っても無駄だと思った。」

一方、正社員として雇ってくれた会社への恩義や再就職への不安が足かせとなり、退職を断念せざるをえないという声も多くあります。
長時間労働で体を壊し、半年以上前から退職を考えている男性です。
自分を引き抜いてくれた上司の反応を考えると決断に踏み切れないといいます。

中小企業 正社員(30代)
「会社を辞めるということが会社に対する裏切り行為。
辞めたいという思いがあったけどあきらめざるを得ないのかなと。追いつめられていて、逃げ場がないという感じですね。」

IT企業を辞められずに苦しんでいた佐藤さんです。
今月、ようやく会社から離職票が送られてきました。
ところがそこには退職の理由として目を疑うようなことばが記されていました。

「こちらの方に“懲戒解雇”ということで。」

会社は提出された退職届を受理せず、佐藤さんを懲戒解雇にしたのです。
本人に重大な過失があったことを意味する懲戒解雇。
再就職にも影響が出る可能性があります。

「次の仕事ができないようにする嫌がらせだと思ってますので。
理由はもう、こじつけだと思います。頭下げて戻ってくるだろうと。」

なぜ、社員を辞めさせない企業が増えているのか。
退職を巡るトラブルの相談に応じてきた専門家は長期化する景気の低迷で企業がゆとりを失っていることが原因だと指摘しています。

特定社会保険労務士 篠塚祐二さん
「会社にとって都合がいい労働者だから辞めることを阻止するわけですね。
どのように都合がいいかというと、やはり低賃金で真面目に働いてくれる労働者。
そういった労働者が辞めることが損失になってくるわけですよね。労働者が会社に対して奴隷化するという、そういった状況をつくってきたと私は思っています。」

やめたら損害賠償!? おびえる正社員

勤めていた会社に損害賠償を請求された30代の男性です。
8年間勤めたIT企業を退職しました。
辞めるきっかけは、長時間労働。
課長に抜てきされ連日、深夜まで働きましたが業績は思うように上がらず、過労から体調を崩すようになりました。
社長に、これ以上働けないと退職を申し出ましたが思いとどまるよう言われたといいます。

「『そんなん認めへん』と、それだけですよ。
辞めることを撤回するまで部屋から出られない状態で、缶詰状態にされて。
『じゃあ、辞めへんねんな』と言われて『はい』と言うしかなかった。部屋から出るには。
もう辞めれないんだと思いましたね。」

男性は、その後、うつ状態と診断され、出社するのをやめました。
すると、その2日後、会社から内容証明が送られてきました。
責任を果たさなければ損害賠償を請求する予定だと記されていました。

「家族はどうなるんだろうとかね。
自分の人生がね、損害賠償されたらこの先どうなるんだろうと、ぱっと思いましたね。
こういう形の決まった文書を出すことによって、もっと引き止めたかったんでしょうね。」

男性は弁護士に相談したうえで、退職届を提出しました。
その4か月後のことでした。

「訴状が家に届いたわけです。」

「京都地裁から?」

2000万円余りの損害賠償を求める会社からの訴えでした。

裁判で会社が提出した資料です。
男性が課長になった5年前から会社の売り上げが大きく落ち込んだとしています。
業績の悪化は、男性が管理業務や作業のノルマをこなす義務を怠ったためだと主張。
その損失に加え男性の怠慢をカバーするために働いた役員らの給料を支払うべきだと訴えています。
なぜ会社は裁判に踏み切ったのか。
会社は取材に対し、損失を取り戻して残された社員を守るために裁判を起こしたとしたうえで、男性を辞めさせなかったのではなく、慰留しただけだと話しました。
会社側の主張に対し、男性の弁護士は業績の低下は経営者の責任であり、一社員に押しつけるのは不当だと主張しています。

弁護士 塩見卓也さん
「売り上げ低下は経営者のリスクとして(経営者が)当然負うべきもののはずなのに、それを単純に普通の対等な関係で『あんたのせいでこれだけ下がったんだ』と。
彼が抜けてしまうと、責任をもって仕事できる人間がいなくなってしまうということで、会社としたら『辞められたら困る』という状況だったのかなとは思います。」

京都地方裁判所は1審で会社の訴えを退け、逆に、1000万円余りの未払い賃金を男性に支払うよう、会社に命じました。
来月、控訴審の判決が出る予定です。

労働相談を受け付けているNPO法人です。
損害賠償が怖くて辞められないという相談が相次ぐ中、パンフレットを作って通常は賠償の必要はないと説明しています。

NPO法人労働相談センター 須田光照さん
「会社の赤字を労働者の責任にしているわけですよね、なので赤字を補てんさせると。
いびつな労使関係がどんどんリーマンショック以降も広がっているという傾向がある。」

「やめたら損害賠償」 おびえる正社員

ゲスト宮里邦雄さん(日本労働弁護団会長)

まず損害賠償の点なんですけれども、労働者が、故意とか重大な過失によって、会社に損害を与えた場合には、法的な責任を負うことはありえます。
しかし先ほどの画面で見たような、ああいうケースについてですね、法的に責任を追及される根拠は全くないと思います。
従業員として仕事をしていくうえで、通常起こるようなミス、これはもう当然、雇用の中に含まれているわけですね、雇用関係を取り結ぶことの中に。
したがって、損害賠償を請求するっていうのは、私は法的な根拠のない請求であって、ある意味では、辞めさせないための脅しの手段として使われているという気がしましたし、現実に起こっている問題もそうだというふうに思います。

私も何件か相談を受けたことはありますが、私が相談を受けたケースでは、実際は請求すると言われましたけど、訴えは起こりませんでした。
請求を起こせるっていうのは、本当にレアケースで、まず起こせないというふうに思ってますので、私はそういう相談を受けたときに、いや、これは大丈夫ですと、起こされたってそれは不当ですから、心配することはありませんと、本当に辞めたいなら、恐れずに辞めなさいということをいつも助言してます。

●なぜやめられない “退職の自由”は

今の点は例えば離職票を出さないというのは、労働者が持っている失業給付を受ける権利を妨害することになるわけですよね。
離職した者に対しては、離職票を交付しなければならないと、雇用保険法にも書いてありますし、交付しなければ、これ、懲役または罰金という、重大な制裁があるわけですね。
それから懲戒解雇というのは、本当に重大な義務違反とか、重大な規律違反とかいう場合に限ってできる制裁処分でして、通常問題になっているようなミスであるとか、義務違反というのは、これはもう懲戒解雇の対象にはならないわけです。
にもかかわらず、懲戒解雇というのが、またこれ、懲戒解雇をするぞというのが、辞めさせない理由に使われているということだと思いますね。

懲戒解雇は先ほど言ったように、本当に限定的な場合にのみ許されることですから、ほとんどの懲戒解雇のケースは、争えば、裁判とかいろんな方法がありますけれども、争えば、私の経験から言っても、ほとんどの場合は撤回をさせることができます。
要は、しかるべき人に相談をして、争うという覚悟を、労働者が決めるかどうか、その道は開かれていると思います。
撤回させることは可能だと思います。
まずは労働相談の窓口に相談をしてほしいということですね。

●なぜやめられない 苦悩する正社員たち

労働者からしますと、やっと正社員になれた。
しかしこのままここで働き続けていいだろうか。
しかし、辞めたら新しい就職が得られるかどうかといういろんな葛藤があると思うんですよね。
ちょっと強い言い方をすれば、去るも地獄、残るも地獄という、そういう葛藤の中に置かれている労働者に対して、使用者がつけいってるというのが、辞めたくてもなかなか辞められないという状況を生んでるんだろうと思うんですね。

働きたくない職場で働き続けることは、ある意味、大変精神的な負担、場合によってはうつ病など、精神疾患の原因にもなりかねないわけですよね。
これは本人に長い就業生活にとって、そこでどう決断するのかっていう、本当に重要なことだと思うんですね。
そのためにも、やっぱり労働者には退職の自由があるんだと、退職の権利があるんだと、これはもうぜひ自分の身を守るすべとしてね、私は知ってもらいたいというふうに思いますね。

●なぜやめさせない 企業は

まあ企業を取り巻く環境がものすごい激変をして、企業間競争に取り込まれているという背景は大きくはあると思うんですね。
ただ、企業の側もそういう状況をいいことに、労働法とか、あるいはコンプライアンスとか、ワークロールとか、そういうものをないがしろにするような風潮が、やっぱり企業の中で形成されてきたと思います。
一方、労働者の側も、自分の権利をしっかり主張するとか、権利意識をしっかり持つとか、そういう面が弱まってる、その両方のはざまの中で、こういう問題が起こっているというふうに思いますね。

私は社会として、ワークロール、労働法のコンプライアンスが社会にとって重要な原理だということ、社会全体のものとしてするということ、それから職業教育や学校教育の中で、働く者の身を守るすべとしての労働法の知識、権利、それをぜひ身につけてほしいと思ってます。

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