2016年02月19日 (金)NHK交響楽団 4月定期公演の聴きどころ


Slatkin.jpg4月の定期公演は、アメリカの名匠レナード・スラットキンが登場する。1979年から1996年まで音楽監督を務めたセントルイス交響楽団の技量を大幅に上昇させ、その後も各地の楽団で敏腕を発揮している彼は、N響にも1984年以来たびたび客演。緻密(ちみつ)かつ生彩に富んだ演奏を聴かせ、高い支持を得てきた。今回は、「前半=自身にゆかりの深い作品、後半=ロマン派以降の名交響曲」の形で、それぞれ趣向を凝らした3つのプログラムを披露。70歳を超えて円熟味も増したハイクオリティな音楽を満喫させる。

往年の名指揮者が編曲したバッハの作品に注目

Aプロはまず、往年の名指揮者が編曲したバッハの作品に注目したい。スラットキンは、バッハ作品のオーケストラ編曲版のCDを2点リリースするなど、その演奏に力を注いでいる。今回のプログラムの中心をなすのは『バッハ・コンダクターズ・トランスクリプションズ』にも収められたレアな編曲。ウッド(名物の「プロムス」を初回から振った英国の指揮者)はノーブルで、バルビローリは優しく、オーマンディは弦楽群が流麗(りゅうれい)に綾(あや)をなすなど、各自の指揮の特徴を反映した編曲が興味深いし、これらの後に有名なストコフスキー編の《トッカータとフーガ》を聴くと、それも彼らしいゴージャスな編曲であることを改めて実感させられる。

後半のプロコフィエフ《交響曲第5番》は、ロシアの民族的な明快さと作曲者特有のモダニズムが最高の形で融合した、20世紀屈指の傑作。セントルイス交響楽団時代に名盤を残したスラットキン得意の作品でもあり、曲の構造を解きほぐしながらダイナミックに響かせる彼の美点が、存分に発揮される。またこの曲は、N響が誇る木管楽器──特にクラリネット──のソロも聴きどころ。

バーンスタインの舞台音楽と、彼が普及に寄与したマーラー

Bプロは、20世紀アメリカの才人バーンスタインの舞台音楽と、バーンスタインが指揮者として普及に寄与したマーラーの交響曲という、意味深い構成。スラットキンは、アメリカ音楽を積極的に録音するなどの業績が評価され、アメリカ・オーケストラ連盟からゴールド・バトンを授与されている。今回はその代表的作曲家の作品のなかでも躍動感に溢(あふ)れた音楽が並ぶ。おなじみ《「キャンディード」序曲》と『ウェストサイド物語』の《シンフォニック・ダンス》の弾んだリズムや名旋律は文句なしの聴きもの。華麗でノリの良い『オン・ザ・タウン』の《3つのダンス・エピソード》を、N響の生演奏で耳にできるのも貴重だ。

マーラーもスラットキンの十八番(おはこ)ゆえに、天上的で幸福感に充ちた《交響曲第4番》を見通しよく聴かせてくれるに違いない。また超高音で知られるモーツァルト《魔笛》の夜の女王役で評価を上げた安井陽子の清澄(せいちよう)な独唱と、ホルンをはじめとするN響の名手のソロも注目される。

ベルリオーズ、武満徹、ブラームスというスラットキンの名刺代わり的内容

Cプロは、スラットキンの名刺代わりともいえる内容。まずベルリオーズの《歌劇「ベアトリスとベネディクト」序曲》は、フランス国立リヨン管弦楽団の音楽監督を務める彼の、現在のポジションを示唆(しさ)しており、ウィットと爽快(そうかい)感を湛(たた)えた曲も持ち味に相応(ふさわ)しい。武満徹の《系図》は、ほかならぬスラットキンが世界初演を指揮した作品。ニューヨーク交響楽協会(ニューヨーク・フィルハーモニック)の創立150周年を記念して委嘱され、1995年に初演されている。曲は、谷川俊太郎の詩に拠(よ) る家族の情景を、少女の朗読と抒情(じょじょう)味漂う調性的な音楽で描いた、最晩年の名作。この心に染みる作品を、武満没後20年の年に初演者の指揮で味わえば、感銘もひとしおだ。

後半のブラームス《交響曲第1番》は、リヨンともうひとつの手兵デトロイト交響楽団の両方で同作曲家の交響曲全曲演奏を行っているスラットキンの、現在の主軸を示す演目。ドイツ音楽の演奏の伝統が身についたN響を指揮して、王道の人気作にどうアプローチするのか? 興味は尽きない。
                                 (柴田克彦/音楽評論家)

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投稿時間:10:40


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