N響の聴きどころ

2016年02月19日 (金)NHK交響楽団 4月定期公演の聴きどころ


Slatkin.jpg4月の定期公演は、アメリカの名匠レナード・スラットキンが登場する。1979年から1996年まで音楽監督を務めたセントルイス交響楽団の技量を大幅に上昇させ、その後も各地の楽団で敏腕を発揮している彼は、N響にも1984年以来たびたび客演。緻密(ちみつ)かつ生彩に富んだ演奏を聴かせ、高い支持を得てきた。今回は、「前半=自身にゆかりの深い作品、後半=ロマン派以降の名交響曲」の形で、それぞれ趣向を凝らした3つのプログラムを披露。70歳を超えて円熟味も増したハイクオリティな音楽を満喫させる。

往年の名指揮者が編曲したバッハの作品に注目

Aプロはまず、往年の名指揮者が編曲したバッハの作品に注目したい。スラットキンは、バッハ作品のオーケストラ編曲版のCDを2点リリースするなど、その演奏に力を注いでいる。今回のプログラムの中心をなすのは『バッハ・コンダクターズ・トランスクリプションズ』にも収められたレアな編曲。ウッド(名物の「プロムス」を初回から振った英国の指揮者)はノーブルで、バルビローリは優しく、オーマンディは弦楽群が流麗(りゅうれい)に綾(あや)をなすなど、各自の指揮の特徴を反映した編曲が興味深いし、これらの後に有名なストコフスキー編の《トッカータとフーガ》を聴くと、それも彼らしいゴージャスな編曲であることを改めて実感させられる。

後半のプロコフィエフ《交響曲第5番》は、ロシアの民族的な明快さと作曲者特有のモダニズムが最高の形で融合した、20世紀屈指の傑作。セントルイス交響楽団時代に名盤を残したスラットキン得意の作品でもあり、曲の構造を解きほぐしながらダイナミックに響かせる彼の美点が、存分に発揮される。またこの曲は、N響が誇る木管楽器──特にクラリネット──のソロも聴きどころ。

バーンスタインの舞台音楽と、彼が普及に寄与したマーラー

Bプロは、20世紀アメリカの才人バーンスタインの舞台音楽と、バーンスタインが指揮者として普及に寄与したマーラーの交響曲という、意味深い構成。スラットキンは、アメリカ音楽を積極的に録音するなどの業績が評価され、アメリカ・オーケストラ連盟からゴールド・バトンを授与されている。今回はその代表的作曲家の作品のなかでも躍動感に溢(あふ)れた音楽が並ぶ。おなじみ《「キャンディード」序曲》と『ウェストサイド物語』の《シンフォニック・ダンス》の弾んだリズムや名旋律は文句なしの聴きもの。華麗でノリの良い『オン・ザ・タウン』の《3つのダンス・エピソード》を、N響の生演奏で耳にできるのも貴重だ。

マーラーもスラットキンの十八番(おはこ)ゆえに、天上的で幸福感に充ちた《交響曲第4番》を見通しよく聴かせてくれるに違いない。また超高音で知られるモーツァルト《魔笛》の夜の女王役で評価を上げた安井陽子の清澄(せいちよう)な独唱と、ホルンをはじめとするN響の名手のソロも注目される。

ベルリオーズ、武満徹、ブラームスというスラットキンの名刺代わり的内容

Cプロは、スラットキンの名刺代わりともいえる内容。まずベルリオーズの《歌劇「ベアトリスとベネディクト」序曲》は、フランス国立リヨン管弦楽団の音楽監督を務める彼の、現在のポジションを示唆(しさ)しており、ウィットと爽快(そうかい)感を湛(たた)えた曲も持ち味に相応(ふさわ)しい。武満徹の《系図》は、ほかならぬスラットキンが世界初演を指揮した作品。ニューヨーク交響楽協会(ニューヨーク・フィルハーモニック)の創立150周年を記念して委嘱され、1995年に初演されている。曲は、谷川俊太郎の詩に拠(よ) る家族の情景を、少女の朗読と抒情(じょじょう)味漂う調性的な音楽で描いた、最晩年の名作。この心に染みる作品を、武満没後20年の年に初演者の指揮で味わえば、感銘もひとしおだ。

後半のブラームス《交響曲第1番》は、リヨンともうひとつの手兵デトロイト交響楽団の両方で同作曲家の交響曲全曲演奏を行っているスラットキンの、現在の主軸を示す演目。ドイツ音楽の演奏の伝統が身についたN響を指揮して、王道の人気作にどうアプローチするのか? 興味は尽きない。
                                 (柴田克彦/音楽評論家)

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2016年01月22日 (金)NHK交響楽団 2月定期公演の聴きどころ


Paavo.jpg2015年10月の首席指揮者就任を記念する一連の演奏会で大きな成功を収めたパーヴォ・ヤルヴィ。マーラー、R.シュトラウス、バルトークなどの大作でオーケストラ音楽の醍醐味(だいごみ)を堪能させてくれた。そんな彼が2月もまた、NHK交響楽団の魅力を最大限に引き出すプログラムを披露する。


パーヴォ・ヤルヴィが得意とするブルックナーを重厚、フレッシュな演奏で
Aプログラムでは、パーヴォ・ヤルヴィが得意とし、N響でもマーラーとともに取り上げていくという、ブルックナーの交響曲から《第5番》を聴く。教会のオルガン奏者としても活躍したブルックナーらしい音の大伽藍(だいがらん)が築かれる《第5番》は彼の交響曲のなかでも最長のもののひとつ。パーヴォは、圧倒的なコラールによって締め括られるそのフィナーレを「全音楽史上、最高に深遠かつ高貴な存在」という。hr交響楽団(フランクフルト放送交響楽団)との録音でも聴けるように、重厚さだけではない、フレッシュで人間味豊かなブルックナー演奏が楽しめるであろう。

R.シュトラウスを満喫する好評のシリーズ
Bプログラムは、すでに恒例となったR.シュトラウス・シリーズ。《ドン・フアン》《英雄の生涯》《ドン・キホーテ》《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》《「ばらの騎士」組曲》に続く、第3弾は、《変容》と《交響詩「ツァラトゥストラはこう語った」》。
シュトラウス最晩年の《変容》は、しばしば《メタモルフォーゼン》とも呼ばれる。第二次世界大戦末期に書かれたこの作品は、ベートーヴェン《英雄交響曲》の〈葬送行進曲〉からの動機も奏でられ、戦争で破壊された祖国への哀しみが表されている。副題に「23のソロ弦楽器のための習作」と記されているとおり、23人の弦楽器奏者がそれぞれ自分のソロ・パートを受け持つ。名手揃いのN響の弦楽器セクションが聴き手を深い感動に導いてくれることであろう。
ニーチェの同名の著作にインスピレーションを受けて書かれた《ツァラトゥストラはこう語った》はシュトラウスの若い頃の作品。華麗なトランペットのファンファーレ、壮大なオルガンの響き、魅惑的なヴァイオリンの独奏など、シュトラウスの管弦楽法の魅力が満喫できる。《変容》と《ツァラトゥストラはこう語った》との間の約半世紀の隔たりにも思いを寄せたい。

パーヴォのもうひとつの扉、北欧音楽に触れる機会
エストニア出身のパーヴォ・ヤルヴィは、自国のペルト、トゥールだけでなく、フィンランドのシベリウス、デンマークのニルセンなど、北欧音楽の紹介に熱心に取り組んでいる。Cプログラムでは、ニルセン《交響曲第5番》を取り上げる。シベリウスと同じ1865年に生まれたニルセンは、6つの交響曲を残している。《交響曲第5番》は第一次世界大戦後の1921~22年に書かれた。2つの長大な楽章からなり、第1楽章の小太鼓の行進曲風のリズムがマーラーやショスタコーヴィチを思い起こさせる。終盤のクラリネットのソロも聴きどころ。第2楽章は急緩2つのフーガのあとに力強いクライマックスを迎える。モダンさと美しいメロディとが融合したスケールの大きな音楽。
その他、協奏曲などでの共演者の豪華さが際立っている。現代最高のバリトンのひとりであるマティアス・ゲルネがマーラー《亡き子をしのぶ歌》を歌うのは聴き逃せない。ヤルヴィが続けているマーラー作品のシリーズの1曲ともいえよう。今、世界的にもっとも注目されている若手女性奏者である、ピアノのカティア・ブニアティシュヴィリ、ヴァイオリンのジャニーヌ・ヤンセンの2人の登場も楽しみ。ジョージア出身のブニアティシュヴィリは、CDなどで人気が高い。2012年の東京でのクレーメルとの共演がとても印象に残っているが、シューマン《ピアノ協奏曲》でも彼女の魅力が十分に味わえそうである。オランダ出身のヤンセンは、すでに2005年(メンデルスゾーン)、2009年(チャイコフスキー)、2012年(ブルッフ第1番)にもN響定期公演に出演しているので、日本の聴衆にもお馴染みであろう。今回もロマン派のヴァイオリン協奏曲だが、ついにブラームスを取り上げる。スケールの大きな演奏が期待できる。
                                                            (山田治生/音楽評論家)

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2015年12月18日 (金)NHK交響楽団 1月定期公演の聴きどころ


新春を迎える1月の定期公演では、国際的に注目を浴びるふたりの気鋭が指揮台に立つ。山田和樹指揮のAプロ、トゥガン・ソヒエフ指揮のB、Cプロ、それぞれの指揮者の個性が存分に発揮されそうなプログラムが用意されている。

ヨーロッパで活躍する山田和樹が定期初登場


yamada.kazuki.jpgAプロの山田和樹はN響定期初登場。待ちに待った初登場がようやく実現したというべきだろう。今、これほどヨーロッパの楽壇で目覚ましい活躍を続けている日本人指揮者がほかにいるだろうか。2009年にブザンソン国際指揮者コンクールに優勝し、パリ管弦楽団をはじめ主要オーケストラに次々と客演を果たし、名門スイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者に就任した。ベルリンに拠点を置き、ヨーロッパで多忙なスケジュールをこなしながらも、日本国内での演奏活動も盛んで、日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者をはじめとするポストについている。いずれのオーケストラに対しても、その持ち味を尊重しながら、しなやかでみずみずしい音楽を紡ぎ出す山田和樹が、N響からどんなサウンドを引き出すのか、大いに注目される。
山田和樹がN響定期のために選んだのは、ビゼーの《小組曲「こどもの遊び」》、ドビュッシー(カプレ編)の《バレエ音楽「おもちゃ箱」》、ストラヴィンスキーの《バレエ音楽「ペトルーシカ」》の3曲。共通するテーマは「人形」ということになるだろうか。ビゼー《こどもの遊び》では、第2曲〈人形〉をはじめ、〈ラッパと太鼓〉や〈こま〉など、素朴で純真な遊びの世界が描かれる。ドビュッシー《おもちゃ箱》では、命が吹きこまれた人形が登場する。人形の女の子を巡る、木彫りの兵士と道化師プルチネルラの恋のさや当ての行方はいかに。そしてストラヴィンスキー《ペトルーシカ》でも、魂を持った人形が恋をする。鮮烈なオーケストレーションによって描かれる人形たちの三角関係は、不気味な悲劇へとたどりつく。他愛のない児戯で始まって、いささかグロテスクな怪奇譚(たん)へと至る、3曲を通したプログラム構成が実に興味深い。

なお、ドビュッシー《おもちゃ箱》では、女優の松嶋菜々子がナレーションを務める。作品がぐっと親しみやすく感じられることだろう。

ソヒエフ、ゲニューシャスが魅せるロシア音楽の真髄

Tugan.Sokhiev.jpgBプロとCプロでは、北オセチア出身の俊英トゥガン・ソヒエフが登場する。11月に来日したベルリン・ドイツ交響楽団の音楽監督を務めるほか、トゥールーズ・キャピトル劇場管弦楽団音楽監督やボリショイ劇場音楽監督といった要職を務めている。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団やウィーン・フィルハーモニー管弦楽団などトップレベルのオーケストラにも客演し、飛ぶ鳥を落とす勢いを感じさせる旬の指揮者である。
N響との最近の共演は2013年11月定期で、スケールの大きなチャイコフスキー他を聴かせてくれたのが、記憶に新しい。
Bプロはロシア・プロ。ラフマニノフ《ピアノ協奏曲第2番》では、ルーカス・ゲニューシャスがソリストを務める。ゲニューシャスは2010年ショパン国際ピアノ・コンクールで第2位、さらに2015年のチャイコフスキー国際コンクールでも第2位に入賞した新星である。華麗な技巧を披露してくれるだろう。メイン・プログラムとなるのはチャイコフスキー《白鳥の湖》の抜粋。ボリショイ劇場音楽監督として、納得の選曲だ。


ソヒエフとの共演歴もあるシュトイデとソモダリを独奏に招いて

Cプロでは、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のフォルクハルト・シュトイデとペーテル・ソモダリを独奏に招いたブラームス《ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲》、およびベルリオーズの《幻想交響曲》が演奏される。ソヒエフは2013年にウィーン・フィルに客演した際にも、同じソリストと同じプログラムを指揮しており、これらは得意のレパートリーといっていいだろう。《幻想交響曲》はトゥールーズ・キャピトル劇場管弦楽団との来日公演でも演奏されているが、N響ではまた一味違ったテイストが生み出されるはず。濃厚にして強烈な《幻想交響曲》を期待したいものである。
                                                 (飯尾洋一/音楽ジャーナリスト)

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2015年11月27日 (金)NHK交響楽団 12月定期公演の聴きどころ


Dutoit.jpg12月の定期公演は、N響名誉音楽監督シャルル・デュトワが登場する。デュトワはこれまでたびたび演奏会形式でオペラや劇音楽に取り組んできた。昨年は、ドビュッシー《ペレアスとメリザンド》で、繊細さと洗練を極めた演奏で聴衆を魅了したが、今回は、R.シュトラウスの《楽劇「サロメ」》を取り上げる。さらにバルトークやマーラーなど、デュトワ得意の近現代作品による充実のプログラムに期待が高まる。


世界的な歌手が集う華やかな《サロメ》公演

AプロのR.シュトラウス《サロメ》は、アイルランドの作家オスカー・ワイルドが聖書のエピソードをもとに性的倒錯と退廃の世界を描いた戯曲をもとに作曲された。1905年の初演当時は、不協和音を含む最先端の音楽と題材の強烈さゆえに、ウィーンで上演が禁じられるほどの問題作とされたが、いまや世界の歌劇場のレパートリーとして上演される人気の作品である。
王女サロメは、正確な音程と十分な声量に加えて燃えるような激情を表現する力が求められる難役。ドイツのグン・ブリット・バークミンは、2010年にチューリヒ歌劇場で初めて同役を歌い、その強靭(きょうじん)な声と表現力で、「現代最高のサロメ歌い」と評され、注目を集めた。義理の娘サロメに欲望を抱く王ヘロデ役は、同役を得意とするテノールのキム・ベグリー。サロメの母親ヘロディアス役のジェーン・ヘンシェルは、2003年6月定期でデュトワが指揮した同じくシュトラウスの《エレクトラ》に続いての出演で、マエストロの信頼も厚い。彼女の濃厚な歌唱と存在感は、ヘロディアスの歪(ゆが)んだ性格を浮き彫りにするだろう。彼らをはじめ、世界で活躍するオペラ歌手たちが本公演のために集結する。そして大編成のオーケストラが生み出す豊潤な響きを指揮するデュトワは、終盤の有名な〈サロメの踊り〉での陶酔や、圧倒的な迫力と艶めかしく官能的な表現などを、N響から引き出してくれるだろう。


個性あふれるバルトーク作品へのデュトワのアプローチに期待

Bプロは、バルトークの3作目の、そして最後の舞台作品となったバレエ音楽《中国の不思議な役人》が組曲版で演奏される。ストラヴィンスキーのバレエ音楽や新ウィーン楽派の無調音楽など、同時代の音楽の影響や彼独自のハンガリーの民謡研究の成果が反映された、刺激的で個性的な作品である。一方、バルトークの僚友コダーイの《ガランタ舞曲》は、民謡を題材に、民族舞曲とモダニズムを融合させた意欲的な作品。リズムが炸裂するこれらの曲にデュトワがどのようなアプローチをみせるのか期待したい。
後半は、サン・サーンスの《交響曲第3番》。フランスの洗練とまぶしい輝きにあふれ、オルガンが華やかに活躍する。その壮麗な音色は、ホール全体に響き渡り、鮮やかな色彩を描き出すオーケストラとともに美しく広がる。デュトワによる華麗な音楽を楽しみたい。



大規模なマーラー作品をN響の力強い響きで存分に味わう

 デュトワ指揮のマーラーの交響曲と言うと、2011年12月定期の《交響曲第8番「一千人の交響曲」》の感動的な演奏が記憶に新しい。Cプロでは、待望のマーラー《交響曲第3番》が演奏される。デュトワはこれまでもN響定期でマーラーの交響曲を取り上げてきたが、《第3番》は、今回が初めてとなる。
マーラーの交響曲のなかでも大規模なこの作品は、6楽章構成で、オーケストラにアルト独唱、女声合唱、児童合唱が加わる巨大な編成である。第4楽章でニーチェのテキストを歌い、第5楽章で合唱とともに登場するアルト独唱は、バイロイト音楽祭に出演するほか、マーラーを得意とするビルギット・レンメルト。彼女の温かい声が、音楽のすみずみまで広がり、心地よく伝わるだろう。
 《第3番》は、全体の3分の1近くを占める第1楽章に始まり、交響曲としては異例の長大な緩徐楽章で結ばれる壮大な楽曲である。N響の力強く端正で、研ぎ澄まされた響きを最後の余韻までデュトワの洗練されたタクトで存分に味わいたい。
これまで私たちの記憶に刻まれる数々の名演を残しているデュトワとN響。その歴史に新たなページが加わることは間違いない

                                                                (柴辻純子/音楽評論家)


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2015年10月26日 (月)NHK交響楽団 11月定期公演の聴きどころ


 

11月の定期公演は、ディエゴ・マテウス、ネヴィル・マリナー、ウラディーミル・フェドセーエフの3人の指揮者が登場する。1924年生まれのマリナー、1932年生まれのフェドセーエフと1984年生まれのマテウス、さらには1923年生まれのメナヘム・プレスラーと今年のショパン国際コンクールの最高位受賞者も加わった顔ぶれは、長老格vs超新星の趣(おもむき)。音楽界の歴史と未来を伺い知る、興味津々のひと月となる。


ベネズエラ出身の俊英マテウス快演に期待

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Aプロを指揮する今年31歳のディエゴ・マテウスは、活躍顕著なグスターボ・ドゥダメルと同じく、世界的な注目を集めるベネズエラの音楽教育プログラム「エル・システマ」出身の俊英。2011年27歳でヴェネチア・フェニーチェ歌劇場の首席指揮者に抜擢(ばってき)され、同年にはサイトウ・キネン・オーケストラ、2013年にはN響も指揮した。そこで評価を得ての定期初登場となる今回のメインは、チャイコフスキーの《交響曲第5番》。日本での前記2回の客演で《第4番》を取り上げ、堅牢(けんろう)な構築力や端正な表現で驚嘆させただけに、続く《第5番》でも聴き手の耳を洗う快演が期待される。

 

前半のマーラー《リュッケルトによる5つの歌》のソロは、イギリス生まれの若手実力派ソプラノ、ケイト・ロイヤル。世界のマエストロの信頼厚い彼女は、サイモン・ラトル指揮する《交響曲第2番「復活」》のCDでもソロを歌っており、今回はそうした実績あるマーラーの歌曲集での柔らかく深い歌唱が聴きものだ。また歌曲集と同時期の作でテイストが共通する《交響曲第5番》のアダージェットを前に置いたプログラミングも心憎い。
 

マリナーとプレスラー円熟味あふれる両大家の共演

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Bプロは、公演時91歳の両大家の共演が大きな話題。イギリスの巨匠ネヴィル・マリナーは、28年ぶりにN響に登場した2007年以来たびたび客演し、円熟味あふれる至芸を披露している。いっぽうのメナヘム・プレスラーは、1955年に結成され2008年に解散したボザール・トリオで活躍した名ピアニスト。その後は第一線でソロ活動を行い、昨年末にはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のジルヴェスター・コンサートに出演するなど意気軒昂(いきけんこう)だ。本演目のモーツァルトは、昨年からソナタ全曲録音を開始(!)した作曲家。第1弾CDを聴くと、慈愛と滋味あふれる音楽のみならず、明瞭なタッチに驚かされる。映画『アマデウス』のサントラを担当したマリナーも、モーツァルトは十八番。飛び切りチャーミングな《第17番》における円熟の共奏は、歴史的瞬間と言っても過言ではない。

後半のブラームスの交響曲は、マリナーがN響で再三取り上げており、昨年11月にも《第1番》の名演を聴かせたばかり。今回は《第4番》の古典的な造型を明快に描き、温かくエレガントな表現で魅了するに違いない。


重鎮フェドセーエフによる迫力満点のプログラム

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Cプロは、83歳を迎えたロシアの重鎮ウラディーミル・フェドセーエフの指揮。1974年以来コンビを組むモスクワ放送交響楽団(現チャイコフスキー交響楽団)との豪快かつ躍動感に充ちた演奏で知られる彼だが、N響とは2013年に初共演。スケールの大きな巨匠芸で感嘆させ、今年4月の共演でも高い人気を集めた。それゆえ同年続いての登場は実に嬉しい。しかも今回は、グラズノフの《四季》から収穫の喜び漲(みなぎ)る〈秋〉、民族色全開のハチャトゥリヤン《ガイーヌ》、華麗なチャイコフスキーの《序曲「1812年」》という、マエストロのタクトで最も聴きたい、ファン感涙のプログラム。彼のトレードマークともいうべき《ガイーヌ》の〈レズギンカ舞曲〉を含めた迫力満点のロシア管弦楽曲集を、充実のN響サウンドで味わえるのは、この上ない喜びだ。

前半は、今年10月に開催されるショパン国際コンクールの覇者が、ファイナルで演奏した協奏曲を聴かせる。多くのスターを輩出した当コンクールの優勝者の実力は保証付きだし、フェドセーエフの老練なサポートも強い味方。新たな才能とのいち早い出会いに胸が躍る。

                          
(柴田克彦/音楽評論家)


※ソリスト・曲目一部変更のお知らせ
2015年11月定期公演Bプログラムに出演を予定しておりましたピアニストのメナヘム・プレスラー氏は、健康上の理由で来日が不可能となりました。このためソリスト・曲目を下記のとおり変更させていただきます。

指揮:ネヴィル・マリナー
ピアノ:ゲアハルト・オピッツ
モーツァルト/ピアノ協奏曲 第24番 ハ短調 K.491
ブラームス/交響曲 第4番 ホ短調 作品98

交響曲に変更はございません。 何とぞご了承くださいますようお願い申し上げます。


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2015年09月30日 (水)NHK交響楽団 10月定期公演の聴きどころ


P.Jarvi.jpgいよいよこの10月は、首席指揮者就任記念公演として、A、B、Cすべてのプログラムをパーヴォ・ヤルヴィが指揮する。
パーヴォ・ヤルヴィは、すでに正式な就任に先立って今年2月の定期公演に登場し、マーラー、ショスタコーヴィチ、R.シュトラウス他のプログラムで、大きな話題を呼んだ。「N響の音が変わった」と、新時代の到来を早くも実感した方も少なくないだろう。弦楽器の配置ひとつをとっても、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンを両翼に配置し、コントラバスを舞台下手奥に並べるという、古い伝統に即したスタイルが採用されていた。10月の公演でも同様の配置がとられるのだろうか。
3つのプログラムには、パーヴォ・ ヤルヴィ得意のレパートリーが並んだ。いずれの公演も、強い印象を残してくれるにちがいない。



首席指揮者就任記念の幕開けを飾る壮麗なマーラーの《復活》

まず、Aプロではマーラーの大作、《交響曲第2番「復活」》が演奏される。今年2月のAプロでの《交響曲第1番「巨人」》に続くマーラー・シリーズとなった。《巨人》ではオーケストラの精妙なサウンドを実現しながら、特徴的なダイナミックスや大胆なテンポ設定、楽想のコントラストの強調などによって、斬新な作品像が打ちたてられていた。今回の《復活》でもパーヴォならではの説得力のあるマーラーを聴かせてくれることだろう。
声楽陣にはエリン・ウォールのソプラノ、リリ・パーシキヴィのアルト、東京音楽大学による合唱が加わる。巨大編成が生み出す壮麗なスペクタクルという点でも、聴きごたえは十分。この曲の終楽章ほど熱い高揚感をもたらしてくれる作品はない。

 

ライヴ・レコーディングが発表されたオール・リヒャルト・シュトラウスのBプロ

BプロはR.シュトラウスのプログラムが組まれた。《交響詩「ドン・キホーテ」》《交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」》、そして《歌劇「ばらの騎士」組曲》の3曲。シュトラウス作品のなかでも、ユーモアやペーソス、しゃれっ気といった要素が目立つ選曲となっている。
 《交響詩「ドン・キホーテ」》では、ドン・キホーテ役のチェロをノルウェーの名手トルルス・モルクが、従者サンチョ・パンサのヴィオラをN響首席奏者の佐々木亮が務める。コミカルな味わいに加えて、シュトラウスがくり出す多彩なオーケストレーションが聴きどころ。中世ドイツの民話に登場するいたずら者に着想を得た《交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」》ともども、パーヴォの語り口の豊かさが発揮されることだろう。《歌劇「ばらの騎士」組曲》では、オペラの名場面を管弦楽のみで楽しむことができる。なお、前回のB定期に続いて、今回もソニー・ミュージックによるライヴ・レコーディングが実施され、リヒャルト・シュトラウス交響詩チクルスとしてCDのリリースが予定される。



華やかで高度な名技性を堪能したい多彩な作品が並ぶCプロ

エルッキ・スヴェン・トゥールは、1959年エストニア生まれの作曲家。プログレッシヴ・ロック・バンドのリーダーとして音楽活動をスタートさせたという異色の経歴を持つ。《アディトゥス》は、2005年6月にパーヴォ・ヤルヴィ指揮によるN響定期にて日本初演された作品であり、今回再度とりあげられることになる。パーヴォ・ヤルヴィはこれまでにもこの同郷の作曲家の管弦楽曲を多数指揮して、作品の紹介に尽力している。 

五嶋みどりが独奏を務めるショスタコーヴィチの《ヴァイオリン協奏曲第1番》も話題を呼びそうだ。1940年代後半に作曲されながらも、体制による批判を恐れて発表が控えられ、スターリン没後の1955年にようやく初演されたという問題作である。第3楽章の後半には長大なモノローグ風のカデンツァが置かれ、独奏者にスポットライトが当たる。
バルトークの《管弦楽のための協奏曲》では、オーケストラの高度な機能性と名技性が全開となる。華やかな音の饗宴(きょうえん)を堪能したい。 
パーヴォ・ヤルヴィとN響による新時代の行方を占う3つのプログラム。期待に胸が躍る。

                        (飯尾洋一/音楽ジャーナリスト)


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2015年07月01日 (水)NHK交響楽団 2015/16シーズンの聴きどころ


いよいよ首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィのもと、2015年9月より新シーズンがスタートする。注目のパーヴォ・ヤルヴィの定期公演への登場は、10月と2016年2月の2回、計6プログラム。それぞれに意欲的なプログラムが用意された。客演指揮者およびソリスト陣も充実しており、話題に事欠かないシーズンとなりそうだ。
 

注目のパーヴォ・ヤルヴィ 首席指揮者就任記念は10月

ml_2015-201601.jpg来季も9月は名誉指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットが招かれ、A、B、ふたつのプログラムで3年間にわたる新たなベートーヴェン・シリーズを開始する。曲目は《交響曲第1番》《第2番》《第3番「英雄」》そしてティル・フェルナーを独奏に迎えた《ピアノ協奏曲第5番「皇帝」》。マエストロならではの研ぎ澄まされたベートーヴェンを聴くことができるだろう(《第5番》《第6番》については2016年バンベルク響が演奏)。Cプロでは、広上淳一とニコライ・ルガンスキーがラフマニノフ《ピアノ協奏曲第3番》で共演する。

10月はパーヴォ・ヤルヴィ首席指揮者就任記念として、華やかなプログラムが並ぶ。Aプロはマーラーの大作、《交響曲第2番「復活」》。Bプロは《歌劇「ばらの騎士」組曲》をはじめとするR.シュトラウス・プロで、レコーディングも行われる。Cプロはバルトークの傑作《管弦楽のための協奏曲》に加えて、五嶋みどりの独奏によるショスタコーヴィチ《ヴァイオリン協奏曲第1番》が大きな聴きものとなる。

11月はAプロにディエゴ・マテウス、Bプロにネヴィル・マリナー、Cプロにウラディーミル・フェドセーエフと多彩な顔ぶれがそろう。ディエゴ・マテウスはベネズエラの教育システム「エル・システマ」が生んだ気鋭の若手。また、Cプロでは10月に開催されるショパン国際ピアノ・コンクールの勝者が出演する。5年前の前回はユリアンナ・アヴデーエワが招かれたが、はたして今回はどんな才能と出会えるのだろうか。

 

名誉音楽監督デュトワが贈る R.シュトラウス《サロメ》

ml_2015-201602.jpg12月は今年も名誉音楽監督シャルル・デュトワが指揮台に上る。恒例の演奏会形式によるオペラとして、R.シュトラウス《サロメ》が上演される(Aプロ)。サン・サーンス《交響曲第3番》(Bプロ)、マーラー《交響曲第3番》(Cプロ)など、スペクタクルに富んだ曲目がそろった。

2016年1月は世界を席巻(せっけん)するふたりの若手指揮者が登場。パリ管弦楽団をはじめ世界を舞台に実績を積む山田和樹(Aプロ)、これまでにもN響と印象深い演奏を聴かせているトゥガン・ソヒエフ(B、Cプロ)、ともに次代をリードする存在といえるだろう。山田和樹は待望のN響定期デビュー。

2月は再び首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィが来日する。ブルックナー《交響曲第5番》(Aプロ)、R.シュトラウス《ツァラトゥストラはこう語った》(Bプロ)、ニルセン《交響曲第5番》(Cプロ)といった得意のレパートリーを披露する。

 

シーズンの掉尾(ちょうび)を飾る 桂冠指揮者アシュケナージ

ml_2015-201603.jpg4月は名匠レナード・スラットキンが指揮する。ストコフスキーをはじめさまざまな指揮者の編曲によるバッハと、プロコフィエフ《交響曲第5番》を組み合わせたAプロは興味深い。バーンスタインとマーラー(Bプロ)、ベルリオーズと武満とブラームス(Cプロ)といったバラエティに富んだ選曲が目をひく。

5月はジャズ・ピアニストのチック・コリア、小曽根真と尾高忠明の共演によるモーツァルトが話題を呼びそうだ(Aプロ)。エルガー《変奏曲「謎」》もマエストロならでは。驚異的なレパートリーの幅広さを誇るネーメ・ヤルヴィは、プロコフィエフ《交響曲第6番》(Bプロ)やカリンニコフ《交響曲第1番》(Cプロ)を聴かせてくれる。

6月は桂冠指揮者ウラディーミル・アシュケナージがシーズンの掉尾(ちょうび)を飾る。メンデルスゾーン《交響曲第3番「スコットランド」》(Aプロ)、エルガー《交響曲第2番》(Bプロ)、ブラームス《交響曲第3番》(Cプロ)といった叙情性豊かな名曲が並べられた。例年にも増して密度の濃さを感じさせる2015/16シーズン。N響の新たな第一歩に期待が高まる。

(飯尾洋一/音楽ジャーナリスト)

※曲目・出演者等の変更の場合がありあます。あらかじめご了承ください。

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2015年05月29日 (金)NHK交響楽団 6月定期公演の聴きどころ


6月の定期公演は、ステファヌ・ドゥネーヴ、尾高忠明、アンドリス・ポーガの3人の指揮者が、それぞれ個性的なプログラムを披露する。ドゥネーヴはN響との初共演で、ポーガはN響定期初登場。明日を担う気鋭2人との新たな化学反応が楽しみだ。いっぽう定期の常連たるN響正指揮者の尾高は、意図が浸透した名演が期待される。

またBプロとCプロでは、ラフマニノフの生涯最初と最後の交響大作を耳にすることができる。45年を隔てた大家の出発点と到達点を知るのも興味深い体験となるに違いない。

 

気鋭ドゥネーヴのフランス・プロ

ml_ns120150601.jpgAプロを指揮する1971年フランス生まれのステファヌ・ドゥネーヴは、N響との「ベートーヴェン・シリーズ」で鮮烈な印象を残したノリントンの後任として、2011年からシュトゥットガルト放送交響楽団の首席指揮者を務める期待株。今回は、自国のフランス作品で勝負する。

まずは、かつての手兵ロイヤル・スコットランド・ナショナル管弦楽団と交響曲全集を録音している十八番のルーセルに要注目。古典的な構成による迫力満点の代表作《交響曲第3番》の真価をいかに伝えてくれるかが聴きものだ。また、同曲の生演奏に触れること自体が貴重でもある。ラヴェルの《道化師の朝の歌》と《ボレロ》は、シュトゥットガルト放送交響楽団の日本公演やCDで、柔らかな肌触りの中にも芯のあるフランスものを聴かせたドゥネーヴの真骨頂。むろん《ボレロ》では、N響の名手たちの凄腕(すごうで)を堪能できる。

さらにはラロの《スペイン交響曲》が多彩さを加える。ソロを弾くフランスの人気ヴァイオリニスト、ルノー・カプソンの艶(あで)やかな音色は、ラテンの香りあふれる同曲にふさわしく、これも全編耳を離せない。

 

尾高忠明と小山実稚恵の息のあったロシア・プロに期待

ml_ns120150602.jpgBプロは尾高忠明がダイナミックで濃密なロシア作品を聴かせる。後半のラフマニノフは、尾高がBBCウェールズ交響楽団(現・BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団)との交響曲全集の録音で高い評価を得た、思い入れの強い作曲家。今回の《交響曲第1番》も様々な楽団で演奏している。この曲は、初演の失敗によって24歳の作曲者をノイローゼにさせた逸話で有名だが、実は若々しい叙情と感傷的な旋律満載の覇気みなぎる快作。理解者・尾高の深い解釈と豊麗なN響のサウンドで真の魅力を味わえる、稀少な機会となる。

前半は、チャイコフスキー《ピアノ協奏曲第1番》。今年デビュー30周年を迎えた、人気・実力ともに日本屈指のピアニスト、小山実稚恵がソロを務める。1982年チャイコフスキー国際コンクールの第3位で注目を集め、名匠フェドセーエフとの再三の共演で絶賛を博すなど、ロシア音楽には特にゆかりが深い。前回2010年の定期と同じ尾高忠明との呼吸も合った、強靭(きょうじん)かつ繊細なピアノを満喫しよう。

 

新星ポーガと名手バボラークによるCプロ

ml_ns120150603.jpgCプロは、ラトヴィアの新星アンドリス・ポーガの指揮。1980年生まれの彼は、2010年スヴェトラーノフ国際指揮者コンクール優勝で脚光を浴び、2013年ラトヴィア国立管弦楽団の音楽監督に就任している。

今回は、モーツァルト8歳時と亡くなる35歳時の作品、さらには近代のロマンチスト2人の作品が対比された示唆に富むプログラム。N響の「最も心に残ったソリスト2012」で1位に輝いた驚異の名手ラデク・バボラークが、代表的なホルン協奏曲を2曲聴かせてくれる点も嬉しい。

モーツァルト《ホルン協奏曲第1番》は、一般的なジュスマイヤーの完成版ではなく、作曲者の意図により近いとされるレヴィン補筆完成版での演奏に注目。雄大なR.シュトラウスの《ホルン協奏曲第1番》を、世界最高峰の独奏で聴けるのも、この上ない喜びだ。そしてアメリカに亡命したラフマニノフ最後の作品《交響的舞曲》では、ロシアへの郷愁漂う劇的でリズミカルな音楽における、俊才指揮者の鮮烈な表現を期待したい。


(柴田克彦/音楽評論家)

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2015年04月27日 (月)NHK交響楽団 5月定期公演の聴きどころ


5月の定期公演は、AプロではN響定期久々の登場となるフィンランドのユッカ・ペッカ・サラステ、B・Cプロではアメリカの名匠デーヴィッド・ジンマンの2人のベテラン指揮者が、個性的なソリストを迎えて多彩なプログラムを披露する。

サラステが描き出すシベリウスの叙情あふれるAプロ
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2004年5月定期以来のサラステは、長らくフィンランド放送交響楽団の指揮者を務めた後、現在はケルンWDR交響楽団(旧称:ケルン放送交響楽団)の首席指揮者として活躍する。オーケストラから清(すがすが)しく繊細な音を引き出すことに定評があるが、Aプロでは祖国の作曲家シベリウスの名曲を取り上げる。劇音楽として作曲された《クオレマ》からは、鶴の鳴き声を音楽に映した〈鶴のいる情景〉、〈カンツォネッタ〉、そして有名な〈悲しいワルツ〉の3曲。シベリウスの叙情あふれる美しい音楽を細かなニュアンスまで描き出してくれるだろう。《交響曲第2番》では、スケールの大きな演奏に期待したい。

バルトーク《ヴァイオリン協奏曲第2番》は、十二音音列、半音階、五音音階など、多様な音素材を用いて理知的に作られた20世紀を代表するヴァイオリン協奏曲。ソリストの1979年ブタペスト生まれのクリストフ・バラーティは、ロン・ティボー国際音楽コンクール第2位をはじめ、その実力は折り紙つきである。ヨーゼフ・シゲティまでさかのぼるハンガリーの伝統を受け継ぎながら、高度な技巧で端正な演奏を聴かせるバラーティとN響は初共演となる。

名匠ジンマンが3回目となるN響定期に登場

2009年1月、2013年1月に続いてN響定期3回目の登場となるジンマンは、昨年まで音楽監督を務めたチューリヒ・トーンハレ管弦楽団とのマーラーやベートーヴェンの交響曲全集の録音で話題を集めるなど、ドイツ・オーストリアの作品を得意としてきた。今回は、その「ドイツもの」と、ジンマンのまた別の魅力が示される「フランスもの」の2つのプログラムが用意された。

Bプロは、19世紀ドイツ・ロマン派の音楽によるプログラム。シューマン《「マンフレッド」序曲》は、バイロンの同名の劇的な詩に着想を得て書かれた作品で、音楽と詩の融合を目指した作曲家の、内に秘めた情熱が込められている。一方、ブラームス《交響曲第2番》では、牧歌的な情緒に満ちた楽想が音楽全体に広がる。

メンデルスゾーン《ヴァイオリン協奏曲》のソリスト、ギル・シャハムは、1971年生まれのヴァイオリニスト。神童として早くから演奏活動を始め、今なお世界の第一線で活躍を続けている。N響定期への出演は15年ぶりとなるが、研ぎ澄まされた音色と抜群のテクニックは圧巻で、今回もその演奏で大いに楽しませてくれるだろう。

表情豊かな歌唱も楽しみなCプロ

フランス近現代音楽のCプロは、ラヴェルとドビュッシーの作品に加えて、ショーソン《愛と海の詩》が取り上げられる。ブショールの同名の詩集から選ばれた詩をテキストに、青年の抑えきれない恋心や、過ぎ去った愛の悲しみが、美しいフランス語で歌われる。後のドビュッシーの管弦楽曲や歌曲を予感させる響きも含まれる繊細な音楽は美しい。

ソリストは、スウェーデン出身のメゾ・ソプラノ、マレーナ・エルンマン。オペラのみならず、ジャズ、ポップス、ミュージカルと舞台で広く活躍するエルンマンは、表情豊かな歌唱と独特の存在感で魅力を放つ。異国への憧れを歌ったラヴェル《シェエラザード》とともに、彼女の歌唱を楽しみにしたい。

さらにラヴェルが友人夫婦の子供たちのために書いたピアノ連弾曲の管弦楽版、《組曲「マ・メール・ロワ」》では音楽が煌(きらび)やかに輝き、ドビュッシー《交響詩「海」》では、ジンマンのタクトに導かれて、N響の精妙なアンサンブルが色彩豊かな世界へと誘うだろう。

                                      (柴辻純子/音楽評論家)

※指揮者変更のお知らせ
2015年5月定期公演B・Cプログラムに出演を予定しておりました指揮者のデーヴィッド・ジンマン氏は、ニューヨークで股関節置換の緊急手術を受けるため、来日が不可能となりました。代わって、エド・デ・ワールト氏が出演いたします。なお、曲目・ソリストの変更はありません。何とぞご了承くださいますようお願い申しあげます。


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2015年02月23日 (月)NHK交響楽団 4月定期公演の聴きどころ


4月の定期公演にはセバスティアン・ヴァイグレ、ミヒャエル・ザンデルリング、ウラディーミル・フェドセーエフの3人の指揮者が登場し、それぞれが「お国もの」のレパートリーを披露する。

ヴァイグレとザンデルリングはともに1960年代、ベルリン生まれのドイツの中堅世代を代表する指揮者。ヴァイグレはホルン奏者として、ザンデルリングはチェロ奏者として実績を積んだ後に、指揮者に転向している点も共通する。

一方、フェドセーエフは1932年生まれながら、2013年にようやくN響との初共演が実現したロシアの名匠である。今回も円熟味あふれる音楽を聴かせてくれることだろう。

バイロイト音楽祭でも活躍するヴァイグレによるワーグナー
 

201504_nkyo1.jpgセバスティアン・ヴァイグレのAプロは、ベートーヴェンとワーグナーを組み合わせたプログラム。ベートーヴェン《交響曲第6番「田園」》でシンフォニーを聴いた後は、バスのヨン・グァンチョルを迎えて、ワーグナー《楽劇「トリスタンとイゾルデ」》と《楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」》からの名曲・名場面が演奏される。ひとつの公演でコンサートとオペラ、両方の雰囲気を味わうことができる。

《マイスタージンガー》といえば、ヴァイグレが2013年の「東京・春・音楽祭」でN響を指揮して全曲を演奏会形式で上演し、好評を博した作品。フランクフルト歌劇場音楽総監督を務めるなど、歌劇場での豊富な経験を持ち、バイロイト音楽祭でも活躍するヴァイグレの手腕が最大限に発揮されるだろう。また、韓国のヨン・グァンチョルも、バイロイト音楽祭に出演する実力者である。高水準の歌唱を期待できる

気鋭シャマユがN響定期デビュー

201504_nkyo2.jpgBプロを指揮するミヒャエル・ザンデルリングはシューマンとブルックナーのロマン派プログラムを組む。

シューマン《ピアノ協奏曲》では、ソリストを務めるベルトラン・シャマユに注目したい。シャマユはラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン出演のためにたびたび来日し、フランスの若手世代を代表する気鋭と目されてきたが、近年名門レーベルと専属契約を結ぶなど着実に活躍の場を広げており、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いを感じさせる。今回のN響定期デビューは、シャマユの日本における檜(ひのき)舞台といってもいい。

そして、ブルックナー《交響曲第4番「ロマンチック」》といえば、父である名指揮者クルト・ザンデルリングを思い出させる曲目でもある。ドイツ屈指の音楽一家出身のマエストロならではの、深みと壮大さを感じさせるブルックナーを生み出してくれるのではないか。

ロシア音楽プログラムのCプロ

201504_nkyo3.jpgCプロは大ベテラン、ウラディーミル・フェドセーエフによるロシア音楽プログラム。ラフマニノフ《ヴォカリーズ》では作曲者が書いたもっとも甘美な旋律のひとつを堪能できる。同じくラフマニノフ《ピアノ協奏曲第2番》で独奏を務めるのは、アンナ・ヴィニツカヤ。1983年ロシア生まれの新鋭で、2007年のエリーザベト王妃国際音楽コンクールで1位を獲得している。クールビューティと形容したくなるような容貌(ようぼう)からすると意外な感もあるが、強靭(きょうじん)なタッチとエネルギッシュで雄弁な表現力によって評判を呼んでいる逸材である。数々のコンクール受賞歴は技巧の高さを物語っているが、小さくまとまった演奏ではなく、スケールの大きな音楽を聴かせてくれるのが魅力だ。

メイン・プログラムはリムスキー・コルサコフ《交響組曲「シェエラザード」》。千一夜物語を題材として、華麗で色彩的なオーケストレーションが施された名曲である。オーケストラを知り尽くしたマエストロの語り口の豊かさが存分に発揮されるにちがいない。コンサートマスターが独奏するシェエラザード姫のテーマをはじめ、個々の奏者の聴かせどころも多い。N響の名手たちが精彩に富んだアラビアン・ナイトの世界を描き出す。

(飯尾洋一/音楽ジャーナリスト)


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