2015年10月03日放送放送内容まるわかり!

介護施設で何が... どう守る"老後の安心"

川崎市や大阪市の老人ホームで相次いで発覚した高齢者への虐待事件。 本来"介護のプロ"が集まる介護施設での虐待が全国で相次いでいます。 国が把握しているだけでも、施設での虐待件数はここ5年で3倍に急増しました。 いま介護の現場でいったい何が起きているのでしょうか?そして、どうすれば虐待をなくすことができるのでしょうか? 超高齢社会・日本が直面する課題にどう向き合えば良いのか深読みします。

今週の出演者

専門家

高口 光子さん(介護アドバイザー)
結城 康博さん(淑徳大学 教授)
村田 英明(NHK 解説委員)

 

ゲスト

増田 英彦さん(ますだおかだ)
大林 素子さん(タレント)


小野 アナウンサー

番組でアンケートを行いました。「お年寄りを虐待した経験は?」。
「ある」と答えた人が9%。「したことはないけれども、自分も虐待をする可能性がある」と答えた人が38%。
もしも、10人に4人が「暴力を振るってしまうかもしれない」とお答えになったのだとしたら、結構怖いことですよね?


プレゼンテーション①

徳永 アナウンサー
「殴るなんてひどい」と思ってらっしゃる方は多いと思いますが、 「虐待」って何から何までをいうか、そこからいきましょう。

実は、「高齢者虐待防止法」という10年前にできた法律にちゃんと書いてあるんです。 大きく分けて5つ。

殴る蹴るは、「身体的虐待」の一部。
「身体的虐待」には拘束することも入るので、意に反してベッドに縛りつけることも虐待です。

おむつの交換をほかの人が見える場所で行うのは「性的虐待」にあたります。

年金などを本人に無断で、家族や施設の人が勝手に使っちゃうケースもあるそうで、これも立派な虐待。人権への配慮に欠けている行為は、虐待です。
介護のプロによる虐待の数が統計上増えていて、最新では221件。

これは認知されたものだけなので、専門家の中には、この数字は氷山の一角で実態は100倍ぐらいあるんじゃないかと言う人もいる。
そこで、アンケートや現場への取材に基づいて、介護施設でどんなことが起きているのかをまとめてみました。

介護施設にはいろんな形態がありますが、より公的な施設で、比較的安い価格で入れると言われている、そして最も虐待が多く報告されている、特別養護老人ホームのケースで見ていきます。
介護保険できてからもう15年たつのですが、入所するお年寄りがだいぶ変わってきています。

もともと認知症の方の割合は高いんですが、その率がさらに年々上がっているそうです。その背景はこれです。

入所待ちの人数はどんどん増えて、最新だと52万人。
いろんな状況を見て優先的に入る人を決めていくのですが、大きく左右するのが、どれだけ助けが必要か、つまり、介護度がどれだけ重いか。
これだけの人が待っていると、より助けが必要な方から入っていくようになります。
つまり、認知症の症状の重い方が入ってきやすくなっています。

でも、変わっていないのは職員さんの大変な状況です。人手不足で待遇も悪い。
認知症の症状が重い方が増えると、もっともっと仕事が大変になっていきます。

特にストレスがたまりやすいといわれているのは、夜の時間帯です。

輪をかけて手薄になる。データによると、全国の特養では夜、1人の職員さんが20人以上のお年寄りを担当していらっしゃる。
...となると、さまざまなことがアンケートで聞こえてきました。
ナースコールが鳴ります。

「もう食べたでしょ。休んでください」って優しく声をかけたとたん。

「さっきしたから大丈夫ですよ」って優しく声をかけて、ようやく部屋に入ってもらいます。
すると、"はいかい"ってよく聞きませんか?

私も介護施設を取材したことあるんですが、何度も同じ方が夜歩いていらっしゃるのを見ました。
「いまは夜ですから、安心してゆっくり休んでください」と声をかけて、部屋に戻っもらったと思ったら。

昼夜逆転している生活の方もいるので、眠れないという不安を訴える声も聞こえます。
と思いきや、こんな声もあります。

実は私の祖母も認知症で、この言葉を特に言っていたんですが、「どこか分からないけど、帰りたい」って言うんです。
「あなたが住んでいるのは今はここですからね」って優しく声をかけても、こんな言葉が出てくることもあるそうです。

認知症の症状で、感情的になる方もいらっしゃるそうで、これにストレスをためたという介護職員の方からの声はアンケートでも多かったです。
で、最もストレスがたまると多くの専門家が言ったのは、こういう時です。

はいかいしている方が失禁などの粗相をしてしまった時に、分かってはいてもストレスがたまります、という声は本当に多かったんですね。
1人で20人見ていますから、順番に来てくれるとは限りません。

あちこちからナースコールが鳴って、助けを求める声がすると、もうどうしていいか分からないぐらい追い込まれてしまうというのが、どうも取材で見えてきたわけです。

じゃあどうしたらいいかって、次の日に先輩に聞こうと思いますが、取材で見えてきたのは、先輩たちもストレスがたまっている。

「重い認知症の方にどう接してあげたらいいかが分からない。
勉強はしたいんだけど、そんな時間が割けない」という声がアンケートで大変印象に残りました。
そうすると、せっかく意欲がある若い職員も、どうしていいか分からないとストレスはどんどん増える一方とも言われています。

増田 さん
僕も知り合いに介護スタッフやっている友達がいてるんですけど、この状況は聞きますよね。
これで体を壊して休む。で、違う施設に行く。そこでも同じような状況になっているっていうのを。

大林 さん
うちは実家がデイサービスをやっているんです。
自宅を改造して、おじたちがヘルパーさんを呼んでやっているんですけど、田舎なので若い人がいない。
なので、高齢のスタッフだと夜はやっぱり無理だとか、ストレスとか、すごく分かります。

小野 アナウンサー
実際に介護職に就いていらっしゃる方からこんなメールが来ています。

視聴者の声

40代・女性
「安月給で、夜勤も16時間あり、人手不足で休みも取れず、入居者には蹴られたり、かみつかれたり、つねられたりして、時にはけがすることがあります。虐待はしてはならないが、介護職の働く環境がよくならないかぎり、残念ながらよくならないと思う。」

結城 さん
今回、虐待の問題が非常にクローズアップされていますけど、大部分の施設はたぶん真面目に一生懸命やっていて、介護って非常にやりがいもあると感じてやっている反面、実際こういう問題があるので、虐待がない、職員が楽しくやりがい持って働いている施設と、今回の事件のような施設の違いをよく見ていくと、こういう問題が見えてくる。

小野 アナウンサー
それに関しては、こんなメールが。

視聴者の声

鳥取県・50代・女性
「身もふたもないようですが、地獄の沙汰も金しだい。虐待のないよい施設には高い費用がかかるのでしょうか。」

高口 さん
それは関係ないです。高いお金を出したから確実によい介護が手に入るとか、安いからダメという単純なことではないと思います。
やはりその施設や事業所が、理念として、経営方針として、どういう志を持って設立されたかっていうことが一つあって、それが研修などを通じて職員にどのように伝わっているのか、職員がそれをどれだけ納得したり、共感しているかっていうことがまず重要ですね。

村田 解説委員
いまは介護施設の需要がありますからね。
実際これだけ入所を待たれている方がいて、なんとかして施設を作ろうとして、どんどん増やそうとはしています。
増やそうとしている中でなかなか職員が集まってこないっていう問題があるんですね。
いま、経営理念とおっしゃいましたけども、しっかりと施設の中で職員を教育しているところもあれば、施設を増やすことが優先的になって、そこに入ってきた職員の教育がなかなかうまくいっていないというところでは問題が起きやすい。

小野 アナウンサー
そこは料金の高い低いには一致していないと?

村田 解説委員
ではないと。

増田 さん
でも、経営者側の姿勢によってもだいぶ変わってくるんちゃうかなって思うんです。
有能なスタッフはいてるけれども、お金がかかるから夜勤にこれ以上人数は入れたくないとか。
人はいてても配置される人数によって、問題が起こったりストレスを抱えてはる介護スタッフの方がいてるんじゃないんですか?

結城 さん
僕のところにはよくそういう質問があってですね。
私がケアマネージャーをやっていた時に「どういう施設がいいですか?」ってよく聞かれました。

私はこの6つのポイントがいちばん大事かなと。
ボランティアさんが施設にいっぱいいたり、地域とのつながりが非常に深いところ。
要するに、高齢者の話し相手とか、タオル畳みというところで、たくさん地域の方を交流させているところ。
それから、辞める人が少ない施設。職員が楽しいということは、やっぱりいい施設。
法律では「高齢者1人に対して職員3人を配置する」というのがギリギリ決まりなんですけど、できれば「職員1人に対して高齢者2人」ぐらいの割合がいい。
それから、在宅の場合はダメなんですけど、介護施設は資格がなくても働けるんですね。ですから施設見学に行った時に、資格を持っている人の率を聞くのもいいのかもしれません。
それから、特に認知症の研修って非常に大事。たとえ国家試験を持っていたとしても毎日毎日勉強していかないと、認知症の人のケアっていうのは身についていかない。
そして、施設を選ぶ時、建物の豪華さにあまりだまされないように。
介護って建物ももちろん大事ですけど、やっぱり人がいちばん大事ですから。

小野 アナウンサー
ただ、今のお話を聞きながら「施設を選べる人はいいけどね...」っていう声が聞こえてくるような気がして。
選べない立場の人がほとんどなわけじゃないですか。
そうしたらもう、なんとか虐待がない施設ばかりになってほしいという時に、社会全体として何ができるのかと。
実は、視聴者の方々やゲストのおふたりから「どうしたら虐待はなくなるか?」アイデアを出していただいたんです。
これを専門家の皆さんに投げかけてみたいなと。

結城 さん

いま開発はしていますけど、本当にロボットが全部介護をやるっていうのは、50年、100年先じゃないと難しい。

村田 解説委員
介護職員の方の身体的な負担を軽くするためにの、力仕事しやすくするためのロボットはこれからどんどん増やしていったほうがいいと思うんですが、認知症の方のケアは人と人との関係なので、なかなか心のケアまではロボットにはできませんから、限界があると思いますね。

基本的には、国の介護保険制度の中だと、介護報酬の額が決まっているんですね。
だから、国が介護報酬を上げないと、職員の待遇もよくならない。

小野 アナウンサー
じゃあ、介護報酬を上げるためには、私たちが払っている介護保険料をもっと増やせばいいということですか?
虐待がなくなるためには、私たちはいくら払えばいいんですか?

結城 さん
いろいろ計算はしていますけど、例えば、給料を20%を上げる場合、介護保険料を今より2000円上げるとか3000円上げるとか、そのぐらいにしてかないと。
今回、介護職員のお給料が月1万2000円上がったんですけど、1万2000円上がってもまだまだ働いている人の平均に比べると年収が100万円低いので、結局いい人が採れないんですよね。

増田 さん
有能な若い方がいてて、この方の給料上げよう思った時に、年功序列で周りも上げなあかんから、こっちを上げられへんっていう状況はないんですか?

結城 さん
それは施設が持っている体力によってですね。
ちゃんとしている施設もあるんですけども、自転車操業でやっている施設もあります。

村田 解説委員
正社員として雇用しているところもあれば、いわゆる非正規労働として雇用しているとこも多いですから、正社員と同じように年功で上がっていくかたちにはなってないところも、かなりあるわけですね。
それから、いまお給料が1万2000円上がったと言いましたけど、実際に厳密に見ますと、みんながお給料アップしたわけではない。
国は1万2000円程度上げられるぐらいの予算はつけましたよ。
だけど、条件があって、ちゃんと正社員化するとか、待遇改善する、教育をする、訓練をするなどちゃんとやっているところはお給料を加算してあげますよっていう仕組みだったんですね。
ところが、介護報酬全体は国は減らす方向にあって、今年は2%以上減っています。
そういう中で、頑張ったところには少しお給料を上げられるだけの原資はありますよという政策。
なので、全体としては介護報酬の財源は減る方向にあると。

高口 さん

これはもう、絶対ダメですね。よけいにダメです。
ほとんど見張られて介護をするとか、失敗が許されない介護なんていうのは、成立しないですよね。
疑われて介護はできないと思いますね。それでは、カメラのないところでもっと陰湿化していったりとか、処罰を受けないように動いてしまったりとかして、よけい問題が深刻化したり、陰湿化したりするだけで、結局、介護ってそういうふうにとられているのかなって思うことのほうが介護職を傷つけると思いますね。

村田 解説委員

確かに監視カメラまで付けると人権的にも問題がありますし、仕事もしにくくなりますし、逆効果だと、それは私も思います。
ただ、考えなきゃいけないのは、「密室化」しているところで問題が起きやすくなるので、これをどうなくすかは考えなきゃいけません。

1つの方法は、ほかの職員が何をしているのかが分かるような職員どうしの関係性を作らないといけないと思います。
マンツーマンで介護をすることは非常にいいことなんですけども、ある人にばかり任せきりになっていると、問題が見えにくくなります。その職員と入所者の方だけの関係になってしまう。
だから、ちゃんとみんなの目で1人の入所者の方を見て情報を共有する。そういったことが1つ非常に重要だと思いますね。
虐待は、発覚するまでの間、同じ人に対して繰り返し行われるという傾向もあります。
特に認知症の場合、自分のことを説明できませんから、「こういうことがありました」と訴えられない。そういう弱い立場の方に繰り返し行われる。
そうすると、その方をある1人の職員がずっと見ていることになると、問題がどこまで行っても断ち切れないので、こういう問題をどうなくすかをもっと考えなきゃいけないと思います。

高口 さん

一時的には人数が増えて助かるという印象があるかと思いますけれども、でも、日本人に対しても教育や育成の環境が整っていないのに、そこに外国人の方が数として増えただけだったら、また深刻なことが起こることは簡単に予想できると思うんですよね。
ですから、「密室化」については見えるようにすること。中でも、ストレスは目に見えないじゃないですか。
ですから、職員を孤立化させない、孤独に追いやらない。職員だけに負わせる、職員だけに閉じ込めてしまう、という密室をなくす。
職員に対しては「あなた、ストレス感じてるよ」って誰かがちゃんと言って、そして、「ストレスは感じていいんだよ」「イライラしているとか、腹が立ったとか、カッとして殴りたくなったとか、そういうことをちゃんと言っていいんだよ」と。
そうすると、「あ、あなたも? 私もだったよ。じゃあ、私1人じゃないんだ。どうしてこんな気持ちになっちゃうんだろうね?」っていうことを一緒に考えられる、そういう職場環境を作ることがとっても大事で、密室っていうのは、視力として見えないっていうよりも、職員の心の動きというものをみんなで支えていこうという仕組みを、サービス環境の中に作っていくことがとても大事だと思います。

小野 アナウンサー
「つらい」って言いにくいでしょうね。
特に、心の優しい人たちが集まる職業のようにも思いますから、よけい言いにくいんじゃないのかって思ったりするんですけど。

高口 さん
だから、お年寄りのことを臭いとか、汚いとか、煩わしいとか思ったらいけないんだって思っちゃう。
そして、そう思った自分は悪い人間なんだ。そう思ってる自分を気づかれないように、っていうふうにして心を閉ざしてしまう。
"介護の毒"は"孤独"ですから、どうせ自分の気持ちは誰にも分かってくれないんだっていうふうに。これがいちばん悪いですね。
私が夜勤でこんなに苦労していること、こんなに怖かったこと、時にお年寄りのことをすごく嫌いに思った気持ちなんか、どうせ誰も分かってくれないっていう気持ちの中でたった1人で介護している時に、どうせ分かってもらえないという孤独の中にいる職員が、人から見られない介護をする時に、モラルを守るってとても大変なことなんですよね。
そうすると、お年寄りを分からせてやろうかとか、どうせ周りには分かりゃしないっていう気持ちで、簡単に虐待に展開していくことが、もう介護の現場では分かっているんですから。
ですから、介護というのは当然ストレスが派生するもので、そして、ストレスは感じていいんだ、そして、それは表現していいんだ、そしてそれを一緒に共有することでもう一度お年寄りに向き合える。
介護ストレスっていうのは、人は思いどおりにならないし、思いどおりにしてはならないっていうことを共有することから始まりますね。


プレゼンテーション②

徳永 アナウンサー
高口さんにわれわれ取材をさせていただいた時に、いま大変な状況の中で「家族」というキーワードが、もしかしたら少しでも光になるのかもしれないと感じました。

そこで、高口さんのお勤めの介護施設で行っている取り組みを、2つご紹介いたします。
まず、これです。

お年寄りとそのご家族と介護施設のスタッフの三者を交えて、食事会、交流会を開く。
スライドショーで、この施設で1年間でこんなことしてきました、あんなことしてきましたっていう報告もするそうです。
そういうことをしていくと、家族の方、よくこういうことをおっしゃるそうです。

この言葉、とても大事だということなんですよね、高口さん?

高口 さん
大事ですね。食事会というかたちにとらわれることはないんですけれども、「ありがとう」っていう言葉が先行すると、ご家族も「自分の親を預けているんだから、人質にとられているんだから、家族はへりくだらなきゃいけないんだ」というふうにとらえる必要がなくなる。
ご家族は、自分の親をお金まで出して他人に預けるという後ろめたさとか、自分は親を捨てたんじゃないかとかいう、ある種の内罰性というか後ろめたさを持って私たちにお預けになる方が多いです。
そんな中で、介護職と一緒にごはんを食べて笑顔が出ているなど家では見せないような表情を見た時に、「あ、預けてよかったな」「私は親を捨てたんじゃなくて、親のために介護を選んだんだ」というその実感を「ありがとう」として伝えていただくと、職員はすごく楽になりますね。
職員は「家に帰りたい、帰りたい」って言うおばあちゃんに、「今日は家には帰れないよ」とか「家は誰もいないよ」とか、話しかけながらひと晩過ごしますよね。「もう食べない」って言うお年寄りになんとか食べてもらおうとしますよね。
そうするとだんだん、「本当にこの人のためになっているんだろうか、私、この人のための介護したんだろうか」と職員は悩んだり迷ったりします。むしろそういう介護職のほうが優れているんですが、でもそれがずーっと続くと、何のために仕事をしているのか考えても分からなくなる。
そんな時に「おたくの施設にひと晩預けたから、私よく眠れたよ、買い物行けたよ」とご家族からのストレートな「ありがとう」、シンプルな「ありがとう」を聞くと、頭の中で分からなくなっていたことが「あ、役に立ってるんだ」と思えて介護職を支えてくれます。

徳永 アナウンサー
これ聞いてどう感じるか、皆さんにも考えていただきたい。
私たちスタッフも考えさせられました。こんなことも行っていらっしゃるんです。

職員と、ご家族と、亡くなったお年寄りで、お風呂に入るんです。

病院や介護施設では、お年寄りが亡くなった時、体をきれいにしてあげますよね。
その時に、施設の職員や家族が一緒にお風呂の部屋に入って語り合う。

小野 アナウンサー
なぜ?

高口 さん
職員とお年寄りって偶然の巡り合わせなんですよ。
お年寄りは順番が来たというぐらいで施設の利用が開始されて、そして、職員は家から近いという理由ぐらいで入職して、この2人は全く赤の他人で偶然の巡り合わせなんだけど、食事、排せつ、入浴などの介護を通じて、食べてくれた、笑ってくれたっていう体験を通じて、人として巡り合っていくわけですね。
一緒にトイレに行った、一緒にごはんを食べた、その時、一緒に生きていた。
その人がだんだん弱っていく中で、最初のきっかけは、弱ってきたお年寄りが亡くなった時に、ご家族がひと言「きれいな体で逝かしてやりたいな」と言うのを聞いた時に、介護職が、「じゃあ、今から一緒に入ろう」と。亡くなった方ではあるけれども、一緒に入る。
そうすると、みんな一生懸命その人に話しかけるんですね。
ご家族は「お父さん久しぶりやなぁ、一緒に風呂入るなんて」って言うし、職員は「あんなことがあった、こんなことがあった」って、ある意味泣き笑いですよね。
その中で、いままでいろんなことがあったことが一緒にお風呂に入るという中で消化されていくっていうか、ご家族は親を失ったこれからの自分の人生を歩み始めるし、職員はこの人にしてあげられなかったこととか、間に合わなかったこととかを思って、これから出会うお年寄りにそれを1つ1つ返していこうとする。その介護の区切りを持つ。
だから、"人体"のみではなく"人生"に関わる仕事だということで、最後まで見届ける。
ご家族と一緒に見届けることで、職員は介護の意味を実感できるっていうのか、とても大事ですね。

村田 解説委員
介護職というと、体が弱った方、自分ではいろんなことできなくなった方のサポートをするという、身体的な介助をするイメージがありますけど、やはりこれからは、施設の中でみとられる、亡くなる方がもっと増えていくんですよね。
そう考えた場合に、今のお話を伺って感じたのは、介護職に対する見方というか認識を少し改めてかなきゃいけないかなと。
終末期をどう、誰が支えていくか、誰がみとっていくかということをずっとサポートして、その人を励まし支えていく仕事なんだということですね。
そういう介護職に対する認識を私たち自身も考えていかないと、この職業に対する評価も変わってきませんよね。
今のお話は、そういうふうな非常に重要な話だったと思いました。

小野 アナウンサー
介護という仕事は、人間をみとる、おくる仕事だということなんですね。

高口 さん
"見届ける"というところがありますね。
ですから、偶然のように巡り合った者たちが、ただ栄養補給するとか身体洗浄するとか汚物処理するとか、そうではなくて、おいしいごはん、気持ちのいいお風呂、すっきりしたお手洗いというのは、人しかできない仕事なんですね。
そして、「今、おいしい」とか、「今、気持ちいい」ということが、いまを生きるっていうことで、その時一緒に生きた人間として、人として出会う。人しか人を支えられず、人として人を大切にする。
そして、人として見届ける。これを職業として選んだということですかね。
それを、数とか量、労働量だけで推し量られ、時に悪いことをするんじゃないかということで監視の目で向けられると、戸惑ったり迷ったりする自分たちを一切受け止められなくて、介護職たちはよりかたくなになっていってしまう。
そこをご理解いただけると大変うれしいなと思いますね。

増田 さん
実際に、亡くなられた後に家族の方が一緒にお風呂入るという例は、増えているんですか?

高口 さん
そうですね、推進しているというわけではなくて、あくまでご家族の希望で最後一緒に入りたいというのがまず原則なんです。
お風呂というとすごく象徴的な出来事かもしれないけども、例えば、もう二度とお花見なんか行けないと思っていたけれども、「じゃあ、私と一緒に行きましょう」って介護職が言うことで、「あんたと一緒なら行けるかもな」とか「二度と行けないと思ってた1泊旅行に、じいちゃんとばあちゃんが一緒に行った」とか、そういう、たおやかで揺るぎない、いつもの毎日の日常を共にした人がいるから、かけがえのない非日常というか忘れられない日というものを、日常を作り上げた者どうしが迎える非日常、日常と非日常を家族と共に作り上げるという取り組みはどんどん増えていると思います。

増田 さん
例えばまだ元気な時に施設に家族が会いに行って、「今日は一緒にお風呂入らしてもらえませんか?」って言って、家族が一緒にお風呂に入って体洗ってあげたりというのはできるんですか?

高口 さん
OKですね。

増田 さん
でも、ダメなところもあるんですよね?

結城 さん
そういうふうにできる施設がこれから全国に広がるのがベストですけど、やっぱり人手が足りないとか、あと、経営者の中には、どんどんどんどんお店を広げて営利を目的にする、ちょっと勘違いしている経営者もいます。
介護を取り巻く環境の問題としては、社会保障費はどんどん下がっていきますから、そうすると一部の志のある施設はできるけども、普遍的な政策としてはできないわけで、やっぱり国民が「介護は非常に大事である。
自分たちの親のことを考えれば、介護のためであれば、多少保険料や税金を上げても」という国民の介護に対する意識をもっと強めないかぎり、これは根本的な解決にはならないと僕は思います。

大林 さん
うちの実家がデイサービスをやっている時に、本当にお年寄りを面倒見てあげたいし、愛情を持ってできるけれども、でも、正直、お年寄りの人数が増えたらいまのことはできないと。
職業としてヘルパーさんとか介護士さんの場所が確立してほしいなとすごく思います。

視聴者の声

「シンプルな『ありがとう』、とても大切なこと。でも、それだけで終わらせてはいけない。待遇改善は欠かせないと思う。」

高口 さん
人手不足、人手不足っていいますけれども、人数が足りないんだったら、何がどこにどう足りないのか。「人手」っていうのは、手が足りないのか、人が足りないのか。人数の問題なのか、人材の問題なのか。じゃあ、どういう仕事にどういう人数がいるのか、能力として何が求められているのか。
そういうことが全然整理されないままに人数を増やしたりお金を増やしたりしてもダメだと思うんですよね。
そこは、何のためにどれだけ人数が欲しいのか、どんな人をどうやって育てていくのかっていうのを、ちゃんと介護現場から発言していかなきゃいけないんだなということは、今回の事件を通じてすごく思いました。

小野 アナウンサー
でも同時に私たちの側も、みとる職業、人間をおくるという職業に対する敬意がまず前提にあるかどうかで、そこから積み上がる議論が変わってくるような気がしました。

村田 解説委員
そうですね。先ほども言いましたけど、介護職に対する見方を一回整理しなきゃいけないと思うんですね。
これまでみたいな考え方ではなくて、人生の最期までみとる仕事なんだと。
今でも病院がみとることは多いんですけども、じゃあ、介護の施設と病院はどう違うのかと。
そこで働いている人たちのお給料の差はどう違う、なぜ違うのか。
だから、介護職に対する仕事の評価をしっかりして、それに対してどれぐらいのお給料が必要なのかということを改めて考えなきゃいけないんじゃないかと思います。

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