2008年04月18日 (金)耳慣れた作品からの新たな発見、耳慣れない作品と出会うことへの喜び


5月の定期演奏会は、フライシャー、メネセス、ゲルバーといったトップ・ソリストの名前が目につくものの、指揮者や作品も決して見(聴き)逃せない魅力あるものである。


■スケールを増し、円熟期にさしかかったチューさん

5gatsuodaka-.jpgまずはAプロとCプロに登場する尾高忠明氏。愛称のチューさんのためもあってか、なんとなく若い指揮者というイメージがつきまとうが、1947年の生まれだからもう還暦を過ぎた。昨今は指揮者をはじめとする演奏家の活動年齢が高くなっているものの、一時代前には老練とか老境といわれた歳回りである。N響もそうだが一般社会ではもう定年退職である。しかし、こと指揮者に限ってはむしろこれからが真価を発揮して評価されることが少なくない。
 事実、チューさんもここ数年は以前には無かった、スケールが大きく流麗な音楽を聴かせてくれるようになってきている。円熟期に差しかかったとも言える。協奏曲はもとより、あまり耳にする機会のない交響作品ではあるが、氏が特別の思い入れのある作品が多いだけに内容の濃い演奏になるだろう。


■ N響初共演となるイオン・マリン

Bプロのイオン・マリンは今年で47歳ながらも、すでにヨーロッパを中心に高い評価を得ている。しかもトップ・クラスのオーケストラでの好評なのだから、次代を担う指揮者の一番手として大きな期待が持たれているのもうなずけよう。N響とは初共演とはいうものの、実績のある指揮者だけに期待を裏切ることはないだろうし、今後はより多く日本の指揮台に立つことになりそうだ。
 演奏作品に目を転じると、ピアノ協奏曲はともかく、あまり馴染みの少ない作品が並べられた〈渋い〉選曲ではあるが、それぞれが作曲家の代表作とも言える名作・傑作である。


■パヌフニク、バルトーク、2つの民俗音楽の違い

Aプロ。日本でアンジェイ・パヌフニク(1914-91)の作品が演奏されることはきわめて少ないし、彼の名前を知らない人の方が多いかもしれない。ところが、パヌフニクはチューさんのお父さんの尾高尚忠氏(作曲家としてはもとより、第2次大戦前後に日本のオーケストラを支えた名指揮者)がウィーンに留学していたときに机を並べた親友だったことから、尚忠氏を通してかなり早くからその名が伝えられていた。さらにパヌフニクは第2次大戦後にイギリスに亡命していて、イギリスでは相応の評価がされている。イギリスでの活動が長いチューさんならではの選曲である(チューさんは1978年のN響定期でパヌフニクの《祭典交響曲》を取り上げている)。
 オーケストラの各楽器をソロに見立てた《オーケストラのための協奏曲》はバルトークのものが有名だが、ヴィトルト・ルトスワフスキ(1913-94)のこの作品もそれに劣らない名曲である。バルトーク作品と同様に民俗的な要素が多く取り入れられているために親しみやすさもある。ハンガリーとポーランドの民俗音楽の違いを味わうのも一興だろう。


■名作をそろえたB・Cプロ

Bプロ。ドヴォルザーク、シューマン、ショスタコーヴィチなどにくらべるとエルガー(1857-1935)の《チェロ協奏曲》を耳にする機会はずっと少ない。しかし間違いなくチェロ協奏曲のベスト・テンに入る名作である。メインのショスタコーヴィチ(1906-75)の交響曲は20世紀を代表する傑作。マリンは初共演するN響を存分なく鳴り響かせてくれることだろう。
 Cプロでもエルガーの名作が聴ける。チューさんが得意にしている作品の1つだけに、氏の変貌が実証されるだろう。
 最後に3人のソリストについてだが、誰もが改めて触れる必要のないほどの大家中の大家である。こうした経験豊かなソリストの演奏では、知っている(つもりの)作品でも思わぬ発見があることが少なくない。
耳慣れた作品からの新たな発見の喜び。耳慣れない作品と出会うことへの喜び。5月の定期演奏会A・B・Cにはオーケストラ音楽の愉しみはもとより、いろいろな興味が秘められている。
                              (近藤滋郎 こんどう・じろう 音楽評論家)

 

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投稿時間:16:00

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