10月25日(金) 放送
「新しい『福井型教育』へ」

角谷:
「幸福度日本一ふくいの謎」。きょうのテーマは「教育」です。
羽生さん、福井の教育といえば、まず思い浮かぶのはなんですか。
羽生:
それはやっぱり、小中学校の学力が全国トップクラスなことですよね。
角谷:
そうですよね。福井の学力の高さは全国的にも知られています。
そうした中で、福井の教育が今、変わろうとしています。

角谷:
県は来年度から5年間の県の教育施策の基本となる「教育大綱」をきのう策定しました。この教育大綱、これまでの教育のあり方を見直していこうという内容になっているんです。

角谷:
スタジオには藤田記者です。
藤田さん、この新しい教育大綱、何を見直していこうとしているのでしょうか。
藤田:
基礎的な学力を十分身につけることはもちろん大切ですが、それに加えて「個性を伸ばす教育」を進めよう、ということが最大のポイントになっています。

藤田:
こちらをご覧ください。
新しい教育大綱には大きく2つの方針が掲げられました。1つめはこちら、「引き出す教育」です。
羽生:
「教える」ではなく、「引き出す」、なんですね。
藤田:
教員の側から基礎的な知識や技能を「教える」だけではなく、子ども自身の考え、個性などを「引き出し」、「伸ばしていく」教育です。
角谷:
なるほど、「教える」から「引き出す」になると教員と子どもたちの関係性もだいぶ変わりそうですね。

藤田:
もうひとつはこちら。「楽しむ教育」です。
羽生:
勉強する、となるとどうしても「楽しい」とか「楽しむ」という感覚が持ちにくかったのですが、ここは「楽しむ」、なんですね。
藤田:
子どもたち自身の好奇心や探求心をもとに楽しみながらみずから進んで学ぶ姿勢を育てることを目指しています。

羽生:
なぜ今、こうした教育の目標が必要とされているんですか。
藤田:
県教育委員会によりますと、背景には、学力の高さが必ずしも子どもたちの学びの意欲につながってこなかったという課題があるということです。

-近年、県がとりわけ重視してきたのが、全国学力テストの結果です。 平成19年から小学6年生と中学3年生を対象に始まった試験で、福井県は当初から12年連続ですべての科目で全国トップクラスの成績を維持し続けています。

-県をあげて学力の底上げに取り組み、「福井型教育」と銘打って全国にもPRしてきました。

-しかしその反面で今、多くの子どもが学校への苦手意識を抱えています。
少子化で児童・生徒全体の数が減っているにも関わらず、不登校の児童・生徒の数は平成29年度に1000人を超え昨年度も1054人と依然多くなっています。

-福井の教育現場を長年見てきた福井大学の松木理事です。 学力重視の風潮は、現場で働く教員にとっても、重荷になってきた側面があると指摘します。

松木理事:
「保護者からのプレッシャーも先生が感じてらっしゃったという風にも思いますし、ペーパー学力は数値として外に出ますので、評価しやすいという点でもプレッシャーになっていたのではないかという気はします。
やっぱり、“内容をどれだけ覚えたか”から、“『資質』や『能力』を育む”に切り替えていけるかということが一番大きな課題になっていくのではないかと思います」。

角谷:
覚える学習から、『資質』や『能力』を引き出していく教育へ、ということなんですね。
藤田:
こうした教育が求められる背景には、今の子どもたちが大人になるまでには人口減少や技術革新、環境問題などで社会が大きく変わっていくことがあります。
こうした中で既存の知識にとらわれずに地域や社会の課題を解決する力を育てようということなんです。
この点について松木理事は、次のように話しています。

松木理事:
「何かを覚える学習は、“個の違い”はないほうがいいんですよね。一律に皆同じ力を持ってるほうが教えやすいですから。
だけど課題を解決する学習は、個性があったほうが役に立つ。
そういう教育を学校の中で増やしていくことが個を大切にしていくし、1人ひとりの違いをお互いに認め合って、相手の良さを生かしていく。
そういう教育に結びついていくんじゃないかなと思います。」

藤田:
松木理事はこのように述べ自分で考える力を育てること、そしてそれを相手に伝えるための表現力や文章力を付けることが大事になると話していました。
新しい教育大綱でも子どもそれぞれの特性や理解度に合わせた、きめ細かな教育を目標に掲げています。
羽生:
そうした指導の充実に取り組むには現場の教員の負担も増すのではという点も気になります。

藤田:
実は教育大綱でもう1つ、柱に位置づけられたのが「教員の働き方改革」なんです。

-1人ひとりに合わせた教育の実現には、教員がゆとりを持てる環境が欠かせません。
一方で小学校の「英語」や「プログラミング」が新たな教科に加わるなど、教員の負担は増え続けています。
福井大学の松木理事は、教育大綱に掲げられた理念を絵に描いた餅にしないためには行政主導で思い切った施策に取り組む必要があるとしています。

松木理事:
「日本の教育は少ない教員でたくさんの子どもたちに、優秀な力をつけると言うような形で評価されてしまっているところがあると思うのですが、それは一方的に先生方に負担を強いていることでもあります。
そこを解決していくには、やっぱり勇気をもって人手を増やすことに取り組む必要があるんじゃないかと思います」。

藤田:
実際に人手を増やすためには予算など大きな壁があります。
そうしたなかでも、教育大綱の理念を実現し「新しい『福井型教育』」を全国に発信できるか。
県の本気度が問われていると思います。

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