ぶんけい月刊コラム

Column.4

ぶんけいさん

少年はバスに揺られていた。
初めて参加した放送部県大会の帰り道、
神戸から淡路島へと帰る道。
世界最長の吊り橋、明石海峡大橋から見える絶景に
一瞥もくれることなくただうなだれていた。

ぼくは負けた。

胸踊らせながら作り上げた作品
青春の一部を費やした作品。
そんな想いは1ミリたりとも届くことはなかった。

大会会場へ向かう前の少年(Column.3参照)の笑顔は消え去っていた。


今回はぼくの敗因と反省点を話そうと思う。
「成功談より失敗談のほうがタメになる」と
この間テレビで見た。確かに、と思った。
成功する確率を上げることは難しいが、
失敗する確率を下げることは出来る。
そういうことらしい。

コラムとは関係ないが、先日友人と江ノ島に行ってきた。

コラムとは関係ないが、先日友人と江ノ島に行ってきた。

大会会場へ少し時間を巻き戻そう。

この日、初めてNコンに挑戦するぼくは
期待と緊張が混ざりあった感覚だった。
アナウンス部門と創作テレビドラマ部門、
2つの部門でのエントリーをしている。

大会では開会式の前に発表順が発表される。
ぼくの発表順は、午前がアナウンス、
午後がテレビドラマだった。
今回は幸運にも発表が離れていたが、
場合によっては被ってしまうこともあるらしい。

アナウンスの発表をそそくさと終わらせたぼくは、
早速創作テレビドラマ部門の会場へ向かった。
そこでは各校が汗水を流して作り上げた作品が
緊迫した空気感の中で上映され続けていた。

自分の出番が来るまではそれらの作品を見て、
審査員になったつもりで自分なりの評価を下していく。
めちゃくちゃ偉そうに。


そして『刻印〜右手の予兆〜』の番がやってきた。
他校の作品と比べると、重々しい空気でスタートする本作。
研究のために、過去作品を部室で見ていたため、
出だしで心を鷲掴みにする自信があった。

空気はまったく動かなかった。


導入部分から期待をさせるつもりだったが、
誰一人として反応を見せる様子はない。
想定外のスタートとなった。

DVDと合わせて提出しなければならない制作台本。

DVDと合わせて提出しなければならない制作台本。

そんな焦りとは裏腹に時間は過ぎていく。
気付けばラストシーンを迎えていた。
最後のセリフで大どんでん返しが起きる。
この感覚で会場を沸かせたいと思って設計した。

何の声も上がらなかった。


ぼくが必死になって作ったものは
誰の胸にも届くことはなかった。

なぜそうなったのか全く理解は出来ていない。
そして、ぼくがそれを理解したのは2年後。
最後の大会の直前だった。



Nコンでは作品と制作台本をセットにして提出する。
制作台本には「制作意図」という箇所があり、
作品に込めた思いを記入する必要がある。
改めて、そのページを見返してみよう。

『刻印〜右手の予兆〜』制作台本・制作意図

『刻印〜右手の予兆〜』制作台本・制作意図



何を言ってるんだ。

今見返してみても、そんな要素は全く感じられない。
単純に作りたいものを作ったとしか思えない。
きっと、後付けの意図なんだろう。

審査員にはこういう言葉が気に入られるだろう、
とかそんなことを考えて書いたんだろう。

思い返すと失敗の理由は明確なはずなのに、
当時は全然納得ができなかった。
言うまでもなく、結果は準決勝敗退。
準決勝から始まる創作テレビドラマ部門においては
実質の初戦敗退を意味する。

ぼくは負けた。

…………。

少年はバスに揺られていた。
初めて参加した放送部県大会の帰り道、
神戸から淡路島へと帰る道。
世界最長の吊り橋、明石海峡大橋から見える絶景に
一瞥もくれることなくただうなだれていた。

そんな少年の心は燃え上がっていた。


大人たちが求める「高校生らしさ」なんて
ただの押しつけだ。

ぼくたちはぼくたちなりの
「高校生らしさ」を持っているんだ。

それが許されるNコンにしようじゃないか。



Nコンを変えてやる。







連載NコンWEBコラム「ぶんけいの書斎」
一覧ページはこちら