2020年07月21日 (火)九州の7月豪雨について


気象予報士の吉竹です。

今年の7月豪雨で九州各地で甚大な被害が発生しました。
大雨災害で被災された方には心よりお見舞い申し上げます。

九州で発生した今回の一連の大雨について、
雨の降り方と大雨の科学的原因を私が知りえる範囲でお伝えします。

7月4日の未明から朝にかけて、熊本県南部に線状降水帯が発生、
人吉市や球磨村など熊本県南部で記録的大雨が降りました。
前日の段階において気象庁の数値予報などでは、これほどの雨が降るとの
予想データはなかったのですが、私たち気象従事者は、
梅雨末期はこの予想値の数倍の雨が降るとの経験則も加味して予想対応します。
しかし、実際にはその予想をも上回り、
人吉市で24時間に400ミリを超える豪雨となりました。

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「線状降水帯」とは、積乱雲による線状の降水域が長時間同じ場所に停滞し
激しい雨が降り続き大雨をもたらす現象です。
線状降水帯という言葉は、2014年に広島市で発生した豪雨以降、
よく聞かれるようになりましたが、この線状に並ぶ積乱雲の集団は、
特に目新しいものではなく、それまでも豪雨の原因になることは知られていました。
しかし現在でも、線状降水帯の発生は前日の段階で、
どこに発生するのか予想することはたいへん難しい現象で、
気象レーダで数時間前になってようやくその発生がわかるといった状況です。

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熊本県南部の大雨から2日後、6日午後には、
長崎県から福岡県南部に延びる新たな線状降水帯が発生、
福岡県大牟田市や長崎県大村市などで広範囲の浸水被害が発生しました。
日本各地の年間降水量は、およそ1600~1900ミリ、人の身長くらいなのですが、
今回の一連の大雨で九州の多いところではわずか10日余りで1000ミリを超え、
年間雨量の半分以上の雨が一気に降ったことになります。

今回の10日以上続いた7月豪雨はなぜこれほど長く降り続き、かつ激しく降ったのか、
私自身はいくつかの要因が複合的に重なって発生した大雨と考えています。

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少し専門的な話になりますが、まず
①「インド洋の海面水温が平年よりかなり高い」
これにより7月になるとインド洋で対流活動が活発になり、積乱雲が次々に発達、
インド洋全体に上昇気流の場が継続します。
上昇した空気は下降気流としてどこかに降りてくるわけですが、
その場所にあたるフィリピン付近で通常より高気圧が発達し停滞。
つまり、夏の高気圧が例年よりも西への張り出しが強まり、
その北側にあたる中国華南から日本に梅雨前線が停滞しやすい場が形成されました。
この場が10日余りにわたり長期間維持されたため、この前線に沿って、
インド洋と南シナ海から日本に水蒸気が運ばれて長雨が続くことになります。
今年は台風の発生がまだ2個と少ないですが、これもフィリピン付近に
下降気流の場が形成されているためで台風が今のところ発生しにくくなっています。
(今後、この場が崩れたら、一気に台風が次々に発生することが予想されます)

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②「偏西風の蛇行が通常より大きい」
長期間前線が停滞し長雨が続いていたところに、極端な豪雨が何回も発生しました。
この豪雨の発生には雨雲を次々に発達させる要因が必要となります。
それが、例年7月と比べて蛇行が大きくなった偏西風(ジェット気流)です。
通常、この時期になると偏西風は日本のずっと北、シベリア付近まで北上するのですが、
今年は7月になって、九州のすぐ近くまで南下。それに伴い北極からの寒気の一部が
黄海付近まで南下、インド洋や南シナ海からの高温多湿な空気と激しくぶつかりあい、
九州付近で次々に活発な積乱雲の列、線状降水帯を発生させて豪雨をもたらしたものと
考えられます。中国長江流域で同じ時期に降った大雨災害も同様で、
豪雨の発生にはすぐ近傍での寒気の存在が重要になります。

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③「地球温暖化による水蒸気量の増加」
そして3つ目の原因が地球温暖化による影響です。
温暖化することにより海の温度も上昇するわけで、
日本近海ではこの100年で海面水温が1.2度前後も上昇しています。
特に、水深が浅い東シナ海や日本海の海水温の上昇は、世界的にみても顕著なところです。
海水温が上昇すると、海面から蒸発する水蒸気量も増えます。
また、気温が高ければ高いほど空気中に含みうる水蒸気量も増えますので、
温暖化によって必然的に降る雨の量が増えることは物理的に明確なことです。
今回の大雨は海水温上昇によって東シナ海などから大量の水蒸気が九州付近に供給され、
積乱雲の発達に寄与したものと考えられます。

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近年の暖候期の大雨は、
2017年の福岡県朝倉市などに甚大な被害を発生させた「九州北部豪雨」、
2018年の西日本の広範囲で大雨被害をもたらした「西日本豪雨」、
2019年8月の「佐賀豪雨」、そして秋に東日本に大雨や暴風による被害を出した
「台風15号、台風19号」。
毎年のように気象災害が立て続けに発生しています。

今回の7月豪雨で再び大きな災害が発生しましたが、日本の気象、世界の気象が
やはり新しいステージに移ってきているとこが実感されます。
私たちはその事実を謙虚に受け止め、
これから自然の振る舞いに対してどのように対応、共存していくのか、
考えなくてはいけない時にきているのではないかと思います。

投稿者:吉竹顕彰 | 投稿時間:10時00分


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