2016年07月16日放送放送内容まるわかり!

"親日国"でなぜ? バングラデシュ テロの衝撃

今月1日、バングラデシュで起きた日本人7人を含む22人の命を奪った人質テロ事件。 実行犯には、裕福な家庭で育った高学歴の若者も含まれていました。 「親日的」と言われるバングラデシュで悲劇はなぜ起きたのでしょうか? 背景に、急速な経済成長の一方で生まれた、格差の拡大や高失業率といった「社会のひずみ」があると指摘されています。 イスラム教徒が多いアジアでテロの脅威はどこまで広がるのか? 日本はどう立ち向かえば良いのか?深読みします。

今週の出演者

専門家

倉沢 宰さん(立教大学RSSC 兼任講師)
日下部 尚徳さん(NPO法人 シャプラニール 理事)
三輪 開人さん(NPO法人 e-Education 代表理事)
二村 伸(NHK 解説委員)

 

ゲスト

蛭子 能収さん(漫画家)
早見 優さん(歌手)


小野 アナウンサー
きょうお越しの三輪さんはバングラデシュで教育支援をなさってて、あの事件の日、現場のすぐ近くにいらしたそうですね。

三輪 さん
はい。目の前が真っ暗になるような気分でした。私の知人も1人巻き込まれてしまって、そういう意味では、本当にひと事ではないんだなと。
ただ一方で、ホテルから3日間ほど出れない日が続いたんですが、その間ずっと、バングラデシュの人たちが、毎日のようにホテルに来て、私に、大丈夫か、何かできることないかって心配してくれた、そういう3日間でした。

小野 アナウンサー
そんな親日的な国で、「私は日本人です」と言ったら撃たれたのか、そう言っても撃たれたのか、そこはこれから身を守る上でもずいぶん違うような気がするので、しっかり知っておきたいと思います。田中アナウンサーに、こんなプレゼンからスタートしてもらいましょう。


プレゼンテーション①

田中 アナウンサー
はい。今回犠牲になった22人、そのうちの7人が日本人だった。これは私たち日本人にとっては大変大きな衝撃でした。親日国でなぜ? というのがありますね。
そもそも、なぜバングラデシュが親日国なのかというところからおさらいしていきたいと。

小野 アナウンサー
というか、正直言うと、親日国であるっていうことも、今回の事件をきっかけに知ったのは私だけですか?

蛭子 さん
いや、俺も。

早見 さん
そうですね。思い起こせば、大学生の時に、留学生の方、何人かいらっしゃったので、すごく、そういう意味では行き来はあったのかなっていう印象あるんですけど。

田中 アナウンサー
国旗もね、似てるっていうのがまずありますもんね。
どうして親日と言われているのかを見ていきますね。

バングラデシュというのは、インドの横に、こういう場所にありまして、実はまだ若い国なんですね。

1971年に独立してできた国。45年前、パキスタンから独立したばかり。まだ45年なんですね。
国民の90%以上がイスラム教徒だということなんですが、パキスタンから独立する時に、300万人ほどの人が戦死をしたそうです。ちょうど働き手の人たちだったっていうことと、こうした海抜が低い場所が国土の8割ぐらいなので、たびたび水害なども襲っていて、貧困から抜け出せずにいて、

かつては、アジア最貧国というふうにバングラデシュは言われていた。
そこにいち早く支援の手を差し伸べたのが日本。

見返りなしの無償の援助だけで4800億円。そして、最初の映像にもありましたけれども、橋を架けるとか。この橋、バングラデシュの人たちも非常に喜んで、お札のデザインになってるぐらいです。そのほかにも、生活を便利にするための道路をきれいにしたりとか、水道や電気といったライフラインの整備というのも、日本が積極的に関わったんです。
こうして、いわゆる国の基盤を整備したあとは、

今度はこうした企業が入ってくるようになります。日本の企業だけで、いま現在も150社以上。国際援助の人とか、企業で働く人たち、1000人ぐらいの日本人がいまバングラデシュで暮らしています。
日本の企業だけではなくて、イタリアだとか、フランス、アメリカのアパレル、洋服のメーカーもかなり入ってくるようになって、「世界のアパレル工場」とも言われるんですが、なぜこんなに洋服メーカーが入ってきたのかというのは、ここに秘密があります。

バングラデシュの平均年齢というのが25.6歳。日本はだいたい45歳、46歳ですから、20ぐらい若いですよね。人口は1億6000万人で日本より多くて、そのうちの半分、8000万人が20代と。バリバリ働く世代がこれだけいる。しかも、労働賃金というのは、中国なんかよりもぐっと安い。安くてたくさんの働き手がいる。
洋服を作るのはミシンとかを使って、完全にオートメーションではないので、人の手がとても重要なので、こういう人の手が多いバングラデシュというのは、アパレル産業にとっては大事な場所になっているんです。
こうしたこともあって、輸出の7割ぐらいは衣服関連。経済成長は、ここ10年ぐらい、ずっと6%ぐらい右肩上がりで上がってきているんです。

かつてアジア最貧国と言われていたんですが、去年、世界銀行は「中所得国」と格上げした。まさに日本が基盤を作って、そこにいろんな企業も入ってきて、こうして。暮らし向きもよくなって、経済も上向いてきた。めでたし、めでたし、ですよね。ただ、経済がそうやって進む一方で、ひずみという新たな問題も見えてきました。どういうことか。

みんななんか怒ってますよね。何に怒っているのか。まず、こちら。

「労働条件が非常に悪い」。先ほどね、安い労働力と言いましたが、コストを抑えるためにかなり賃金を抑えたということもありますし、長時間労働も問題になりました。子どもを働かせるなんてこともあったそうです。トイレも行かせる時間がないぐらい、ぎゅうぎゅうに押し込めて、働け、働けっていう環境があったそうです。

そういった中で、こんな事故も起きました。3年前、縫製工場がたくさん入っているこうしたビルが、地震でも何でもなく、いきなり崩れた。ミシンの振動とかで崩れたっていうんですが、そのぐらい、耐震化が全くされてなかった。ぼろぼろだった。そこで働いていた、主にバングラデシュの若い女性たち1000人以上が生き埋めになったという痛ましい事故。利潤を追求するあまり、コストを低く低く抑えて、こうした労働環境の整備が後回しにされていたんじゃないか、これって政府もそうだし、外国企業がいけないんじゃないかっていう、怒りの矛先がまず向いてきたっていうのがあります。
日本企業のアパレル工場もたくさんあって、日本の企業に石を投げたなんていうことも、これまであったそうです。
いまバングラデシュは経済も少しずつ上向いてきて、大学もかなりできるようになりました。ということは、こういう劣悪な環境ではなくて、自分は勉強して、大学に出て、いわゆる高学歴で新たな就職先を探そうという若者も増えてきているんですが、そこでまた怒り。

実は高学歴の若者が、逆にいま仕事がないという状態なんです。
バングラデシュの魅力という、魅力というのも大変失礼なんですが、この外国企業が求めてるのは安い労働力。高学歴の人たちを雇うには、それなりに人件費がかさんできますよね。だから、そういうポストというのは本当に数が少なくて、あまりない。つまり外国企業は、高学歴の地元の若者にポストを用意していなかった。
こういう、いろいろなひずみが見えてきた。こうしたひずみがある場合って、日本でもそうですが、政府に、なんとかしてくれよと、デモや集会で改善を訴えていくというやり方があるんですが、これがいま抑えつけられている状態。デモ、だめですよ。

いまこうした反政府勢力への抑圧というのは、かなりいまひどいんです。デモや集会する時っていうのは政府に許可を取らなきゃいけないんですが、いまその許可というのはほとんど下りない状態で、仮に無許可でした場合は逮捕するぞという。
こうした不満のうっせきもあるし、そうしたはけ口もなくなってきてる。もう若者たちのストレスは、かなりいまピークに来ている。そんな彼らの心につけ込むのがうまいのがIS。

今回テロを起こした実行犯、いま捜査中でして、すべての動機とか、そういったものが分かってるわけではないんですが、いまバングラデシュの人たちもスマートフォンなどを持っていて、こういうISのサイトなんかを見ることができる。高学歴の人たちは英語も見られたりするので、世界中の情報が入ってきますよね。実際に実行犯のうちの2人は、ISのサイトを見ていたというのが分かっています。
そうしたサイトには、こんなメッセージがあります。「自分の場所で攻撃」。自分の国でテロを起こせというようなメッセージだったり、「異教徒皆殺し」。イスラム以外の者は皆殺しせよと。

こういう思想に感化された一部の若者がテロリストになり、向かった怒りの矛先が、外国人がよく使うレストラン。今回のテロの現場になった場所ですね。今回日本人も、援助活動をしていた人たち7人だったり、イタリア人は、繊維関係の仕事をしていた人たち。アメリカ人やインド人、こうした外国人が狙われたんですね。
ISが、どこまで直接に関わったかっていうのは正直まだ分からないんですが、テロの現場に居合わせた人の証言では、まず、コーランの1節を唱えよと。唱えられなかったら殺したっていうのがあって、つまり、ここまで支援してくれた日本人だからとか、親日国だから見逃してやるという考えではもはやなくて、イスラム教じゃなければ殺すというのが今回の事件だったってことですね。

早見 さん
この5人は、やはり高学歴だったんですか?

田中 アナウンサー
5人のうち3人はいま高学歴だったことが分かっています。

小野 アナウンサー
それ、ご質問来てますね。東京都40代の女性から。「なぜ裕福で高学歴の若者たちがテロリストになってしまったのか」。
勉強すると、自分で人生を切り開く力も身につきそうなのに。

早見 さん
そうですよね。教育が根底にあれば、流されないのではと思うんですけど。

小野 アナウンサー
しないですよね。そこらへんがまた私たちの理解が及ばないところなんでしょうか。

二村 解説委員
もともと、このバングラデシュだけではないんですけれども、ISに世界中から若者たちが行きましたよね。その時も、ヨーロッパから行った人たちも高学歴なんですよね。ですから、いま、テロリストというのは貧困が原因ではないんですよ。高学歴の人たちでも、現状、あるいは社会に不満を持っているということなんです。そちらのほうが大きいと思いますね。

小野 アナウンサー
でも、テロを起こして自分も死んでしまうより、生きて、どんなことが社会のために私はできるだろうかって、そういうことを考えるために勉強するんじゃないんですか?

日下部 さん
さまざまな不満があって、1つじゃないと思うんですね。それが積もり積もった結果なんだとは思うんですけども、高学歴の人っていうのは、例えばインターネットにアクセスできたり、バングラデシュですと、そもそもある程度お金がなきゃインターネットにもアクセスできませんし、また、留学経験がある。バングラデシュの外に出てみて、自分たちイスラム教徒が欧米社会にどのように受け止められているのかということを自分の頭の中で判断できる層というのは、やはり少し高学歴な層になってくるのかなとは思います。

早見 さん
あと、最近テロ事件で目立つのは、「ホームグロウン・テロリスト」っていうんですか。地元の人がテロリストになっていくっていうのがすごく多いような気がするんですけど、それもやはりSNSの誘導とかなんですか?

日下部 さん
SNSや留学、それから、大学ですね。バングラデシュの事例ではあまりまだ聞かないですが、例えば、刑務所でそういうような情報を得るというようなお話も聞いたことがあります。

小野 アナウンサー
でも、外の社会や外の世界を見るっていうことが留学でしょうし、大学に行くってことは、自分が生きる力をつけるっていうことですよね。それなのに、なぜそっちを選ぶんですか? 勉強してきたのに。

二村 解説委員
1つは、勉強はもちろんするんですけれども、これだけ豊かになってきて、外国由来の価値観や習慣がどんどん入ってくる中で、もともとの伝統的な生活とか風習とぶつかってくる。社会がどんどんどんどん変わってしまうことに対する不満といいますか、反発というのもあるわけです。豊かにはなったんだけれども、心が満たされない。あるいは、もっと昔はイスラム教にのっとって、ちゃんと真面目な生活していたんじゃないかということに対する不満、あるいはそういう思いに、IS、ああいったテロリストがメッセージを送るわけですよ。そんな社会を壊したのは外国人だとかですね。そう言って、だから、外国人が悪いっていうように持ってくケースが多いんです。

小野 アナウンサー
じゃあどうすればよかったんですか? だって、水浸しで、ばい菌がうようよいて、病気になっちゃうような環境のままでいるより、下水道が完備されて、橋ができてっていうほうが。よかれと思ってやったんですよね? 日本も、援助は。

早見 さん
でも、実際今回の5人は、日本が援助してた時はまだ生まれてないですよね。だから、もしかしてそれを知らないで育ってしまったのかなとか、自分たちの国で、自国で立ち上げることができなかったので外国からの援助を受けていたっていうことも、もしかして知らなかったのかなって。

倉沢 さん
日本人がターゲットにされたっていうよりも、たまたまそこに日本人がいたっていうふうに捉えたほうがいいと思います。私は日本人だ、私だけを逃してくれっていうような状況ではないっていうことは、理解しておかなきゃならないと思いますね。

早見 さん
でも、あえて外国人の方が多く集まるカフェっていうか、レストランを狙ったんですよね。

倉沢 さん
そう。先ほどの説明のように、外国人を狙った。そこにたまたま日本人がいた。
バングラデシュの国民意識は、2つの意識の中で揺れ動いてるっていうふうに捉えていいと思うんです。1つは、ベンガル人であるという意識。もう1つは、イスラム教徒であるという意識。この2つがずっと、イギリスの植民地時代から、両方が、上がったり下がったりというような状況の中で動いてる。
例えば、パキスタンがイギリスから独立した時に、イスラム教徒でまとまって1つの国になったのと同じように、バングラデシュが1971年に独立するきっかけを作ったのが、ベンガル人意識。
このベンガル人意識に反発する、一部のイスラム意識を強く持つ人たちはずっとその中にいて、独立戦争についても数年前から、バングラデシュでは戦争犯罪裁判をやってるんですね。そういった裁判の中で、結局こういった人たちの、いわゆる気持ちを、むしろかきたててしまうというような状況が起こってるんですね。

小野 アナウンサー
外国企業が、もっと地元の高学歴なとか、優秀な若者をどんどん雇用していく、いいポストを用意していくっていうような道はなかったんですか?

日下部 さん
バングラデシュが成長しているのは、いまもご説明ありましたとおり、世界のアパレル工場となったわけですよね。世界のアパレル企業が工場を作っていった。そこで働く人は、少なくとも高学歴ではないわけです。そうすると、いわゆる中間層、もしくは下の層の上のほうの人たち、最低限の読み書きできる人たちはいっぱい就職できるようになった。だけれども、その上の層のエリート層であるとか、もしくは読み書きもできないような下の層の人たちっていうのは、実は雇用の拡大というのは起きていないですね。

小野 アナウンサー
実際自分が社長になろうとか、自分で工場作ろうとか思ったりした時に、それが実現していれば、そんな不満はたまらないんじゃないんですか?

倉沢 さん
実は急速に大学の数が増えて、そして、経済成長の中で、中産階級が少しずつ育つ中で、大学生の数が一気に増えたんです。この一気に増えたものに対して社会の状況が追いつかないっていう状況がありますね。

小野 アナウンサー
三輪さんも、それから、倉沢さんも、大学で学ぶ若者たちの助けをしてらっしゃいますよね。大学に行きたいという若者、そして、大学で学ぶ学生を教えたりしてらして、切なくならないんですか? 一生懸命育てても彼らには仕事がない。仕事がない世の中に出ていきなさいって言わなきゃいけないことって。

三輪 さん

私たちの活動をちょっと紹介させていただくと、とはいってもバングラデシュはまだまだ、貧しい国なので、農村に行けば、貧しくて勉強できないという高校生がたくさんいて、彼らが大学に行けるように、日本の予備校のように、DVDの授業を使って大学に進学することをずっと応援してきたんですね。
実際にすごい難しい大学に合格した子たちが、いま、実はちょうど就職活動を迎える時期なんですが、てっきりみんな簡単に就職できるのかなと思ったら、そう簡単にはいかなくて、大学受験が、私はてっきり人生でいちばん難しい壁じゃないかと思っていたんですが、その先にもう1個大きな壁を見たという印象をいま持っています。

早見 さん
不満を持つ若者はたくさんいると思うんですけど、それがなぜ犯行につながってしまったのか、及んでしまったのか、すごく、ね。

三輪 さん
彼らの中には、いまこういう活動に参加しようっていう子は出ていないんですが、ただ、理不尽であったり、不平等だっていうものをなんとかはねのけて大学に行ったものの、目の前に広がっていたのは、何か思いがあっても発言できないような、そういう社会があって、勉強したのに報われないという、新しい難しさにぶつかってるんじゃないかなと思いますね。

日下部 さん
実はバングラデシュは相当なコネ社会で、コネがないとなかなか就職できない、という状況もあり、こうした現状に社会人になって直面したりすると、なんで私たちはこんなに勉強してきたのにって、社会の不平等さであるとか、格差みたいなことに不満がたまっていくということはありえるのかなと思います。

倉沢 さん
実は私の姪も、大学院出て、就職を探すのにあっちこちらでアプリケーションをしても、どこも結局、最終段階では落とされてしまうっていうことが多くて、最後のコネとか、それ以外に、金を要求される場合もあるんですね。そういう状況の中でなかなか就職できなくて、やっと銀行に仕事ができたということで喜んでました。

早見 さん
それは、でも、バングラデシュ政府の問題でもあるかなっていう気もするんですけど。

二村 解説委員
政府はそちらよりも、いまいちばん力入れてきたのが、野党をいかに潰すかという、もっぱら政治の対立が続いてきたんですよ。野党も潰そう、それから、イスラム主義の政党などを弾圧して、そっちのほうにだけ力を入れてきたんですね。

小野 アナウンサー
いちばん大事な、民主主義国家なんですよね? 主権は国民にあるんですよね。いちばん困っている国民がいるのに、そこはほったらかしといて、政権争いしてるんですか?

三輪 さん
そういう姿が、現地で勉強を頑張れば頑張るほど見えてきてしまうからこそ、頑張って、頑張って勉強した学生ほど、逆に政府であったり、国に対しての失望感というか、絶望感が増えてきてるんじゃないかなと思いますね。

二村 解説委員
政府や国に対する不満だと、例えばその国、政府を援助する機関だとか国に対しても、それが怒りとして向かっていくのかもしれないですよね。

小野 アナウンサー
ちょっとツイートで、「「日本人なのに」って思うことにちょっとおごりを感じる」っていう声も来てますね。

三輪 さん
いまの「日本人なのに」というおごりを感じるっていうところは、私は実際現場にいたんですけど、毎日のようにバングラデシュの友人が私に電話してくれて、「開人、大丈夫か」と、そう言ってくれる人たちこそが、さっき倉沢先生の言ってた、ベンガル人たる文化じゃないかなと思うんですね。私は本当に、バングラデシュの人、ベンガルの人たちというのは、本当に隣の人のことをしっかり考えられる、そういう人だと思ってるんですが、何かが、何かが崩れ始めてきてるなと感じてます。

小野 アナウンサー
「経済支援の結果、貧富差が拡大して、国民の分断、排外的な思考になってしまったのかもしれませんよね」っていう声も来ていて。
でも、最初はよかれと思って始めたはずの支援じゃありませんか。じゃあ、これからいったいどうしたらいいのかっていうことを考える上で、1つご覧いただきたいものがあります。


プレゼンテーション②

田中 アナウンサー
これからの支援の形をどうしたらいいのか。きょうお越しの専門家のおふたりに、そのポイントを伺いました。三輪さんと日下部さん。おふたり、実は共通のキーワードがあったんですね。それが

「任せる支援」ということなんです。
いま三輪さんがやってるのが、こうした農村部の貧しい若者たちの学習支援。でも、いま高学歴の若者たちも、バングラデシュは仕事がないという。じゃあそこの人たちをどう支援していくのか、その時に大切なのが、「任せること」だとおっしゃる。

三輪さんが任せた相手が彼です。当時まだ大学生だったマヒンさん。彼を雇って何をさせたかっていうと、いきなり重要ポストに就けたんですね。要は、現場の責任者に抜てきをした。まだ大学生ですから、ビジネスでいろんなことやってないんだけれども、彼を、そこでいろんな経験を積ませた。
そうすると、彼は急にやる気を見せ、さらに何か新しい事業も始めてみたいなんてこともみずから提案するようになった。そうか、やりたいのか。

じゃあ、そういう会社を作って、社長ももうお前がやれと。今度は社長に抜てきをしました。彼は農家向けのDVDを作りたい。じゃあお前が社長で、全責任取ってやれと。

さらに、マヒンさんの下で、今度は大学生たちをインターンとして雇って、実際に彼の下で学ばせるようにした。そうすると、私たちもマヒンさんのようになりたい。1人こうしたリーダーを作ることで、第2、第3のマヒンさんも作っていく。いわゆる、

任せることでリーダーを育てる。つまり、高学歴の人たちを、こうしたリーダーに育てるというために、任せる支援が必要なのではないかというのが、三輪さんの新しい形の支援です。
一方、日下部さんです。日下部さんたちNPOは、これまで例えば現地の貧困地域、例えば学校に行っていない子どもが1200人以上いるような地域で支援をする時には、手取り足取りというか、どうすればいいのかっていうのは、日本のこうした日下部さんたちNPOが、いろんなアイデアをこれまではやっていました。
ただ、そうすると、現地の人たちは、誰かが指示してやってくれるだろうというふうに、常に受け身の体勢というか、お任せになってしまう。日下部さんたちがずっと支援できればいいんだけれども、そういった人たちがいなくなっちゃった瞬間に、また何もしなくなっちゃう。つまり、長続きする支援が必要なのではないかと考えたそうなんです。

そのためにどうするのか。こちらです。学校のこと、つまり、地元のことなんだから、それは現地の大人たちに任せてみようと思った。日下部さんたちはあくまで黒子。現地の保護者とか、先生たちを集めることなどはサポートしましたが、具体的なアイデア、アドバイスというのは、現地の人に考えさせるようにしむけたんですね。そうすると、現地の人たちも、誰も頼る人いないですから、自分たちでいろんなアイデアを出すようになった。子どもたちに声をかけてみようか。学校って楽しい場所だよ。運動会も今度開いて、ぜひ学校に来てください。こうしたいろんなアイデアが自主的に、彼らから出るようになった。
その効果もあってか、実際1200人以上学校に行ってない子どもがゼロになったというようなこともあって、つまり、任せていくことで、継続して、一時的なものではなくて、長く続けていく支援になるのではないかというのが日下部さんのお考えですね。

小野 アナウンサー
橋作ったり、学校の建物を作ったりっていう時代から、またいま全然違う新しいステージに入ってるんだなっていう感じもするんですけど、ちょっと質問していいですか?
こういう、自分は前に出ないで、現地の人に頑張ってもらう支援のやり方っていうのは、言ったら地味じゃありませんか。私たちはこういうことをやってきましたって言って、例えば国から予算もらってきたり、それから、市民から寄付を集めてきたりっていう時に、役に立つんですか?

日下部 さん
やはり、日本人だけじゃないんですけども、支援って、どうしても自分たちがやっていますよっていうことをアピールしたい。でも、例えば井戸を作るみたいなのがイメージしやすいかと思いますけれども、日本人が現地に行って井戸を作る。そうすると、だいたい数年で使われなくなるんですね。
1つは、もらったものは大切に使わないっていうのもあるんですけれども、ものを置いてきただけで、例えば修理のしかたを教えてこないとか、もう1つは、なんで井戸の水を飲まなくちゃいけないのかというのを住民が理解していない。そうすると、井戸があったとしても、すぐそばに池の水があるから、それ飲んじゃえばいいじゃないっていうことにもなりかねないんですね。
住民の人たちがみずから、なぜ井戸が必要なのか、もしくは自分たちの地域でなんでこんなに子どもたちがみんな下痢になっているんだろうかっていうのを考えた結果、井戸が必要だということになれば、それを一緒になって支援してくという形が、持続可能な支援につながるのかなというふうに思っています。

小野 アナウンサー
大事なことですね。大事なことですが、それって広く理解されますか?

日下部 さん
時間がかかるんですよ、この支援って。やはりプロジェクトって、例えば寄付いただいたら、すぐ成果、井戸できましたって言いたいんですけれども、結局、そうやってお金集めてぱんって作っちゃったのが、数年で使われなくなってしまったら意味がないわけですよね。ですので、いただいたお金ですので、きちんとそれを住民の人たちが長く使えるような形でやるには、やはりそれなりの長期のプロジェクト、つまり、現地に長く関わっていく、現地の人たちと深く、長く関わっていくという姿勢が大切なのかなというふうに思っています。

倉沢 さん
先ほどの、いわゆる大きなプロジェクトの援助からっていう話だったんですけども、実は、いま日本がバングラデシュに6000億円の円借款をODAっていう形でコミットしている。お金を貸している。これは、バングラデシュでは、かなり高く評価してる人たちも結構いて、まだまだインフラが整備されてない部分が非常に大きいので、こうした援助も一方で必要なんです。
もう一方では、考えてみると、私は長い間、東南アジアの研究をやってきたんですけども、東南アジアの各国と日本との歴史的、あるいは人的関係と比べると、バングラデシュのほうは非常に少レベルなんです。いわゆる、歴史的にも蓄積がない。それから、そう多くの人たちが関わってない。企業にしても、わずか150社。先ほど出たんですけれども。東南アジアになると、例えばタイでも、1万5000社以上いるっていうことになりますので、関わりがまだ少ない。
その中で、いま日下部さんがおっしゃったような、もうちょっと実際に国の状況を見る、関わる。それは上からの目線じゃなくて、対等になって見るというのが、たぶん非常に重要なポイントになってくるかなと。

日下部 さん
重要なのは、われわれ、すごい認識してるんですけど、お金が集まりにくいんですよね。

小野 アナウンサー
やっぱり。そんな感じがしたものですから。

日下部 さん
成果が出るのは10年後ですとか言いますと、なかなか支援の方、ご理解いただけないところがありまして、いいことは分かっているんだけれども、それを前面に押し出すと、なかなかご理解いただけないというジレンマがあるんですね。

小野 アナウンサー
実際、任せてみるっていうこと自体は、そんなに難しいことではないのですか?

倉沢 さん
ないんですけれども、関わりを持ってないと、しばらく、それが育つまで時間がかかります。

小野 アナウンサー
勇気いりますよね。とりあえずやってみなさいって言うことって。

三輪 さん
はい。本当に、もしかしたら、小さな赤ちゃんが外で一生懸命歩こうとしてるのを見てる親御さんの気持ちなのかなと思うんですが、見てて不安になったり、助けてあげたほうがうまくいくのかなって思うことはあるんですが、想像すると、例えば転んだとしても、それでも自分で起き上がって、目的の、行きたいところに行けた時の喜びって、肌感覚として、自分でやりきったなっていう感覚ってすごい大事だと思うんですね。
なので、いま活動を始めて6年たっても、まだ不安は消えないんですが、それでも前に前に進もうとしてる彼らを、任せてみたいなという気持ちはどんどん増えてきてますね。

小野 アナウンサー
「企業の社会貢献もグローバル化すべきだと思う。日本のことだけ考えずに、世界の労働環境まで企業は考えるべきじゃないのか」っていう声が来てますね。

日下部 さん
3年前に起きた、ビルの崩落事故を受けて、多くの企業さんが、労働条件、考えるべきなんじゃないのかという動きにはなっておりまして、そこにNGOでありますとか、国連機関などが、きちんと現地の人たちが納得できるような形での企業進出ができるような体制を整えようという流れはあります。

小野 アナウンサー
「途上国では産業支援が難しい。大学教育よりも起業家教育が重要かもしれない。雇用がうまくいくにはどうしたらいいんだろう」。皆さん、真剣に考えてくださってます。

倉沢 さん
私はちょうどダッカ大学で客員教授として行っていてそこで感じたのは、いわゆる高等教育をやっていて、起業家が育つっていう教育、あるいは日本でいう「国際開発」、海外へ向けた教育っていうのがかなりあるんだけれども、国の中で開発していくという教育が、そういった学科、あるいは大学における起業する学科っていうのがまだできてないというのが現状なんです。

蛭子 さん
支援とかそういうの、難しいなとか、ちょっと思います。日本人がどんどんどんどん行くと。なんだろうなぁ、難しいなぁ。ちょっとうまく言えないですね。

早見 さん
井戸の話はすごく分かりやすかったですね。自分たちで築き上げるものと、ただただ与えられるものとでは、本当に実感的に違うんだなっていうのはありますよね、きっと。

倉沢 さん
蛭子さんのいまの話で、ちょっと考えていただきたいのは何かっていうと、バングラデシュは親日だと。日本人は親バングラなのかどうなのかって。一方が好意的であって、もう一方がそこまで関心を持ってない。

早見 さん
ちょっと片思いな感じなんですかね?

蛭子 さん
日本があんまりバングラデシュを思ってないっていうことですか?

小野 アナウンサー
もし私たちがバングラデシュにもっと親近感を持っていたら、そもそもあのような地元の人たちが不幸せになるようなあり方になってないんじゃないかとおっしゃってるんですね。

二村 解説委員
あと、もう1つ、お互いの国を理解し合うためには、例えば今回の事件で、お前はコーランが読めるかと、ありましたよね。相手の国のほとんどの人たちはイスラム教徒なんだ、どういう生活してるんだということを、もう少し私たち日本人が知っていれば、この国はイスラム教徒の人たちなんだから、例えばラマダン中はなるべく目立たないようにしようとか、控えていようとか、あるいは、その国の人たちは全員がお祈りをします。お祈りをする時は必ずコーラン、1節読むわけですよね。少なくともこの国ではこういうのを大事にしてるんだということを、日頃から、例えばコーランのことを少し知ってるとか、イスラムのことを理解してるとか、そういうことが必要になってくるんじゃないでしょうかね。

三輪 さん
ちょうど来月8月6日、第二次世界大戦で広島に原爆が落とされた日ですね。実はさっきの高学歴の人たちが通ってる大学では、黙とうの儀式があるんです。日本のことをこれだけ一生懸命考えてくれて、勉強してることに対して、私たち、もう少し、イスラム教のことであったり、バングラデシュのことを知るべきタイミングが来たんじゃないかなと思いますね。

小野 アナウンサー
宮城県40代の女性から、「いざという時のために、コーランを勉強しておいたほうがいいのかなと思いました」っていう声が来ています。テロリストに銃口を向けられた時のためっていう意味かもしれませんし、そうではなく、もうちょっとイスラムの世界のことを知ったほうがいいのかなっていう意味かもしれません。

倉沢 さん
私が思うのは、その国の経済とか、政治とか、あるいは貧困とかに目を向けることも大切ですが、その人たちがどういったものを価値観として捉えてるのか、どこが重点に置いてるとか、例えばその国の音楽とか、小説とか、そういったものに触れ合うっていうことも少ないんですよね。だから、それにもっと興味を、もっともっと関心を持つ。これこそが、コーランを読むよりも、たぶんもっと重要かなという感じがするんですね。

二村 解説委員
あと、先ほど言いましたけども、イスラム教徒の人たちは、ほとんどの人たちは平和な人たちなんですよね。ですから、今回の事件で、これはテロリストがもちろん悪いんですけれども、イスラム教徒が悪いとか、そういうふうに感じてしまうことは、いちばん、これはテロリストの思うつぼですよね。ですから、お互いを、憎悪の繰り返し、負の連鎖になってしまう。そういうことだけはしないように、相手を考える、相手の立場を思うということがいちばん大事じゃないでしょうかね。

小野 アナウンサー
「今回のテロで息子のクラスメートのお父さまが亡くなりました。非常に悔しいし、つらいです。テロをなくすために私に何ができますか?」っておっしゃってるんですが。

日下部 さん
やはり、お話ありましたけれども、現地のことをきちんと理解する。私たちが援助する対象ではなくて、これからは、グローバルな社会の中で一緒になって平和な社会を作っていくパートナーとして、異文化理解をしていく必要があるのかなというふうには思っています。

三輪 さん
私も、本当に小さくてもいいので、バングラデシュのことを、これを逆に機会だと思って、何かいいこと、何か日本にとって親しかったことっていうのがないかなって調べることが大切だと思います。

小野 アナウンサー
ありがとうございました。

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