クローズアップ現代

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No.31882012年4月23日(月)放送
“からだの時計”が医療を変える

“からだの時計”が医療を変える

時間治療 長年の痛みが改善

時間治療で長年苦しんだ病気の症状が治まった人がいます。
富田喜久枝さん70歳。
8年前に関節リウマチと診断されました。

「手首、指、どうですか?」

富田さんは指などの関節に炎症が起き骨も変形強い痛みに悩まされてきました。
これまで薬を飲んできましたが十分な効果は表れませんでした。
そこで去年、富田さんは時間治療を受けました。
使った薬は、これまでと同じ。飲む量も変わりません。
ただ、飲む時間を朝と夕方から寝る前に変えただけです。
しかし、たったそれだけで症状は大きく改善しました。

富田喜久枝さん
「痛みもずっと前からしたら、だいぶ楽になってきましたね。
ずっとこんなふうに治っていけばいいと思っていますね。」

佐世保中央病院 植木幸孝院長
「本当に同じ薬の量なのに、飲み方をちょっと変えたりということでこんなに効果が出てくるのかなというのは実感しました。」

 

なぜ、薬を飲む時間を変えるだけで効果が高まるのか。
この治療法を開発した藤秀人教授です。
藤教授は、私たちが持つ時計遺伝子の働きに注目しています。
時計遺伝子は細胞一つ一つに備わっている遺伝子です。
この遺伝子は細胞の中で、時計のように規則正しいリズムを刻み、細胞がいつどんな活動をするのかコントロールしています。
リウマチの原因物質も時計遺伝子の刻むリズムに従って細胞で作られ、そして、放出されていると考えられています。
そこで、藤教授はリウマチの原因物質が一日のうち、いつ出ているのか調べました。

すると朝から夕方に向かって減り深夜にピークを迎えていることが分かりました。
にもかかわらず、これまで薬は原因物質が減り始める朝に多く投与されていました。
そこで、薬を飲む時間を原因物質が増えていく寝る前に変えることでその効果を高めたのです。

富山大学薬学部 藤秀人教授
「我々の体内時計、生体リズムを考えて投薬することによって、今まで薬に眠っていたパワー、潜在能力を引き出すことができて、副作用が軽減できたり、効果を上げることができたりということが期待できる。」

●時間治療 がん患者を救う

時間治療によって、命を救われた人もいます。
小原大輔さん33歳。
3年前強い腰の痛みに襲われました。
病院で検査を受けると深刻な病気が見つかりました。

小原さんの肝臓の写真です。
大きながんが、2つありました。
手術しようにも、がんが大きすぎて難しいと診断されました。
そこで、手術できるよう、抗がん剤でがんを小さくする治療が始まりました。
ところが、効果はなかなか表れません。
薬の量を増やすことも検討されましたが、副作用が強く出たためできませんでした。

「抗がん剤を投与しても結果がついてこなかった、体調だけどんどん悪くなるっていう。
先が見えないし、いつ手術ができるかっていうのもわからない。」

おととしの10月小原さんは、新たな治療を求めて別の病院を訪れました。
頼ったのは、田中邦哉准教授です。
肝臓にあるがんに対する時間治療を研究しています。

「失礼します。」

その治療では通常、日中に投与する抗がん剤を夜、寝ている間に投与します。
しかも量は従来のおよそ1.5倍です。
抗がん剤はがん細胞を攻撃して減らしますが正常な細胞にもダメージを与えてしまうため多くの量を投与できません。
しかし、正常な肝臓の細胞には抗がん剤を分解する能力があります。
この力は昼間はそれほどでもなく夜に最も高まるというリズムがあります。
このときを狙い、抗がん剤を大量投与すれば、がん細胞により強くダメージを与えることができます。

横浜市立大学付属病院 田中邦哉准教授
「抗がん剤が分解されやすい時間帯に薬を、それも大量に入れれば、がん細胞との格差ですよね。
がん細胞に対しては非常に高い効果が期待できる。」

時間治療を受けて2か月後の小原さんの肝臓です。
治療前と比較すると、がんが大幅に小さくなっていることが分かります。
この結果、手術で取り除くことができました。


小原大輔さん
「全然、今まで受けていたものとは明らかに違うっていうのが、髪の毛も抜けないし、手術までが早かったですからね。
受けていなかったら、もう死んでたかもしれないし。」

高い効果が期待できる抗がん剤の時間治療。
しかし、課題もあります。
夜中に薬を投与する必要があるため、人手がよけいにかかり取り組む病院がなかなか増えません。

●時間治療を手軽に 技術の最前線

一方、海外ではより簡単に時間治療を受けられる技術開発が進んでいます。
パリ郊外の病院で使われているこの装置。
時間治療のため開発されたクロノポンプです。
抗がん剤の効果が最も表れる時間を設定。
薬をセットします。
あとは装置を身につければ最適の時間に自動で薬を投入してくれます。
自宅で手軽に受けられるため、パリのこの病院ではこれまで3000人近い患者に実施しています。

がん患者
「自宅という最も快適な場所でできるのです。普通に生活することができるのですよ。」

フランス国立保健医学研究機構 フランシス レヴィ博士
「自宅治療ですから、入院もなく経費も少ない。
副作用がないので余分な経費もかからない。経済的なメリットもあるのです。」

ガン・リウマチに効果 “時間治療”の最前線

ゲスト大戸茂弘さん(九州大学教授)

がんの時間治療は、日本では横浜市立大学病院、こちらで肝臓がん、大腸がんが肝臓に転移した場合、それから、海外では大腸がん、食道がん、胃がん、すい臓がん、こういったもので、実際に治療が行われています。
そのほか高血圧であるとか、ぜんそく、こういったものは医療現場にすでに普及しています。
そして、リウマチ、精神疾患、メタボリックシンドローム、こういったものは、これから普及させるために、研究がどんどん進んでいます。

●“時間治療”とは?

ぜんそくのリスクは、数百倍、夜中に高まるというふうにいわれています。
時計遺伝子は、私たちの細胞が調和を取って、働きやすくするために、活動してるんですね。
欠くことのできないものになっています。

例えば、こちらの親時計ですね。
これは脳の一部に親時計があり、そして、末梢にいろんな時計が、分子時計としてあります。
親時計から指令を出して、1日に1回、リセットできるようになってるんですね。
例えば先ほどの抗がん剤の例ですが、夜に分解が高まります。
したがって、そういった夜の分解、こういったものも時計遺伝子の表れであって、そういった夜をタイミング、注目してピンポイントに治療を行っていく、これが時間治療ということになります。

●なぜ日本では普及が遅れているのか

時計遺伝子が発見されて十数年、まだ歴史が若いってことがいえると思います。
そして、時計遺伝子が、とにかく時計遺伝子っていうのが見つかってから極めて歴史が浅いということが一つの要因として挙げられます。
最初は脳の特定の部位で、特定の機能がありました。
ところが、いろんな組織に存在し、いろんな機能がある、それを応用しようという試みが今、行われているところです。

製薬企業のインセンティブが少ないということで、そして時間治療が普及していない。
それは既存薬を、投与方法を工夫することによって、行うのが時間治療で、新しい薬を作るということに比べて、やはり利益を上げにくいとか、そういったことがあります。
しかし、そういったものが特許を取れる、投与法が特許を取れる時代になっています。

がん・うつ・糖尿病 不規則生活のリスク

深夜まで働くことも多い日本社会。
そうした生活が体にどんな影響を与えるのか。
時計遺伝子の面から調べる研究が始まっています。
明石真教授は、早出や夜勤など勤務の交代制がある工場で働く人の時計遺伝子がどうなっているか調べてきました。

「ヒゲはいいです」

「これでも、ついてないほうですよ」

勤務中の人たちにひげや髪の毛を3時間に1回、抜いてもらい集めます。
目当ては毛根。
ここの細胞の中にある時計遺伝子の状態をチェックしています。
こうした研究の結果、時計遺伝子が勤務時間の変動になかなかついていけないことが分かりました。
例えば、早出と遅出のシフトが1週間ごとに入れ代わる工場の場合。
勤務の変更で睡眠や食事の時間が7時間ずれるにもかかわらず、時計遺伝子のリズムは2時間程度しか変化していませんでした。
こうなると、時計遺伝子によって内臓が休む時間にもかかわらず、無理に働くことになり健康に大きな影響が出るといいます。

山口大学時間学研究所 明石真教授
「慢性的に臓器にストレスががかって、動脈硬化や高血圧のようなものですね、それ以外にも肥満、糖尿病、女性の生理不順ですとか。
さまざまな疾患に発展するということが分かっております。」

●不規則な生活 健康リスクを防げ

どうすれば不規則な勤務の健康リスクを防げるか。
愛知県にあるこの病院の看護師はある対策を行っています。
看護師になって6年目の大原麻衣さん。
週におよそ1回、12時間の夜勤を行います。

「休憩入ります。」

「お願いします。」

深夜1時、大原さんが職場から離れました。
向かったのは、休憩室。
早速、寝床の準備が始まりました。

実はこの病院では夜勤中、健康のため2時間の仮眠が決められています。
2年前の調査で2時間以上、仮眠を取った場合高血圧や生理不順などの症状が減ることが分かっています。

藤田保健衛生大学病院 大原麻衣さん
「やっぱり疲労感もすっきりしますね。」

仮眠にはどんな効果があるのか。
樋口重和教授は実験を行いました。

そのホルモンは本来、夜になると増え深夜3時ごろにピークを迎えます。
ところが、一晩中明るい部屋で起きていると、本来の半分ほどしか出なくなることが分かりました。
そこで今度は深夜に2時間だけ、暗い部屋で仮眠を取ってもらいます。
するとホルモンの出る量が急回復。
十分に寝た場合に近づくことが分かりました。
樋口教授は、短時間でも暗い部屋で寝ることで時計遺伝子への影響が抑えられるのではないかと考えています。

九州大学芸術工学部 樋口重和教授
「一番生体リズムへの影響が強い時間帯に仮眠をとることによって、いわいる暗闇をつくることによって、体内時間への悪影響をできるだけ少なくできるのではないかというふうに考えております。」

不規則な生活 健康リスクを防げ

(健康へのリスクは)乳がんですとか、前立腺がん、性差に特徴のあるがんで、大幅にリスクが上がるということが分かっています。
そして、WHOはがんのリスクを2番目に挙げています。
デンマークなどでは、看護師さんなどの交代制勤務をする方、こういった方たちの乳がんにかかった場合、保険が、そういった認定が下りることになっています。労災のような。

●体に何がおこっている?

メカニズムとしては、明確なものはないんですが、例えば、ステロイドのリズムであるとか、白血球のリズム、こういったもののリズムが障害されて、免疫機能が全体的に落ちているということによって、がんだけではなくて、ほかのメタボリックシンドローム、ほかのいろんなものに影響を及ぼしているだろうということが考えられます。
白血球は昼間の倍近くに夜、なるというふうに考えられています。
(くずれた体のリズムを修正するには)1週間から2週間、それ以上かかるというふうにいわれています。
仮眠をなかなか取れない現場の場合、例えば、朝食をしっかり食べるとか、そして、光を浴びて昼間活動するとか、そういった試みだけでも、生体リズムを整えることにつながります。

●時間治療の研究 今後への期待

分子の時計がいろんな機能を持っているということが分かってきたので、それをターゲットとした創薬、そういった展開が今後、期待できると思います。
例えばがんの増殖に、増殖を制御しているのが時計遺伝子であると、その時計遺伝子をターゲットにした創薬が、がんの増殖、抗がん作用にもつながってくるということにもなります。

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