2018年07月20日 (金)戻りたいけど戻れない


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九州北部豪雨から1年。多くの被災者がふるさとから離れて暮らしていることがわかりました。朝倉市は九州北部豪雨で今も避難生活を続けている被災者の状況を「被災者台帳」にまとめています。今回、NHKが市の協力のもと台帳のデータを独自に分析した結果、4割が地元に残らず市外に移り住んでいる状況が明らかになりました。

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去年の豪雨で大きな被害を受けた朝倉市の東林田集落では、被災当時のままの住宅や、鉄筋がむき出しになった橋の欄干などが今もそのままになっています。氾濫した川の両岸には二次災害を防ぐため、大量の土のうも積まれています。赤谷川が氾濫したため、東林田集落では3人が亡くなり、30棟以上の住宅が全半壊しました。およそ350人の住民のうち64人が今も避難しています。

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朝倉市は、こうした避難生活を続けている1300人余りの状況を「被災者台帳」にまとめています。NHKは今回、市の協力を得て、個人が特定できないよう情報を加工したうえで、独自に傾向を分析しました。

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地図上の赤い丸の部分は、被災者がもともと住んでいた場所です。

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放射状に伸びる線は、豪雨のあとの移動の状況を示しています。

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住民たちは緑の部分で示された福岡市や久留米市、それにうきは市などに移り住んでいました。その数は、ことし4月25日時点で、500人余り。被災者のおよそ40%が、朝倉市以外の20以上の市町村に分散していました。このうち、東林田集落では、避難した64人のうち、半数以上の34人が福岡市や大分県など市外の5つの自治体に分かれて移り住んでいました。

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ことしになって集落に戻った時川幸子さん(67)は、水につかった自宅を改修して夫と2人で暮らしています。自宅に面した道路の周辺には15軒の住宅がありますが、今、住んでいるのは時川さんともう1軒のあわせて2軒だけです。「知人の家に避難していましたが、気を遣うので自宅に帰ってきました。でも、2軒しかないので夜は寂しいし、雨が降ると不安になります。川の流れが変わったため集落が分断され、近所の人と話す機会が減りました」(時川幸子さん)

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豪雨当時、集落の区長を務めていた林隆信さん(68)も「以前は人が道を行き来して、いろいろなつながりや会話が生まれていましたが、それが完全になくなって、かろうじて住んでいるだけの状態です。人が暮らす地域としては不自然な集落になってしまった」と話していました。

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防災行政に詳しい専門家は、今の状態が長く続けば、地域の再生は難しくなると指摘しています。「これが2年、3年、4年といつまでもだらだらと続いていると、いつまでも待てないと、元の地域に戻らずにそれぞれの場所で生活再建する形になってしまいます。このため、復興に関する的確な情報を一刻も早く住民の方に示して、2年、3年は大変だけど頑張ってくださいということを行政としてどの段階で言えるかが重要だと思います」

さらに今回の分析から、若い世代ほど地元に残らず、市外に移り住む傾向があることもわかりました。世代別にみてみますと、市外に移り住んだ人の割合は、65歳以上では30%余り、20歳から64歳までの働き盛りの世代ではおよそ40%なのに対し、20歳未満の若い世代では50%を超えていたのです。これについて塚原教授は「子どもがいる世帯など若い世代を中心に、仮設住宅の完成を待てずに市外のみなし仮設住宅に入居せざるを得なかったのではないか」と分析しています。”ふるさとに戻りたいけれども、やむをえず戻れない”という人も多いと見られます。

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こうした状況ついて朝倉市の田中美由紀保健福祉部長は「若い人がよその所に行くというのは、市としても危機感を感じています。もとの所にまた戻ってもらって、若い人も戻ってもらって、コミュニティーがもとのように再生できるように、それを目標に頑張っていかないといけない」と話していました。

【取材後記】
朝倉市の東林田集落で、豪雨当時、集落の区長を務めていた林隆信さん(68)たちは、住民みずから復興委員会を独自に立ち上げています。「一刻も早く集落が再生する姿を示さなければ、住民は戻ってこないのではないか」との危機感からです。豪雨で氾濫する前の赤谷川はせせらぎに沿って桜並木があり、住民の憩いの場となってきました。豪雨で桜のほぼすべてが流されましたが、集落の復興委員会では、川の大規模な改修のあと新たに遊歩道や子どもが遊べる公園を整備し、そこに桜を植えて、かつての憩いの場を再生したいと考えています。林さんは「豪雨前よりも減った住民が100%に戻ることはないと思うが、それでも元の生活のリズムが戻ればいいと思う。地域として豪雨前の日常を取り戻したい」と話していました。復興への道筋が避難した人たちに示されることで、1人でも多くの人たちが集落に戻る日が来ることを私たちも強く願っています。


福岡放送局記者 小田真 森将太

投稿者:ロクいちスタッフ | 投稿時間:11時14分


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