2011年10月28日 (金)NHK交響楽団 11月定期公演の聴きどころ


三者三様の多彩な響きに期待

イルジー・コウトの来日が叶わなくなったのは残念だが、快復と次の機会を心待ちにする私たちにはしかし、新しい期待と喜びもある。11月定期はプログラムを変更することなく、結果として3人の個性豊かな指揮者を迎える。準・メルクルがA定期、ワシーリ・シナイスキーがC定期を指揮。ネーメ・ヤルヴィが初登場して、B定期を指揮するのも新たな話題である。

メルクルは 1959年ミュンヘン生まれで50代、シナイスキーは 1947年生まれで60代、ヤルヴィはコウトと同じ1937年、エストニアのタリン生まれの70代で、ほぼ10年ずつ異なる世代の旗手として活躍してきた。ヤルヴィとシナイスキーはレニングラード音楽院の出身で、前者がムラヴィンスキー、戦後世代の後者はムーシンの弟子でゲルギエフの先輩格だ。

3つのプログラムを別々の指揮者が振り分けるのは、今シーズンでは5月だけ。三者三様の指揮者がNHK交響楽団からどう多彩な響きとパッションを抽き出してみせるか、それぞれに楽しみなことである。

新世代による鮮やかなマーラー・シリーズ
nkyo_201111_1.jpgN響と準・メルクルは、2012年5月B定期でのドビュッシーとラヴェルに先立ち、没後100年のマーラー・シリーズの《リュッケルトによる5つの歌》、《交響曲第4番》で再会する。メルクルのマーラーは、2003年10月のNHK交響楽団との《交響曲第2番「復活」》が、この年の「N響ベスト・コンサート」第2位に選ばれている。フランス国立リヨン管弦楽団の音楽監督として、2007年に《交響曲第3番》を指揮した演奏もCD化されているので、《第4番》が実演で聴けるのは、代役とはいえ幸運なめぐりあわせだ。

1997年以来、毎年のように共演を重ねる確かなパートナーであり、歌劇場での大躍進が先行した指揮者で、声楽つきの大作も得意とするだけに適性も高く、新世代のマーラーを鮮やかに描き出すだろう。イギリス連邦モーリシャス共和国に生まれ、ドイツで躍進するダニエレ・ハルプヴァクスのソプラノにも期待がかかる。

巨匠ネーメ・ヤルヴィとN響との初顔合わせ
nkyo_201111_2.jpgB定期はネーメ・ヤルヴィとの初顔合わせとなる。長大なキャリアからすれば意外だが、それだけに驚きと喜びも大きい。74歳の巨匠は現在、スイス・ロマンド管弦楽団の芸術監督。デトロイト交響楽団の名誉音楽監督、エーテボリ交響楽団名誉首席指揮者、日本フィルハーモニー交響楽団の客員首席指揮者も務めている。

450枚を超えるというアルバム録音を含め、膨大なレパートリーを網羅するが、ドヴォルザークに関しては昨シーズンも《交響曲第9番》、《テ・デウム》、《スターバト・マーテル》、交響詩《水の精》ほか多様な作品を指揮しているだけに、本定期の《第7番》が楽しみだ。ブロムシュテットの《第9番》(9月A定期)、エリシュカの《第6番》(1月C定期)との聴き比べも興味深い。

ベートーヴェンの《ヴァイオリン協奏曲》で独奏を務める新星セルゲ・ツィンマーマンにも大きな期待がかかる。1991年ケルンの生まれ。父は名手のフランク・ペーターで、ヤルヴィの長男パーヴォと同世代だから、巨匠にとっては孫世代との共演となる。

名実ともに当代ロシアを代表する指揮者 シナイスキーの登場
nkyo_201111_3.jpgワシーリ・シナイスキーは、コンドラシン時代のモスクワ・フィルハーモニー管弦楽団で研鑽を積み、1990年代には音楽監督・首席指揮者として躍進。その後、スヴェトラーノフの後任としてロシア国立交響楽団の音楽監督も務めた。2003年、ハイドン、ヒンデミット、R.シュトラウスという凝ったプログラムで、NHK交響楽団を初めて指揮。8年半ぶりの再登場だ。

2010年9月にはボリショイ劇場の首席指揮者・音楽監督に就任、名実ともに当代のロシアを代表する指揮者と目される。BBCフィルハーモニックとマルメ交響楽団の名誉指揮者も務める。この7月には読売日本交響楽団を指揮し、得意のロシア音楽を披露したばかりである。

マーラーの《アダージョ》では強烈な感情表現が、《大地の歌》でも壮大なスケールと逞しいエネルギーが諸処に宿るに違いない。アルト独唱のクラウディア・マーンケは、2008年にNHK交響楽団定期公演の《トリスタンとイゾルデ》で、ブランゲーネを歌っているし、ジョン・トレレーベンはイギリスのコーンウォール出身のテノールで、2003年と 2004年には新国立劇場でジークフリート役を演じたので、ともにご記憶の方も多いだろう。

(青澤隆明)


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