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2015.10.09(金)[九州沖縄地方]
声をあげない夫たち〜相次ぐ“介護殺人”〜

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今年、熊本で、夫が妻を5年間介護した末に殺害する事件が起きた。九州沖縄で、介護疲れによる殺人が相次いでいる。中でも、夫が妻に手をかけるケースが目立つ。最近の調査では、介護殺人の加害者の7割が男性であることがわかった。専門家は、真面目故に追い詰められる男性特有の心理があると指摘する。どうすれば悲劇を防げるのか。妻を殺してしまった男性の告白に耳を傾け、老々介護の現場に何が求められているのかを探る。

ゲスト
立命館大学准教授 斎藤真緒さん


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相次ぐ“介護殺人” 男性介護者の苦悩

熊本に住む71歳の男性です。今年、介護していた妻の首を絞め、殺害しました。寝たきりの妻を、5年に渡り、たった1人で介護してきた男性。身も心も疲れ果てた末に起こした事件でした。

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「もう目の前が真っ暗っていうか。なんかもう思い出したくない」

いま、老老介護をする夫が妻を殺害する事件が相次いでいます。

なぜ、夫たちは追い詰められてしまうのか。取材を進めると、男性特有の心理状態が見えてきました。

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介護問題専門家
「男性介護の人は自分で抱え込む傾向があるんですよね。おひとりで。周りの方にはなにも知らせたくなくて」

介護に悩みながらも声を上げない夫たち。どうすれば支えることが出来るのか、考えます。

今まさにこの時間介護をしている方もいらっしゃると思います。介護を必要とする人の数が年々増え続ける中、介護に疲れ果て肉体的にも精神的にも追いつめられた末に殺人にいたる、介護疲れ殺人が後を絶ちません。専門家の調査によると去年までの17年間に起こった介護殺人は全国で少なくとも672件。その加害者の7割以上が男性だということが明らかになりました。

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なぜ男性が加害者になるケースが多いのか、私たちは今年熊本で起きた事件を取材。事件を起こした男性は同じようなことを起こしてほしくないと取材に応じてくれました。そこから見えてきたのは男性が陥りやすい心理状態でした。

“介護殺人”妻を手にかけた夫の告白

今年5月、介護疲れの末、妻の首を絞めて殺害した71歳の男性です。

男性は自殺を図りましたが、死に切れず自首。執行猶予のついた有罪判決を受けました。

大手鉄鋼会社に30年以上勤めた男性。リタイアしたあと、夫婦2人で余生をのんびり過ごそうと、5年前、ふるさとの熊本に移り住みました。

ところが、その直後、妻が階段から落ち、背骨を骨折。「骨粗しょう症」と診断され、介護が必要になりました。

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男性
「まさか自分が家内、妻を介護するなんて思っておりませんでした。退院すればまた元の生活に戻れるということしか頭に考えておりませんでしたので」

男性の日記には、慣れない介護に懸命に取り組む中で、次第に追い詰められていく様子が綴られています。

 11月20日、晴れ。5時40分起床。
 洗濯機を回し、みそ汁とサラダを作った。
 午後暖かかったので、団地内を散歩した。

 12月14日。8時前、妻を起こした。
 下着が汚れたと言ったので、すぐ着替え、パンツをゴム手袋をつけて洗った。

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この頃、男性はまだ、努力すれば妻の病状はよくなると信じていました。

 2015年のはじめに。
 今一番思うことは、怪我した妻が
 早く治ってほしい。
 慌てずにゆっくりでもいい。
 そして、近いところに一泊旅行でもしたい。

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しかし、妻の症状は、日に日に悪化していきました。骨粗しょう症が進行し、ほとんど寝たきりの生活に陥ってしまったのです。

男性は、妻をリハビリに連れて行きましたが、妻はやがて、それを拒むようになります。

 1月26日。
 妻は「雨だからリハビリには行かない」と言いだした。
 「その分、自分で手足を動かし運動せなん、自分のために」と言ったら泣きだした。
 「ストレスになると」との事だった。

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この頃から、妻は男性にこんな言葉を漏らすようになりました。

「生きていても仕方がない」

「殺してほしい」

男性
「最初怒ったこともあります。なんとかして治そうやんか、と。この病気治そうやと。励まして励まし続けておりました。だけどやっぱり妻の度重なるその言葉がだんだん僕自身の負担にもなってきました」

「死にたい」と繰り返す妻を前に、男性は、無力感にさいなまれていきます。

それでも男性は、長年連れ添った妻を自分の力だけで支えようとしました。

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男性の家では週3回、入浴介助のサービスを受けていましたが、男性はヘルパーにさえ介護の悩みを相談しませんでした。

離れて暮らす2人の息子は、子育てなどで忙しく、頼ることはできないと決めていました。

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男性
「もう42年、結婚生活を続けておりましたので、できるんだったら自分がやってやりたい、そばについてやりたい、そんな気持ちが多かった、強かったですね」

知人たちは、誰も男性の苦悩を知りませんでした。

男性の知人
「私はまだ深刻な状態になっとるっちゅうことは感じなかったですけどね。今でも思うんですよね。なんで相談せんだったかなっていうのはですね」

地域の民生委員も、1人暮らしの高齢者を見回るのに忙しく、異変に気付くことができませんでした。

民生委員
「支え次第では助かったかも、(妻を殺害)しなくてもよかったのかもしれないって。おっしゃった方がいらっしゃるんですけど、私は(気付けなくて)悔しかったですね」

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周囲に助けを求めなかった男性を、さらに追い詰める出来事が起きます。

妻が「殺してほしい」と何度も自分で自分の首を絞め、懇願するようになったのです。

事件前日の日記です。

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 朝食後、妻は横になった。
その後「何もできない。生きる意味がない。楽になりたい。首絞めて」などと言い出した。
僕自身限界だ。

男性
「妻自身が首を絞める。その姿を何回か見る。見るたびに自分としてももう自分の力ではもうとうてい生き延びることはできないなと。もう目の前が真っ暗というか、自分が行動を起こす直前はもう、思い出したくない」

ゲスト
立命館大学准教授 斎藤真緒さん

熊本の事例を見ますともちろん殺人はあってはならないことですが、なんともやりきれない気持ちになります。介護の難しさ、私自身決して人ごとではないと思いました。スタジオには立命館大学准教授の斎藤真緒さんをお迎えしています。斎藤さんは男性介護の実態を研究、支援活動もされています。斎藤さん、熊本の事例をどのようにご覧になりましたか。

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そうですね、やっぱり非常に残念なことではあるんですけれども、特異なケースではなくてすべての家族介護の方々が直面しうる典型的なケースではないかというふうに考えます。

典型的な例。男性はどうして追い込まれていくのでしょう。

やはり男性に非常に多いケースは、教育や仕事の中で弱音をはいてはいけない、あるいは他の人に頼ってはいけないというふうに強く思っている、あるいはそうやって仕事を成し遂げてきた方が少なくない、このことが適切なSOSを発することができなかったということにつながったのではないかというふうにも考えられると思います。

そのSOS、助けを求めることは難しいんですか。

そうですね、最近の家族介護、介護殺人の件を見ていくと、全くサービスを利用されていない、孤立している家族ではなくて、サービスを使っていてもこういう事件がおこっていくるというのがひとつの特徴ではないかというふうに思います。やっぱり家族こそが介護が一番だというふうに強く思っていると、やはりサービスを利用していても、そういう非常に苦しいところ、SOSを上手に出せないということがあらわれているのではないかというふうに思います。

特徴のひとつが家族の中ですべてを背負いこんでしまうということですか。

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そうですね。家族の介護が一番、あるいは家族が介護すべきというふうに、社会もそれを求めているという側面もあると思うんですけれども、やはり介護というのはとても大変な仕事ですので、しかもどうしてもこう夫婦であればですね、治ってほしい、この方もそうなんですけれども、強い希望を持って介護に取り組まれていたと思うんですけれども、やはり老いの向かい合うというのはある種下り道ですよね。看取りに向かう道を連れ添っていくということになりますので、仕事のように男性がどんなに頑張ったとしても、それが達成感とか成果のような形で報われるということに必ずしもつながらないのがこの介護、家族介護の難しさではないかというふうに思います。

ある種、男性が仕事と向き合うように家族に対して頑張れば頑張るほど何かの成果が得られる、場合によっては元に戻るという気持ちで取り組むけれども、介護というのはなかなかそうはいかない、そうなると最後に待っている望みが断たれてしまう、いわゆる絶望ということになるんですか。

そうですね。やはり多くの家族介護者の方は不安や絶望と隣り合わせのぎりぎりのところで介護をされています。肉体的な負担だけではなくて経済的、精神的にも追いつめられている方が少なくないと思います。例えば妻が自分が作ったカレーを非常に喜んで食べてくれるということを唯一の心の支えにしていた男性が、妻があるきっかけでカレーを食べてくれなくなったということで、事件につながってしまったというケースが実際にはあります。

精神的にそこまで追い込まれていくということですよね。そうした介護をされる人ではなく、介護をする人を支えることは今の制度では難しいんですか。

そうですね。介護保険制度は基本は介護を必要とする人、いわゆる要介護者を支えるためのしくみですので、要介護者の周辺にいる家族を支えるためのしくみとしては元々は設計されていないという事実になっています。

そうした中で、現在の制度では支え切れていない、介護する側の人を支援しようという動きも始まっています。

声をあげない夫たち 介護者をどう支える

熊本に住む、井上輝秋さん、81歳です。10年余りにわたって認知症の妻を介護しています。

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介護に疲れ果て、寝ている妻の首に手をかけようとしたことがあったといいます。

井上輝秋さん
「もう、えーくそと思って、もうどっちもこれ以上いかんからと思って、こうして首をここまで持っていったことがありましたね。二人で死のうかなと」

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そんな井上さんを救ったのは、知り合いに誘われて参加したある集まりでした。県が開く男性介護者の集い。介護の悩みや愚痴を語り合う場です。

同じ悩みを抱える男性同士だからこそ、心のうちを初めて話すことができたといいます。

井上さん
「一人で考えるのとここで(話せたら)考え方が変わってくるから、ここに来てなかったら(介護殺人を)やっとっただろうと思う。」

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声をあげない男性介護者の家に積極的に入っていく取り組みも始まっています。北海道栗山町の「在宅サポーター」。介護経験のある主婦などが老々介護をしている家庭を訪ねています。

自分一人で介護を抱え込もうとする男性のもとを何度も訪ね、悩みを引き出すのが狙いです。

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70代の夫婦です。脳梗塞の後遺症がある妻を夫が介護しています。

在宅サポーター
「(介護が)だんだん、きつくなってきたなと思ったりはあります?」


「ありますね。年々そうなりますね。いつまでできるか。そこが心配」

在宅サポーター 増田智子さん
「本当の気持ちというか愚痴だとかつらいんだよというのを話せたりするんだったら、私たちみたいに行って、心の重荷を少しでもおろせればいいかなと思いますけどね。」

この取り組みを進めているのは、社会福祉協議会です。男性介護者の悩みを聞くだけでなく、在宅サポーターが集めた情報を行政などと共有し、適切な支援が受けられるようにしています。

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介護支援専門員
「いろんな情報が得られるのが一つメリットだと思いますし、(情報を)たくさん集めてきてくださって、それを聞いて、深くまた入っていくことができるというのはメリットだと思っています」

社会福祉協議会の吉田義人さんです。介護する人の元に積極的に入っていくこの活動。ある男性との出会いがきっかけで始まりました。

吉田義人さん
「おはようございます。どうもご無沙汰して」

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伝庄幹弘さん、80歳です。伝庄さんは、がんを患う妻を4年前まで介護していました。自分の力でなんとかしたいと介護サービスは受けていませんでした。

その一方、持病を抱えながらの介護に限界を感じ始めていた伝庄さん。たまたま家を訪問した吉田さんに、ため込んでいた悩みを打ち明けました。

栗山町 社会福祉協議会事務局長 吉田義人さん
「ちょうど帰るときですよね。おじゃましましたと帰るときに本当に涙を流されて、助けてくださいとおっしゃたんですよ」

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伝庄さんは、その後、介護サービスを受けるようになりました。精神的な余裕を取り戻し、最後まで妻の介護をつづけることができました。

伝庄幹弘さん
「ありがたいですよ。やっぱりこういった吐き場がないわけですもん。本当に感謝しています」

吉田さん
「(在宅サポーターが)家におじゃまするとですね、結構弱みを言ってくれるんですよね。そこらへんは外から見てても絶対ダメだと思いますよね。(相談を)待っているという主義ではダメだと思うんですね」

ゲスト
立命館大学准教授 斎藤真緒さん

同じ境遇の男性介護者の集い、どのようにご覧になりましたか。

そうですね。やはり同じ男性であること、そして同じく介護を経験してるということが男性にとって話しやすい環境を作り出しているのかなというふうに思います。男性は女性と違って家事もできなかったり、家事の悩みを抱えていることも結構ありますので、そういうことも含めて男性の弱い部分、弱みも吐き出せる関係が作れる環境になってるのではないかというふうに思います。

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男性同士だからこそ言いやすいというのはあるかもしれませんね。

そうですね。やはりどうしても男性はこれまで肩書によって自分の仕事、あるいは自分の役割のことをやっぱりとても上手に話せるけれども、いざ肩書がなくなったときに自分個人のことを話して下さいっていうと、そういうことを不得手とする男性の方は少なくないと思うんですよね。

たしかに近所に出て行って話をするときに名刺交換をした後だと話しやすかったりするんですけれどもいざ。

そうですね、自分のことってなると非常に戸惑ってしまう。何を話していいか分からないという方が非常に多いかなっていうふうに思います。

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北海道栗山の例はどう評価されますか。

そうですね。どうしても介護が大変で外に出られないという方が非常に多いですのでそういう意味では、外から家族の中に入っていくっていう積極的な働きかけが、非常に大きく評価できるのではないかというふうにまずひとつ思います。もうひとつは、まずきめ細かに情報交換をしているので、男性介護者の「助けてください」っていうこの小さなサインでも、上手に情報が共有できるしくみができているのではないかなというふうに思いました。

そうした介護される人ではなく介護する人を支えるしくみというのは、例えば海外等を見るとすすんでいるんですか。

そうですね。海外では最近福祉サービスの中に介護を必要とする人だけではなくて介護者も独自の利用者として支えるしくみというのが広がっています。例えばイギリスは介護者支援の先進国というふうに言われているんですけれども、イギリスでは介護者は要介護者とは違ってですね、独自のサービスをもつ存在として、サービスの利用が普及しています。

具体的には支援者、介護者を支えるしくみということですよね。

そうですね。例えば介護だとどうしても自分の自由時間がなくなったり、人づきあいができなくなったりするので、介護者が自分のためだけの時間をもてるような休暇をとれる権利をですね、あるいはサービスを提供したり、あるいは日本では残念なことなんですけれども、年間約10万人の方が介護や看護で離職をしている状況があります。そういった意味では介護と仕事を両立させるということが介護者にとっては非常に大事なニーズになっています。イギリスなんかでは、働く時間を選ぶフレックスタイムのような介護と仕事を両立できるようなことが、働く権利として認められるようになってきています。

そういった中にあって日本はこれから未来に向けてどう変わっていけばいいんでしょう。

そうですね。やはり介護保険制度は要介護者のための制度ですので、介護によって今多くの日本の人々は、生活が激変してしまうということに直面しているので、介護者を支えるしくみ、基本法といったような法的根拠をつくっていくことが急務ではないかというふうに思います。

これまでの介護のしくみっていうのは、割と家族に負担してもらおうという制度でしたよね。

そうですね。すべての人々にとって介護がもはや人ごとではなくなりつつある今日においてこそ、家族の介護が一番という発想を見直す時期を迎えているのではないか、というふうに考えています。

介護を家族だけで背負いこむ時代ではないと。

そうですね。

スタジオには立命館大学准教授の齊藤真緒さんをお迎えしてお送りしてきました。斎藤さんありがとうございました。

ありがとうございました。

特報フロンティアこれで失礼します。

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