クローズアップ現代

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No.31152011年11月7日(月)放送
黒毛和牛オーナー 7万人の悲鳴

黒毛和牛オーナー 7万人の悲鳴

黒毛和牛オーナー 7万人の悲鳴

日本の黒毛和牛の5頭に1頭を保有するという安愚楽牧場。
30年前の1981年に創業し畜産業の大規模化のモデルとして注目を集めてきました。
しかし破綻は突然やって来ました。

「こちらのほうに社長とか。」

「来てない。」

「常務とか。」

「常務は分かんないけど社長は来てない。」

経営規模を拡大し続けてきた安愚楽牧場。
その出資者は7万3000人に上ります。
8月以降、各地で行われている債権者説明会に出資者が殺到しています。

安愚楽牧場の所有する黒毛和牛は14万頭。
そのうち7万頭は直営の自社牧場で育てられます。
残り7万頭が預託農家に預けられます。
預託農家は餌代と給料を預託料として受け取ってきました。

安愚楽牧場の持つ黒毛和牛の40%以上が集中している畜産王国、北海道で取材を始めました。
7年前から安愚楽牧場の牛を預かっている預託農家、大原則行さんです。
今、140頭の繁殖牛に子牛を産ませています。
繁殖牛1頭につき毎日480円の預託料が払われます。
月に20万円が利益として手元に残ります。

安愚楽牧場と契約する前4000万円ほどの借金を抱えていた大原さん。
その借金を返済し畜産を続けるために安愚楽牧場と契約しました。
安定した収入を得るための手段でした。

安愚楽牧場は当時経営が行き詰っていた畜産農家を次々と取り込み規模を拡大していきました。
餌の一括購入などの効率化を進め当初は順調に収益を伸ばしていました。
経営に関わっていた内部の関係者は当初は利益が出ていたと話しています。

会社設立から10年たった1991年牛肉の輸入が自由化されます。
それ以降、安愚楽牧場の経営は傾き始めます。
さらに10年たった2001年。
牛の病気、BSEが発生します。
牛肉の価格は、前の年と比べて最大40%も下落。
業績は急激に悪化していきました。

牛肉の価格暴落によって赤字経営に陥っていた畜産農家は安定した預託料を求めて安愚楽牧場に頼るようになっていきました。
こうした農家と安愚楽牧場を結びつけてきた一つが農協でした。
農協の内部事情に詳しい関係者は農協は金を貸していた農家を安愚楽牧場に橋渡ししていたと証言しています。

預託農家の多い地域の農協は廃業しそうな農家を安愚楽牧場に紹介することで延命させていたと認めています。

●黒毛和牛オーナー 7万人の悲鳴

7万人にまで規模を拡大していった安愚楽牧場はどのように出資金を増やしていったのか?
12年前に出資を始めた成合育代さんです。
どんどんエスカレートしていく勧誘にのって出資を増やしてしまったといいます。

5年ほど前から利率の高い商品が目立つようになったといいます。
さらに、海外旅行や電化製品などの特典もつくようになり成合さんは、貯金のほぼ全額を出資に回していきました。

ビル清掃を夫婦で営む成合さん。
その収入だけでは生活が成り立たず安愚楽牧場からの配当を家計の足しにしていました。
出資金のすべてが戻ってくるめどはなく掛け持ちできる仕事を探しています。

出資者を増やし続けることで経営危機を乗り切ろとした安愚楽牧場。
出資者への配当を支払うために規模を拡大し続ける悪循環に陥っていました。

さらに安愚楽牧場は破綻の13日前まで新たな出資を募っていたことが分かりました。
資金繰りが完全に行き詰まっている事実は伏せられたままでした。
48万円の出資が半年後に52万円。
利率8%の商品に申し込みが相次ぎました。

「これは私が送金したコースなんですね。
50万が39万っていう。」

破綻直前の7月100万円を出資した近東慶至さんです。
安愚楽牧場からの配当は滞ったことがなく安心して出資金を増やしてきました。
老後の資金1800万円を託していました。

今、東京、大阪、名古屋など全国12か所で被害対策弁護団が結成されています。
弁護団は安愚楽牧場が破綻直前まで出資金を集めていたことは悪質だと捉えて強く返還を求めていくことにしています。

●衝撃は畜産業にも 追いつめられる農家

安愚楽牧場の破綻で深刻な影響が広がっている北海道足寄町。
この日、預託農家が集まって今後についての話し合いが行われました。

140頭の繁殖牛を預かってきた預託農家の大原則行さん。
この冬、預託料が止まったら収入のすべてを失います。
安愚楽牧場に頼りながら営んできた畜産業を続けることが難しくなっています。

農家から、牛の回収を始めている安愚楽牧場。
牛を売却したお金の一部を出資者への返済に充てたいとしています。

今、廃業に追い込まれる農家も現れ始めています。

零細農家を巻き込みながら30年にわたって膨張し続けた安愚楽牧場。
突然の経営破綻で見えてきたのは日本の畜産業が置かれた現実でした。

【スタジオ】衝撃は畜産業にも 追いつめられる農家
雁屋哲さん(漫画「美味しんぼ」原作者・作家)
岩田記者(宇都宮放送局)

●実態はハイリスク 和牛オーナー商法

岩田記者:すでに廃業に追い込まれてきている農家も出てきています。
安愚楽牧場が今、もし破産に追い込まれれば、14万頭の牛の世話をする人がいなくなり混乱は広がっていきます。
このため安愚楽牧場では事業の継続が可能な民事再生という手続きを進めています。
牛という生き物を一気にお金に換えることは難しく出資者にとっても農家にとっても先行きは見えない状況になっています。

牛を預かっている農家の中には事業を継続していきたいとお互いに連携して安く牛を買い取れないか、安愚楽牧場に打診する動きも出てきています。
しかし、これが実現して牛の売り値が下がってしまった場合出資者にとっては戻ってくるお金が少なくなってしまうわけですからやはり皮肉な状況になってしまっていると思います。

このままでは元本割れも避けられないどころか出資した1割も戻ってこないのではないかという見方も出てきています。
牛を含む、すべての資産を売却したとしても返済は非常に厳しい状況です。

●安愚楽牧場 ビジネスモデルの問題点

雁屋さん:まず最初にね、牛を買いますね、雌牛を買います。
その雌牛が受胎してから受胎したときに、契約と同時にそれがなんか受胎するように一応考えますよ。
本当は違うんだけど、受胎って簡単にいくわけじゃないんだけど。
でも彼らのスキームどおりにいきまして受胎したときに契約金を払う。
それから1年後に子牛を売ったときの予想利益金を払うわけですね。
お金を払う。
それから24か月後にさらに第2子目の子牛を売ったときの利益予想金とそれから安愚楽牧場が母牛を買い上げる。
そのお金を払うわけですね。
毎年毎年そうやって払ってるわけですよ。
でも、それは実はありえないことで牛っていうのは妊娠期間が9か月あります。
そして生んだあと子牛が産まれるまでにいろんなリスクがあります。
例えば流産もあるし死産もあるし産まれた子牛が必ずしも売り物になるような牛でないかもしれない。

完全な健全な子牛が産まれたとする。
でも、それはやはり11か月ぐらい育てないと市場に出せないんですよ。
そうしますと、消費者が子牛を会員がお金を払ってから実際に子牛を売るまでに約2年近い時間がかかってるんですね。
それなのに1年で払うっていうのはそれはおかしいわけですよ。
ですから子牛をちゃんと売った段階で、そのお金を、利益をみんなに分配するのは問題なかったんです。
それをそうやって予想利益という形でやってしまったもんだから一種の金融商品になってしまってそれが問題の根本だと思うんです。

消費者と生産者、その間をつなぐ者として存在していれば両方の間をうまくつなぐことできたんですよ。
ですから、もしきちんと子牛が産まれた段階で利益を分配するという正しい形でやっていけばこのような問題起こらなかったと思うんです。
金融商品化してしまったところに問題がある。

リスクを伝えて、でもその代わり大人数でやりますからリスク分散で例えば1頭や2頭死んでもほかの仲間とリスク分散すればいいから大したリスクにはなりませんよ。
その代わり、本当にリスクはありますよとそういうことをきちんと伝えていけばいいと思うんですね。

●追いつめられる畜産業界

雁屋さん:預託農家になってしまったということは自分で畜産業やめて、実際に自分で牛を飼わないわけですね。
預託農家っていうのは自分で飼ってる牛は自分の牛ではありませんから。
安愚楽牧場の牛を飼うわけですね自分の牛ではない。
どうしてそうなってしまったかというと今、国の方針で肉の自由化が行われまして何年になるのかね。
それで今現在、国内で売られている牛肉の半分以上が輸入牛なんですよ。
それ以前だったらば国の普通の畜産農家の肉が全部売れたわけですよ。
で、価格も落ちました。
だから、そうしますと畜産農家っていうのは収入がないわけ。
なくなってしまうわけですよ。

それでとても苦境に陥ってしまう。
それから、もう一つは畜産農業の方を僕は決して責めるわけでもないし批判するわけでもないんだけどもやはり外国の畜産農家に比べるとちょっと畜産技術が劣るところがあるのではないかと思うんですね。
それが相まって、今、畜産業界がさらに苦境に陥ってきてしまった原因だと思う。
それから、お金が入らないから儲からないですね。
そうすると跡取りが来ないですね。
若い人が。
それでもって困ってるんじゃないかと思うんですね。

●まずは消費者教育から

雁屋さん:まず僕は消費者が問題だと思うんです。
消費者の肉の好みが偏りすぎてるんでさしが入ったものばっかりやるから高濃度の栄養の食品を与えるわけですね。
それはアメリカ製のとうもろこしなんか。
そうすると、それは高いですよ。
肥育する費用の40%以上が肥糧代になってしまうんですよ。
人件費とかそういうものが出ない。
そういうこともきちんと分かって本当のおいしい牛肉は必ずしもさしだけじゃない。
さしの入ってる牛肉だけじゃない赤身の肉がおいしいわけですからそれもちゃんと消費者が認識してもらうことが大事。
消費者教育が大事ですね。
それから消費者が畜産業の難しさ。
今の困難な状態をきちんと認識してほしいんです。
それで畜産業に対して自分たちも力を尽くす。
そういうことによって自分たちもおいしい牛肉が食べられるわけですからみんなが力を尽くしてくれれば少し、だんだんいくとよいほうにいくと思います。

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