2018年9月28日

"久留米方式"が救う!


2万1127人。この数字、何だかわかりますか?。去年、全国で自殺した人の数です。ちなみに、去年、交通事故で死亡した人は全国で3694人。自殺者は交通事故の死者の5点7倍にも達し、見過ごすことができない深刻な社会問題になっています。自殺者はどうすれば減るのか?。いま、久留米市が8年前から始めているある取り組みが「久留米方式」と呼ばれ、注目を集めています。

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「久留米方式」の最大の特徴は、地域のかかりつけ医と精神科医の連携です。かかりつけ医は、不眠や食欲低下、疲れなど、うつ病につながる、患者のわずかな体調の変化を把握しやすい立場にあります。そして、かかりつけ医が精神科医に患者を紹介することで心の病の早期発見につなげ、自殺に至る前に手だてを講じる仕組みです。さらに、久留米市の保健所や精神保健福祉士も加わり、追跡調査を行い継続して患者を見守るのも特徴です。

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「もう不安ですね。汗がいっぱい出てきて落ち込んで」(60代男性)。私が取材した60代の男性は、職場環境が一気に変わったことをきっかけに仕事に不安を感じ、気分が落ち込むことが多くなったといいます。「家ではイライラするし、会社に行く時に非常に熱が出まして、震えました。会社に行く意欲もなくなり、もうどうしようもないという部分まで追い込まれました」(60代男性)。

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こうした体の不調が半年ほど続いたころ訪れたのが、10年以上のつきあいがある地域のかかりつけ医でした。「かかりつけ医に1人で行きました。信頼の置ける医者で、病気があったら、家族も皆診てもらっています。すぐに、紹介状を書いてもらいました」(60代男性)。かかりつけ医の専門は内科ですが、すぐに精神科の専門医を紹介し、男性はうつ病と診断されました。気心の知れたかかりつけ医に紹介してもらったことで、男性は安心して治療を受けることができたと言います。

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「精神科はまったく初めてで不安でしたが、すぐに紹介していただいて、そこが専門医だったというのが一番のメリットだったと思う。自分では早く治ったかなという思いです」(60代男性)。

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久留米方式の導入から8年がたち効果は数字にも表れています。人口10万人あたり、どのくらいの人が自殺で死亡したかを表す自殺死亡率は、9年前の平成21年の時点で、福岡県全体が25.76人、久留米市は28.36人と、久留米市は、県の平均を上回っていました。ところが去年は県全体が17.11人なのに対し久留米市は14.67人と県の平均を下回っています。しかもこの間、久留米市の自殺死亡率は半減し、速いペースで改善しています。また、この8年で、かかりつけ医から精神科医への紹介件数は8066件にのぼっています。しかも導入当初の最初の1か月は月に29件でしたが、去年は8月と10月にそれぞれ137件と、最近は月に100件を超えるようになり、制度は定着しつつあります。

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「毎月100人くらいの患者さんが精神科に紹介されている。そういう意味ではこの連携システムが一般科の先生方に受け入れられたんじゃないかなというのがあります。最初は小さかった輪が、だんだん広がっていると思います」
(久留米方式の発起人 久留米大学 内村直尚 教授)

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この久留米方式はかかりつけ医が患者の異変に気づくために、SDSと呼ばれる共通のチェックシートを活用しているのも特徴の一つです。

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このシートに基づいて、かかりつけ医が、▽気が沈んで憂うつだとか、▽夜よく眠れないなど20項目をチェックします。そして一定の点数を超えると、うつ病の疑いがあるとして、精神科医に患者を紹介します。内科など、精神科以外が専門の医師でも気づける仕組みになっています。

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「何回か診察を繰り返しているなかで、もしかしたら、この方はうつ病の原因の状態にあるんじゃないかと、そういうことに気づきます。それで患者さんの紹介も非常にやりやすく、また、応じやすくなっているんじゃないかなと思っています」
(かかりつけ医の1人 矢野秀樹 医師)

さらにこの久留米方式では、かかりつけ医と精神科医の信頼関係が重要になってきます。そのため、ほぼ毎月、研修会などを開催して、互いが顔の見える関係を作り出しています。医師どうしの信頼関係があれば、患者に自信をもって精神科医を紹介できると言います。

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「ふだん紹介させてもらう時に、やっぱり、精神科医の顔を知っていると会話もそれなりに親しくなりますし、それを見ている患者さんもすごくそれで安心される。いい関係を構築しているなと感じています」
(かかりつけ医の1人 矢野秀樹 医師)

【取材を終えて】
「久留米方式」は当初、4つの医師会から始まりましたが、去年、さらに4つの医師会が加わり、筑後地方全体に広がりました。また、去年からはアルコール依存症の問題についても、共通のチェックシートを用いて、かかりつけ医が患者の状況を確認するようにもなりました。「久留米方式」は進化を続けているのです。私は今回、取材をしていてとても印象に残った言葉がありました。それは「8年が経過し、医療関係者だけではなく、一般の方々も周囲の変化に気づくような、そういう気配りができるようになっている。ひとりひとりの関係を深めて、地域の絆を強めていくことが自殺対策につながる」という発起人の内村教授の言葉でした。久留米方式をきっかけに、市民の間にも自殺予防の意識が高まり、地域の絆で自殺者を減らしていく。久留米から始まった取り組みを引き続き注目していきたいと思います。


NHK久留米支局記者 山崎啓

投稿者:ロクいちスタッフ | 投稿時間:10時43分 | カテゴリ:WEBいち! | 固定リンク

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