2011年11月28日 (月)NHK交響楽団 12月定期公演の聴きどころ
デュトワによる意欲的なプログラム
12月の定期公演ではN響名誉音楽監督シャルル・デュトワが3つのプログラムを指揮する。マーラーからバルトーク、プロコフィエフ、ヒンデミットらの20世紀前半に作曲された傑作を柱とした、きわめて意欲的な作品が並ぶ。
とりわけ瞠目に値するのは二つの大作だろう。
一つはマーラーの《交響曲第8番「一千人の交響曲」》。その怪物的な規模の大きさゆえに実演で聴く機会は限られているが、実演でなければその真の偉容に触れることのできない大作でもある。
もう一つはバルトークの《歌劇「青ひげ公の城」》。演奏会形式で上演される。オペラとはいえ、約1時間ほどの長さで、歌手2名のみで上演が可能、また物語上の場面転換もないこともあり、むしろ演奏会形式でこそ音楽の骨格が伝わりやすい作品ともいえる。
20世紀作品を指揮する際のデュトワの手腕の鮮やかさは定評のあるところ。管弦楽の色彩の豊かさ、ダイナミズムを十全に引き出してくれるにちがいない。
記念碑的な公演になること必至のAプロ
Aプログラムは「マーラー没後100年」シリーズの掉尾を飾る《交響曲第8番「一千人の交響曲」》。バンダを伴う巨大編成のオーケストラに8人の独唱者、さらに混声合唱と児童合唱を要する音楽史上最大級の大規模作品が上演される。「一千人の交響曲」とは初演時の興行主がつけたキャッチフレーズだが、これは比喩的表現ではなく、事実一千人を超える数の演奏者が舞台上に並んだことが記録されている。初演は嵐のような熱狂を呼び起こし30分近くにわたる喝采が続いてマーラーの名声を絶頂にまで高めたと伝えられる。
この曲をN響が演奏するのは約20年ぶりのこと。前回は1992年1月に当時のN響正指揮者、故・若杉弘が指揮している。さらにその前回となると1949年、山田一雄指揮日本交響楽団(現在のN響)による日本初演にまで遡ることを考えれば、一回一回の演奏そのものが日本のマーラー受容の歴史を形作っていると実感せずにはいられない。今回の演奏も記念碑的公演として長く記憶に残ることだろう。
デュトワ&N響コンビの本領が発揮されるBプロに期待
Bプログラムはヒンデミットの《ウェーバーの主題による交響的変容》、プロコフィエフの《ピアノ協奏曲第3番》、バルトークの《オーケストラのための協奏曲》の 3作品が並ぶ。ドイツ、ロシア、ハンガリーの作曲家による20世紀音楽であるが、いずれの作品も斬新さとともに明快さと古典的性格を伴うポピュラリティの高い傑作である。
ヒンデミット作品はウェーバーの《4手のためのピアノ小品》および《劇音楽「トゥーランドット」》から主題を採り、これを交響曲風の4つの楽章に仕立てた作曲者円熟期の佳品。
プロコフィエフの《ピアノ協奏曲第3番》では独奏者にニコライ・ルガンスキーを迎える。確かなテクニックと磨きぬかれた音色によってロシア・ピアニズムの伝統を着実に受け継ぐルガンスキーならではの、鋭敏で透徹したプロコフィエフが披露されるだろう。
また、バルトークの《オーケストラのための協奏曲》ではオーケストラの華麗でスリリングな名技性を期待したい。デュトワ&N響コンビの本領が遺憾なく発揮されるプログラムだ。
大作《青ひげ公の城》と、新鋭ヴァイオリニストを愉しむCプロ
Cプログラムはブラームスの《ヴァイオリン協奏曲》とバルトークの《歌劇「青ひげ公の城」》(演奏会形式)が組み合わされる。
ヴァイオリン独奏は今もっとも注目を浴びる才色兼備の新鋭リサ・バティアシュヴィリ。グルジア生まれで、ミュンヘンでアナ・チュマチェンコに師事、著名オーケストラとの共演およびメジャー・レーベルへの録音も多く、近年一気にスターダムへと上りつめた感がある。
バルトークの《歌劇「青ひげ公の城」》は閉塞した空間での男女の葛藤を描いた怪奇な心理劇。青ひげ公の城には7つの扉がある。青ひげは新妻ユディットに扉を開けてはならぬと警告するが、ユディットは開扉を求め一つまた一つと扉を開ける。曲はプロローグとそれぞれの扉に対応する7曲からなる。ユディットは扉の向こう側に拷問部屋、武器庫、秘密の花園を発見する……。果たして最後に発見されるのは? 客席でその寓意をじっくりと噛みしめたい。
(飯尾洋一)
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投稿時間:10:10
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