2010年07月01日 (木)NHK交響楽団 2010/11シーズンの定期公演聴きどころ
■巨匠たちの熱いプロ
2010/11シーズンの指揮者陣は、巨匠とともに世界指揮界注目の中堅や若手も多数登場する布陣。イギリス音楽界の泰斗ネヴィル・マリナーで開幕し、ネルロ・サンティ、首席客演指揮者アンドレ・プレヴィン、名誉音楽監督シャルル・デュトワ等が今年も豪華なプログラムを携えてやってくる。
●開幕を飾るマリナーの9月
新シーズンの幕開けを飾る9月のマリナーのAプロは、シューマン・イヤー(生誕200年)に因みオール・シューマン。各国で確固たる評価を固めているアンティ・シーララを迎えての《ピアノ協奏曲》、《交響曲第3番「ライン」》に加え、《序曲、スケルツォ とフィナーレ》という、ライヴではなかなか巡り合えない名曲が冒頭に置かれており、マリナーのシューマン・プロは一味ちがう。
Cプロでは"ベト7"ことベートーヴェン《交響曲第7番》が取り上げられている。今や日本ではベスト10にランクインする人気作品だが、巨匠マリナーで、ぜひこの機に本格派の演奏を記憶に刻んでほしい。20歳代前半の新進ミハイル・シモニアンのフレッシュなシベリウス《ヴァイオリン協奏曲》も組み込まれたCプロは、楽しさ盛りだくさんの一夜になるだろう。
●10月Aプロは、今年もサンティならではのオペラ作品
ほとんどのオペラを暗譜し、練習でも歌手とともに歌いながらタクトを振るサンティは、ヨーロッパでも超一流のオペラ指揮者として名高い。今年はなんと大作ヴェルディ《アイーダ》を全曲、N響定期で演奏会形式で上演してくれる。そのため、Aプロ初日金曜日は、通常より1時間早い6時開演になっている。
Cプロでは、名曲ドヴォルザークの《チェロ協奏曲》が、日本チェロ界の至宝・堤剛との共演で行われる。チェロ・ファン必聴の一夜となろう。
●11月Aプロは、待望のプレヴィン弾き振りガーシュウィン
N響首席客演指揮者プレヴィンが、Aプロでガーシュウィン《ピアノ協奏曲へ調》を弾き振りする。この難曲をプレヴィンは3度も録音していて、いずれも、他を寄せ付けない名盤となっているので、記念碑的コンサートになること必定だ。
●デュトワ+ショパン国際コン優勝者+ N響が飾る、ショパン・イヤー注目の12月Aプロ。Cプロには大曲ブリテン《戦争レクイエム》
ショパン・イヤー(生誕200年)の今年、ショパンに因むあまたのコンサート・CD発売が続いているが、デュトワ指揮のN響と、ショパン国際ピアノコンクールの覇者がブッキングされたAプロほど、アニヴァーサリーを締め括るにふさわしい公演はないだろう。同プロにはまた、ストラヴィンスキー《うぐいすの歌》やドビュッシー《海》もプログラミングされているが、デュトワなら、これらの作品が秘める稀有の美しい世界を描きだしてくれることであろう。Bプロは、知性派ピエール・ロラン・エマールとのラヴェル
《ピアノ協奏曲ト長調》。どれほどの名演になるのか、予想のつかない組み合わせが実現する。
ここ数年、合唱付きの大曲を聴かせてくれるデュトワ今年の大作は、ブリテン《戦争レクイエム》(Cプロ)。デュトワによって、公演機会が稀有のコンサート用オラトリオやレクイエムを体験しているN響ファンに、日本とも関わりの浅からぬブリテン作品が贈られる。
■円熟の一流陣が次々に登場する2011年
●2月、チョンのマーラー《第3番》
まず目を引くのが、Cプロのマーラー《交響曲第3番》。マーラー・イヤーでもある2010・11年(生誕150年・没後100年)、N響ではマーラーの交響曲・歌曲のほとんどを網羅する。その1つが、チョンによる《第3番》。100分余の大作ゆえにライヴに恵まれない大作だが、チョンと新国立劇場等で共演を重ねているメゾソプラノ藤村実穂子――バイロイトをはじめヨーロッパ各国で活躍――と新国立劇場合唱団を得て、2月Cプロで聴けるチャンスが巡ってくる。稀有のチャンスを逃す手はない。
Aプロでは、名手ジュリアン・ラクリンをベートーヴェン《ヴァイオリン協奏曲》で聴くことができる。そして、チョンが「レコード・アカデミー賞」を受賞した曲目、掌中のベルリオーズ《幻想交響曲》が用意されている。1歩も2歩も先を行く格別の《幻想》を聴くなら、チョン+N響の2月Aプロを!
●4月にノリントン再登場。今度はマーラー《巨人》をめぐり、ヘンシェルも伴って
2006年11月に初登場するや、「最も心に残ったN響コンサート」第1位に輝いたノリントン。待望の再来団Cプロは、マーラー《巨人》を軸に、関連深い歌曲《さすらう若者の歌》と、マーラーがこの《第1番》からベルリン稿で削除した《花の章》を(《第1番》の外に置いて)組み合わせたもの。マーラーの歌ならこの人で聴きたい、と願うディートリヒ・ヘンシェル(バリトン)を伴い、N響+ノリントン+ヘンシェルという最高の布陣で聴くCプロが春に訪れる。
Aプロには、この古楽の泰斗がアプローチするエルガー《交響曲第1番》に興味が尽きないし、録音のたびに新鮮な響きをもたらし話題となるベートーヴェンも取り上げられており、注目の公演となることだろう。
Bプロはその掌中のベートーヴェンのみによるプログラム。昨今、ヴァイオリン界に新たな逸材を送り出しているチュマチェンコ門下のユリア・フィッシャー等と室内楽を活発に行っているマルティン・ヘルムヒェンが、新境地での《皇帝》を聴かせてくれることだろう。
●尾高忠明が、尾高尚忠作品、イッサーリスとのウォルトンを贈る5月
新シーズン定期に登場する唯一の日本人指揮者である尾高忠明は、2010年1月にN響正指揮者となり、来る9月には新国立劇場オペラ部門芸術監督に就任。日本指揮界の中枢を担う存在となる。Aプロには、父君・尾高尚忠氏の《交響曲第1番》を自身の手で振る。記憶に留められる記念すべき公演となるだろう。
Cプロには、ウォルトンの《チェロ協奏曲》を、人気のスティーヴン・イッサーリスの共演で公演することに。イギリス音楽のスペシャリストとしての真骨頂が発揮される。イッサーリス級の名手を得なければ聴かせられない稀にみる難曲だけに、聴き逃せないCプロである。
●アシュケナージが入魂のプロコフィエフ、シベリウスでシーズンを閉じる6月
桂冠指揮者アシュケナージが来シーズン携えてくるのは、交響曲全集を吹き込んでいるシベリウスや、首席&アーティスティック・アドヴァイザーを務めるシドニー交響楽団でシリーズを展開しているプロコフィエフ等。そのうち、Cプロに組まれているプロコフィエフの《ピアノ協奏曲第2番》は、ガヴリリュクとシリーズ第1弾となるCDもリリースしており、練り上げられた珠玉の共演への期待は大きい。
Bプロには、神尾真由子がプロコフィエフ《ヴァイオリン協奏曲第2番》に挑む。第13回チャイコフスキー国際コンクール優勝後、新境地を拓き続ける神尾だけに、N響との刺激的な共演に期待が高まる。
■注目の集まる次世代実力派
●11月B・Cプロは既に実力派として評価の高いシュテンツ
11月B・Cプロを振るマルクス・シュテンツは、ヘンツェのオペラ作品で指揮デビューし、ラッヘンマン等の同時代作品の初演や録音でも活躍。現代の音楽ファンには知名行き渡った存在である。これほどの実力派が初来日だというから、驚きである。Cプロでマーラー《交響曲第2番「復活」》を用意しているが、現代の作品で培った感覚でどのようなマーラーを聴かせるか。未来を先取りする"新世代マーラー"の体験になるかもしれない。
Bプロには、チュマチェンコ門下のなかでも注目株のヴェロニカ・エーベルレが再登場。ベスト・ソリスト候補としても要チェックのBプロである。
●ニューイヤーを飾るフレッシュな息吹――2011年1月は、ロシアの新星・ペトレンコが初登場
1月Aプロで、自国のチャイコフスキーを振ってN響に初登場するのが、ロシアの新星ワシーリ・ペトレンコ。2008年にリリースしイギリスで大きな話題となった《マンフレッド》が、N響で披露される。次世代のフレッシュな息吹で幕開けするニューイヤーになる。
●1月B・Cプロのマリンの凝りに凝った"編曲"プログラム
1月B・Cのイオン・マリンのプログラムは凝りに凝ったもの。ブラームスで統一されたBプロだが、実は、《ハンガリー舞曲集》からは後半のドヴォルザーク編曲の5曲、《ピアノ四重奏曲第1番》のシェーンベルク編曲版に、ブラームスがハイドンの主題をもとに変奏した作品56a。Cプロは、ムソルグスキーの《はげ山の一夜》ではリムスキー・コルサコフ編曲とともに一部に原典版を使用。ラヴェル編曲のムソルグスキー《展覧会の絵》と、ラヴェルの《クープランの墓》というプログラム。コラボレーションの妙を存分に楽しめる、類まれなプログラムを打ち出している。
●同時代作品に手腕の冴えるノットが、響きの妙を追究した2月Bプロ
「Music Tomorrow」でもお馴染みのジョナサン・ノット。現代の音楽の優れた演奏団体の1つ、アンサンブル・アンテルコンタンポランで指揮する機会を度々もつなど、同時代作品への嗅覚も鋭い。室内楽的響きの妙が求められるショスタコーヴィチ《交響曲第15番》に向けて、美しい音空間で会場を満たすアルヴォ・ペルト作品、パーカッション・ソロを伴うドルマンの《フローズン・イン・タイム》日本初演を配し、同時代の空気のなかでショスタコーヴィチに到達する新鮮なプログラミングはさすが。
●ヴェデルニコフ、定期に登場(5月B)
昨年3月、「N響オーチャード定期」にズヴェーデンの代役として急きょ初来日したヴェデルニコフ。低迷していたボリショイ劇場のオーケストラを短期間で立て直した辣腕の中堅である。
N響にはスヴェトラーノフのような伝説的巨匠や、燃え盛る火のようなゲルギエフなど、印象深いロシア系指揮者が訪れているが、新世代の2マエストロ――ペトレンコ、ヴェデルニコフ――がいよいよN響と共演する時代を迎えることになる。
すでに"本格派"としてファンを獲得しつつあるマケドニア出身のピアニスト、シモン・トルプチェスキがこのBプロで弾くのがこれまた、チャイコフスキーのなかでも珍しい第2番のピアノ協奏曲。バランシンが振り付け、バレエ界でも(のほうが)知名度の高い《ピアノ協奏曲第2番》と、ラフマニノフ《交響的舞曲》というプロは、歌劇場を本拠にするヴェデルニコフの感覚溢れるものだろう。ロシアの劇場芸術の香り高いプログラムが楽しみである。
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投稿時間:18:17
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