2016年10月22日放送放送内容まるわかり!

平和への宿題? ノーベル平和賞から考える

今年のノーベル平和賞に、南米・コロンビアのサントス大統領が選ばれました。 半世紀にわたり反政府ゲリラ組織との内戦が続き20万以上の命が失われたコロンビアで、 粘り強く"対話"を続け、先月和平案の合意にこぎつけたことが評価されました。この"対話による解決"は、 世界で続く紛争やテロを終結するヒントになると期待されています。世界の平和を築くためにいま必要なことはなにか? ノーベル平和賞をきっかけに考えます。

今週の出演者

専門家

千代 勇一さん(上智大学イベロアメリカ研究所 準所員)
瀬谷 ルミ子さん(NPO法人 日本紛争予防センター理事長)
広瀬 公巳(NHK 解説委員)

 

ゲスト

金子 貴俊さん(タレント)
相田 翔子さん(歌手・女優)


小野 アナウンサー

カーネーションの日本の輸入の7割がコロンビアからなんですって。

相田 さん
コーヒーだけじゃない?

金子 さん
海を渡って来てるわけですか。すごいなぁ。

小野 アナウンサー
知らないことがいっぱいコロンビアにはあるようだぞということで、きょうのテーマは、「コロンビア・サントス大統領、なんでノーベル賞をもらったの?」です。


プレゼンテーション①

田中 アナウンサー
サントス大統領がもらったノーベル平和賞、初代の受賞者が、国際的な医療機関「赤十字」を創設したアンリ・デュナンさん。1901年、いまから115年前ですね。
さあ、1991年、「ミャンマー民主化運動」。この人は?

金子 さん
アウン・サン・スー・チーさん。

田中 アナウンサー
正解!じゃあ、2009年、「核なき世界」を呼びかけた人。

相田 さん
オバマ大統領。

田中 アナウンサー
正解です。じゃあ、直近です、2年前。「子どもの教育」。

金子 さん
あー、名前が。女の子ですよね。パキスタンの。

田中 アナウンサー
史上最年少で受賞したマララさん。銃撃もされながらも、「子どもに平等に教育を」と言っていました。日本人もいますよ。1974年。

相田 さん
佐藤栄作さん?

田中 アナウンサー
おっしゃるとおり。「非核三原則」を宣言しました。
ノーベル平和賞は、例えば、軍隊や武器を減らした人や、世界の平和に尽力した人、貧しい人や病気の人などを助ける人道支援などに大きな功績のあった人物や団体に贈られています。
そして、ことしの受賞者が、コロンビアの大統領・サントスさん。どうして受賞したのか、その理由を見ていきましょう。それがこちらです。

小野 アナウンサー

「50年以上にわたるコロンビア内戦を終結に導く努力に授与する。今後、国民が恩恵を受けられることを願う」。
50年、内戦してたんですか。

田中 アナウンサー
その歴史をひも解きます。まず、サントス大統領が登場する前から見ていきます。

コロンビア、南米にあります。広さは、面積は日本の3倍ぐらい。もともとスペイン領ですので、公用語はスペイン語。自然がとっても豊かなところです。石油も採れます。そして、コーヒー豆の栽培が盛ん。
なんでこの国で内戦が?実はこういう組織が。

政府に反対するゲリラ組織。実は、コロンビアでコーヒー豆を作ってる人は、もともと大きな土地を持っている豊かな人たち。それ以外の人たちは非常に貧しい。

相田 さん
貧富の差が激しいんだね。

田中 アナウンサー
そういう貧しい人たちにとっては、毎日こんなに一生懸命やってるのに、ちっとも豊かにならないっていうのは、政府が悪いんだ、この国の仕組みが悪いんだ。だから、自分たちで国づくりするんだ。それが過激化してゲリラになる。彼らも当然お金が必要ですから。どういったところでお金集めをしたのか。それが。

コカインを栽培・精製をして、闇ルートで世界に。大きな、ばく大な資金になります。そうすると、こういう組織ともつながります。

こういうところとも手を組みながら、ゲリラはどんどん豊かになっていく。そうすると、お金もあっていいなと、ゲリラに入ってくる子どもたちもいるし、ゲリラによっては子どもたちを誘拐して、自分たちの仲間にする。こういう強引なやり方もしながら、自分たちの勢力をどんどん拡大していった。初めはジャングルの中で拠点を作っていましたが、農村などをどんどん支配下に収めて、多い時には、コロンビア国内の実に3分の1の広さが反政府ゲリラの支配下だったという状況なんですね。
この状況を、国も指をくわえて見ていたわけではありません。徹底的に武力で彼らを弾圧しに行きます。それが、さんざん言われている

「内戦」状態だったと。

戦いが続けば、国は荒れて、乱れてきます。ゲリラの資金源になる麻薬の生産量は世界1位。そして、国内難民数も世界2位。地雷で傷ついた人や亡くなった方の数が世界2位。こうした数字が10年以上にわたって続いている、非常に危険な国だったと。

そこで登場したのが、国防大臣だったサントスさん。今回の平和賞の受賞者です。サントスさんがこうした状況をどうしたのか。徹底的にゲリラと"武力"で戦います。

小野 アナウンサー
国防大臣時代には!

田中 アナウンサー
はい。みずから先導して、徹底的に力で戦う。ただ、それでは内戦はやはり収まりません。もっと泥沼化していきます。

気が付くと、さらに国は乱れて、失業者の率が南米最悪。貧しい人がもっと増えて経済格差は広がり、南米最大。さらに内戦の死者、一般人も巻き込まれ22万人を超えた。

金子 さん
多すぎですよね。

田中 アナウンサー
さすがに国民もこういう声を上げます。もう戦争は嫌だ。戦争のない、いい生活が、普通の生活がしたいんだと。
サントスさんは6年前に大統領になるんですけれども、このまま反政府ゲリラと武力で戦っていても限界があると。本当に国が立ち行かなくなるぞ、と大きく方針を転換します。

武力ではなく、これです。平和に向けて、反政府ゲリラと交渉、"対話"をして、お互い平和への糸口を見つけていきましょうと。
ただ、半世紀ずっと戦ってきた両者が、ある日突然急に仲よくってことはできませんよね。仲介役も入れながら、なんとか交渉テーブルに着くように説得しますが、肝心の武器を、なかなかゲリラは手放しません。武器を彼らが手放すって相当覚悟が必要だし、それをやるにはわれわれ自身も覚悟を決めなければということで、ある驚きの提案をします。それがこれです。

ゲリラメンバーの、罪の軽減。人を殺したり、家を焼き払ったり、悪事を働いた人たちは、捕まえて、刑務所などで刑を与えますよね。そういうことはしません。壊れた道路や家などを、建物などを直す、そういう社会奉仕活動を8年間やれば、それで罪を償ったことにしましょうと提案をしたんです。
罪を償えば、今度は、社会復帰するために仕事をするサポートをどんどんしますと。手に職をつける訓練だったりとか、住む場所や生活費もサポートしますよ。
もっとすごいのは、こうしたゲリラの幹部たちには、政治家になって、一緒に国づくり、参加してもいいですよ。政党を作って。というところまで提案をしたんです。

小野 アナウンサー
すごく踏み込んだんですね。

田中 アナウンサー
かなりゲリラにとって有利。逆に言うと、国は相当譲歩したんです。

ただ、そうしたことによって、ゲリラも、そこまで言うなら武装を解除しましょう、武器を置きましょうという合意をようやくした。ここまで4年かかった。そして、いよいよ9月26日、停戦合意に共にサインをした。

そういうサントス大統領の努力に、今回ノーベル平和賞が贈られたんです。

相田 さん
地道に、でも、大胆な決断でしたね。

金子 さん
一般市民は、この意見には賛成だったんですかね。

広瀬 解説委員
サントスさん、4年がかりで、50年間戦ってきた人と握手するっていうことで、国際的にも皆さんに歓迎されてたんですけども、そのあと、びっくりするようなことが起きた。

国民がノーって言っちゃったんですよ。

小野 アナウンサー
国民がノーと言った?この合意内容でどうですかって国民投票したら、反対のほうがちょっとだけ多かったんですね。それが10月2日。ノーベル平和賞をもらったのっていつですか?

広瀬 解説委員
そのあとですね。

小野 アナウンサー
そしたら、国民にノーって言われたものに、ノーベル平和賞を出したってことですか?

広瀬 解説委員
そうですね。サントスさん、ここまで頑張ったんだから、4年かけて譲歩して作った和平合意、これをなんとか、無効になったような状態から元に戻すように頑張ってくださいということで、ノーベル平和賞が与えられたということなんですよ。

小野 アナウンサー
じゃあ、これ、"頑張りま賞"?

広瀬 解説委員
そうですね。ノーベル平和賞自体を、もう1度考え直さないといけないっていうところがあって、昔は、誰もが認めるような功績を遂げた人に与える賞だったんですけども、なかなかいまの世界、それだけではうまくいかなくなってきている。

特に最近なんですけれども、地球温暖化。アル・ゴアさんが、平和賞をもらいましたけれども、このあとアメリカは温暖化防止の枠組みから離脱。やっといまになって、世界で温暖化の問題に取り組みましょうとパリ協定が始まろうとしているので、全然この段階ではできていない。
それから、オバマさん。核廃絶の呼びかけをしました。ただ、呼びかけただけって言われてきましたよね。アメリカ国内での核廃絶の取り組み、進みませんでした。
それから、EU。ヨーロッパの和解と安定ということで、平和賞をもらったんですけども、ギリシャ危機。そして、テロ。それから、EUからのイギリスの離脱。

小野 アナウンサー
うっかりもらうと、ノーベル賞もらったくせにと言われて、つらくなる賞っていうふうにも見えてきますね。

広瀬 解説委員
それだけ、宿題をたくさん出すっていう賞になってきちゃったんですよね。

小野 アナウンサー
宿題を出す賞?だから、ボブ・ディランさんは連絡しないんですか? 文学賞は関係ないですか。

広瀬 解説委員
ボブ・ディランさんも「風に吹かれて」って曲がありますよね。歌詞の中で、「人が人と呼ばれるために、いくつの砲弾を撃たなければならないでしょう」って問いかけてる、平和の歌なんですね。それが、ルーサー・キングさんの公民権運動にもつながっていくんですけれども。ボブ・ディランさんはその問いに何て答えたかっていうと、「その答えは風の中にある」と。つまり、答えを見つけていく、たくさんの宿題があるということなんですよ。

相田 さん
課題残しの賞なんですね、じゃあ。

小野 アナウンサー
でもサントス大統領がノーベル賞を取ったことで、コロンビアの人たちの気持ちが変わって、もう1回国民投票しようってなったりします?

千代 さん
国民投票の結果を見ると、反対の人が50%もいるんですけれども、実は彼らは和平に反対ではなくて、合意の内容に反対しているということなんですね。和平を求める気持ちは、おそらくほぼすべての国民が共有してるんですけれども、政治参加であるとか、あるいは処罰が緩いということで批判があると。必ずしも和平に向かう気持ちが萎えてしまったわけではないんですね。

瀬谷 さん
宿題的であっても、ノーベル平和賞自体に、私は確実に意義があると思ってるんですね。というのも、紛争地の悲惨な状況っていうのは連日報道されるんですが。平和ってニュースになりにくいんですよ。こういうふうに知名度のあるノーベル平和賞という形で表彰されると、世界の人たちが平和への取り組みにも何らかの意味があると、改めて認識することができるんですよね。
なので、今回サントス大統領が受賞したことで、私たちがそれを知ることができて、そういう取り組みが世界で起こってるんだと。じゃあ、私たちはそれに対してどういう関わりをしていくんだっていうことに、改めて目を向けることもできる。

千代 さん
国民投票で合意が否決されて、本来であればノーベル賞もらって、あれ?っていうところなんですけれども、実は受賞することが決まって、国民の間にも、もう1度平和を見直そうっていう機運が高まって、いま反対派も含めて、また合意の練り直しっていうのをしてる。もしノーベル賞をもらわなかったら、その機会が失われていたかもしれないと考えると、確実にコロンビアの国民は宿題を一生懸命果たしている最中なんではないかなと思います。

金子 さん
でも、マフィアとのつながりとか、コカインとか、そういう問題もあるじゃないですか。治安はよくなっていくんですかね。

千代 さん
現状、治安はだいぶ回復はしているんですけれども、紛争の元にある、社会の格差であるとか貧困を解決しないと、根本的な解決はできませんので、まずは和平を達成して、そこから少しずつ社会を復興させていくっていう試みが大事なんだと思います。

視聴者の声

「ノーベル平和賞は、平和を実現した賞というよりも、未来への願いを込めた賞なんだろうな」

「平和はニュースになりにくい。確かにそうだな。コロンビア頑張れ」

小野 アナウンサー
でも、「コロンビア頑張れ」っていう声がありますように、サントス大統領が、これからどうやって頑張っていくのかを見ていく上で、何をどう見ていったらいいのか。

広瀬 解説委員
これが6項目の和平案なんですけれども。

「ゲリラメンバーの政治参加」などがあるので、譲歩しすぎじゃないかという声があった。「武装解除」「被害者の救済」、こういった項目は普通、和平案に入るんですけれども、コロンビアの和平案の場合、「農村の貧困を改善する」というのが入っている。これは非常に珍しいことなんです。
これまで殺し合いもやってきたので、なかなか許せないところはあるけども、この先をいっしょに考えましょうという中身になってるんですね。そういう点で言うと、今回私が注目してるのは、「白い色」なんです。

小野 アナウンサー
白?

広瀬 解説委員
調印式でも、双方の代表が白い服を着ました。会場には白旗が掲げられたんですね。白旗は、降参するっていう意味ですね。お互い、あなたを攻撃する意図はもうありませんよという意味で、白旗を掲げたと。いままでのことは全部水に流して、そっから始めていきましょうよということなんですよ。

視聴者の声

秋田県・60代・男性
「憎しみはさらなる憎しみを生み、際限なく続きます。対話という英断に敬意を表します」

大阪府・70代・男性
「受賞が和平に役立つと思いたいが、内戦が長期にわたり問題が複雑になっているので、簡単に解決するとは思えない」

小野 アナウンサー
国民にノーと言われた合意案が、どうなるのかも注目ですけど、これからコロンビアやサントス大統領がどれほど頑張っていかなければならないかが分かるプレゼンがあるそうなので、ちょっとご覧いただきます。


プレゼンテーション②

田中 アナウンサー
和平合意まではいったけれども、このあと何が起きるのか。それぞれの立場で、いろんな課題が見えてきました。

まずはゲリラ兵。国は彼らを社会復帰させるために就労の支援をすると言いましたが、ずっと戦いに明け暮れた彼らは、専門的なスキルも知識もありませんよね。自分が本当にやりたい仕事を見つけることは難しい。そうなると、やっぱり一般社会は生きづらい、ゲリラに戻りたいと言って、元に戻ってしまうかもしれない。そこをどうするか。これがまず1つの課題です。

またゲリラ兵っていうと男性のイメージが強いんですが、コロンビアのゲリラ組織は女性部隊もあって、全体の3~4割ぐらいが女性であるというデータも。実はコロンビアでは男性よりも女性は社会的地位が低い。男性でさえこれだけ仕事が見つからないって困っている。女性は、もっと壁は高い。だから女性たちに、どうこれから支援していくかっていうのも大きな課題です。

そして、子ども兵士。ちっちゃいころからゲリラ部隊にいると、当然学校にも行けない。字も読めたり、書けたりもできない。一般社会で守らなければいけないルールを、誰からも教えてもらっていない。そういったものが守れないと、また道を逸れてしまう子どもも出るかもしれない。また、ゲリラ部隊にいた時は人を殺すことさえ何も思ってない子どもが、停戦合意したあと、人を殺してしまったその重さに初めて気づいて、自分を責める。その心の傷を負った彼らを、これからどうケアしていくか。これも課題なんですね。

もう1つ見なければいけないのが一般市民ですよね。当然、肉親や知人を殺された方もいます。そういった被害者感情は根強いですし、加害者のところに就職の支援とかが手厚くある一方で、被害者には何もない。彼らも貧しいんですよ。仕事があるわけじゃない。なぜ彼らだけ優遇されて、不公平じゃないかと。
これが、また新たな憎しみだったり、対立の火種になる。ここもなんとかしなければいけない。この課題、どうやって解決していけばいいのでしょうか。

金子 さん
停戦合意まで4年って言ってましたけど、もっと時間かかりそうですよね、これは。

瀬谷 さん
どの紛争地でもやはりいちばん大事なのが、加害者と被害者の間で、平和のためにどこまで何を譲歩するか。
自分たちが逮捕されるのが分かっていて投降するような兵士たちはいないので、ある程度彼らに、和解を重視した対応をしなければいけない。受け入れ案を出さなければいけない。
一方、一般市民からすると、彼らに恩恵を与えすぎるというのは、和解のために自分たちの正義が確保されない。この正義と和解が、いつも天びんを行ったり来たりすることになります。

小野 アナウンサー
瀬谷さんはソマリアとか南スーダンで、武装解除、それから、平和構築という取り組みをなさってる。

瀬谷 さん

そうですね。多くの紛争地で戦闘員を社会復帰させるために行われているのが、武装解除・動員解除・社会復帰。この頭文字を取って、「Disarmament」「Demobilization」「Reintegration」、「DDR」と呼ばれる取り組みです。
最初の武装解除は、武器を軍から引き離す、武器を回収する。2番目の動員解除が、兵士たち、人を軍から引き離す。そうすることで、軍自体を解体する。何十年も争うことしか知らなかった人たちが、そのまま社会復帰できないので、職業訓練とか教育支援を行って、一般市民として生きていけるような支援をするのが、最後の「Reintegration」のところです。

相田 さん
仕事の受け皿っていうのはあるんですか?

瀬谷 さん
そもそも途上国だったり、紛争直後の国なので、一般の人にも仕事の受け皿がない状態なんですね。そんな中、加害者の人たちがさらに悪さをしないために、その人たちに率先して職業訓練をして、場合によっては就職あっせんをすると。そうなると、一般の人たち、さらに被害者からすると、なんで自分たちは機会を得られずに、悪いことをした人のほうが得をするのかっていう、間違った価値観をその社会に植え付けることにもなりうるんですね。ですので加害者と被害者の間のバランスが取れたような和平合意案にして、それを確実に実施していくことが求められます。

千代 さん
コロンビアの場合、50年以上紛争が続いてきたので、社会の分断があまりにも長期間になってしまって、日常生活の深いところまで入り込んでしまっている。家族ぐるみで、生まれた時からゲリラであるっていったようなこともあるわけなんですね。
そこで、どういった支援が考えられるかというと、

日本のODAでは、このように橋の建設、道路の補修といったインフラの整備、

あるいは図書館や学校の建設というのが行われています。一見すると紛争と関係なさそうなんですが、実は加害者と被害者、ターゲットを絞って支援することで新たな社会のあつれきを生むのを避けるために、"地域全体の利益"となるような、こうした支援が行われている。これは直接的な和平交渉でも合意でもないんですけれども、社会から和平を達成していく試みとして、興味深いものだと思います。

瀬谷 さん
経済的に元兵士たちが自立したとしても、さらに難しいのが、一般の人たちから差別や偏見を受け続ける。社会から孤立し、また結局元の仲間たちとつるんで、犯罪者集団になってしまうということです。

なので、私が昔武装解除に関わっていた西アフリカのシエラレオネでやっていたのが、被害者と加害者のギャップを埋める「ストップギャッププロジェクト」。例えば現地で行われている短期の日雇い労働、工事現場で、半分は元兵士、残りの半分は被害者や一般の住民の人たちを雇うことで、両方が恩恵を受けられるようにする。
同時に、それまで対立していた人たちが関わるきっかけとなって、コミュニケーションの場が生まれたり、ある意味、和解的な効果があるようなプロジェクトを行うことで、その間を埋めるという試みを行いました。
もちろん、加害者の方たちを更生させるための支援は必要なんですが、被害者の救済にもどれだけ力を割けるかも課題だと思います。サントス大統領も、ノーベル平和賞の賞金は被害者の救済に使用するっていうことを明言されてますけども、そういうふうに、被害者感情とのバランスをとるっていうことを、どれだけ続けられるかというのも鍵かなと。

小野 アナウンサー
実際現場で直接お話しして、この人はこちらを許せないんだなとか、そういうことを肌でいつもお感じになってるんですか?

瀬谷 さん
そうですね。被害者の人には、加害者から手首を切り落とされて障害者になってしまった人もいて、自分の手がまた生えてくるわけではないので元には戻れない。ただ、元兵士が恩恵を受けて、仕事も得て、普通に五体満足で暮らしている。それを横目で見ながら、自分は一生暮らしていかなければいけない。平和のためにそれを受け入れざるを得ないっていう、被害者の人たちの思いというのは、当然つらいものがあると思うんですね。

小野 アナウンサー
すごいですね。ちょっと想像が...想像してはみてるんですけど、この想像で本当に合っているのかって思うくらい。私たちの気持ちに、近いんじゃないかなと思うのは、こんな声。

視聴者の声

神奈川県・50代・女性
「私は平和な日本で、のほほんと暮らしている。そんな私には理解できない問題」

広瀬 解説委員
想像力っていうのはすごく大事なキーワードだと思うんですよね。いま世界の紛争各地では、戦争しか知らない子どもたちがいますけれども、私たち日本人は戦争を知らない世代ですよね。戦争って考える時には、もう70年前まで戻らないといけない。
そういう人間が戦争しか知らない子どもたちのことを考える時には、本当に想像力が大切で、コロンビアの場合、地雷ですとか、コカインですとか、そういった不安、戦争につながる具体的な対策が取りうる課題が見えてるんで、そういうところでも、コロンビアの和平を応援していかないといけないと思うんですよね。

小野 アナウンサー
私たち市民のレベルでできることってあるんでしょうか? ODAも国がやることだし、実際そんな危険な地域に行って何か手伝うっていっても難しいし。

瀬谷 さん
個人ができることは限られますが、現地で活動してるたくさんのNGO、支援機関はあるので、そういった活動をまず知って、日本からでもできることは何なのか。寄付でもいいですし、未使用の書き損じはがきとかを送って、それを現金化して、活動資金に充てているような団体もありますので、無理ない範囲で日本から現地に関わる取り組みがどれだけあるかというのを、広く紹介していくことが大事だと思います。
あと、今回のコロンビアの和平合意でも、ノルウェーとかスウェーデンとか、北欧の国が和平プロセスの支援をしてるんですね。私は、日本が今後調停活動とか和平プロセスに、もっと積極的に支援をしていくべきだと思っています。例えばシリアとかイラクでも、交渉の糸口が全くつかずに内戦が長期化しているところがあります。ただ、コロンビアのようにひとたび対話の芽が出れば、一気に解決に近づく紛争ってあるんですね。そんな中、宗教的にも中立的で、70年間平和を維持してきた日本に、期待をかけている地域ってかなりあるんです。日本がそういう中立性を生かして、紛争地で和平プロセスとかそこに関わる現地の市民団体を支援していくことが、その地域で平和を根付かせることにつながりますし、日本が和平プロセスに対して、専門性を持っていくきっかけにもなると思う。

小野 アナウンサー
でも、すごく申し訳ないんですけど、瀬谷さんたちのように実際行動なさってる方はその言葉に重みがあるんですけど、うっかりしたこと言うと、とてもうつろなことを言ってしまいそうで...。

千代 さん
そんなに大きく考えなくても、コロンビアでも、実際に紛争地域で調査をしてますと、農民の方なんかは、確かにお金も支援も具体的なものが欲しいけれども、寄り添うっていう気持ちが大事だっていうふうによくおっしゃるんですね。
ですので、コロンビアについて勉強したり、コロンビアのことをもっと知っていくっていうことだけでも、現地で大きな支えになっていて、例えば日本も災害で大きな被害がありましたけれども、金額の大小に関わらず、国際社会が支援してくれる、隣国が支援してくれるっていう時に、非常に気持ちの面でうれしくなるところがありますよね。そういったところも実は大事な要素で、大きなものではなくても、個人個人ができることっていうのはたくさんあると思います。

広瀬 解説委員
こちら、きょうカーネーションありますけども、日本の輸入の70%がコロンビアということもありました。コーヒーも毎日飲んでますと。そういったおいしいもの、豊かなもの、便利なもの、こういったものの背景には、世界各地で何が起きてるのかと、知ることから始めるっていうことがすごく大事だと思うんですよね。
最後に紹介したいのは、マザー・テレサさんがノーベル平和賞を受賞した時のスピーチで

「もし、あなた方が世界平和の燃える光となったなら、その時ノーベル平和賞は初めて本当の意味でノルウェーの人々からの贈り物になるでしょう」と言ったんですね。

小野 アナウンサー
この「あなた方」って誰のことですか?

広瀬 解説委員
小野さんです。

小野 アナウンサー
私? 私たち?

相田 さん
みんなってことですね。

広瀬 解説委員
はい。賞は私が受け取ったんではありませんと。賞を機会に、どうぞ燃える光となってくださいという、きっかけなんですね。
ただ、そういうことを言われてもどうしていいか分からないんでっていうことで、マザー・テレサさんが記者の質問に対して答えたのが、「世界平和に貢献するためには、どうぞ、きょううちに帰って家族を大事にしてあげてください」と、そう言ったんですね。

金子 さん
まずはそこから。

瀬谷 さん
例えばこれをSNSでつぶやいてみるとか、自分が知ったこと、思ったことでもいいので知らせてみる。それがいろんな人たちにネットワークとして拡散していって、じゃあ自分はこういうことを調べてみようって思う、新たな化学反応を生んだりする。そういうことが起きやすい世の中にもなっているので。

金子 さん
壮大な話を聞くと、何か大きなものに貢献しなきゃって思っちゃうところですけど、ちっちゃな平和でも最初はいいんですよね。まず家族を幸せにして、それが徐々に広がってったら。

小野 アナウンサー
このマザー・テレサのお言葉は、宿題出されたのはサントスさんじゃなくて、私たちっていう感じがしてくる。

相田 さん
いまに向けられてたという。当時からもうすでに。

視聴者の声

「もっと外国のことに関心を持たんといかんな」

「日本では、とりあえず知ることが大切でしょう」

小野 アナウンサー
皆さん、感じておられることは共通みたいですね。きょうはどうもありがとうございました。

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