高知 いざなぎ流の謎と魅力
「高知 神々と棲む村」を担当した岸田です。
今回の舞台は物部。「もののべ」ではなく「ものべ」です。歴史に詳しい方でしたら、「古代の豪族『物部氏』と関係する土地なのでは?」とお思いになるかもしれません。実際、物部の地名はこの地を流れる「物部川」から来ているのですが、物部川下流域にはかつて、物部氏の流れをくむ一族が住んでいたと言われています。
<写真:物部の風景>
その物部に伝わる民間信仰「いざなぎ流」を中心に、今回の番組を作らせていただきました。山の事も神様の事も何も知らない私たちを温かく受け入れ、たくさんの話を聞かせてくれた物部の皆さん、本当にありがとうございました。
番組でも紹介した数々の御幣や不思議な祭文は、いざなぎ流の大きな謎であり魅力です。でも今回、何より頭を悩ませた最大の謎は「そんな複雑で長大な祈りがなぜこの地に残ったのか。なぜ必要とされ続けたのか。」ということでした。答えは今でもよくわかりません。
<写真:御幣>
<写真:小さな集落の祭り>
撮影でお世話になった物部の皆さんは、とてもよく笑う人たちでした。ある時、「昔は新鮮な魚なんて手に入らなかったでしょう」と尋ねると、「そうそう!『釣った漁師はもう死んどる』いうくらい古い魚。」「海におったよりも陸におった時間の方が長いくらいよ!」との答え。大笑いしつつも、その表現力の豊かさに驚かされました。
一方で、「昔は病人が出ると、耳元で米粒を振り、その音を聞かせて元気づけた。食べさせる程の米は無かった。」という話も聞きました。
「山で生きる厳しさ」と一言で言っても、その本当のところは住み続けてきた人にしかわかりません。しかし、厳しさを笑い飛ばすことがどれほど生きる力になるか。笑いもまた、ひとつの祈りの形なのかもしれないと思いました。
物部は山に囲まれた不便な場所、という印象ですが、かつては土佐湾から物部を通って阿波方面に向かう道が、塩などの生活物資を運ぶ大事な物流ルートとして栄えていました。その道は現在「塩の道」として整備され、気軽に山歩きが楽しめるようになっています。山歩きのお弁当にはぜひ、物部特産の柚子酢で作った「田舎寿司」をどうぞ。爽やかな香りと酸味で疲れも癒されます。
<写真:塩の道>
投稿時間:11:05