2017年07月01日放送放送内容まるわかり!

対IS作戦"最終局面" それでもテロはなぜ続く?

3年前、イラクやとシリアの領土で国家樹立を宣言した過激派組織IS=イスラミックステート。現在、ISへの軍事作戦は最終段階を迎え壊滅は目前と見られていますが、元戦闘員が母国に戻ったり、過激な思想がネットを通じて拡散するなどして、各地で新たなテロを起こす恐れは高まるとも指摘されています。 ISは、今どこまで追い詰められているのか?テロの拡散を防ぐために国際社会は何ができるのか?深読みします。

今週の出演者

専門家

内藤 正典さん(同志社大学大学院 教授)
保坂 修司さん(一般財団法人日本エネルギー経済研究所 研究理事)
出川 展恒(NHK 解説委員)

ゲスト

ビビる大木さん(タレント)
香坂 みゆきさん(タレント)

今週のグラフィックレコーディング

グラフィックレコーダー
山田 夏子さん


首藤 アナウンサー
ISの支配地域が縮小していて、まもなく拠点も奪還されると見られているんですが、ISについて子どもたちに説明しろと言われても...

香坂 さん
できないですね。

首藤 アナウンサー
正直できないですよね。そこを、田中アナウンサーが10分で教えてくれます。


プレゼンテーション

田中 アナウンサー
この1週間で世界はいま大きく動いています。

ISのことを考える上で、まず名前から見ましょうか。「イスラミックステート」です。「ステート」は国という意味。つまり、彼らは"国"と名乗っているんですね。

拠点の1つがここ。イラク第2の都市・モスルです。

ここで3年前、ISの最高指導者、バグダディ容疑者が、

きょうからここ周辺は自分たちの"国"だと勝手に名乗った。これまでテロ組織が自分の国、領土を持つってことは前代未聞のことだったので、世界に大きな衝撃が走りました。

彼らは、イスラム中心の国を作ろうと、その"領土"をどんどん拡大していこうとしました。

そのために用いたのがこの思想、「ジハード」。これ、本来の意味でいうと、神のために努力・奮闘するということなのですが、ISはこれを拡大解釈しまして、この国を作るためであればどんな手段もとる。人殺しや略奪、人質に取る、いろんなことも、ジハードであるというのが彼らの解釈なわけです。そして、国を大きくするために必要なのは、

一緒に戦う仲間たち。これを増やすために使ったのが。

非常に使い方が巧みでした。自分たちの理想の国をみんな作ろうじゃないか。世界各地に呼びかけた。それに反応したのが、

差別や不満を抱えている人。
例えば、中東だとかアフリカのイスラム教徒の人たち、あるいはヨーロッパに移民という形で渡った人たちが、どうも日頃自分たちの暮らしがうまくいかない。新しい国か。それはぜひ一緒に戦う、ということで

ISに加わってくる。この外国人戦闘員の数が、最大で...

こうして仲間を増やし勢力を拡大していく中で、彼らはどんどん過激化していきます。 自分たちの国を作ろうという、この考えに賛同しない、違う考えを持つものはすべて敵。それはもう邪魔、排除しなければいけない

ニュースになりましたが、外国人観光客やジャーナリストたちを人質に取って身代金を要求。自分たちの意に反した場合は次々に手にかけていくと。

処刑という名目で殺された人、3年間でこの数です。 もっと残虐なのが、そうした彼らを殺害する映像を、またネットで世界に配信をしていくと。つまり、自分たちはこれだけの力を持っている、逆らうと怖いことになるぞ、世界に自分たちの存在を知らしめるということですね。 奪った身代金というのは戦闘員たちの給料になっている。"国"ですから、国を運営する上での重大な財源ということに、彼らの中ではなっていたわけです。
こうして、力や恐怖、暴力などで、彼らの支配地域というのが、

これはいちばん広い時ですけれども、イラクやシリアにまたがって黒くなってる部分、ここまで広がったわけです。
これ、世界は黙って見ていたわけではありません。

アメリカを中心とする有志連合がISに対して軍事作戦を展開していきます。その結果、いまはここまで範囲は縮小しています。

彼らの支配地域は半分ぐらいになりました。そして、重要拠点だったモスルというところも、もういま市街地1キロ四方にわたって追いつめられていると。まもなくここが陥落。よし、このままIS解体だ。これで平和だ。・・・とはならないんですよね。

ビビる大木 さん
ならない?

田中 アナウンサー
というのは、この思想、この炎は燃え続ける。
例えば、イラク・シリアで戦う戦闘員たちに、攻めてきますね、有志連合が。そうすると、一部の戦闘員は、ここは危ないと。じゃあ自分の出身国やほかの国に移ろうと、居を移します。

そこに、ISとは違うんだけれども、イスラム過激派組織がいて、ここと一緒にまた仲間になって戦って、ここで新たな拠点作りをしよう。

香坂 さん
よけい散っちゃいますよね。

田中 アナウンサー
さらに。インターネットでこの炎が世界に広がっているという懸念が出ている。というのも、去年5月、ISの広報官がこう言いました。

「君がいまいる場所で"十字軍"に罰を与えよ!」。
"十字軍"というのは、有志連合のことを指します。
これまではイラク・シリアが拠点でしたから、ここに来いと、ここでともにみんな戦うんだというふうにしてましたが、ここはいまかなり鎮圧されてきてますから、もう来なくていいよと。いま自分たちがいる場所、ここでそれぞれ行動を起こせと。

首藤 アナウンサー
どこでもっていう感じですかね?

田中 アナウンサー
大きく方針を転換したわけです。そのために、こういったものも作りました。

IS専門の、インターネットで見られる雑誌です。私も見ました。戦士たちの、ある種かっこよく撮った写真とか、ヒーローインタビューのようなことが載ってたりします。それがより多くの人たちに伝わるように世界10の言語に翻訳されている。
もっと怖いのが、こういった内容まで。

テロの細かい指南ですね。例えば場所。人が多く集まるサッカー場だとか、コンサートホール、空港。
そして、銃って一般の人は持ってないけども、そういう武器がなくても、トラックで突っ込め。

香坂 さん
方法をいろいろと教えてるわけですね。

田中 アナウンサー
身近にあるもので、こうやれば爆弾作れるよとか、事細かくテロの起こし方まで、このインターネット上でやっている。
つまり、いくらここ、イラク・シリアというところを鎮圧しようとしても、ネットで。

首藤 アナウンサー
燃え広がっている。

田中 アナウンサー
直近の5月、6月だけでこれだけニュースになりました。ISが関わったとされるテロです。
見ますと、イギリス・マンチェスターで起きました。標的になったのはコンサート会場です。フランス中心部で車が突っ込みました。

ビビる大木 さん
ありました。

田中 アナウンサー
そして、ここフィリピン。もともといた勢力とIS移ってきた戦闘員たちが加わって、いま戦いが続いて、360人が死亡した。
アジアまで来ています。これが、ISができて3年たったいまの世界の現状なんです。

香坂 さん
たぶんこれ以上にもっと散らばってはいるんでしょうね。

ビビる大木 さん
でも、こういう過激な思想とか行動とか、ちょっと理解できないといいますかね。

内藤 さん
でもね、本当に世界が平和なところに、こういうことをしようという人、出てくると思いますか?例えばシリア。6年にわたる内戦が続いて、死者の数だけで30~40万。500万人以上の人が難民となって隣国に行き、ヨーロッパにまであふれている。アラビア半島のイエメンも、国はぐちゃぐちゃになってしまっている。北アフリカのリビアも。
つまり、イスラム教徒の住んでる国で、あちこちで戦争状態。というか、戦争ですよね。ものすごく秩序が乱れて完全に崩れてしまっている。そういう中で、ISっていうのが出てきた。と見ると、ちょっと見え方変わってきませんか?

出川 解説委員

ISが新しい拠点を作る可能性のある場所は、内戦などで無政府状態になっている場所。あるいは、そもそもイスラム過激派のネットワークがあるような場所。具体的な国でいうと、例えばリビアとか、イエメンとか、アフガニスタン、ソマリア、あるいはフィリピンの一部とか。だから、ISが広がる可能性のある場所というのは、ある程度予測ができるわけですね。

首藤 アナウンサー
メールでは、「日本は大丈夫?」っていうのもいただいてるんですね。

視聴者の声

「日本にも危険があると言われているが、いまのところそういったニュースはない。私たちは日頃からどのような心構えで立ち向かえばいいのか」。

「どんどん過激になっているので、オリンピックの時に日本でのテロが行われるのではないかと不安」。

出川 解説委員
日本は無政府状態ではないし、イスラム過激派のネットワークないですから、基本的には起きにくいんです。でも、ISから見ると日本は明確に敵なんです。つまり、有志連合の中に日本は軍事作戦には参加してないんですけど、支援はしているので。
だから、例えば海外にある日本の大使館とか、企業とか、施設とか、あるいは日本人の旅行者が外国を旅行してる時とか、狙われる可能性がゼロではない。つまり、海外のほうが、たぶん危ないということになる。

香坂 さん
日本の中にいればまだ大丈夫って考えるってことですか?

出川 解説委員
起きにくいということです。ただ、オリンピックというのは大きなイベントですから、そこを狙いたいと思うかもしれない。だから、油断は絶対するべきではない。

香坂 さん
これ、元はイスラム中心の国を作ろうっていう気持ちだけなんですか?変な聞き方だけど。

内藤 さん
ある意味、たくさんイスラム教徒が住んでるところって、いろんな国があるわけですよね。私たちの近所でいえば、インドネシア、マレーシア。そこから中東にかけてそうなんですけど、イスラムの国ってほとんどないんですよ。イスラム教のルールにのっとって国をやってるとこって、実はなくて。

出川 解説委員
サウジアラビアとかイランはイスラムの教えにのっとった政治体制。

内藤 さん
ほかの宗教とちょっと違って、心の中の信仰というか、何か信じてるっていうことだけでは、イスラムって成り立たないんですよ。法律の体系を持っちゃうんで。

香坂 さん
国っぽいんですね、何となくね。

内藤 さん
そうです。だから、いろんなルールがある。あれしなさいとか、これしちゃいけないとか、これはしてもしなくてもいいとか。自分たちが信じてる教えのとおりに国のルールを作ってほしいと思う人はいるわけですね。しかし、現実にはほとんどそうではなくて、日本とかと同じような、宗教と関係ない法律になってる。
別にそれはそれでいいんですけど、その中で、イスラムでやっちゃいけないって言われてることを、政府がやってしまう。

ビビる大木 さん
政府が。

香坂 さん
反しちゃうんですね。

内藤 さん
そう。そうなってくると、一般の人たちは、イスラムどおりにやれよって言いますよね。しかし、独裁者の国なんかが多いので、すぐに弾圧しますよね。そうすると、民衆の声っていうのは必ず潰されちゃう。何度もそれを繰り返した。
そうなっていくうちに、こういう過激な、俺たちの思うとおりにイスラムの国を作るんだというような集団が出てきてしまった。

香坂 さん
それは平和には作れないものなんだろうか。

内藤 さん
そうなんです。だから、いまある国のほうが、ある程度そういう民衆の声を聞けばよかったんですが、聞かなかったところが多いということも背景にあります。

保坂 さん
重要なポイントは、すべてのイスラム教徒がそういうふうに考えてるわけでは決してないわけで、ほんのわずかの人たちだけが、イスラムだけに基づいた国家を作ろうというふうに言ってるわけですね。
イスラムの法律というのは西暦10世紀ぐらいに基本ができたものなんですけども、それを現代に当てはめるってことはほとんど不可能なわけで、それこそインターネットそのものにしても10世紀ぐらいにはないわけですから、それを規定することはできないわけですよね。でも、彼らはそれを無理やりにでもしようとしているわけで、こういう人たちが多くの支持を得られるわけでは決してないわけです。
したがって、テロの考え方を作ってる人たちと、それから、そこに引かれてくる人たちっていうのは、おそらく別の考え方があるんじゃないかなという感じはするんです。

香坂 さん
潰すっていう方向しか、解決方法はいまんとこ見いだせない感じなんですか?

保坂 さん
いえ、例えばこういう考え方に染まってしまったような人たちを、いかにして元どおりに戻すのか、あるいは社会復帰させていくのかっていう考え方が、いまわりと広まってきてます。

過激になった人たちを、あるいは実際に犯罪を犯したような人たちを捕まえて、ただ単に刑務所に入れるだけではなくて、社会復帰のためのリハビリを受けさせるんですよね。
それによって、例えば脱洗脳、脱過激派、過激思想、あなたの考え方は間違ってますよ。本当のイスラムはこうなんですよ。無実の人を殺してはいけませんとか、そういうことを1つ1つ丁寧に教えていって、リハビリのプログラムを受けさせて、終わった段階でようやく外に出していくと。
実はこれまで刑務所に入れればいいという考え方が非常に強かったんですけれども、刑務所に入ると、実はよけい過激化してしまうっていうことがあって。

香坂 さん
これで成功した例はいままでにあるんですか?

保坂 さん
まだこれ始まったばっかりですので。ただ、これをやらないと、よりひどい状況になってしまうという状況ですね。

首藤 アナウンサー
ツイッターもたくさん来ているようです。


グラフィックレコーディング

グラフィックレコーダー
山田 夏子さん

田中 アナウンサー
素朴な疑問が来てますね。

視聴者の声

「ISに呼応する人というのは漠然とした不満と不安に動かされたのかな? その不満と不安ってそもそも何だろう」。

「なんでそもそも、そうは言ってもこんなに勢力が拡大したんだろう」

「ISには人が集まり続けていますが、ISの思想の何が人々をこんなにも引きつけているんでしょうか」。

内藤 さん

素朴な疑問に対して、まず、いま世界で、イスラム教徒嫌いだっていう感情、ものすごく強いんです。特に欧米諸国で。 例えばヨーロッパ。ISの戦闘員がどこから来たかって、ヨーロッパずいぶんいますよね。

実はいまから50年以上前に、イスラム教徒の人たちが中東やアジアから働くために渡った国が多いんです。

首藤 アナウンサー
もともとは、労働者としてやってきた。

内藤 さん
イギリスも、ドイツもそうでした。ドイツはトルコから行った人が多いですし、フランスは北アフリカのアルジェリアやモロッコから行った人が多い。そのあと、その人たちが平和にその国の中で一緒にやっていければ問題なかったんです。
しかし、ずっとイスラム教徒は2級市民扱いされてきたんです。特にフランスなんて自由で平等で博愛だって言ってますけど、そこに住んでる特に若者たち、自由なんかありゃしない、平等に扱われたことなんかない、愛されてもいないと確信しちゃってるんです。それは、実は、イギリスでもドイツでも、同じ問題が出てきちゃう。
例えばいまドイツなんか、ドイツはキリスト教の国なんだ。イスラム教徒なんかいらないよ。もうこれ以上イスラム教徒たちが礼拝する場所なんかいらないってことを、普通に市民たちは言いますから。

首藤 アナウンサー
そんなにはっきり言ってるんですか?

内藤 さん
はっきり言います。例えばフランスという国自体は宗教を表に出しちゃいけない国なんですよ。イスラム教徒の女性って、成人しますとスカーフとかベールをかぶる。これはイスラムの教えから来るんですけれども、羞恥心の対象になるような、出しちゃうと恥ずかしいと思う場合にはそこを隠す。フランスはそれを禁止する。そうすると、路上で普通の人たちが、かぶっているのを無理やり剥ぎ取ったりするってことが起きちゃう。着てるものを路上で脱がされたら怒りますよね。

香坂 さん
怒りますよね。

内藤 さん
その女性に弟やお兄さんがいた時ですよ、怖いのは。怒りは止められなくなりますよ。女性の親族、すごくイスラムって大事にします。特にお母さんとかね。そういう大事な人を辱めたというようなこと、無数に起きてるんです。ふだんの生活の中で。
過激思想の面ももちろん大事なんですが、じゃあ日常的に、例えば就職の面でもそうですし、そういう目に遭っていた人たちが、いつまでも黙ってずっと言うことを聞いてると思うなら思い上がりです。

出川 解説委員
ISの出身国見ると、ヨーロッパよりは中東、アフリカが多いんです。アラブの国が多いんですよね。アラブの国は若者の人口がすごく多い。3分の1は若者。30歳未満と言われてますね。問題は、雇用の問題なんです。大学を卒業してもいい就職先がない、仕事がないと。
チュニジアっていう国、多いでしょ。6000人も出てる。この国は、いわゆるアラブの春、いちばん民主化がうまくいったと言われている例なんだけれども、ここを私取材した時に、国立の大学を卒業しても仕事がないんだと言うんです。高学歴の若者がいくら努力しても仕事にありつけない。そこでインターネットを見て、ISの過激なメッセージを見て、ISのシリア・イラクへ行けば、ここは理想郷だと。しかも、給料を出すと。そうすると、行ってみようかと。

ビビる大木 さん
給料か。

首藤 アナウンサー
給料ってそんなに出るんですか?

内藤 さん
最初は高かった。

香坂 さん
いまはきついんですね。

出川 解説委員
そう。だから、もともといた国で仕事に就ければ、ISに入っていかずに済んだ若者がたくさんいるわけですよ。若者の雇用の問題、失業の問題というのはすごく大事なんです。

保坂 さん
もう1つ非常に複雑な問題があって、実はヨーロッパですと、最近非常に増えてるのが改宗者なんです。キリスト教からイスラム教に改宗した人たちが過激化していく。つまり、キリスト教徒の普通の若者たちが彼らなりの不満を持って、その結果、その不満をどうやって解消するか。その1つの手段として、実はISというのが目の前に出てきてしまう。

香坂 さん
そのために改宗をする。

保坂 さん
そうです。中東でももう1つ複雑な問題があって、実はISに限らず、テロ組織の構成員の中には、実は非常に高学歴の恵まれた人たちがたくさんいる。ということは、必ずしも失業とか差別だけではなくて、それ以外の問題も実はあって、そういったものが解決を非常に難しくしてるわけですよね。

ビビる大木 さん
高学歴の人たちは、どういう理由で入ってくるんですか?

保坂 さん
それは彼らなりのいろんな不満があるわけです。

出川 解説委員
人生が充実してて、自分の目標がはっきりしている人はISなんか入っていかないんです。人生とかこの世に疑問を持ってる人。

香坂 さん
人生うまくいかない人なんていっぱいいるけど、その人たちがみんなISに行くのかっていう。

保坂 さん
彼らに対して戦うための大義を与えているのがISであったり、かつてはアルカイダだったわけですよね。残念ながら、彼らは必ずしも現世での幸福とか、そういったものばかりを求めてるわけではないですから。

内藤 さん
イスラム教徒って必ず、100%と言ってもいいですけど、来世って信じてますから、生きてる現世での幸せよりも、来世の幸せのほうが大きいというふうに取る人は多いですね。

出川 解説委員
自爆テロをやったら必ず天国に行けると思ってるんですよ、彼らは。そこに疑いがない。

香坂 さん
でも、疑いがない人たちにその考えは違うよって教え込むの、大変ですよね?

内藤 さん
大変ですよ。さっき保坂先生が言ったようなね、過激化した人を引き戻すプロジェクトっていうのも大事なんですが、私は、いま現在中東などで起きている戦争で、特に子どもの命を奪わないことだと思ってるんです。あるいはお母さんの命。
私、30年以上イスラム教徒とつきあってきて、戦争の場面で、子どもさんの遺体を目にした瞬間、イスラム教徒一般の人が激怒するのを止められないんですね。そこにも実はインターネットが出てくるんです。
シリア内戦なんか見てますと、始まって6年間、無数のお子さんの遺体のギャラリーみたいになっちゃってる。シリアだけじゃありません。いまイエメンでも、リビアでも、パレスチナでも、アフガニスタンでも。
ここから先は暴走するんですよ、確かに。私はテロは一切認めませんが、暴走して、こいつらと戦うんだ、こいつらも同じ目に、と。

香坂 さん
その相手っていうのが有志連合の国ってこと?

内藤 さん
有志連合が多いですし、実は中東の国の政府もそうなんですが、そういう相手と戦うんだと言いだす人間が出てきてしまう。だったら、理不尽に命を奪われていく状況を緩和しないと、解決できないと思っています。
例えばいまモスルで、有志連合軍、追いつめています。テロリストを10人殺すのに対して、市民の犠牲がどれだけ出てるか分からないんですね。仮に市民も10人死んだということになると、あの地域というのは、家族が大きいんです。お父さん、お母さん、きょうだいだけじゃない。いとこ、はとこ、おじさん、大おじさん、みんなきょうだいです。そうすると、10人殺してしまったら200人の敵ができちゃう。

香坂 さん
また怒りが大きくなるってことですよね。でも、いたちごっこな感じしますよね。

視聴者の声

「そもそもイスラム教について偏見を持ってしまっている印象がある。これをもっと理解しないといけないんじゃないか」

「ISによるテロで、イスラム教圏内に住んでいるすべての人々が悪く思われている風潮が悲しいことです。ISのため本当のイスラム教人が誤解されています。それが気の毒です」

「そもそもイスラム教っていうことがまだちょっと分からない。ここはどういうことなんでしょうか」

内藤 さん
とてもこの短い時間では説明しがたいんですが、ただ、イスラム教ってかなり楽な宗教です。私が外から見てるかぎり。

香坂 さん
大変そうですけどね。

内藤 さん
いや、気楽なんです。そうじゃなかったら、こんな信者増えないですよ。
1つだけ例挙げますけど、日本人の場合って、病気になったり、何か悪いことが起きた時って悩むじゃないですか。どうしてこうなったんだろう。お医者さんなんか行くと、お前はこういうことしたからこういう病気になった、このままほっとくとこうなるぞ。因果応報のように言われますよね。もちろんイスラム教の世界のお医者さんだってそのことは分かってますけど、悩んでる患者さんに向かってそういうことを言わないですね。

香坂 さん
何て言うんですか?

内藤 さん
患者さんがすでに悩んでるわけですから、その苦しみをどうやって和らげるのかっていうところを考えながら、お医者さんは言うんです。
例えば認知症を、「神が認知症にお連れになった」という言い方をしますね。日本人だったら、どうして認知症になっちゃったんだろう、なんとかできないか、苦しみますよね。自分たちにストレスが返ってくる。しかし、神様がお連れになったと言ったら、もうそこで終わりなんです。

出川 解説委員
困ってる人とか貧しい人とかを助け合う、お互いに。だから、なんとか生きていける。だから、貧しいなと思う国に行っても、飢え死にしそうな、路上で困ってる人っていうのはいないんですね。みんな助け合うんですよ。

内藤 さん
例えばいまトルコなんて、隣国シリアの内戦の結果、300万人近い難民がいるんですね。日本なんか全然受け入れませんけど。それで、難民に出ていけとか、そういう運動が起きたかというと、起きてないんです。もちろん、そんないい条件じゃないですよ。本当に軒を貸してあげるというようなものですけれども、しかし、助け合わなきゃ、この人たち困ってるんだから助けなきゃということが先に来る。だからいけないんです。
つまり、弱い立場の人は助けなきゃいけないと思ってるわけです。これは世界中のイスラム教徒はそう思っている。その弱い立場の子どもさんや女性が、空爆等で、あるいはテロも含めて命を落としていくということになると、イスラム教徒は怒りだしちゃうんですね。怒ってもテロリストにはならないです。

出川 解説委員
そう。世界で16億人ぐらいイスラム教徒がいて、ISに入っていくのはわずか3万人とか5万人。そうすると、5万人に1人とか、それぐらいの割合しか過激化しないわけですよ。
でも、イスラムは怖い宗教だってことで、イスラム教徒全部を差別するような動きというのが欧米で起きちゃう。

アメリカのトランプ大統領が、テロを防ぐために中東など6か国からの入国を禁止する、難民の受け入れを停止すると。こういうことをやっちゃうと、イスラム教徒全体を敵に回すことになってしまうわけですよね。かえって、これによって過激になっていくような人が増えていく可能性が出てきてしまう。

内藤 さん
ですよね。実際、入国を阻止すると言っている6か国の出身者で、アメリカでテロを起こした人っていないんです。そうすると、イスラム教徒が大半を占めてる国の人たちを受け入れないっていう、そこが非常に目立ちますよね。こういうやり方、下手ですよ。実際にテロを抑止する効果はむしろ低いだろうと思います。

保坂 さん
テロリストとそうでないイスラム教徒を分けるというのは非常に重要なポイントなんですけども、テロリストの人たち、ISとかの実際の構成員の人たちがイスラムをきちんと理解してるかというと、実は全然理解してないわけですよね。
ISのメンバーの登録の文書が残ってまして、その中に、ISのメンバーのイスラムに関する理解の程度みたいな項目があって、上中下って分かれているんですけど、実は大半の人は下なんですよ。つまり、ほとんどの人たちがイスラムの基礎的な知識、あるいはそれ以下の知識しかなくて、だから、イスラムの本質的な部分が分かった上でテロ組織に入ってるわけでは全然ない。逆に、きちんとした知識がないが故に、ISのようなテロ思想に染まってしまうというところはあるんだと思うんですよね。

内藤 さん
イスラムって誕生してから1400年以上たってるわけですよね。その間、最初から、宗教が違ってたら根絶やしにしてやるといって戦ってきたかというなら、そんなことしてない。
例えば600年以上にわたって続いたオスマン帝国。ヨーロッパ、バルカン半島まで支配しました。でも、支配したルーマニアやブルガリアやギリシャでキリスト教会が消えましたか?全然消えてない、残ってるわけですよ。
ということは、イスラムって本来、自分とは考えの違う人たちと共存していく知恵というのを、長い1400年の間に育んだとも言えるんですね。ところが、ISに行くような人たちは、そういう長い年月かけて養った知識を学ぶ気がない。

香坂 さん
当のイスラムだっていう方たちと、ちょっと外れた人たちを、よってたたくわけにいかないじゃないですか。そこはどうやって解決していったらいいんですかね?

内藤 さん
そういう人が出てきちゃう素地をなくしていなきゃいけないわけですよね。つまり、過激派した人をピックアップして、その人たちだけ捕まえるとかいうのは不可能です。
まずシリアの内戦止めないとだめですよね。これ以上理不尽に人の命が奪われていくような状況を止めなきゃいけない。しかし、国際社会は止めなかったんですよ、これを。だから、ここまでひどいことになっちゃった。

視聴者の声

「憎悪の連鎖を断ち切るのはとても難しいですね」。

「絶対的なイスラム教の指導者がいないのはなぜでしょうか。そこがもしかしたら解決の鍵になるんじゃないでしょうか」。

内藤 さん
それがカリフだったんですよ。
バグダディは自称カリフとして出てきた。カリフみたいな人が、何が正しくて、何が間違ってる、ちゃんと言ってほしいですよね。一般の信者はイスラム教の中身をよく知らないっていう人多いですから。でもね、いないんです。いまカリフって。で、悪いことに、ISが自称カリフを立てちゃったんです。

首藤 アナウンサー
その手口がまた巧妙で、気持ちが動かされちゃうんですか。

内藤 さん
テロ組織の親玉がカリフを名乗ったということですよね。だけど、大半のイスラム教徒はそんなものを認めないですよね。でも、誰か、何が正しくて、何が間違ってる。いちいち国の意向にそんたくしないで、そういうことを言ってくれる人が欲しい。これは切実な願いです。1924年に最後のカリフが消えてから、もういないんです。

保坂 さん
自称・他称のカリフはたくさんいるんですけど。

田中 アナウンサー
皆さんの意見でいうと、
「いつだって押しつけから争いって始まっちゃうよね。家族でも、会社でも、国でも。価値観も思想も正反対で話も通じないような相手と、どうやったら向き合えるんでしょうか」。

内藤 さん
私たち日本は、いまんところテロからは遠いとこにいますからね。その間にぜひやっておいてほしいのは、普通のイスラム教徒と話してほしいということです。どんなことを大事にしてるのか、何をした時に怒るのか、どういう時にうれしいと感じるのか。

香坂 さん
でも、それって別にイスラム教徒じゃなくても、何をしたら大木さんは怒るのか。そういうことじゃないの?

内藤 さん
ええ。人の嫌がることをすりゃ怒るに決まっていますよね。でも、この場合はね、何が嫌いなことなのかっていうことを学んだほうがいいと思うんですよね。私たちとはちょっと違う。

出川 解説委員
イスラムの基本的な知識をわれわれも身につけなければならない。そのことさえ身につけてれば、別に宗教違ってたって仲よくなれるし。実際、私、イスラム教徒ではないけども、イスラム教徒のお友だちいっぱいいます。それは可能なんですよ。

首藤 アナウンサー
なかなか友だちとして現れないんですけど(笑)。

保坂 さん
たぶん1つは、メディアの役割というのは非常に大きいんだと思うんですよね。私自身、テレビに出てこういう話をいろいろしてますけれども、基本的にはテロとか、戦争が起きた時ぐらいしか呼ばれないもんですから。

香坂 さん
ふだんからってことですよね。

保坂 さん
そうですね。イスラムはこういうものであるということを、メディアが常に伝えていく必要がたぶんあるんだと思うんですよね。

首藤 アナウンサー
平和な時こそというところ。

保坂 さん
まさにそうですよね。

内藤 さん
ちょうど先月、断食をするラマダーンの月だったんですね。そういう時に、大学でラマダーン月の夕食会っていうのをやるんですよ。そういうのをやりますと、いろんな国の留学生たち、自分の国の食事を用意して持ってきてくれる。日本人の学生もそこで話す。最初はそういうきっかけでいいと思うんですよ。
だけど、保坂さん言われたとおり、事件が起きた時だけイスラムとテロっていうのがわっと結びついて出てきてしまう。それはわれわれ自身の責任でもあるんですが、素顔のイスラム教徒を知ってほしいと。当たり前ですけど、テロや暴力で15億も人は増えませんよ。

出川 解説委員

あと、日本がいったい何ができるのかって考えてみると、宗教的に変えさせることはできない。だけど、さっき言ったように、アラブの若者が、仕事がない状態。若者の失業問題、これがいちばん大事な問題になってます。
若者たちに働きがいのある仕事を与えることが重要ですし、そのためには、日本企業が例えば投資するとか、現地に作るとか、あるいは教育、能力開発、職業訓練、そういう部分では日本は貢献することができるはずなんですね。それはISに入っていく若者を減らす取り組みにはなるはずなんです。

保坂 さん
日本が貢献できるものとしては、産業作りとか、非常に重要だと思うんですけれども、もう1つ、インターネットにわれわれ自身がどういうふうに関わっていくかっていうのは、今後問われていくんだと思うんですよね。
こういった過激な思想がインターネット上にばらまかれてるわけですから、たとえISが地図上からいなくなっても、彼らの思想はそのままずっと残ってしまう。おそらくこれは、時限爆弾であったり、あるいは地雷と同じような形で今後も存続していくわけで、それをどうやってわれわれが潰していくのか、あるいは潰さずに戦っていくのかというのは非常に重要だと思います。

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