クローズアップ現代

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No.31632012年2月22日(水)放送
永遠の映画少年 スピルバーグ ~創造の秘密を語る~

永遠の映画少年 スピルバーグ
~創造の秘密を語る~

スピルバーグ 創造の秘密

国谷
「こんにちは。」

スピルバーグ監督
「コンニチワ」

国谷
「今日はご協力ありがとうございます」

スピルバーグ監督
「お会いできてうれしいです。
みなさん準備はいいですか。」

国谷
「インタビューに応じていただきありがとうございます。
65歳の今も精力的に映画監督をされています。何があなたの原動力となっているのですか?」

スピルバーグ監督
「私は物語を作るのが大好きなのです。それ以上言いようがありません。
アイデアを思いついたら実行しないと気が済まないのです。
鉄は熱いうちに打てと言いますがその通りだと思います。
刺激的なアイデアが浮かんだら放っておくことはできません。
すぐに実行しないと気が済まないのです。」

イギリスの児童文学を原作とした最新作「戦火の馬」。
第1次世界大戦下の物語です。
主人公は貧しい農家の少年に引き取られた一頭の馬、ジョーイ。
ある日、軍馬として少年から引き離され戦争に駆り出されてしまいます。
戦火が激しくなる中行く先々で人々の心を癒やし敵・味方を超えて心の交流をもたらしていく馬のジョーイ。
戦場を生き抜く少年と馬の絆が描かれます。
これまで、戦争の悲惨な現実を社会に突きつけてきたスピルバーグ監督。
しかし今回は戦争を描くことが目的ではないといいます。

●スピルバーグ 新たな挑戦

国谷
「この物語のどこに引かれ監督したいと思われたのでしょうか?」

スピルバーグ監督
「私はこれまで何度も戦争の本質について取り上げてきました。
しかし、戦争を通じて愛や情熱、人の絆を深く追求したことはありませんでした。
そういった意味で、この映画は今まで私が手がけてきたものとは全く違う作品なのです。
これは戦争映画ではなくラブストーリーなのです。
馬のジョーイは戦場で憎しみに満ちあふれている兵士たちの心を癒やすシンボルだと思います。
戦場の真ん中にある休戦の旗のようなものです。
戦争という過酷な環境でも動物という存在がいることによって人々は政治やイデオロギー敵に対する憎しみを忘れることができる。
そういうことを伝えたかったんです。」

国谷
「とても古典的というか、おとぎ話のような物語です。
しかし、特に先進国で中間層がしぼみ苦境の中、人々の不安が広がっている今おとぎ話のような物語が果たして人々の共感を得られるのでしょうか?」

●厳しい時代こそ映画の力を

スピルバーグ監督
「厳しい時代だからこそこういう物語が大事なのです。
私は日本でも共感を呼ぶと思います。
というのは、天災に見舞われたり景気が落ち込んだりして人々が今よりも以前の暮らしのほうがよかったと懐かしむようなときこそ人はロマンやファンタジーを求め映画の世界に現実逃避したいと思うのではないでしょうか。
本来、映画はそのような役割を担ってきたのです。
かつて、アメリカで大恐慌が起こったときも映画は大人気でした。
観客は現実の世界から逃れるために映画館に足を運んだのです。
そこで、現実とは違う映画の世界に勇気づけられ、再び太陽が照らす通りに歩みだしていったのです。
『戦火の馬』もそうです。
人間が馬を信じ馬もまた人間を信じる。
そして、戦場に希望が生まれるという物語なのです。」

国谷
「監督は、よい物語の力を強く信じているんですね?」

スピルバーグ監督
「常にそうです。」

●スピルバーグ “物語”にかける思い

スピルバーグ監督の手腕に世界が注目したのは初の長編映画「激突!」です。
見知らぬトラックに執ように追いかけられる男の恐怖を描いたストーリーが高く評価されました。

そして、29歳で製作した『JAWS』。
巨大なサメと格闘する人々の運命を描いた物語は映画史上空前の大ヒットを記録しました。
その後も、スピルバーグ監督はさまざまな困難に直面しそれを乗り越えていく主人公の姿を描いてきました。

国谷
「あなたの映画に出てくる主人公は、よく自分ではどうにもならない状況に陥ります。
それでも、最後はなんとかそこから抜け出しますがこういったことがいいストーリーかどうかを見極めるうえで重要な要素になっているんでしょうか?」

スピルバーグ監督
「私がこれまで引き付けられてきた物語は、すべてチェンジに関係しています。
つまり、人の成長なのです。
過去の自分から新たな自分へと変わっていかなければならないんです。
人が困難に耐えたり危険を冒したりしてその成長を実感できるストーリーならばそれは伝える価値があるのです。
登場人物が全く成長しない映画なんて作りたくありません。
全然おもしろくありませんからね。
私はヒットでなくホームランになるような物語を描きたいのです。
一番大事なのは、特殊効果でも興行成績でもなくストーリーなのです。」

●映画の力を知った少年時代

国谷
「映画の持つ力つまり映画が人に与える影響力に気が付いたのは一体、いつごろでしたか?」

スピルバーグ監督
「いい質問ですね。
実は、初めて映画を作ったときなんです。」

国谷
「最初の映画ですか?」

スピルバーグ監督
「最初に映画を作ったのはボーイスカウトで賞をもらうためでした。
私は12歳のときボーイスカウトに入っていて技能賞を集めていました。
そのときの賞のテーマは写真で物語を表現しなさいというものだったのですが私の家にはなぜかスチールカメラがなく父が買ってきた8ミリカメラしかなかったのです。
そこで、そのカメラを借りて映画を作ることにしたんですよ。
そして、自作のサイレント映画をボーイスカウトの仲間たちに上映会を開いて見せたんです。

そしたら、私の映画を見てみんな大笑いしたり手をたたいたりして大いに盛り上がったんですよ。
そのときに初めてうわっ!もっと映画を作りたい。もっとみんなのリアクションが見たい。映画って、こんなにも人に影響を与えるものなんだ!
と思ったのです。」

●大ヒットの真相 “自分を描く”

映画の力に気付いたスピルバーグ監督。
人生のすべてを映画製作にかけていきます。
そこで描かれた物語は少年時代の体験や願いが投影されているといわれています。
映画『未知との遭遇』で宇宙から訪れた光に引き付けられ扉を開ける少年。
好奇心を抑えられなかった監督自身の姿を描いています。
幼いころ、父親に連れられ星空を眺めた日の記憶。
未知の世界に憧れた体験を映画化したのです。

一方で、スピルバーグ監督は少年時代の孤独な体験も映画に反映させています。
孤立した宇宙人と少年の友情を描いた「E.T.」。
10代のときスピルバーグ監督は両親の離婚で孤独感を味わいました。
心の隙間を埋める理想の友達を求めた当時の願いが映画に込められているのです。
そして「シンドラーのリスト」ではユダヤ人というみずからの生い立ちに向き合いました。
ユダヤ人であるがゆえに幼いころから抱いてきた疎外感。
スピルバーグ監督は10年の歳月をかけ迫害の歴史を映像に刻み付けました。

●スピルバーグ “自分”を描く意味

国谷
「監督は以前、自分が恐れているものを自分の中から吐き出すことで恐怖を取り除きたいと言っていました。
それが映画を作る大切な動機になっているのでしょうか?」

スピルバーグ監督
「恐れているものについて映画を作るということは自分の不安に対する、いわばセラピーになると思うんです。
映画製作者やアーティストはよくやるのですがみずからの体験や恐れなど自分の胸の中で潜在的に実感できる物語を描くほうが、よい物語につながっていくのです。
つまり、正直な作品になるのです。
無理やり何かを理解しようとしたり、まねようとしたりするとそれは偽りの作品になると思います。
自分が心の底から信じているストーリーでなければ観客からこんなのうそっぱちだとか君自身が信じているとは思えないと突っ込まれてしまいますからね。」

国谷
「今、自分自身に正直になるとおっしゃいました。
責任のあるアーティストは自分が何者であるかに向き合い、正直にならないといけないということなのでしょうが、それはつまり、自分にとって心地よくない体験でも正直に映画に反映させるということなのでしょうか?」

スピルバーグ監督
「もちろんです。
私の映画にはすべて反映されています。
私は自分に対して違和感を持っていたわけではありませんが周囲からは疎外感を感じていました。
他人が自分をどう見ているのか考え始めたころからですね。
例えば、子どものころ女の子たちにどう見られているんだろうと不安でした。
ガールフレンドもなかなかできませんでしたよ。
不器用で変わった子どもでしたからね。
こういうの日本語にもありますよね。」

国谷
「オタク。」

スピルバーグ監督
「オタク?
ボク、オタク。

子どものころの私はかなりのオタクでした。
でも、それは成長の過程でした。
私は、もともとシャイでしたがだからといってシャイな人の映画を作るわけではありません。
その願いを映画にするのです。
子どものころインディ・ジョーンズみたいな友達が欲しいとかそういう人間味のあるスーパーヒーローの映画を作りたいと思っていたんです。
これは願望の成就とでもいうのでしょうか。
自分に嫌気がさしたとき昔から憧れたキャラクターを描くのです。
でも、これも自分に正直だからやるのです。
自分が不安に思っていることに正直に向き合っているのです。
ずっとなりたかったけれど、絶対になれない人、そういう人を映画にするのです。」

国谷
「おもしろいですね。」

スピルバーグ監督
「そして私が映画を作るときはいつも、どうやって前の作品を超えるかどうやって観客を失望させないようにするのかどうやって観客を期待させその期待に応えるかを考えます。
まあ、続編を作るときはもう少し商業的になってもっと特殊効果を使えばより大勢の観客が見てくれるかなと考えることもありますけどね。」

●スピルバーグ 未知への挑戦

どうすれば観客を引き付ける映画を生み続けることができるのか。
スピルバーグ監督は未知の領域への挑戦を続けてきました。
「ジュラシック・パーク」ではそれまでの映画の常識を覆した映像技術で現代に恐竜をよみがえらせその後の映画界に大きな影響を与えます。

デジタル技術の進歩で映像化に不可能はないといわれる時代に突入したハリウッド。
しかし、スピルバーグ監督は映画にとって最も重要なのは技術ではないといいます。

国谷
「映画の製作方法は急速に変化しています。
デジタル時代が到来し、監督は『ジュラシック・パーク』で真っ先にデジタル時代の扉を開きました。
今やCGを駆使してなんでも作れます。
モンスターを作ってそれを動かすこともできます。
映画の製作者はこうした新しい技術とどう向き合っていくべきだと考えていますか?」

スピルバーグ監督
「私自身にとってデジタル技術は自分が表現したいものを実現するツールに過ぎません。
ストーリーを、より効果的に観客に信じてもらうための道具です。
絵筆と同じです。
色そのものを作り出せるわけではないのです。」

国谷
「確か『JAWS』のときは機械で出来たサメを使っていました。
もし、今のCG技術があのころあったとしたら「JAWS」はあのときほど怖い映画に出来たと思いますか?」

スピルバーグ監督
「いいえ。
確かにサメの姿もよくなったでしょうし撮影は、ずっと簡単になったと思いますが成功はしなかったでしょう。
なぜなら、サメの装置が壊れて動かなくなったことで、私は映画の設計全体を書き直し観客に深い恐怖心を引き起こさせるための別の方法を探らなければならなかったのです。
そのとき思いついたのはサメがいるべきシーンにあえてサメを登場させないという方法でした。
海や水平線だけを映したり何が近づいてくるかは映さずに泳ぐ人間たちだけを映したりしました。
カメラの視点から泳ぐ人たちの足に向かって撮影することで映画は成功したのです。
今日のように、デジタル技術でサメを表現してばかりいたらあれほど大ヒットはしなかったと思います。」

●スピルバーグ 「想像力」の大切さ

国谷
「つまり、観客の想像力に頼ったということでしょうか?」

スピルバーグ監督
「そうです。
『JAWS』を製作するうえで観客は私のパートナーだったのです。
『JAWS』を社会現象とまで成功させたのは観客のおかげなのです。
観客は完全に私たちと一体化し、私が部分的にしか描かなかったシーンを自分たちの想像力を駆使して補完してくれたのです。」

国谷
「常に観客の想像力まで考慮することが、監督にとって大事ということでしょうか?」

スピルバーグ監督
「はい。
大勢の観客を見越した映画を製作する場合には観客もチームの一員として考えなければなりません。
観客のことを置いてきぼりにすることはできないのです。
観客とのコラボレーションが必要なのです。」

●スピルバーグが語る ハリウッドの未来

国谷
「現在は3D技術やインターネットの時代です。
人々は映画館に足を運ばなくなっていてインターネットにくぎづけになっています。
長年、ハリウッドで活躍してきた監督から見てハリウッドの将来をどのように見ていますか?」

スピルバーグ監督
「私が小さいころは、テレビと映画と本しかありませんでしたが今の視聴者には幅広い選択肢があり多様なエンターテインメントを享受できます。
すばらしいことです。
映画界も、この流れをつかまなければなりません。
いずれは、ハリウッドもiPhoneや携帯電話専用の映画を作る時代が来るでしょう。
つまり、映画製作者やクリエーターにとってはかつてないほどのチャンスがあるということです。
世界中の観客に提供しなければならないコンテンツが山ほどあるのですから。」

●スピルバーグ “緊張こそエネルギー”

国谷
「いまだに撮影現場に向かうとき毎回、緊張するそうですね?
毎日、恐怖を覚え緊張しながら朝を迎えるのは大変だと思うんですが監督ほどの人でもそうなってしまう。
それでもやり続けたいのですね?」

スピルバーグ監督
「それこそが私のエネルギーなのです。」

国谷
「緊張することがですか?」

スピルバーグ監督
「つまり、緊張していないということは自信過剰になっていることを意味します。
自信過剰だと新しいものを取り込めなくなるのです。
たとえ撮影計画を立てていてもその日、何が起こるのか分からないので緊張します。
俳優やカメラマンからどんな新しいアイデアが出てくるだろうか。
映画は絵を描くのと違い共同作業の芸術です。
私が緊張するのは、撮影現場では毎日未知のことが起きるからです。
いい演技が出るかどうかストーリーを最大限に表現できるかなど考えていくと緊張し、不安になるのです。
でも、不安になるからこそもっとうまくストーリーを伝えたいよりいい演技を引き出したいと何度も何度も考え直すことができるのです。
自信を持ってしまうとちょっといいかげんになるような気がするんです。
ですから、自分のエンジンの回転数を上げるためには常に不安でなければいけないのです。」

国谷
「引退しようとは考えませか?」

スピルバーグ監督
「いいえ。
決して考えません。」

国谷
「65歳のあなたにとって映画は、どんな意味を持っていますか?
あなたにとって映画とはなんですか?」

スピルバーグ監督
「映画とは心臓に血液を送り続けるものです。
私が生きていくためのものですよ。
「未知との遭遇」のシーンで少年が扉に向かって歩いてドアを開けると、その向こうにはものすごい光があります。
これは今の私の姿でもあるんです。
私は日々、映画を製作しながらこうして未知の世界への扉を開いているのです。

向こうには何があるのか分かりません。
でも、その扉を開けなければ私は生きていけないでしょう。
初めて映画を作った12歳のときと同じですよ。
私は65歳になった今でもそのときと同じようなワクワクした気持ちで毎朝、目を覚ましているんです。」

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