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- (6回目) ジェンツーペンギンたちの子育て
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1月24日。一日中、どんよりとした曇り。気温は、ほぼ0度と昨日より下がった。南に進むにつれて確実に寒くなっているようだ。周りの風景も、ずいぶん変わってきた。険しい岩肌を見せる山々が連なり、その間から巨大な氷河が海へと流れ出す絶景が続く。地図を見ると山は高いもので5千m近くある。まさしくヨーロッパアルプスが海から突き出しているかのようだ。
この日の午前中、高山と氷河の絶景に囲まれるようなペンギンの営巣地を取材した。今回、撮影したペンギンは、赤いくちばしがよく目立つジェンツーペンギンだ。旅のはじめにハーフムーン島で出会ったヒゲペンギンよりも体が大きい。数千羽のコロニーだ。海岸から少し離れた標高200mの岩場に巣を作っている。ペンギンたちは子育ての真っ最中だった。小石を集めて作った巣では、まだ小さなヒナが親の足元にいた。ヒナは、みなふさふさした綿毛に覆われていて、まるでぬいぐるみのようでとってもかわいい。僕たちは子育ての様子を観察することにした。
ペンギンの親たちは、オキアミなどをお腹から吐き出して、口移しでヒナに与えている。よく見るとほとんどの巣では親が1羽しかいない。これは、交代で海に食べ物を取りに行っているからだ。営巣地から海へと続く雪原を見下ろすと、たくさんのペンギンたちが列を作って歩いているのが見える。その跡が、茶色い道筋となって雪原についている。きっとこの夏の間、たくさんの親ペンギンが何度も往復したのだろう。なんて健気なんだ。
僕の目の前で、巣に海から1羽の親が戻ってきた。巣に着くと、2羽はお互いを確かめるようになき交わす。その様子がまた、微笑ましい。まるで「お帰りなさい。あなた」「おまたせ。子供たちの食べ物をたくさん取ってきたよ」と会話しているようなのだ。
しばらく、観察していると、多くの巣はヒナが2羽なのに、1羽しかいない巣もあることに僕は気がついた。ジェイソンが理由を教えてくれた。トウゾクカモメに襲われたに違いないという。確かに営巣地の上空には、数羽のトウゾクカモメが、ヒナを狙うかのように飛び回っている。フローズンプラネットの本編でも、トウゾクカモメがヒナを襲うシーンがある。一見残酷だが、トウゾクカモメのほうも、荒涼とした極地で自分のヒナを育てるために必死なはずだ。一生懸命に生きるペンギンとカモメたち。命のかけがえのなさとつながりを目の当たりにした一日だった。
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- (5回目) 2頭のザトウクジラ
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1月23日。朝から快晴、気温は1度ほど。今日から、南極半島の西岸を南に向かいながら撮影を行う。午前中、エンタープライズ島という小さな島で雪原を歩くシーンなどを撮影した。風もなく雲ひとつない青空に太陽が輝く様子は、とても南極とは思えないほどだった。夏の南極の雰囲気を伝えようと、ジャケットを脱いで撮影したが、涼しさが心地いいくらいだった。
午後、僕たちは、さらに南極半島を南に向かった。そしてこの日、ペンギンやアザラシに続いて、思いがけない出会いがあった。島を離れて3時間ほどたったころ、ディレクターが「クジラがいた。クジラがいた」と大声で叫びながら食堂に入ってきた。僕は、さっそくジャケットを着込むと、甲板に出た。すでにガイドのジェイソンもカメラマンたちも甲板に出ていて、みな同じ方向を向いている。目を凝らすと遠くにクジラが白く潮を吹くのが分かった。
クジラは、5分間隔くらいで潮を吹き上げている。ジェイソンによると、ザトウクジラだそうだ。どうやら2頭いるようだ。こっちに近づいてきている。近づくにつれ、だんだん体の大きさや二股にわかれた尾びれの様子が分かってきた。船から100mほどまで近づいてきただろうか、海に潜ったクジラの姿を、一瞬見失った。すると、突然、プシューと潮を吹くものすごい音が間近に聞こえた。船のすぐ横にクジラたちが2頭並んで浮上してきた!ジェイソンは「この時期は親子でいることが多いが、大きさからして親子ではない」という。
2頭は、今度は走っている船の周りを、浮上を繰り返しながら泳ぎ始めた。時には真下を泳いでいる。なんて大きいんだ。これまで、クジラを見たことはあるが、こんな間近で見たことはない。クジラは20分ほど船の周りを泳いでいただろうか。そして、びっくりする姿を見せてくれた。ジャンプを始めたのだ。ジャンプは4回連続。ザトウクジラ独特の頭のごつごつとした形と長い胸びれが分かる。テレビで見たことはあったが、目で見たのは初めて。なんて大きくて力強いのだろう。2頭は、その後、10分ほどあたりを泳ぐと遠くへ去っていった。
彼らは、赤道近くの海から、夏の間この南極にきて、回遊しながらオキアミなどを食べて過ごすという。クジラにとって南極の海は、食べ物が豊富な避暑地のようなものかもしれない。悠々と泳ぎ去っていく彼らの姿を見ながら、南極の海の豊かさを改めて感じた。
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- (4回目) 氷山に乗った!アザラシと会った!
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1月22日、午後3時。
南極半島での本格的な撮影が始まった。まずは、氷山に乗るシーンとアザラシと出会うシーンの撮影だ。場所は、南極半島のほぼ中央、西側にあるシエルバコーブと呼ばれる入江だ。天候はあいにくの曇りで気温は1度ほど。しかし、風がまったくなく寒さを感じない。海も安定している。ガイドのジェイソンによると、奥に大きな氷河があり、そこからたくさんの氷山が生まれているため、氷山の撮影には絶好の場所だという。僕は、撮影スタッフとジェイソンが操縦する小型ゴムボートに乗って、氷山に向かった。ボートは、海面に浮かぶ大小さまざまな氷をかき分けながら進んでいく。時々、ボートの下に氷が入り込むと、硬いグラスファイバーでできた底にぶつかり、ガリガリと大きな音がする。ディレクターが不安そうな顔でジェイソンの方を見ると、彼は「大丈夫だ」と言ってどんどんボートを走らせる。ジェイソンはノルウェーに住んでいる、20年以上南極や北極でガイドを続けてきたベテランだ。彼の指示に従っていれば安全だ。
しばらくすると、ジェイソンは周囲10mほどの平らな氷山の横にボートをつけ、氷山を押さえながら「これなら問題ない。押さえているからゆっくり乗って、中央にいくんだ」と言ってきた。氷山はボートの縁と同じ高さに横付けになっている。確かに波もないし問題なさそうだ。僕はゆっくりボートから一歩足を乗せる。思ったより安定している。そして、もう片方の足も乗せて、氷山に乗った。ボートよりずっと安定している、というより、ほどんど動かない。不安はまったく感じない。ボートが撮影のために離れていく。僕は周りを見回し、そして、深呼吸してみた。これが全部氷だと不思議に感じる。
氷山の上での撮影は10分ほどで終わった。今度はアザラシとの出会いのシーンだ。南極半島付近には、数種類のアザラシがいる。しばらく探していると、ジェイソンが見つけたようだ。遠くのほう、氷の上に小さな黒い点が見える。近づくにつれ、僕にもアザラシだとはっきり分かるようになった。30mほどまでくるとボートは驚かせないよう速度を落とす。エンジン音も静かになった。大きさは3mほど、カニクイアザラシというアザラシだ。カニを食べるという名前だが、じつはカニはほとんど食べることなく、オキアミなどの甲殻類を食べるという。ジェイソンによるとアザラシは海に潜って魚やエビを食べる合間に、こうして氷の上で休むという。
アザラシが乗った氷をゆっくりとまわりながらの撮影が終わると、ジェイソンは、アザラシと反対側の氷にボートをつけた。アザラシから20mほどだろうか。ジェイソンから「ゆっくり乗れ」と合図があった。事前の撮影打ち合わせで、チャンスがあったら、アザラシがいる氷山に僕が乗って撮影しようとは言っていたけど、こんなにも簡単に乗れるとは思っていなかった。実際に目の前にすると結構近いし、アザラシも大きい。また、ジェイソンは大丈夫だというようにうなずく。
僕はゆっくりと氷に乗ってみた。アザラシが時々、こちらを見る。僕はぴたりと動きを止める。まるで“だるまさんが転んだ”のようだ。でも、アザラシはすぐにうつむいて、じっとするようになった。よかった、驚いてはいないんだ。僕は寝転んでアザラシを観察することにした。アザラシはほとんど動かず、時々頭を動かしている。リラックスして休んでいるようにみえる。あまり邪魔してないようだ。しばらく一緒に寝転んでいるとアザラシが少し近寄ってきた。このアザラシも、昨日会ったペンギンのようにこんな近くで人間を見ることはなかったのだろう。僕は、せっかくの休みを邪魔してゴメンと心の中で言ってボートに戻った。
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- (3回目) いよいよ南極大陸到着
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1月22日。
昨夜10時、僕が乗っているクルーズ船ハンスハンセン号はハーフムーン島から南極半島に向けて航行を始めた。ハーフムーン島からは、ブランスフィールド海峡という、荒れることで知られる海を渡るという。船長から、「天候はそれほど悪くないが、船が揺れるので、荷物は動かないように固定して」との注意があった。出発してすぐに船は次第に揺れてきた。僕はどちらかというと船酔いはしないほうだけど、最近、船には乗っていない。ちょっと不安だ。取材スタッフのみんなと一緒に酔い止めの薬を飲んで、ベッドで横になる。
出発してから1時間もたつと、だんだん揺れが強まってきた。ベッドの上で体が左右に動く。酔い止めが効いてきたのか、揺れが気持ちよかったのか、僕は、いつのまにか寝てしまった。何時間寝ただろうか?突然の振動で眠りから覚めた。ベッドから体が浮くように上がると、突然下がってベッドにバタンとたたきつけられる。どうやら船が大きく上下に揺れているようだ。揺れはまったく静まらない。もう眠るどころではない。時計を見ると3時過ぎ。朝までまだまだ時間がある。じっと耐える中で、僕はちょっとしたコツに気づいた。体が浮き上がるとき、息をゆっくり吸い、下がるときに吐く。こうするとずいぶんいい。呼吸法が功を奏したのか、うとうとしたり、目が覚めたりの繰り返しで、船酔いすることなく一夜を過ごすことができた出発して12時間。朝10時ころ、船の揺れもおさまってきたので、船の食堂に出てみると、もうカメラマンが起きて朝食をすませていた。1時間くらい前にビルのように大きな氷山のすぐ横を船が通ったので、撮影したという。早く自分の目で見てみたい。期待が高まる。そんな氷山の話を聞きながら、朝食のパンを食べていると、他のスタッフたちもポツリポツリと起きてきた。みな、昨夜の船の揺れはこたえたとみえ、眠れなかった、まだ気持悪いと口々にしている。そんな話をしながら食堂でしばらくすごしていると、ガイドのジェイソンが部屋に入ってきて「南極半島が見えた」と教えてくれた。
一緒にデッキに上がると、前方にまるでアルプスのような山々がそびえている。鋭くとがった頂上、谷筋を流れるように覆う氷と雪。そのふちは、海のところで断崖となっている。氷河だ。そして、よく見ると、海にはたくさんの氷山が点々と浮かんでいる。船が近づくにつれ、だんだん、その大きさがわかってきた。大きなものは、高さがビルほどもある。船は氷山には近づかない。海の下には、氷山の一角というとおり、ものすごい量の氷が隠れているのだ。南極には、陸上の氷の9割があるとジェイソンがいう。目の前にあるといえ、僕には想像もつかない。
なんて南極の自然はスケールが大きいんだ。
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- (2回目) ペンギンとの出会い
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1月21日。僕たち取材スタッフは、いよいよ撮影を始めた。場所は、キングジョージ島と同じサウスシェトランド諸島にあるハーフムーン島だ。ガイドのジェイソンによると、ここには、ヒゲペンギンと呼ばれるペンギンが1千羽以上集まっているという。
朝8時、僕は取材スタッフともに、エンジンつきのゴムボートに乗って、寝泊りをしているクルーズ船を離れた。砂浜に着くと、いるいる、ペンギンだ。あちこちで歩いている。羽を横に広げてヨチヨチ歩くようすは、ものすごくかわいい。顔を見ると目の後ろからのどにかけて黒い線が伸びている。なるほど、これがヒゲのように見えるからヒゲペンギンと名前がついたんだと納得。ペンギンたちは、一列になって、ちょっと上の荒地から海の方に歩いている。ペンギンたちは島の上、丘のようなところに巣を作っていて、食事をするために1日に何回か海に出かけるのだという。僕たちは、まず、砂浜で僕が座っている前をペンギンたちが横切るシーンを撮影することにした。
しばらく、砂浜でじっと観察していると、ペンギンたちも慣れてきたのか、僕のほうに近づいてくる。1羽と目が合った。まるで「ん!なんだ!こいつは?」といっているかのようにぴたりと止まる。でも、じっとしていると、歩き出した。そして、僕の横2mくらいのところに来た時、また、僕の方をちらっと見た。まるで「ちぇっ、驚かせやがって」といっているようだ。僕も「驚かせてゴメン、ゴメン」と頭の中で話しかけると、歩き出し海に入っていった。なんとなく、ペンギンと心が通じたようで、うれしい。
実は、このペンギンたちにとっても、人間に近づくチャンスはあまりない。それは、観光などで南極を訪れる人たちには、野生動物のくらしに影響を与えないよう、近づく距離が国際的に決められているからだ。ペンギンや鳥は5m、アザラシは15m、それ以上近づいてはいけない。
僕もそれを守っていたけど、中には好奇心旺盛なペンギンがいることもある。そういう時はじっと動かずやり過ごすのだ。僕と目を合わせたペンギンも人間をほとんど見たことがないだろう。ひょっとすると、僕が、”人間との出会い”初体験だったかもしれない。もちろん、僕にとっても、こんな近くで野生のペンギンを見るのは初めてだ。そう考えると、なんてすてきな出会いだったんだろうとあらためて思う。
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- (1回目) キングジョージ島
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1月20日。僕の南極体験は、キングジョージ島から始まった。この島は南極半島の北にある長さ80キロほどの細長い島だ。チリやポーランド、中国やロシアなど9カ国が基地を作っている。 島の南は特に基地が多いため、南極の観測隊員の間では基地銀座とも呼ばれている。
僕が乗ったチャーター機は、その内のひとつチリの基地にある飛行場に着陸した。一歩タラップに踏み出すと、横殴りの強い風が襲ってきた。 しかも、ものすごく冷たい。吹き飛ばさないよう手すりをつかみながらタラップを降りる。初めて足を踏み入れた極地。
地面にはゴルフボール程の大きさがある石がゴロゴロしている。 そこは、これまで僕が行ったことがある世界のどの土地とも異なるものだった。痛いほど冷たく猛烈な強風、草木一つ生えていない荒涼とした大地、遠くにそびえる四角い岩山、そして、山を覆う一面の氷…。
南極の大自然が僕を圧倒する。言葉が出ない。地球にもまだこんな自然があったのか、まるで他の惑星に足を踏み入れたかのようだ。地球にはまだまだ僕が知らない自然がある。もっと南極を知りたい。
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- (出発前) 南極への玄関口 チリ・プンタアレナス
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1月18日。日本を出発してから34時間、長い空の旅を経て、
僕はチリ南部の地方都市プンタアレナスの空港に降り立った。南極の玄関口とも呼ばれる街だ。19世紀、マゼラン海峡を通る船の寄港地として栄えた港町で、ここを拠点に各国の観測船や観光船が南極へと向かうという。街は中心部が高く、高台には街を一望できる展望台がある。ヨーロッパ風の美しい町並み、そして、たくさんの船が行き交うマゼラン海峡を望むことができる。 ここで僕は番組のリポートを行った。南米のこの辺りは、ちょうど日本の真裏に当たる。
僕の足元のはるか下、地球の裏側の日本の皆さんに向かって話していると思うと、不思議な気持ちになった。それだけ遠くに来たわけだ。空を覆う厚い雲、夏だというのに肌寒く強い風、プンタアレナスの空と風が、僕が南極の近くに来たことを改めて教えてくれる。
どんな旅になるのだろうか?どんな生き物ちとの出会いがあるのだろうか?そして、どんな未知の自然が僕を待ち受けているのだろうか?僕の南極への旅がいよいよ始まる。
- 大沢たかお(俳優)
- 番組のナビゲーターは、俳優の大沢たかおさん。
休暇の度に海外を旅し、ギアナ高地やアフリカを訪れた経験もある冒険好きの一面があります。南極大陸は、かねてから大沢さんが旅を熱望していた場所でした。
ひとりの人間として南極を訪れ、その大自然と向き合ったときに何を感じるのでしょうか? 大沢さんが初めて目にする南極の絶景と動物たちの生命の息吹を、自らの言葉で臨場感豊かに伝えます。








