| ひきこもっていると、ときどき「近所の人が自分の噂をしている」「向かいの家が布団を強く叩いているのは自分への当てこすりだ」といった、ちょっと妄想的な訴えが出てくることがあります。これを、「被害関係念慮」といいます。「妄想」という言葉は厳密に言うと統合失調症(精神分裂病)などの精神疾患でしか使いませんので、「念慮」という言い方をします。あるいは「妄想様観念」「妄想様反応」などと呼ぶ場合もあります。
「ひきこもり」に伴って二次的にこうした症状が起きることは珍しくはありません。ただ、その場合は、本人がなぜ被害的な訴えをしているのか、その筋道や因果関係が比較的に分かりやすいことが多いのです。これに対して統合失調症による場合は、独特の「奇妙さ」、「飛躍」がよく見られます。とりわけメディアを巻き込むことが多く、「テレビ(あるいはラジオ)で自分の悪口が流れている」とか「電波や電磁波が送られてきて苦しい」といった訴えになりがちです。
ひきこもりに伴う二次的な反応ならば、ひきこもり状況が改善するなどによって、被害妄想的な訴えが減ってくることもよくあります。しかし、精神疾患による場合は、薬物治療が必須になります。
○被害関係念慮(被害妄想)への対応
被害的な訴えに対しては、強い否定や理詰めの説得などは、ほとんど無効か、かえって思い込みを強くしてしまいます。では、どうすればいいか。まず時間をかけて、繰り返し訴えに耳を傾けることです。そして、親からの"感想"として、「あなたの言うことはわかる気もするけれど、どうもお母さんには、そういうことがあるようには思えないんだけど」といったような、「曖昧な否定」の態度で接することをお勧めします。もちろん、そんなことで簡単に被害感が消えるわけではありませんが、「議論」や「説得」よりは受け入れやすく、信頼関係を傷つけることもないでしょう。
近所への「被害関係念慮」がある場合、引っ越しをしたいと訴える事例もありますが、引っ越しをしても改善されるとは限りません。むしろ頻繁に外出や外食に誘い出すなどして、外界との接触を促すことをお勧めしますい。ある程度外出が可能になるだけでも被害的な訴えが改善することはよく見られます。
また、「被害関係念慮」がこうじて、「(僕の悪口を言っている)隣の家に殴り込む」などと言い出す場合もあります。このような場合、「もし暴力をふるえば、ふるった側の非になるだけで解決にはならない。そういうことはやめてほしい」と繰り返し頼んでみることをお勧めします。それで考えがすっかり変わるわけではないにしても、多少は抑えが効くはずです。本人も心のどこかで、止めて欲しいと願っていることが多いものです。
実際に問題行動を起こしてしまった場合は、少々のことでも出来るだけ警察に介入を依頼することです。ことを荒立てたくないと願うご家族は多いのですが、それでは問題は解決しません。あらかじめ本人にもそのように告げることで、多少は行動を抑えられるでしょう。多くの場合、一度通報しただけでかなり長期間、そうした問題を防げるはずです。
<参考>
「ひきこもり」と「統合失調症(精神分裂病)」について
「近所の人が自分の噂をしている」などの被害妄想的な訴えがある場合、「統合失調症」の疑いも否定できません。とりわけ、10代後半くらいから発症する統合失調症のなかには、経過が非常にひきこもりと似たものがあります。次第に無口になって成績が下がり始め、だんだんと部屋にこもりがちになり、いよいよおかしいと気づいた時には、もう慢性化している、というケースも少なくありません。
統合失調症かどうかの鑑別が大事なのは、この病気こそ、早期診断・早期治療が治療の鍵を握っているからです。統合失調症には現在よい薬が開発されていますから、もはや不治の病ではありませんが、対応が遅れて慢性化してしまうと、治療がきわめて難しくなってしまいます。
ただし、この鑑別はかなり困難で、精神科医が直接本人を診察する必要があります。少しでも疑わしいと思われる場合は速やかな受診をお勧めします。もしご本人が受診に抵抗が強いようでしたら、保健所に保健師の家庭訪問を要請するという方法もあります。保健師の定期的な訪問を続けてもらううちに、本人の改善、安定につながったという事例も多いようです。ここでは一般の方でもある程度判別できるポイントをいくつかご紹介します。
「幻聴」
その場にいない人の声が聞こえてくる幻聴がある場合は、ほぼ統合失調症と考えていいでしょう。幻聴があると、本人の言動にさまざまな影響が出ます。もちろん、幻聴があってもそれを認めない場合もありますが、たとえば、意味の取れないことをブツブツ言う独り言とか、特に面白いことがないのにニヤニヤクスクス笑ったりする独り笑いなどがある場合には、幻聴の存在を疑ってみる必要があります。また、部屋の明かりを消して長時間立ち尽くしている、家の廊下の隅で不自然な姿勢で長時間佇んでいる、などの症状が見られる場合、幻聴の命令に支配されそうになっていることが多いものです。ひきこもりの人はこのような緊張した姿勢はあまり好みません。
「コミュニケーションに対する態度」
ひきこもりの人も統合失調症の人も、コミュニケーションを避けているように見えます。しかし、ひきこもっている人の多くは、実は他人との出会いやコミュニケーションを切望しているものです。ただし、そこには条件があって、自分のことを100%理解してくれる人とのみ、純度の高いコミュニケーションがしたいということなので、なかなかチャンスがもてないのです。
しかし統合失調症の場合、時期にもよりますが、無理に対人関係を勧めすぎると、病状が悪化してしまうことがあります。つまり、視線や会話などの対人刺激が、有害な刺激になってしまう傾向があるのです。そのため薬での治療などを通して病状の安定を図ることが最優先で、リハビリはその後、慎重に進めていくというのが普通です。
ただ、統合失調症の場合もひきこもりの場合も、家族が叱咤激励などで無駄なストレスをかけないようにするという点では、基本的な対応はそれほど変わらないといっていいでしょう
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