クローズアップ現代

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No.31532012年2月6日(月)放送
“必修化”は大丈夫か 多発する柔道事故

“必修化”は大丈夫か 多発する柔道事故

多発する柔道事故 埋もれていた危険

滋賀県愛荘町の公立中学校1年生だった村川康嗣君。
3年前の夏、柔道部の練習中に意識を失い、亡くなりました。
12歳でした。
事故当日、初心者の康嗣君は上級生との厳しい乱取りを2時間にわたって続けていました。
最後に顧問の教師に投げられ意識を失いました。
顧問は頭を打たないよう気をつけていたといいます。

事故の連絡を受け、家族が駆けつけたとき康嗣君は頭の中の血管が切れ呼吸すら困難になっていました。

母親の弘美さんは変わり果てた息子の姿が信じられなかったといいます。

「何があったんだろうって思いましたね。
どうしてこんなね脳がぐちゃぐちゃになるぐらい腫れ上がって中の血管が切れるぐらいなことが起こったのかなって。」

治療に当たった脳神経外科医の金子隆昭さんです。

頭を強く打ちつけた痕がなかったにもかかわらず、頭の中で出血していました。

康嗣君の脳の画像です。
白くにじんだ部分は静脈が切れて、たまった血液です。
その血液に圧迫されて脳が機能を失っていました。

「非常に激しい勢いで静脈の出血が起きてきたので
これは“加速損傷”があったなというふうに その時点で判断できました」

康嗣君の脳に起きた加速損傷とはどのようなものなのか。
頭部が大きく揺さぶられます。
頭の動きに脳がついていけず、中の血管が切れてしまいます。
頭を打つ打たないにかかわらず、大きな揺さぶりによって脳に損傷が起きることがあるのです。

「柔道の指導者の方は、柔道の最中に頭を畳に強く打ったときに脳の障害が生じるというふうに考えられている方が多いと思うんですけれども、実際は、そうではなくてですね 頭に加速度が加わっただけで頭を打ってなくても、障害が生じることがあるということは十分認識していただきたいと思います。」

ほかの競技に比べ、突出して死亡事故率が高い柔道。
しかしその実態は、つい最近まで明らかにされてきませんでした。
学校で起きる事故を研究し安全対策を提言している名古屋大学の内田良さんです。
内田さんは、3年前文部科学省所管のある独立行政法人の資料を調べていました。
学校で起きた事故には見舞い金が支払われます。
その業務に当たる日本スポーツ振興センターのデータを分析し、どういう事故が多いのか集計したのです。

センターでは毎年死亡事故件数を部活動別に公表しています。
柔道の死者数はバスケットボール、サッカーに次いで、3番目です。
内田さんはそれぞれの競技人口を調べ、死亡事故が起こる確率を割り出して驚いたといいます。
柔道だけが突出していたのです。
さらに事故の概要を調べたところ、半数を超える子どもたちが頭部に損傷を負い亡くなっていることが分かりました。
その多くが頭の中で起きた出血によって死に至っていました。
内田さんは文部科学省が貴重なデータを安全対策のために生かしてこなかったことに疑問を感じています。

「誰もそれを足し算してないし、分析もしてないもんだからその実態が何も見えていない。
だから同じことが起きても不幸だったねっていって終わっていくっていうことですよね。
そういうことが続いてきたんだと思います。」

柔道の死亡事故の発生率の高さや、加速損傷など頭部の事故の危険性について文部科学省に聞きました。

「まだまだ新たな知見としてそういうことが分かってきたという段階だと捉えております。
ですので、これから私どもが行う講習会やなんらかの説明会等についてそのつど、そういった新しい知見を指導主事の皆さんだったりを通して学校の先生方にも分かるように努めてまいりたいと考えております。」

●いかされなかった柔道事故の教訓

柔道事故の危険性は最近になって分かったとする文部科学省。
しかし、取材を進めるうちにこうした危険性を国は30年も前に把握していたことが分かってきました。

30年前の裁判の資料です。
柔道の練習中に少年が亡くなった事故で国に対し裁判が起こされていました。
遺族は教師に投げられ頭を打ったことが原因だと主張。
それに対して国は頭を打ったことは推定の域を出ない。
打たないで事故が起きたとすれば、予測はできず教師には責任がないとしました。
裁判は、この主張が認められ国が勝訴しました。
このとき国は、頭を打たなくても死に至ることを証明するためアメリカの論文まで証拠として提出していました。

サルの頭を強く揺さぶる実験をしたところ、加速損傷で頭の中に出血が起こり死んだというものでした。
加速損傷の危険性は、このとき国の側から提示されていたのです。
裁判から30年。
事故の具体的な教訓が国から学校現場に伝えられることはありませんでした。
そうした中、100人を超える子どもの命が失われ、300人近くが重い障害を負いました。

●“必修化”は大丈夫か

文部科学省は、去年8月になってようやく学校でのスポーツ事故を分析し安全対策を考える有識者会議を設けました。
この半年で開かれた会合は4回。
必修化直前の3月に一定の対策案をまとめる方針です。
文部科学省は必修化をあくまで予定どおり4月から行うとしています。

“必修化”は大丈夫か 多発する柔道事故

ゲスト二村雄次さん(医師)、藤原記者(名古屋放送局)

二村さん:私は2年前の夏に、中学校の先生、体育の先生に交じって、講習会を受けに行きました。
そうしたところ、柔道経験のある方は、ほんの僅か、受け身も練習したことないという先生方がいらっしゃるのを見まして、本当に驚きました。
これはもう本当に、この方々がまもなく直接、生徒に柔道を指導するなんていうことはこれはとても無理だなと、そういうふうに思いました。

これ(こうした事故が実は多いということ)は紛れもない事実ですね。
これは2009年の12月にテレビ報道を見まして、そのときの医科学委員会の会議で、大変なことが起こってるということを皆さんの認識を新たにしたんですが、当時、医科学委員会のメンバーは、外科医、あるいは整形外科医、一部内科医というふうで、実は脳神経外科医が一人もいなかったということがありまして、2010年の4月の定例の委員会に向けて、全柔連にありますデータをいっぺん調べようということの作業に入りました。
一方では、徳島大学の脳神経外科の永廣教授に中に入っていただいて、委員会の中に入っていただいて、専門的な目から事故例を検証していただこうという、そういう作業に入りました。

●安全への検討が不十分な現状

藤原記者:まず文部科学省ではこの必修化が決まった4年前から、柔道の経験が少ない体育教師に対して講習会を開いたり、あと安全には十分注意するようにという通達や事務連絡を出して、注意を呼びかけてきました。
しかし、VTRにありました裁判の事例を見ても分かりますように、引き継ぎは十分に行われておらず、教訓は生かされていませんでした。
またこれまで事故の詳細な調査、もしくはデータの分析というのはされてこなかったために、安全な授業はどういうものなのかという検討が不十分だというのが現状です。
本来はまずこうした作業を行って、それから対策を取る、もしくは必修化をするということが大切なんですけれども、その順番が逆になってしまっているということです。

実は柔道で起こった重大な事故、文部科学省に報告する義務は20年前に廃止されているんです。
つまり国は直接、事故の情報を集めてはいないんです。
対策に必要な事故のデータというのは、独立行政法人の日本スポーツ振興センターが見舞い金などを給付するために集めた資料が唯一のものなんです。
そしてこのセンター自体も柔道について詳しい分析は行っていませんでした。
国が責任をもって事故の分析を行ったり、または対策を取るような新たな仕組みを立ち上げることが必要です。

●わかってきた柔道事故の実態

二村さん:やはり、受け身を十分に習得していなかったということに尽きると思いますが、受け身を十分に習得しますと、反射的にあごをぐっと引くという、こういう運動ができるようになりますね。
そうするとあごをぐっと引きますと、首の筋力を使って引くんですが、そうすると後頭部を打つという、そういうリスクがすごく減ります。
ですから受け身を十分に習得するまでのその期間をぜひ慎重に見ていただきたいというふうに思います。

(加速損傷だけではなく、けい椎損傷もかなり多く)ありますね。
頭部の次がけい椎ですね。
これは特に前屈、曲がりすぎた場合に起こりますけど、脱臼しますともう神経、首から下みんなまひしちゃうという、そういう大変悲惨な状況になりますね。

1年間12時間、あるいは15時間以内ですけど、その間にどれだけやれるかといいますと、部活でいいますとね、1、2週間分なんですよ。
その間にできることっていうのは、本当に限られていると思いますので、だから試合なんていうことはとてもできないというふうに思いますね。

初心者による指導 どう柔道事故を防ぐ

愛知県蟹江町の蟹江北中学校です。
武道必修化を前に、昨年度から柔道の授業を始めました。

1年生の男子柔道の担当、安川博喜さんです。
去年、大学を卒業し体育教師になりました。
学生時代は野球部で柔道の経験はほとんどありません。

「柔道なかなか専門ではないので最初、自分で教えるとなるとやっぱり不安があったんですけれども。」

学校では外部から専門家を招くことで、授業を安全に行おうとしています。

地域の柔道指導者、鈴木満昭さん。
柔道7段の元警察官です。

「1、2このとき低くなって、こう。」

この日、安川さんは鈴木さんに投げ技の指導についてアドバイスを求めました。

これは文部科学省が例示しているカリキュラムです。
6つの投げ技が挙げられています。
安川さんはこのうち大外刈りなど3つの技を教えようと考えていました。
しかし鈴木さんは、大外刈りは頭を打つ危険性が高いため、やめたほうがよいと助言しました。

「えい!
このまま手を離すとまともにいきますよね がーっとね。」

「技そのものはいいんですが、いわゆる後頭部安全配慮の面で、少しどうですかというようなことの考えです。」

安川さんは鈴木さんのアドバイスを取り入れ大外刈りをやめることにしました。

「やはり鈴木先生に見ていただいて、はっきり教えていただけるので、その点で次の授業を作るときにはすごく参考にできていますんで、本当に助かっております。」

必修化を前に、教師自身の指導力を高める講習会が各地で開かれています。
体育教師の多くは柔道の経験がありません。

初心者のために道着の着方や帯の締め方から教えます。
講座は全部で6時間。
文部科学省が例示している技を一とおり習得させます。
この大阪市の講習会では子どもの安全を優先し、3年間受け身を教えるだけでもよいと伝えられました。

「目標の設定をね どこにするかが一番大事やと思うんですよ
3年間通して受け身までいったら十分だという学校もあると思うんですよ」

 

参加した教師
「ちょっと安心するというかやっぱ、ど素人が柔道をしてくださいと言われたら絶対ゲームまで、試合までさせてあげないとって勝手に想像しちゃうんでそのへんは、すごいなんかほっとした。」

●子供をどう守る フランスの取り組み

世界には指導者の質を高めたことで子どもの死亡事故をなくした国があります。

柔道の強豪国、フランスです。
柔道人口は日本の3倍。
スポーツを楽しみながら礼儀を学べると人気です。
フランスでは50年以上前に起きた一件の死亡事故をきっかけに徹底した安全対策を取りました。
指導者に国家資格制度を導入したのです。
国家資格を取るための講座です。
資格を得るには少なくとも380時間のカリキュラムを修了しなくてはなりません。
生理学やトレーニング法救、急救命の方法も学びます。
最低2段の段位も必要です。

「選手として優秀な柔道家も正しい受け身を指導できなければ 絶対に国家資格は得られません
生徒を危険にさらすことなく安全に指導するのは すべての指導者にとって 最優先の課題です」

日本の武道の精神を学ぶことと、子どもの安全を両立させたフランス。
必修化を目前に控えた日本に何が必要なのか問いかけています。

●日本とフランス 指導の根本的な違い

二村さん:日本はやはり、競技のほうへ視点がちょっと比重がかかりすぎてるかなというふうに思いますね。
安全指導という面と正反対の方向へ行ってるかなって思いますね。

(フランスはどちらかというと)教育ですね。
特に道徳教育、これは柔道の原点ですね。
嘉納治五郎が始めたときの。
その原点がいまだにずーっとフランスでは生き続けているというふうに思います。
指導者はやはりそのへんの安全面への基礎知識がないといけないと思いますね。

●柔道の必修化に向けての体制作りを

やはりこれは安全指導に関しては、不十分だと思いますし、柔道そのものの技術的な指導も今の現場の先生方は不十分だと思いますので、やはりベテランの、柔道のベテランの方に入っていただいて、一緒になって先生方も覚えていただくという、そういう体制を作ったほうがいいんじゃないかと思います。
全柔連のほうも、それから警察のほうもOBをしっかり出すといって、いっておってくれますので、ぜひそういう体制を作っていただいて、先生方と一緒になってやっていくというのがいいんじゃないかなというふうに思います。

教育委員会からの要請があれば、いつでも出す準備はあるというふうにいっておりますので、ぜひそういう体制を作っていただきたいと思いますね。

ほかはやっぱりこれはもしも事故が起こったときの検証する第三者機関をぜひ取り入れてほしいなと思います。
それを立ち上げて、事故例をきちんと分析して、そうしますと、原因がはっきり分かれば、今度は予防対策を策定できますので、そういうシステムをぜひ作っていただきたいなというふうに思います。

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