2019年3月 5日

産後うつから母親たちを守れ


「産後ぽろぽろ涙が出てきた」
「死んでしまいたいという気持ちが頭をよぎった」。いま、出産した母親の10人に1人が「産後うつ」にかかると言われています。症状が重くなると自ら命を絶つ母親もいる「産後うつ」。赤ちゃんの世話をしながら、つらい症状に悩むお母さんたちを救おうと、自らも「産後うつ」を経験し、久留米市を中心に活動を始めた女性を取材しました。

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産後うつの当事者などが集まる座談への参加を呼びかけるSNSです。

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座談会の運営メンバーで佐賀県鳥栖市の大坪香織さんは、11歳の長女と6歳の長男の2児の母親です。大坪さんも産後うつの経験者です。11年前に長女を出産したあと、気持ちが落ち込むようになったと言います。「娘のおっぱいの吸いが悪くて、夜中に30分おきとか1時間もつかなという状況の中で、だんだん気持ちが落ち込んでいくようになり、気がついたら涙がぽろぽろ出るような状況になっていました」(大坪香織さん)

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その後、娘の泣き声が幻聴となって聞こえるほど追い詰められていったといいます。妻の異変に気づき、病院に行こうと勧めたのは夫の暢人さんでした。出産から2か月がたっていました。

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「自分も大変なこともあり、きつかったこともあり、言い合いをすることも結構あったので、今のままではだめだろうなというのははっきりわかっていました。病院に行くことを含め、負担が減る方法などを一緒に考えました」(夫の暢人さん)

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そして、夫婦で精神科を訪れたところ、香織さんについて、医師から自殺の一歩手前だったと告げられました。

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「『何で、もっと早く来んかったとね』と言われました。『あんたの奥さんは昔で言うなら赤ちゃんば抱えて、肥だめに身を投ぐうこた状態ですたい』と言われました」
長女を暢人さんの実家に預け、香織さんは入院しながら投薬治療を続けました。ひと月半ほどで症状は治りました。その後、普通に子育てをしていた大坪さんですが、5年後、再びうつの症状に襲われます。2人目の長男を妊娠したのがきっかけでした。
「望んでいたのに、もう妊娠が分かった瞬間にワーっと気持ちが引き戻されるというか、娘の時のように、あっという間にうつ状態に戻ってしまいました。『どうなるんだろう・・・』というえたいの知れない不安でした」

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出産前に始まったうつの症状は、産後1か月ほど続きました。死んでしまいたいという気持ちも頭をよぎったと言います。

その気持ちを思いとどまらせたのはまわりのサポートでした。夫の暢人さんは、長男の授乳や幼稚園に通う長女の世話などを積極的に行いました。また、治療にあたった精神科や産婦人科の医師と母乳マッサージの助産師の3人が連携して、ささいなことであっても相談に応じ、不安を取り除いていきました。

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「今、産後うつで苦しんでいる人がまわりにいる方は、産後うつのことがよく分からないから関わることをやめるのではなくて、できれば当事者の方のもとに飛び込んでいって、話をきいてもらえればと思います。そうすれば、産後うつで悩んでいる方の大変な気持ちは、少しずつかもしれませんが、なくなっていくのではないかと思います」(夫の暢人さん)

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「私の命と子どもの命の2つの命が助けられ救われ、私は今こうして生きています」

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産後うつを経験した大坪さん。つらい症状に悩むお母さんたちを救おうと、みずからの体験を外に向けて語るようになりました。そのうちの1つがほぼ毎月開かれている「うつうつお母ちゃんの座談会」です。

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悩みを1人で抱え込まず、まわりが支えて母と子の命をつないでいく。大坪さんの願いです。
「私をサポートしてくれた方々は、私の次の一歩がどうなるかをすごく心配してくれていました。今こうやって話をしているのは、当時サポートしてもらったことを、身にしみてありがたく感じているからなんです。そんな中で『あなたは1人じゃないよ』と伝えられることは意味があると考えています。また、実際に産後うつを経験した人間として、できる限り伝えられたらいいかなと思っています」

【取材後記】
取材中、大坪さんが宝物にしているという、長女が書いた絵を見せてもらいました。一つはうつ状態だったときの大坪さんの顔が描いてありました。目は閉じていて、暗い表情でした。そしてもう一つは、うつ状態から回復したあとに書かれた絵で、笑顔で明るい大坪さんの顔が描かれていました。大坪さんは「回復したときには必ず子どもも笑顔に戻ることができます。だから暗い気分の時、目の前にいる子どもへの影響を心配しすぎないでほしいです」と話していました。大坪さんは現在、うつうつお母ちゃんの座談会の他にも、産前産後メンタルヘルスサポーター「とき紡」という名前で個別にサポートする活動なども行っています。この「とき紡」という名前には、「1日1日の命をつないでいく」という思いが込められています。私は「今、産後うつで苦しんでいる方に向けて、メッセージをお願いします」とお願いしてみました。すると大坪さんは「今、本当につらい思いをされているとは思いますし、明日が来るんだろうかって思っていると思います。それは私も経験したことなのでわかります。でも、とにかく1分1秒、1日1日、その日、1日だけ
から過ごして欲しいと思います。その1日を過ごすことが生きることであって、命をつなぐことだとおもっています。必ず、回復の道は開かれていくので、余力のあるうちに助けてと声をあげてほしいです」と答えてくれました。産後うつの問題はだれにでも突然起こりうる問題です。周囲の人が身近な問題としてとらえ、母親と子どもの2つの命を守るために、サポートしていくことが必要だと強く感じました。

久留米支局記者・山崎啓

投稿者:ロクいちスタッフ | 投稿時間:11時28分 | カテゴリ:WEBいち! | 固定リンク

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