ぶんけい月刊コラム

Column.3

ぶんけいさん

季節は目まぐるしく移り変わり、寒さにもすっかり慣れ始めた。
まもなく冬は本気を出し、「冬より夏のほうがマシ」と言い出す人が増え始める。
夏は逆のことを言っていたのに、不思議でならない。
と同時にそんな世界が愛おしい。

心機一転、髪色を大きく変えてみた。

心機一転、髪色を大きく変えてみた。

前回、アナウンス部門に挑戦した経緯を紹介した。
そして今回は創作テレビドラマ部門の話をしようと思う。

まずは創作テレビドラマ部門の規定を紹介しよう。
・高校生活や地域社会とのかかわりの中に広く素材を求め、ラジオ・テレビの特性を生かして制作された、高校生としての視点を大切にした、独創的な作品であること。
・脚本は参加資格を有する自校生徒のオリジナル作品であること。
・文芸作品などからの脚色や改作は認めない。
・作品は8分以内。

放送部に入ったぼくが最も興味を持った部門だ。
カメラ、マイク、パソコンといった様々な機材に触れることの出来る部門。
ドラマを通して伝えたいことがあった訳でもない。

ただただ、機械オタクだったのだ。


しかし、規定にもある通り、この部門に参加するためにはオリジナルの脚本が必要となる。
一刻も早く機材を触りたいはずの少年は、急いで脚本に着手した。
(この作業の裏側で、前回コラム記事のアナウンス部門も同時進行している)

とはいえ、何か書きたい題材やメッセージがあるわけでもなく、なかなか手は進まない。
書いては消し、書いては消しを繰り返して、ようやく一つの脚本が書き上がる。
『刻印 〜右手の予兆〜』という題がつけられたその脚本を見て、少年は目を輝かせた。
簡単に物語を紹介しよう。

とある高校の生徒たちは、都市伝説を囁きあっていた。
「何故か右手首に×印が現れた生徒のもとに不幸が訪れ、それが伝染しているらしい」と。
主人公はその噂を耳にするが、気にする様子はなくいつもどおりの日常を送る。
ところがある日、彼の右手首に×印が現れ、登校中に交通事故に巻き込まれてしまったのだ。
一命を取り留めた彼は、噂を蔑ろにした自分を悔い改め、学校に復帰した。
平凡な生活を取り返したと思っていた彼だったが、つぎは大親友の右手首に×印が現れてしまった。


……うん、なかなか良い。

甘いところは多々あるし、優勝こそ出来やしないが、
機材が得意なぼくの手にかかれば全国大会くらいは行けるんじゃないか……。
早速、赤飯の準備を母親に頼んでおいたほうがいいのではなかろうか。
賞を獲ったときにはお小遣いアップのチャンスかもしれないな。
脚本を書き終えた達成感と、機材を触るステップに進んだ高揚感で、控えめに言っても
ブチ上がり奉った。


完成した脚本を持って、同級生や先輩、パワフル顧問に見せて回った。
(温度感としては「見せびらかした」のほうが的確かもしれない)
そのとき受け取った感想はこんな感じだ。
同級生A:なんか怖い。
同級生B:交通事故のシーンってどうやって撮影するの?
同級生C:結局×印ってなんだったの?
先輩A:テーマがよくわからなかった。
先輩B:何か辛いことでもあった?
パワフル顧問:いいんじゃない?

なんか色々と指摘を受けたような気もしたがパワフル顧問の一言で安心した。
いいんだ、これでいいんだ……!

大きく脚本を直すこともなく、早速撮影の準備に取り掛かった。
まずは主人公のキャスティングに悩む。
・人の言うことに耳を傾けない。
・高圧的な台詞を言っても弱そうに見える。
・そもそも放送部の撮影に協力してくれる。
・なにより脚本に理解がある。


……。


…………。


………………
ぼくだ!!!!!!!!!!!!




自分しかいなかった。
脚本の意図を一番に理解しているぼくがやるしかない。
演技なんかしたことないけど、まあなんとかなるだろ。
ドラマとかいっぱい見てるし!


アホだ。
こいつめっちゃアホだ。
いま25歳になったぼくもアホだけど、彼のアホさには到底敵わない。
彼ってかぼくなんだけど。


そんな感じでトントン拍子(?)で事が運び、無事に完成した。
撮影や編集は楽しみにしていたこともあり、驚愕のスピードで終えたらしい。
作品の提出まであと数日。大会までは一週間ほどしかない。
アナウンス部門は地区予選から始まるが、創作テレビドラマ部門は県大会から始まる。
あとは神のみぞ知ると言ったところか。
なるようになれというか、なるようになるという自信に満ち溢れていた。
(ポジティブなところはあの頃から変わってないな……)



さあ、兵庫県の放送部員たちよ。驚くがいい!

一年生にしてこの完成度の高さ。

ハッハッハッハッハッ。






盛大なフラグを残して、次号へと続く。








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